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第4章.金融危機と金融の規制強化
○世界の金融規制・制度の歴史的展開
• 19世紀後半~第一次大戦:金本位制の下で自由な
金融制度
– 国際的資本移動の自由、株式市場も発展
• 1930年代の不安定化した経済・金融の状況
• 戦後~70年代:安定化を重視した規制された金融制
度
– 金利規制・業務分野規制・国際的資本移動の規制・固定相
場制度
• 1980年代~:金融・証券制度の規制緩和・自由化
– 金利規制の撤廃、銀証分離規制の緩和、国際的資本移動
の自由化、金融のグローバリゼーションの進展
• 2008~:世界的な規制強化
1
○戦後の金融規制・制度
• 戦後のブレトンウッズ体制1944年
– →世界の貿易の安定的発展 cf. 1930年代の為
替切下げ競争→ブロック経済化
– ①為替の不安定化を防止
• cf. 1930年代:資本の短期的移動の活発化→為替の
不安定化
– ②資本の対外流出防止:国際収支対策
– ③自国の金融政策の独立性を確保
2
• Cf.
– ①資本の国際的な自由移動、②為替相場の固
定、③自国の金融政策の独立性、の3つは同時
達成不可能。同時達成できるのは2つだけ。
– ②+③を達成する制度:戦後の固定相場制度
– ①+③を達成する制度:変動相場制度
– ①+②を達成する制度:統一通貨ユーロ圏
3
• 金融システムの安定化:
– 過度の競争を規制により制限(
)することで
個々の銀行等の経営破綻を防止し、それを通じて金融シ
ステム全体の安定化を図る
– 競争制限的規制:
• 株式委託売買の固定手数料
• 護送船団金融行政:日本
– 店舗規制、新金融商品規制、広告規制、新規参入規制、経営悪化
金融機関の大蔵省主導による救済
• 預金者保護:
– 預金保険制度の導入
• 銀行取付けの防止を通じて金融システムの安定化を実現
• 国民の基本的貯蓄手段である預金の保護を通じて社会を安定化
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○金融規制の目的
– 個別の銀行・金融機関の健全性確保
– 金融システム全体の安定性確保=個別金融機関の破綻
のシステミックリスクへの波及・拡大の防止
– 情報開示
• 投資家保護
– インサイダー取引規制
• 預金者保護
– 預金保険制度
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○1980年代以降の
金融の規制緩和・自由化
• 固定相場制度の崩壊・変動相場制度への移行:
1973年
• 資本移動の自由化
– 米国:1974年資本流出規制(利子平衡税)の撤廃
– 日本:1980年外為法改正(内外資本取引が原則自由)、
1998年外為法改正(外為取引関連の自由化の徹底)
• 預金金利の自由化
– 米国:1980年~86年
– 日本:1989年~94年
• 株式の委託売買手数料の自由化
– 米国:1975年(メーデー)
– 日本:1999年
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• 銀・証分離の緩和
– 米国:1987年~1999年グラム・リーチ・ブライリー
法
– 日本:1993年~99年
• 日本の金融ビッグバン:1997年~2001年
– フリー、フェア、グローバルの理念を掲げた金融制
度全体の自由化
– Cf. イギリスのビッグバン:1986年
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○金融の規制緩和・自由化は
なぜ行われたのか?
• 固定相場制の崩壊・変動相場制への移行
– 世界経済の状況変化(各国経済の対外取引の拡大+経
済発展・国際競争力の不均等性)に固定相場制度では対
応できなくなった。
• Cf. 現在の中国人民元の切り上げ問題
– 変動相場制でやっていけることの「発見」
• 資本移動の自由化
– 貿易拡大に伴う資本移動規制の抜け穴拡大
– ユーロ市場(どこの国の規制も受けない自由な国際金融
市場)の拡大による各国の対外資本移動規制の空洞化
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• 競争制限的規制の緩和・撤廃
– 競争制限的規制のマイナス面
• ぬるま湯の下での銀行の体質劣化・金融システムの脆弱性
• 規制に守られた保守的経営:金融技術革新への消極的取組み
• e.g. MMFの開発による投資家への高金利の提供(証券による銀
行分野への侵入):銀行預金からMMFへの急激な資金シフト・金
融混乱→預金金利の自由化
– Money Market Fund:短期の金融資産に運用する投資信託
– 「制度間競争」:国際的な規制緩和競争
• 規制のゆるい国の市場に国際的に資金が集まる
9
・米国短期金利の推移:70年代末から80年代初頭に急騰
その時期:預金からMMFへ大量の資金がシフト
(ディスインターメディエーション)
M.Kohn, Financial Institutions and markets, Oxford UP, p.97
10
• 銀証分離の撤廃
• MMF、証券化
–
という状況及び規制の強さの面での
銀行の不利な立場の改善
• e.g. 米銀JPモルガンは銀行規制を嫌い銀行免許を返上し、証券会
社・ノンバンクへの業種転換を考えていた
– 銀行の持つ金融力や資源を幅広い金融分野で活用
– Cf. 2010年のドッド・フランク法(その中のボルカールール)
• 銀行・銀行持株会社の証券業務の一部が禁止されたが、銀行と証
券とを再び分離するという程の根本的制度変更ではない。
• Cf. 本講義第2章証券会社と証券業務、米国における銀行・証券の
歴史的展開
11
米国:銀行のシェア縮小・市場型金融機関のシェア拡大
80%
70%
60%
50%
40%
30%
預金金融機関
年金
投資信託
証券化
市場型金融機関
20%
10%
19
70
19
73
19
76
19
79
19
82
19
85
19
88
19
91
19
94
19
97
20
00
20
03
20
06
20
09
0%
・市場型金融機関:年金、投資信託、証券化、保険
12
○金融自由化の下での銀行規制
• 自己資本比率規制
– 規制金融時代
• 競争を制限して銀行の経営破綻を防止、護送船団行政(経営内
容の細部に干渉、1行も破綻させない)
– 金融自由化時代
– 自己資本比率:自己資本/総資産
• (自己資本比率に基づく)早期是正措置:個別銀行の経営悪化が
金融システム全体の不安定性につながらないようにするための
手段、問題銀行の早期発見・早期隔離、米国1991年、日本1998
年
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○金融のグローバリゼーションと
金融の国際的規制
•
(バーゼルⅠ)
– 1987年末(日本は88年3月末)導入
– BIS(国際決済銀行):主要国の中央銀行・金融当局の協議・協定締
結の場、国際銀行業務の監視機関
– 1997年:それまで信用リスクのみを対象としていたBIS規制に、新た
にマーケットリスク(市場価格変動による損益発生のリスク)を導入
• バーゼルⅡ
– バーゼルⅠの見直し
• リスクへの木目細かい対応、リスク管理手法の高度化への対応
– 欧州は2007年1月から、日本は2007年3月末から、米国は08年1月
からバーゼルⅡ
– 金融危機を受けてのバーゼルⅡの見直し(バーゼルⅢ)
• バーゼルⅢ
– 2013年から2019年にかけて段階的に実施
14
○今回の金融危機を受けての
規制強化
• ①従来の規制の不十分さへの対応(金融の
安定性面での)
• ②マクロプルーデンス政策の導入
• ③シャドーバンキング・システム規制
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①従来の規制の不十分さへの対応
(金融の安定性面での)
• 背景:税金による金融機関救済に対する欧米の国民の反感
– 最低自己資本比率は現状維持(8%)
– 自己資本の質を高める
• Tier1比率6%とコアTier1 (普通株等Tier1 )比率4.5%を新たに設定
– 資本保全バッファー 2.5%を新たに設定:自己資本が最低規制水準を
下回らないようにするためのバッファー
• コアTier1 資本で達成、従ってコアTier1 で4.5%+2.5%=7%の資本が必
要
• 資本保全バッファー が2.5%未満の場合は、強制的な行政措置は採られ
ないが、配当等の資本の社外流出は抑制される
– BIS規制上の自己資本の内容
• Tier 1(中核的自己資本 or 基本的項目):普通株、内部留保、優先株
– 普通株等Tier 1:普通株、内部留保のみ
• Tier 2(補完的項目):劣後債、貸倒引当金、有価証券の含み損益の45%
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藤田勉・野崎浩成『バーゼルⅢは日本の金融機関をどう変えるか』
日本経済新聞社2011, p.250
17
大山剛『バーゼルⅢの衝撃』東洋経済新報社2011, p.95
18
• 流動性リスク対策
– 今回の金融危機において、金融機関(特に米国
の投資銀行と欧州の銀行)の短期資金依存構造
の下で、金融システム全体で流動性危機が発生
したことの反省
• 流動性カバレッジ比率=流動性資産/ストレス時の3
0日間のネット資金流出額≧100%
• 安定調達比率:資産負債の長短ミスマッチ(満期変換)
を一定範囲に抑制する資金調達構造(=1年超の安定
的資金調達額/所要安定資金調達額≧100%)
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②マクロプルーデンス政策の導入
• プルーデンス政策:金融の健全性を確保し、危機を
防止する政策
– ミクロプルーデンス政策:個々の金融機関の健全性確保
– マクロプルーデンス政策:金融システム全体の危機を防
止
• カウンターシクリカルcounter cyclical(反循環的)な
自己資本比率規制の導入
– 自己資本比率規制のマイナス面:Procyclicality(景気循
環増幅的)
– :信用供与が過大な時期に当局の判断で自己資本を追
加的にリスクアセット比0~2.5%積み増し、信用収縮期に
取り崩す
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・Procyclicality
– 好景気(不景気)
– → 証券価格上昇(下落)・不良債権減少(増大)
– → 金融機関の収益拡大(収益減少・損失発生)
– → 自己資本比率の上昇(低下)、規制上の自己
資本比率を大幅(小幅)に超過
– → 貸出・証券投資の積極化(貸し渋り・保有証
券の処分)
– → 景気の更なる拡大(悪化) → ・・・
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• グローバルなシステム上重要な金融機関G-SIFIs
– その規模、複雑性、システミックな相互連関性のために、経営危機や
無秩序な破綻が広く金融システムと経済活動に著しい混乱をもたら
すと考えられる金融機関(大規模な銀行・証券・保険)
– より厳格な規制・監督の適用
• 対象となる金融機関ごとに国際的な金融当局間の監視グループ
Collegeを設置
• その金融機関の倒産の影響度合いに応じて、自己資本比率を1~2.5%
(コアTier1資本で)上乗せ
– G-SIFIsのリスト:2011年11月時点、リストは毎年見直し、
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③シャドーバンキング・システム規制
• MMF
– 資産の満期の長さの制限、流動的資産保有の強化
• 投資銀行
– 巨大投資銀行のG-SIFIs指定による規制強化
• ヘッジファンド
– 間接規制(取引相手の銀行・投資銀行によるチェック)から直接規制
(金融当局による監視)へ
– 登録制・認可制、システミックリスクの評価に必要な情報の規制当局
への開示
• 銀行への規制(シャドーバンクへの間接規制):
– オフバランス機関(SIVやABCPコンデュイット)への流動性供給枠の
リスクウェイト引上げ
• シャドーバンキング規制に関しては、FSB(Financial
Stability Board:国際的な金融システム安定化問題を協議・
勧告する機関)によって現在検討中
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・Shadow Banking Systemの内部構造
:資金の流れ
投資銀行・
ヘッジファンド
レポ市場
資金
余剰
主体
MMF・
証券貸借
証券借入
担保現金
証券化
商品市場
CP市場
ABCP
証券化の
アレンジ
証券化
SPC
資金
不足
主体
オリジ
ネーター
格付
格付
会社
銀行・
投資銀行
SIV・ABCP
コンデュイット
銀行
設立運営
流動性供給
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第4章:参考文献
• 淵田康之『グローバル金融新秩序』日本経済新聞
社2009
• 翁百合『金融危機とプルーデンス政策』日本経済新
聞社2010
• 貝塚・池尾編『金融理論と制度改革』有斐閣1992
• 加野忠『金融再編』文春新書1999
• 大山剛『バーゼルⅢの衝撃』東洋経済新報社2011
• 藤田勉・野崎浩成『バーゼルⅢは日本の金融機関
をどう変えるか』日本経済新聞社2011
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