Transcript 情報生産
○日米の金融仲介構造比較についての 補足説明 ①歴史的経緯: - 日本:後発資本主義国として銀行中心で始発 - 企業の資金調達は銀行借入中心 - 米国:Unit Banking Systemの伝統 - 銀行は本店以外に支店の開設ができない or 支店開設は州内の み←銀行の力を抑制すべきという考え方 - 大企業は証券市場を通じて資金調達(株式・社債) ②株式投資に対する考え方:個人投資家側 - 日本は短期的値上り狙い、米国は長期投資 - 米国では株式保有が長期的な資産形成・資産運用の有力な手段と いう考えが伝統的に強い ③投資家のリスク許容度の違い:個人投資家側 - 日本人:安全性重視、アメリカ人:収益性重視 1 ○ 日本における金融仲介構造の変化 間接金 直接金 融 融 相対 67% 型 市場 型 (14%) (10%) 相対型間接金融中心(単線 型金融システム) ⇒市場型間接金融、直接金 融の発展 (複線型金融システム、金 融チャネルの多様化) 2 ○日本における金融仲介 構造変化の背景 ①金融仲介チャネルの多様化 ②幅広い投資家へのリスク移転・リスク分担 ③多様な資金運用対象の提供 ④コーポレートガバナンス機能 ⑤市場型金融のメリットの活用 ①銀行による金融仲介チャネルの機能低下(担保主 義、不良債権問題、貸し渋り) ⇒銀行仲介のみの単線型から、金融チャネルの 多様化・複線化(投信・証券化)が必要 - 投信による株式・社債の購入 - 貸出債権の証券化 3 ○金融仲介チャネルの多様化 ・金融仲介:資金余剰主体から不足主体への資金移転を仲介する機能 ・金融仲介機関だけでなく、証券市場や証券市場で活動している金融 機関も金融仲介機能を果たしている ・金融(仲介)チャネル:資金余剰主体から不足主体へ資金が移転する経路 銀行 資金余剰 主体 証券化 資金不足 主体 投資信託 証券市場 4 ④コーポレート・ガバナンス機能 • メインバンク・システム ⇒市場による企業経営の規律付け ・ 株価(や社債利回り)は、企業の投資計画、 経営戦略、現行の経営陣の質に対する投資 家の判断を示す ・ 株式(や社債)市場からの経営に対する圧力 • 企業が買収される危険性 – 株価低迷は買収される危険性を高める→経営陣 に対する株式市場からの強い圧力 • 特にPBR(株価純資産倍率)が1以下といった企業は 買収の対象になりやすい 5 • 経営に対して積極的に物を言うファンド(ア クティビスト)の登場(村上ファンド) • 運用会社(投信会社・投資顧問会社)によ る株主議決権の行使: – 確定拠出年金の拡大・長期的運用の定着 →投資対象企業の長期的成長を期待 →議決権の積極的行使 • 格付け会社による信用力・リスクの評価 6 ⑤市場型取引のメリット: リスク管理と経済構造の転換 • 従来の相対型間接金融 – 長期継続的取引関係:Relationship重視 – 慣れ合い・先送りになり易い – 大胆なリストラや産業構造転換が難しい – 市場の動きから隔離されているため、銀行側 にリスク・リターン感覚が薄い、リスク管理意 識が弱い 7 • 市場型取引 – 1回毎の取引の経済合理性を追求: Transaction重視 – ドライな取引、変化に応じて取引を見直し – 市場からの圧力による大胆なリストラや産業 構造転換 – 市場の動き、市場価格変動の中で金融取引 参加者がリスク・リターンに敏感になる。 – 金融機関にとって、リスク管理が競争上の決 め手 8 • 参考文献 • 第1章 – 「日本の家計の金融資産選択行動」 『日本銀行調 査月報』1999年11月号 – 池尾和人『銀行はなぜ変われないのか』中央公論 社.第3章 2003 – 堀内昭義・池尾和人編『日本の産業システム9:金 融サービス』NTT出版.第2章 2004 – 白石渉『金融のワンストップ・ショッピング』清文社. 第5~7章 2005 9 第2章.情報生産 1.情報生産とは? • 情報生産とは? – 貸出先・投資先についての調査・分析・審査(本章の対象) – 金融市場は金融資産の価格(金利・株価・為替レート)に関す る情報を発信 • 情報生産の必要性 – 不確実性:将来どうなるかは不確定 – 情報の非対称性:貸手は借手のことを借手自身ほどには知 らない • 事前的情報生産と事後的情報生産 – 貸出・投資決定前の調査・分析と貸出・投資後のモニタリング 10 2.銀行の情報生産 • 銀行の内部信用格付 – 信用格付:信用度に応じた債務者のランク付け • 内部格付:銀行内のリスク管理のための格付 • 外部格付:外部への信用情報提供のために格付機関や信用情 報提供業者によって行なわれる格付 – 不良債権問題・担保主義への反省 →信用リスク管理体制の強化の必要性 →内部信用格付制度の導入 11 「信用格付を活用した信用リスク管理体制の整備」 『日本銀行調査月報』2001年10月号 12 13 ・財務定量(財務スコアリング)モデル:統計的に貸倒れと相関が高い財務指標 を抽出、それらの指標をウェイト付け等をすることで点数化するモデルを構築 ・貸出の最終的決定の際には、取引関係の深さや取引採算も考慮される。 ・格付の見直しは、年度決算を基に年1回実施するのが普通 ・個別格付に関して、営業・審査部署と与信監査部署との判断が異なる場合、 与信監査部署の判断が優先する(営業優先によるリスク増大の危険を防止) 14 – 純資産額:(時価評価後の実質的な)自己資本 – 流動比率=流動資産/流動負債 – 自己資本比率=自己資本/総資産 – 経常利益=営業利益ー営業外損益(支払利子等) – 経常収支比率=(売上高+営業外収益)/(営業 費用+営業外費用) – 有利子負債返済年数=有利子負債残高/(経常 利益+減価償却) – インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受 取利息・配当金)/支払利息 – 増収率:売上の伸び率 – 増益率:利益の伸び率 15 3.格付会社の情報生産 • 格付けrating: – 発行される債券のデフォルト・リスクを専門的立場から評価 し、リスクの程度に応じて債券をいくつかのランクに区分け し、投資家に情報として提供すること。 – デフォルト(or信用)リスク • 貸出相手の経営悪化により貸出金の元利が回収できなくなるリスク – BBB(Baa)以上:投資適格、 BB(Ba)以下:投機的 – 代表的格付会社:S&P(スタンダード・プアーズ)、ムー ディーズ、R&I (格付投資情報センター) – 銀行の情報生産:生産された情報は自らの貸出業務・銀行 業務の中で活用 – 格付会社の情報生産:生産された情報は投資家に提供さ れ、投資家が投資の際に活用 16 格付投資情報センター『格付けQ&A』日本経済新聞社 2001 17