第6章.金融危機と金融の規制強化・制度改革 サブプライム金融危機後

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Transcript 第6章.金融危機と金融の規制強化・制度改革 サブプライム金融危機後

第5章.サブプライム金融危機
○従来の金融危機との違い
• 信用の行き過ぎと収縮、バブルの発生と崩壊は過去何度も繰
り返されている
• 今回の危機の特徴:
• 金融システムの市場化が進展した下での本格的な金融危機
– 証券化の進展、ABSCDOの登場・拡大、クレジット・デリバティブの拡
大、ヘッジファンド等のファンドの登場・急拡大(ファンド資本主義)
– Shadow Banking System(市場型間接金融)の拡大とその混乱
– 1980年代以降の金融システム市場化の潮流の中心的プレイヤーであ
る投資銀行の挫折
– 市場における流動性危機の凶暴さ(市場の取付け cf. 銀行取付け)
• Cf. 前期講義「証券経済論」第4章流動性の付与.サブプライム問題と市場
流動性
– (証券)市場のゲートキーパーの機能不全
• ゲートキーパー:証券市場が円滑かつ健全に機能するための専門的サー
ビスを提供する業者(証券会社、格付会社、監査法人)
– Procyclicality(循環変動増幅的)
• 市場型の金融システムは今挑戦を受けている
1
・金融システムの市場化の進展
米国:銀行のシェア縮小・市場型金融機関
(年金・投信・証券化)のシェア拡大
70%
預金金融機関
60%
50%
40%
年金
投資信託
30%
証券化
20%
10%
市場型金融仲介
機関
19
55
19
70
19
73
19
76
19
79
19
82
19
85
19
88
19
91
19
94
19
97
20
00
20
03
20
06
0%
2
・
:米国
証券会社資産
規模GDP比
銀行資産規模
GDP比
2000
2006
1988
1994
1970
1976
1982
1958
1964
証券会社/銀
行
1946
1952
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
%
3
○米大手証券会社ベアースターンズの流動性危機
2008年3月16日に経営破綻
Bank of England, Financial Stability Report, April 2008
4
・ Shadow Banking System:
:資金の流れ
:流動性供給枠
貸出・債券
銀行
株式・債券
年金
生保
資金余剰
主体:家計
ABCP
投資信託
MMF
SIV・
コンデュイット
株式・債券・CP
資金不足
主体:企業・
家計・国
証券化商品
ヘッジ
ファンド等
証券化
5
・
IMF Global Financial Stability Report Oct. 2008 p.13
6
・RMBSの市場価格下落による評価損は、ローンの推定損失率から計算した
満期保有時の損失を大幅に上回る。
Other:市場価格下落による評価損マイナス満期保有時の損失
Bank of England Financial Stability Report Oct. 2008 p.16
7
・Procyclicality
• レバレッジを効かせた投資
– 証券価格上昇(下落)
– → 投資収益拡大(損失の発生・拡大)
– → 投資家の自己資金増大(減少)・資金の貸手
リスク低下(上昇)
– → 負債資金による投資拡大
(負債
返済の圧力・証券の投げ売り・負債圧
縮
)
– → 証券価格の更なる上昇(下落) → ・・・
• cf. 前期講義「証券経済論」第1章金融仲介.金融シス
テムの比較.⑦市場の不安定性
8
• 金融機関の自己資本と信用供与
– 好景気(不景気)
– → 証券価格上昇(下落)・不良債権減少(増
大) :時価会計
– → 金融機関の収益拡大(収益減少・損失発生)
– → 自己資本比率の上昇(低下):自己資本比率
規制、金融市場からの監視
– → 貸出・証券投資の積極化(貸し渋り・保有証
券の処分)
– → 景気の更なる拡大(悪化) → ・・・
9
○証券化用語
証券化商品:証券化によって作り出された投資家向けの証券
Asset Backed Security:資産担保証券
Commercial Paper:コマーシャル・ペーパー(信用力のある企業・金融機関が金融
市場から短期資金を調達するために発行する約束手形)
Asset Backed Commercial Paper:資産担保コマーシャル・ペーパー
(狭義の)Mortgage Backed Security:住宅ローン担保証券
Residential Mortgage Backed Security:住宅ローン担保証券
Commercial Mortgage Backed Security:商業不動産ローン担保証券
Collateralized Loan Obligation:企業向一般貸出債権担保証券
Collateralized Bond Obligation:社債担保証券
Collateralized Debt Obligation:債務担保証券(CLO、CBO、証券化商品を担保と
して再証券化したもの(ABSCDO)、の全体)
Money Market Fund:コマーシャル・ペーパー 等の短期金融資産に投資する投資
信託
Structured Investment Vehicle:銀行によって設定・運営されるが、オフバランスで
あり、サブプライム証券化商品を中心に投資するファンド
(ABCP)コンデュイット:一般的には証券化のためのSPC(特別目的会社)と同じ意
味であるが、Shadow Banking Systemの図ではSIVと同じ意味
10
第6章.金融危機と金融の規制強化・
制度改革
○サブプライム金融危機後の金融規制
• 銀行
• 複雑な再証券化商品、トレーディング勘定、オフバランス機関
(SIVやABCPコンデュイット)へのコミットメント(流動性供給枠)
– Cf. 本講義第3章証券化.(6)証券化のデメリット・問題点③オフ・バ
ランスシートの活用に伴うオリジネーターやアレンジャーの本体のリ
スクの不透明化
– 流動性リスク管理・統合的リスク管理体制の強化
• 証券会社・投資銀行
• cf. 本講義第2章証券会社と証券業務.世界の証券業界の変貌.
ゴールドマン・サックスの収益構造
11
– 格付
• 格付会社の監視、格付手続き・手法に関する情報開示、
過去のデータが不十分な商品の格付の取扱い、格付
会社による証券化アレンジャーへの提案行為の禁止、
証券化商品と社債の格付け記号の区別
– 証券化
• 証券化商品の情報開示(cf. 企業の情報開示)、証券化
対象ローンやそのオリジネーターに対する証券化アレ
ンジャーのデューディリジェンスの徹底、契約違反の
ローンのオリジネーターによる買戻し
– ヘッジファンド
• 金融当局による監視強化、情報開示(特に時価の把握
が困難な証券化商品)、運用成績についての外部監査、
ヘッジファンドに投資する機関投資家の運用方針の策
定・開示、レバレッジ規制?
12
• 情報開示
– 金融機関のリスク・エクスポージャー(特に証券
化商品)、保有資産の価格評価、オフバランス
シート機関との関係
• Cf.2007年:リスク所在不明によるインターバンク市
場での疑心暗鬼・相互不信
• 大手金融機関に対する国際的監視の強化
– 大手金融機関ごとに国際的な金融当局間の監視
グループCollegeを設置
13
• Procyclicality を抑制する規制
– 自己資本比率規制のマイナス面:Procyclicality
– 金融規制を、ミクロの観点からだけ考えるのでは
なく、
という観点からも考える
べき
– E.g. 銀行の資産増大率に応じて規制上要求され
る自己資本比率を引き上げる
14
○世界の金融規制・制度の歴史的展開
• 19世紀後半~第一次大戦:金本位制の下で自由な
金融制度
– 国際的資本移動の自由、株式市場も発展
• 1930年代の不安定化した経済・金融の状況
• 戦後~70年代:安定化を重視した規制された金融制
度
– 金利規制・業務分野規制・国際的資本移動の規制・固定相
場制度
• 1980年代~:金融・証券制度の規制緩和・自由化
– 金利規制の撤廃、銀証分離規制の緩和、国際的資本移動
の自由化、金融のグローバリゼーションの進展
• 2008~:世界的な規制強化
15
○1930年代以降の金融規制・制度
• 戦後のブレトンウッズ体制1944年
• 固定相場制により為替の安定
– →世界の貿易の安定的発展 cf. 1930年代の為替切下
げ競争→ブロック経済化
• 資金の内外交流の遮断
– ①為替の不安定化を防止
• cf. 1930年代:資本の短期的移動の活発化→為替の不安定化
– ②資本の対外流出防止:国際収支対策
– ③自国の金融政策の独立性を確保
• cf. 国際金融のトリレンマ:資本の国際的な自由移動、為替相場
の固定、自国の金融政策の独立性、の3つは同時達成不可能。
同時達成できるのは2つだけ。
16
• 金融システムの安定化:
– 過度の競争を規制により制限(
)
することで個々の銀行等の経営破綻を防止し、そ
れを通じて金融システム全体の安定化を図る
– 競争制限的規制:
• 株式委託売買の固定手数料
• 護送船団金融行政
– 店舗規制、新金融商品規制、広告規制、新規参入規制、経
営悪化金融機関の大蔵省主導による救済、会計監査の最終
判断も監督官庁の大蔵省が実質上行う
17
• 預金者保護:
– 銀行取付けの防止を通じて金融システムの安定
化を実現
– 国民の基本的貯蓄手段である預金の保護を通じ
て社会を安定化
• 公正で効率的な金融取引・市場を確保
18
○米国における1930年代の
金融規制の導入
• ペコラ委員会:銀行の証券市場関連不正の追及
• 銀行:1933年銀行法(グラス・スティーガル法)
– 銀証分離
– 預金金利規制(要求払い預金の付利禁止、定期預金の
最高金利規制Regulation Q)
– 連邦預金保険公社FDIC創設(35年に設立)
• cf. 日本の預金保険機構は1971年に設立
• 証券:
– 1933年証券法(情報開示)
– 34年証券取引所法(SEC証券取引委員会の設立)
– 40年投資会社法(投資信託の規制)
19
○日本における金融規制の導入
• 銀行
– (預金)金利規制:1918年(第1次大戦後の戦後
不況)日銀主導による預金金利協定、1947年臨
時金利調整法
– 1928年新銀行法:
• 最低資本金制度の導入→銀行の整理・合同
• 銀行に対する規制・監督の強化(大蔵省銀行部に検
査部、日銀に考査部を設置)
• 背景:1927年の金融恐慌
– 1948年証券取引法
• 65条:銀行の証券業務禁止
20
○金融規制の目的
• 金融システムの安定性確保=システミックリスクの
防止
– 個別の銀行・金融機関の健全性確保
– 金融システム全体の安定性確保=個別金融機関の破綻
のシステミックリスクへの波及・拡大の防止
• 公正で効率的な市場・金融システムの確保
– 情報開示
• 投資家保護
– インサイダー取引規制
• 預金者保護
– 預金保険制度
21
○1980年代以降の
金融の規制緩和・自由化
• 固定相場制度の崩壊・変動相場制度への移行:
1973年
• 資本移動の自由化
– 米国:1974年資本流出規制(利子平衡税)の撤廃
– 日本:1980年外為法改正(内外資本取引が原則自由)、
1998年外為法改正(外為取引関連の自由化の徹底)
• 預金金利の自由化
– 米国:1980年~86年
– 日本:1989年~94年
• 株式の委託売買手数料の自由化
– 米国:1975年(メーデー)
– 日本:1999年
22
• 銀・証分離の緩和
– 米国:1987年~1999年グラム・リーチ・ブライリー
法
– 日本:1993年~99年
• 日本の金融ビッグバン:1997年~2001年
– フリー、フェア、グローバルの理念を掲げた金融制
度全体の自由化
– Cf. イギリスのビッグバン:1986年
23
○金融の規制緩和・自由化は
なぜ行われたのか?
• 固定相場制の崩壊・変動相場制への移行
– 世界経済の状況変化(各国経済の対外取引の拡
大+変動性の高まり)に固定相場制度では対応
できなくなった。
• 資本移動の自由化
– 貿易拡大に伴う資本移動規制の抜け穴拡大
– ユーロ市場(どこの国の規制も受けない自由な国
際金融市場)の拡大による各国の対外資本移動
規制の空洞化
24
• 競争制限的規制の緩和・撤廃
– 競争制限的規制のマイナス面
• ぬるま湯の下での銀行の体質劣化・金融システムの
脆弱性:1980年代の米国の銀行・S&L危機
• 規制に守られた保守的経営:金融技術革新への消極
的取組み
• E.g. MMFの開発による投資家への高金利の提供(証
券による銀行分野への侵入):銀行預金からMMFへ
の急激な資金シフト・金融混乱→預金金利の自由化
• 規制のゆるい国の市場に国際的に資金が集まる
25
• 銀証分離の撤廃
• MMF、証券化
–
という状況及び規制の強さ
の面での銀行の不利な立場の改善
• E.g. 米銀JPモルガンは銀行規制を嫌い銀行免許を炎上
し、証券会社・ノンバンクへの業種転換を考えていた
– 銀行の持つ金融力や資源を幅広い金融分野で活
用
26
-2%
長期実質金利
長期名目金利
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
1974
1972
1970
1968
1966
1964
1962
・米国の金利:1970年代末~80年代前半は歴史的高金利
米国長期金利の推移
16%
14%
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
-4%
27
・
ラジャン=ジンガレス『セイビング・キャピタリズム』p.267
28
○金融自由化の下での銀行規制
• 自己資本比率規制
– 規制金融時代
• 競争を制限して銀行の経営破綻を防止、護送船団行
政(経営内容の細部に干渉、1行とも破綻させない)
– 金融自由化時代
• (自己資本比率に基づく)早期是正措置:個別銀行の
経営悪化が金融システム全体の不安定性につながら
ないようにするための手段、問題銀行の早期発見・早
期隔離、米国1991年、日本1998年
29
○金融のグローバリゼーションと
金融の国際的規制
• BIS自己資本比率規制:1987年末(日本は88年3月
末)導入
– 国際的に活動する銀行の健全性確保
– BIS(国際決済銀行):主要国の中央銀行・金融当局の協
議・協定締結の場、国際銀行業務の監視機関
• 1997年
– それまで信用リスクのみを対象としていたBIS規制に、新
たにマーケットリスクを導入
• 新BIS規制(バーゼルⅡ)
– 欧州は2007年1月から、日本は2007年3月末から、米国
は08年1月から(主要銀行のみ導入)
– リスクへの木目細かい対応、リスク管理手法の高度化へ
の対応
30
○今求められている金融規制とは?
• 今求められている規制強化は、戦後の金融規制時
代に戻るということか?
– 固定相場制・資本の国際移動の制限に戻ることではない
だろう
– 競争制限的規制・護送船団金融行政に戻ることではない
だろう
• 既存の規制を緩和したことが今回の金融危機につ
ながったか?
– そうとは考えられない。むしろ、金融の規制緩和・自由化
のムード・考え方が、利益獲得のためには何をやってもよ
いという風潮を強め、モラルハザードや信用・投資の行き
過ぎをもたらした。
31
• 問題:1980年代以降展開してきた金融上の
新たな事態に現行の規制体系が追いついて
いない。
– 証券化、ファンド、オフバランス機関、格付
– 金融システムの市場化
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– 市場の動きだけに任せていたのでは、市場型の金融シス
テムはうまく機能しない
– 市場型の金融システムの安定性確保
• (証券)市場規制の目標
– 従来:投資家保護
– 今後:投資家保護+システミックリスクの防止
• 中央銀行の役割の拡大
– 従来:銀行システム(特に銀行が担う決済システム)の保全
– 今後:銀行システム+市場システム、の保全(証券会社も中央銀行
の監督下)
– 公正で効率的な市場・金融システムの確保、投資家保護
• 情報開示:市場型システムが機能するには情報が決定的に重要
• 市場の質・洗練度を高める規制
– Cf. 前期講義「証券経済論」第1章金融仲介.今後の日本の金融シ
ステム
33
・金融規制の歴史的展開
背景
目標
重視される
価値
1930年代・ 規制強化
戦後
金融危機・
不正
銀行システ
ムの危機の
防止・投資
家保護
安定性
1980年代以 規制緩和・
降の自由化 自由化
従来の金融
の行き詰ま
り・混乱
競争促進・
変化への対
応
効率性
今回
金融危機・
部分的不正
市場システ
ムの危機の
防止
安定性
規制のあり
方
規制強化
34
第6章:参考文献
• 小林正宏・大類雄司『世界金融危機はなぜ起
こったのか』東洋経済新報社2008第5章
• 貝塚・池尾編『金融理論と制度改革』有斐閣
1992
35