有害物質対策のあり方

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Transcript 有害物質対策のあり方

電気電子機器における
有害物質対策のあり方
国際連合大学
安井 至
United Nations University
http://www.yasuienv.net/
背景





有害化学物質管理の基本的考え方には、
EU流、米国流がある。
現在、EU流が世界を席巻している。
しかし、「それがすなわち、進歩的だから」
ではない。
「環境リスクの削減」という本来の目的を常
に意識する必要がある。
具体的には、REACHなどにどのように?
環境問題を解決するとは?



解決=人類生存のリスク&生態系破壊の
リスクを減らすことである
ともに、命(健康)に関わることである。
一方、ビジネスリスクなどを解決することは、
環境問題でない。
リスクの状態 その1
安
全
圏
リスクのトレードオフ
リスクのトレードオフ
日本の環境問題の推移






1960年代:経済成長と公害の時代
1970年代:急速な環境規制の時代
1980年代:バブル経済と物量の時代
1990年代:地球環境と廃棄物の時代
2000年代:持続可能な社会の時代
2010年代:新しい価値の創生の時代
環境問題のトレンド
ローカルリスク(日本)
公害
ダイオキシン
環境ホルモン
BSE
.......
|
1970
|
1980
|
1990
グローバルリスク
温暖化
人口爆発
資源不足
食糧不足
鳥インフル
.......
|
2000
|
2010
|
2020
|
2030
「ローカルリスク低減」の理解
発
展
途
上
国
リ
ス
ク
危険残留
安
全
圏
適
正
な
対
応
・
国
際
標
準
先
進
国
の
過
剰
な
対
策
別のリスク
が増大する
これがしばしば
グローバルリスク
実質安全
対策の強化
絶対安全
RoHSはリスクを削減するか


EUの毒性物質規制
重金属4種


臭素系難燃剤2種


Cd、Hg、Pb、Cr6+
PBDE、PBB
2006年7月、電子電気機器へ使用禁止
鉛で公園の土、砂汚染





2004年2月1日 朝日新聞1面
東大:吉永淳助教授
国環研:田中敦主任研究員
砂場:25.4ppm、表土:67.3ppm
150ppmを超す表土も
「すぐに危険なレベルではないが、身近な
場所で乳幼児が鉛汚染にさらされやすく
なっている」、吉永談。
Pb:健康被害者は居るのか




鉛に限れば、過去最大の環境問題は、ガソリン中
の四エチル鉛
米国では、総量で700万トンの鉛が大気に放出さ
れたとか
日本では、牛込柳町の鉛中毒事件
日本の土壌中の鉛汚染は、順調に低下中


一時期、表土は5000ppmといった濃度であった。
現在世界での鉛生産量700万トン。0.6%がはん
だ? 4万トン程度。
被害者は出るか



ソニーPSOne摘発問題。
2001年12月:コントローラ塩ビケーブル
中のカドミウム使用が判明。オランダの基
準を超している。基準値は、製品重量の0.
01%。130万台が出荷停止に。
もし、RoHSを破れば、
ビジネスリスクは大きい。
鉛の血中濃度



子供の知能の発達などに悪影響があるとされ
ている。10μg/dLあたり、IQが7.4下がるとす
る論文がある。それに対する反論もあるようだ。
さらに、3μg/dL以下でも女児の性徴の発達
に影響が無いとは言えないとする発表もある。
血中濃度とガソリン中の四エチル鉛の濃度との
相関が非常に高い。ガソリン中の四エチル鉛を
ゼロにすると、血中濃度は、3.1μg/dLぐらい
になる。
米国EPAの発表によれば、
「5歳児以下の子どもの血中の鉛濃度平均値は、
1976年~1980年の15μg/dLから
1999年~2000年の2.2μg/dLへと
約85%も減少した」.
End Use of Lead in USA
http://minerals.usgs.gov/ds/2005/140/lead-use.pdf
子どもの平均鉛血中濃度
平
均
血
中
濃
度
(
g
/
d
L
)
μ
年
間
鉛
放
出
量
(
千
ト
ン
)
ガソリンからの
鉛放出量
なぜ、EU流の環境規制か
EUの環境ポリシー







CONSOLIDATED VERSION OF THE TREATY
ESTABLISHING THE EUROPEAN COMMUNITY
Article 174:
1. Community policy on the environment shall
contribute to pursuit of the following
objectives:
— preserving, protecting and improving the
quality of the environment,
— protecting human health,
— prudent and rational utilization of natural
resources,
— promoting measures at international level
to deal with regional or worldwide
environmental
EUの環境ポリシー2


Article 174:
2. Community policy on the environment shall
aim at a high level of protection taking into
account the diversity of situations in the
various regions of the Community. It shall be
based on the precautionary principle and
on the principles that preventive action
should be taken, that environmental damage
should as a priority be rectified at source and
that the polluter should pay.
日本の環境ポリシー 環境基本法



「予防的」、「予防的な」といった言葉は、基本法に
は書かれていない。
しかし、第三次環境基本計画 2006では、
環境四原則




1.
2.
3.
4.
汚染者負担の原則
環境効率が重要
必要ならば、予防的な対処を
リスクによる判断を基本とする
科学的な知識が100%完全でないことを、予防的な対
処をしない理由にしてはならない。
予防的な対処と法規制の関係


何事にも、白と黒の中間に、灰色がある
予防的対処


全面禁止 + 例外規定(明示的リスト)
リスクを基本とする対処

使用禁止物質の明示的リストを作る
予防型と禁止型の優劣

予防型




禁止型



劣:例外規定が多すぎると、管理不能
劣:例外は、「代替不能」で判断され、リスク削減では
判断されない。しかし、、、、、
優:安心が得られやすい
劣:すでに使われている物質の危険性が十分解明さ
れにくい
劣:安心を得るのが難しい
リスク削減効果=「安全」は変わらないが、「安
心」が違う
機能と健康(ローカル)リスク
Risky
Acceptable
Minimum
Performance
Desirable
Performance
Risk
四エチル鉛禁止
のケース
Human Health Risk
by Product A
Human Health Risk
+ Other Risks
by Product B
Safe
Performance
機能と健康(ローカル)リスク
Risky
Acceptable
Minimum
Performance
Desirable
Performance
Risk
有鉛→無鉛はんだ
のケース
Human Health Risk
by Product A
Safe
Performance
Human Health Risk
by Product B
例えば、枯渇性
機能と健康(ローカル)リスク の金属利用
例えば、歩留まり
+グローバルリスク
例えば、高温
例えば、装置寿命
Risky
Acceptable
Desirable
Minimum
Performance
Performance
Risk
ローカルリスク
+グローバルリスク
by Product B
Human Health Risk
by Product A
Safe
Performance
Human Health Risk
by Product B
日本:国家目標としての「安心と安全」
第三期の総合科学技術会議による基本計画でも、「安心と安全
は大きな目標として残っている。しかし、客観的に見れば、日本
ほど安全な国は無い。食の安全についても、「生の白いんげん豆」
がもっとも危険であったりする。
リスクという考え方をどのように普及するか、それが鍵である。
日本における一つの命の重みと、アフリカにおける一つの命の
重みが同じであるのかないのか。
安心を獲得するには





「確信」 and/or 「悟り」が必要
「確信」、「悟り」は、いずれも、情報の適切な伝達、
恐らく、「人→人」の伝達が必要。
文書などによる情報伝達では、不十分。
となると、擬人的なメディアであるテレビの影響
は非常に大きい。
現在、市民に与えられている方法は、第三の方
法:「なんとなく、そう思う」
安心のための悟り

ゼロリスクが存在しないこと






「食」はチャレンジだった
既存の生命を食している
サプリメント
医療・医薬
日常的なリスク
リスクの俯瞰的な理解を促し、「安全圏の存在」
を共有してもらう。
一般社会と専門家との情報乖離


乖離の状況は一部で改善されているもの
の、一部では却って悪化している。
理由






個人主義的な発想が強まっている
ノスィズム的な傾向も
テレビメディアの低品質
情報を得る時間的余裕の欠落
新聞を読まない層の出現
科学的情報の理解能力の喪失
リスクの感覚-主婦と癌疫学者
1980年代の調査 黒木登志夫氏













食品添加物
農薬
タバコ
大気汚染公害
タンパク質焦げ
ウイルス
ふつうの食品
性生活・出産
職業
アルコール
放射線・紫外線
医薬品
工業生産物
43.5%
24%
11.5%
9%
4%
1%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
1%
0%
30%
2%
0%
10%
35%
7%
4%
3%
3%
1%
1%
環境情報伝達の重要性




市民社会と「価値の共有」をするため
以前は、「社会受容性」という言葉が使われ
た
それ以前は、「説得」という言葉が使われた
その作業の根幹を成すのは「情報伝達」であ
る。
「共有」すべき広義の情報


共有できる条件 情報の共有がまず第一
提供側から出すべき情報





価値
知識
意味
動機
責任
リスクベネフィット
完全開示
社会貢献、明確性
なぜ今かの明確な説明
大きな視点からの倫理観
「共有」するための協同作業







まずは、定義を共有する必要がある
過去の事例を十分に検討・評価する
リスクの科学的な解明を十分に行う
大きな時の流れの中で、現在を把握する
未来を見通した議論を行う
未来社会からどのように評価されるか、という視点で、現
在を見る
お互いの了解事項



宗教戦争にやらないこと。特に、一神教。
「正しい定義と情報を共有する」ことがスタート
特に、リスクの定義、リスクの安全圏
「リスク」とは何か

専門家の考えるリスク


できごとの危なさ × 起きる可能性 ×
被害を蒙りやすさ
市民団体の考えるリスク

できごとの危なさ × 社会の不条理
台風のリスク

専門家型


台風の強さや大きさ × 進路が自分のところ
に来るか × 防災体制の不完全性
市民団体型

台風の強さや大きさ × 政府の対応の悪さ
有害化学物質の毒性リスク

専門家型


化学物質の毒性 × どのぐらい摂取するか
× 体質的な敏感性
市民団体型

化学物質の毒性 × 商業主義
亜鉛の環境基準
生物A 水生生物の生息する水域
=0.02mg/L 以下
 生物特A 生物Aの水域のうち、水生生物
の産卵場(繁殖場)又は幼稚仔の生育場と
して特に保全が必要な水域
=0.01mg/L 以下

亜鉛の排出基準


日本の水質目標の設定は従来、人の健康
保護や水域の富栄養化防止に重点が置
かれ、水生生物保全の観点を中心に据え
た水質目標は設定されていなかった
2mg/l(現行は5mg/l)
なお、この排水基準は、1日当たりの平
均的な排出水の量が50立米以上である特
定事業場に適用するものとする
「ローカルリスク低減」の理解
発
展
途
上
国
リ
ス
ク
危険残留
安
全
圏
適
正
な
対
応
・
国
際
標
準
先
進
国
の
過
剰
な
対
策
別のリスク
が増大する
これがしばしば
グローバルリスク
実質安全
対策の強化
絶対安全
市民はなぜリスクを理解できないか
理由その1: 知らない=単純な思い込み

ミネラルウォータは安全


割り箸を使う方が清潔



真実:ミネラルウォータの基準は、水道水よりも、5倍
程度緩い
真実:防腐剤、防カビ剤が含まれている
真実:そもそも洗っていない
食事の前に手を洗うべき


真実:ヨーロッパなどでは、お手拭はでないし、パンも
手づかみ。テーブルにじか置き。それでも別にお腹を
壊すことはない。
真実:インフルエンザの予防には、手を洗うのが正解
水道水-ミネラルウォータ比較



水道水の方が基準が緩い項目 なし
ミネラルウォータの方が基準が緩い項目
ヒ素(0.05mg/リットル) 5倍
フッ素(2mg/リットル)
2.5倍
ホウ素(~5mg/リットル) 約5倍
亜鉛(5mg/リットル)
5倍
マンガン(2mg/リットル) 4倍
水道水の発ガンリスクはヒ素が突出
6×10^-5 ミネラルウォータは?
理由その2:原理原則を知らない

ビタミンにしてもミネラルにしても、生理活
性物質は、実は毒物。過剰摂取は危ない





ビタミンA
ビタミンD
亜鉛
銅
多目に摂取しても良いものは、もともと薬
効の無いもの=毒にも薬にもならない
化学物質の毒性 コア知識




物質が毒かどうかは、量が決める。
量を多く摂れば、すべての物質は天然食
品を含めて毒物である。
生物は、食物(=毒物)を摂取することを前
提として防御システムを備えている。
動物の中では、ヒトはもっとも精緻な防御
システムをもっている。
物質が毒かどうかは量が決める



通称:パラケルスス
本名:アウレオルス・フィリップス・テオフ
ラストス・ボンバストス・フォン・ホーヘン
ハイム(1493ー1541)
スイス人医師。錬金術師。後にバーゼ
ル大学教授。
理由その3:自分の体は繊細


自分はヒトである
ヒトは高級哺乳類だから繊細



真実:ヒトは、最高性能の自己防衛システムを
備えている
真実:だから、これほど蔓延ることができる
ただし、ある人々は、以前よりも繊細かもし
れない=乳児死亡率の推移
乳児死亡率、死産率推移
理由その4: ヒトの死なない社会


乳児死亡率
現在の高齢者は特別
GDP vs. 平均寿命 1995年
WHO日常的なリスクによる損失余命比較 単位・年
低体重
鉄欠乏
VA欠乏
亜鉛欠乏
高血圧
コレステロール
体重オーバー
野菜果物不足
運動不足
危険な性交渉
避妊の欠落
たばこ
酒
ドラッグ
不衛生な水
大気汚染
煙の室内汚染
鉛暴露
気候変動
怪我(職業上)
発がん物質
SPM
ストレス
騒音
注射
幼児虐待
世界
20.73
4.22
4.25
4.35
9.07
5.71
3.78
3.83
2.59
12.57
0.69
7.45
5.34
0.79
8.04
1.05
5.74
0.46
0.81
1.16
0.22
0.24
0.00
0.00
1.50
0.28
日本+
0.01
0.05
0.00
0.00
5.94
3.01
1.92
1.87
1.78
0.23
0.00
6.15
1.61
0.49
0.03
0.54
0.00
0.05
0.00
0.23
0.23
0.06
0.00
0.00
0.00
0.16
北米
0.01
0.18
0.00
0.00
7.03
6.44
6.58
3.65
3.03
0.98
0.00
13.81
2.80
1.27
0.02
0.48
0.01
0.12
0.01
0.20
0.28
0.21
0.00
0.00
0.00
0.12
EU
0.00
0.09
0.00
0.00
8.86
6.97
5.71
2.53
2.95
0.46
0.00
11.43
3.01
0.97
0.02
0.28
0.00
0.13
0.00
0.23
0.35
0.17
0.00
0.00
0.00
0.07
日本人の平均余命推移
理由その5: 思い上がり


人類には、安全で上等な専用の食料が用
意されている。
事実


人類は、歴史の中で試行錯誤をしながら、比
較的危険の少ない他の生命を食べてきた。
最後の最後に登場したホモサピエンスのため
に「専用の贈り物」を用意するほど、地球は優
しい天体ではない。
情報開示が基本


結局、どの方法によっても、リスクがゼロになる訳
ではない。「リスクの安全圏」を目指す。
製品に含まれている有害物質は、ライフサイクル
的視点が必要




どのように、回収され、リサイクルされ、どのように、廃
棄されるか。
日本の家電製品のように、リサイクル事業が製造者と
極めて近い場合は特殊。
諸外国では、状況は様々。
加えてローカルな健康リスク情報だけでなく、グ
ローバルリスクに関わる情報も開示すべき。
結論


規制は、基本的に少ない方が良い。
有害物質管理の目的は、「環境リスクの削減」
である。


EU流、米国流、日本流


例えば、RoHSは、「環境リスクを削減するか」。
ある意味、リサイクルを前提としている点では、日
本流がもっと先進的
市民社会の価値観との整合性が重要


まずは、「リスクの定義」
「リスクには安全圏がある」を共有すべき
要旨

日本企業は、EUのRoHS規制への対応を見事
に成し遂げた。欧州の有害物質への規制は、ま
すます強化される可能性が高い。自主的な活動
として自らの製品を厳密に管理する体制作りは
欠かせない。しかし、同時に、欧州の規制が、全
面的に正しい訳ではないとの主張をしておく必要
がある。何を根本原理として採用し、何を目指し
た管理システムを構築するのか。キーワードは、
情報公開によるリスクの総合的管理だろう