自然再生・生態系管理の30原則

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Transcript 自然再生・生態系管理の30原則

一保全生態学者からみた
自然保護の論理と課題
松田裕之
(横浜国大・環境情報・リスクマネジメン
ト)
1
今日の内容
•
•
•
•
•
•
•
生態系概念
生物多様性概念
生物多様性保全ということの意味
保全生態学の学としてのあり方
生態リスク
リスクをどう考えるか
予防原則
2
生態学
•
•
•
•
•
•
個体
個体群
種
生物群集
生態系
景観
生死・相互作用の単位
存続
進化
食物連鎖、種間競争
含無機環境,機能の単位
多様な生態系
3
私のガイア仮説批判
• 生命=有機体 Yes(R.Dawkins利己的
遺伝子論)
• 種の適応 No (群淘汰説批判)
• 生態系=有機体 No(ガイア仮説批
判)
• S.Levin「持続不可能性」
恒常性≠安定性
4
生物多様性
•
•
•
•
•
生命の進化史(系統)
遺伝的多様性=環境適応の活力
種の絶滅(不可逆事象)
生態系の多様性
景観の多様性
5
生物保全の指針を示す
自然再生・生態
系管理の30原
則(案)
自然再生・生態
系管理の30原
則(案)
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2002/020330.ppt
6
安全性の追求≠自然志向
• 厳しくも恵み豊かな自然(鷲谷いづみ
2003)
• なぜ、ほんのわずかなリスクを避ける
ために今まで世話になってきた野菜や
牛肉の農家を破産の危機に追いやるよ
うなことをするのか
• いちばん大切なのは、自然と人の関わ
り,人間同士の信頼関係である。
7
リスクはゼロにできない
(ロドリックス「危険は予測できるか」化学同人よ
り)
行為または曝露
死亡率 行為または曝露
死亡率
モーターサイクリング
2000 ロデオ競技
3
すべての原因(全年齢)
1000 火災
2.8
喫煙による全死亡
300 塩素殺菌水(副生成物)
0.8
喫煙による発癌死
120 ピーナツバター大匙3杯/日
0.8
消火活動
80 炭焼ビーフステーキ85g/日
0.5
ハンググライダー
80 洪水
0.06
石炭採掘
63 落雷
0.05
-5
農作業
36 流星直撃
<10
自動車
24 落ち葉焚き
?
*死亡率は対象10万人あたりの年間死亡者数
鬼憂
杞憂
生涯リスクは上記の数字が(松田注:年齢,年代により)大きく変わらないとすれば約70倍したものとなる.
8
絶滅危惧生物の判定基準
IUCN(2001)
基準
A2,3,4個 体 数
減少率が
A1( 管 理 下 )
B1生 息 域 が
B2分 布 域 が
C (C1減 り 続 け
た )個 体 数 が
D1 個 体 数 が
D2 生 息 域 が
E 絶滅の恐れ
が
松田「環境生態学序説」
CR
>80%/10年 3世 代
EN
>50%/10年 3世 代
VU
>30%/10年 3世 代
>90%/10 年 3 世 代
>70%/10 年 3 世 代
>50%/10 年 3 世 代
<10km2
<100km2
<250(25%/3年 1世
代の減少)
<50
(規定無し)
10年 か 3世 代 後
(100 年 以 内 ) に
50%
[1] http://iucn.org/themes/ssc/siteindx.htm
<500km2
<2000km2
<5000km2
<20000km2
<2500(20%/5年 2世 <10000(10%/10年 3
代の減少)
世代の減少)
<250
<1000
(規定無し)
近 縁 種 の <10%
20年 か 5世 代 後
100年 後 に 10%
(100 年 以 内 ) に
20%
• どれか一つを満たせばよい(根拠の明示)
9
G. Maceの私信
(1996/7/11付電子書簡)
• I cannot disagree that the tuna is very unlikely
to go extinct in the next three generations,
however it does qualify under criterion A.
10
最後は人間が判断した環境省RDB
L
Nrdb
0
1
3
3
3
1
1
2
12
1
13
0
7
1
1
20
1
4
1
27
1
0
3
322
127
635
3
316
347
1651
3
436
0
759
3
316
13571
316
12
3
361
316
Rcal
T100 P 判定
NR 判定
元年 R DB
NaNQ
0
-1
-1 ★
0
0.904
14
1
1
1
0.49 111
2
2 V
2
0.42 221
3
2
0.973
23
2
1 V
1
0.669
61
1
1 ★
1
0.898
50
1
2 V
1
0.34 164
2
2 V
2
0.503 148
3
3 V
3
1
4
1
1 V
1
0.509 170
3
2
2
NaNQ
0
-1
-1 E
0 .1
0.686 100
3
2 V
2
1
4
1
1
1
0.497 118
2
2 V
3
0.449 235
4
3
3
0.621 103
1
2 V
2
0.505 141
2
1
1
1
4
1
1 V
1
0.579 103
3
2
2
0.634 104
1
2
2
-1
2
-1
2
1
1
• あくまで機械的に判定するIUCN-RDB
11
CITES改定案は日本に近い
事務局改定案
各国、環境団体などの意見
附属書IかII
への掲載を改
める提案を考
えるとき、加
盟国は懸案の
種とその保全
上の最良の利
益に基づいて
行動し、その
種に予期され
るリスクに応
じて釣り合い
のとれた処置
を採用するこ
とを決議し、
豪州:リスクもしくは予期されたリスクを決めることは難し
いかもしれない。予防原則はそれゆえ適用されるべきなので
ある。リスクにはかなりの不確実性があるかもしれないし、
そのような場合加盟国は用心深く保全側の取組みを採るよう
な指針とすべきである。
IUCN:我々は、以前の予防に関する文言の解釈に困難があっ
たことを認める。しかし、不確実性への言及を含めるべきで
あり、「懸案の種にとって最良の利益のことを考え、それに
基づいて行動する」という文言を加えてはどうか。「予期さ
れるリスクに対して釣り合いのとれた」という注釈は問題が
あり、さまざまな解釈が潜んでいることを見いだす。次のよ
うにこの段落を締めくくってはどうだろうか。「そして実際
に種の保全を改良する見込みが最も高い処置を採用する」
日本:「予防原則」に関して曖昧に定義された文言を取り去
ったことで、この文章がより明確になったことを歓迎する。
12
リスクを巡る二つの尺度
• 危険度(risk)
– 避けたい事件endpointが起きる確
率
• 確度(the weight of evidence)
– リスク試算の確実さ
携帯電話・家電製品の白血病リスク、
飛行機などへの影響
13
生物多様性保全の根拠
• 人間は自然なくして生きていけない
• 自然は人間の死生観・価値観を左右
• 持続可能性=私たちが子供の頃に周囲
にあった自然が,今の子供の周囲にない
• 自然はさらに失われ続けている
• 子孫に自然の恵みを残すために,生物
多様性を保全する必要がある
14
ギガフロート
Ship & Ocean Newsletter
15
1999年の世界各国各地域の生態学的足跡EFPと
生物的収容力(WWF 2002より改変)
人口
世界
高収入国
中収入国
低収入国
5979
906.5
2941
2114
生態学的足跡EFP (gha/人) 生物的
合計 漁場 エネルギー 住居建設 収容力
2.28
0.14
1.12
0.10
1.90
3.55
6.48
0.41
3.86
0.25
1.99
0.13
0.94
0.09
1.89
0.83
0.03
0.25
0.06 0.95
中国
日本
米国
ドイツ
1272
126.8
280.4
82
1.54
4.77
9.70
4.71
(百万人)
0.10
0.76
0.31
0.19
0.69
3.04
5.94
3.08
0.09
0.16
0.37
0.29
1.04
0.71
5.27
1.74
生態学的足跡=農作物 牧草地 森林 漁場 エネル
ギー 住居建設などの負荷の総計をとったもの
http://www.wwf.or.jp/activity/lpr2002/
16
保全生態学のあり方(案)
•
•
•
•
•
•
生物多様性保全は人間の一価値観.
生物多様性の維持機構を解明し,
それが人間に必要な根拠を吟味し,
有効な政策提言と,
その実効性の検証と,
合意形成のあり方を探る科学である
17
なぜ 多様性>生態系機能
•
•
•
•
•
•
生物多様性保全の価値は未解明
「健全な生態系」の定義不明確
絶滅は不可逆事象
予防原則により不可逆事象を避ける
絶滅危惧種保護
地域個体群の保全
– (全種保全≠全個体保護)
18
順応学習とフィードバック制御
Adaptive Learning & Feedback Control
継続調査データ
管理の実施、
資源変動
動態模型
状態
管理の意思決定
勝川俊雄T.Katsukawa:博士論文(2002)より
19
順応的管理も万能ではない
(Matsuda & Abrams unpublished)
dN  r(1 N )N  fN P  qEN
dt
K
1 hN


dP  d  gP  bfN  P
1 hN 
dt 
dE/dt = u(N-NT)
20
フィードバック管理は捕食者駆逐,漁業
(d)(e) (f)
崩壊、不規則変動,長期禁漁をもたらす
Prey
Fishing effort
Predator
• Feedback control
may result in
extinction of
either fishery or
predator.
(a)
(b)
(c)
21
答えを知れば,管理はできる
• 漁獲対象魚種の資源量でなく,その捕
食者の数でフィードバック制御すれば
よい
• 答えを知れば,管理はできる
• 答えを知らなければ,間違えることも
ある
22
生物多様性の維持と自然の恵み
(3)乱獲をもたらす2つの誘因
• 成長経済
– 毎年少しずつ獲るよりも、根こそぎとって
他の部門に投資する
• 共有地の悲劇(the
tragedy of the commons)
– せっかく末永く大切にしても、他人に獲ら
れてしまう
+ 高齢化と後継者難
(クラーク 1983, 松田 1995)
23
自然保護の根拠:3段階論
• 現在の人類の利益を守る
– 有用鳥類保護条約1902、動植物保存条約1933
• 将来の人類の利益を守る
– 人間環境宣言1972,環境と開発に関するリオ宣言1992
• 自然の内在的価値を尊ぶ
– ベルン条約1982,世界自然憲章1982
24
自然の価値
•
•
•
•
•
•
基底性
公共性
連続性
固有性
有限性
無常性
全体として不可欠
共有財産
切り売りできない
唯一無二
いつか絶滅する運命
放置しても変化する
25
絶滅をもたらす4つの人為
• 生息地破壊(面的開発)
• 乱獲
• 環境汚染、劣化(環境化学物
質)
• 侵入生物(アライグマ、ブラッ
クバス)
26
生態リスク
• hazardを明確に(乱獲など)
• endpointを明確に(種の絶滅)
• リスク=hazard×失敗確率
• リスクはゼロにはできない
• 未実証の前提を含むリスク評価
27
生態リスクと健康リスクの違い
人間の健康リスク
• 前近代よりずっと低い
• 平均寿命は飛躍的に延
びている
• 1人1年あたり100
万分の1の死亡率
• 万民が平等の閾値
• このリスクが守られて
いるかどうかを監視す
る
生態リスク(絶滅リス
ク)
• 先史時代よりずっと高い
• 暫定的に、100年後までの
絶滅リスクが5%以下
• 閾値は種によって、地域に
よってまちまち
• リスクの推定値は将来の継
続調査で変わる
• 為すことによって学ぶ
28
科学者の「良識」:今と昔
• 昔:肯定も否定もされないことは信じ
ない。(血液型占い)
• 今:実証されなくても、手遅れになり
そうなことは見過ごせない。
• 「政治的に注目された問題ほど、科学
的には怪しい。」
29
リスクをどう考えるのか
• ゼロリスクは不自然である
• 厳しくも恵み豊かな自然
• 自然に対する畏敬の念
• 生きがい=死にがい
• 人間の絆=リスクの受け渡し
30
リスク評価の危うさ:外挿
31
リスク回避のコスト
32
危険性riskの考え方
• リスクは確率である
– 絶対安全なものはない=「杞憂」
• リスク評価の前提は未実証
– シナリオ、悔いのない政策、予防原
理、説明責任accountability
33
危険性の評価、管理、周知
• Risk assessment=異論の少ない前
提で未来を予測。予防原則
• Risk management=不確実性と説明
責任を考慮する
• Risk communication=相対的な安
全を市民自身に選んで貰う
34
北海道のヒグマ保護管理
(Mano, ...,Matsuda et al. unpubl.)
• ヒグマは東南アジアで絶
滅危惧種であり、CITESで
国際商取引が禁止されて
いる
• 北海道ではヒグマはまだ
広くたくさんいる。
• 個体数が増えている証拠
はないが、人を襲う事故
件数は増えている。
函館
札幌
35
http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/Wildlife/mano.htm
日本の国会での論争
• 鈴木宗男議員
• 石原伸晃大臣
ある哺乳類学者の言葉
• どこにそんなばか • 高速道路は無駄な
な話がある。車の
公共事業だ。道路
クマよりクルマの方が危険です。
ほうが熊より多い
を作っても、走っ
熊に襲われて死ぬ人より、車に轢
にきまっているだ
ている車より熊の
かれる人の方がずっと多い。
ろう
ほうが多いくらい
だ
36
熊保護管理の基本理念
• 良い熊は本来、向こうから人を避ける。彼ら
の行動圏が高速道路や住宅地のそばを含んで
いても、それだけでは危険ではない
• 放置された生ごみを食べたりすると、人を避
けなくなる。「餌付けされた熊は駆除せざる
を得ない」”A fed bear is a dead bear”
(Yellowstone国
立公園の標語).
37
http://www.yellowstone-bearman.com/B_housesafe.html
どうやって熊を管理するか
•
•
•
•
•
•
•
二つのタイプの熊を考える
良い熊と悪い熊
アイヌ語でキムンカムイとウェンカムイ
良い熊を守り、悪い熊を駆除する
熊の不良化を阻む
ゴミは外に出さないこと!
低いリスクは受け入れてほしい
38
板挟み=絶滅の恐れ+被害
シカ=数が増える(個体数管理)
クマ=里に近づく(キムンカムイ)
人間とクマ(ウェンカムイ)の不適切な関係
サル、カラス(餌付けと愛護)
予防措置と危険性の周知
39
Comments
• 人も野生生物も、自然界では高い死亡
リスクに直面している。飼育下のほう
が低い
• ゼロリスクを追求することは、健康リ
スクと自然保護を対立させてしまう
• 必要なのは不可逆的影響に備えた予防
原則に基づくリスク管理であり、人と
自然の共存を図ることである
40
知床世界遺産候補地の論点
• エゾシカはいったん知床半島から絶滅
• 現在の個体数は100年前より多い(ハル
ニレの消失)
• 原生自然を放置することが知床の自然
を守ることではない=生態系管理
• シカの半島からの絶滅は自然現象?
• 半島基部のシカ捕獲+先端部希少植物
保護+移動経路の封鎖
41
今日のまとめ
•
•
•
•
•
•
•
生態系概念
生物多様性
生物多様性保全
保全生態学
生態リスク
リスクの捉え方
予防原則
ガイア仮説批判
進化の産物・原動力
持続可能性
問題解決型の科学
前近代より超高い
リスクは自然の宿命
不可逆的影響回避
42
エゾシカ保護管理計画
エゾシカ保護管理計画と
feedback制御
松田裕之(東大海洋研)
北海道のホーム頁より
1
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/deer.html
43