3月30日2007年:「化学物質のリスクとのつきあい方」

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Transcript 3月30日2007年:「化学物質のリスクとのつきあい方」

化学物質のリスクとのつきあい方
国際連合大学
安井 至
United Nations University
http://www.yasuienv.net/
背景

化学物質のリスクがどのようなものか、理
解するのはなかなか難しい。
そのため、適正に怖がることが難しい。
過剰に怖がったり、過小に怖がったり。
適正に怖がることを学ぶにはどうするか。

日本は、「リスク制御による管理」を目指す。



環境問題を解決するとは?




解決=人類生存のリスク&生態系破壊のリスク
を減らすことである
ともに、命(健康)に関わることである。
ただし、生態系破壊が生物多様性を減らすこと
は確実だろうが、生物多様性が減ったとしても、
人類生存のリスクが増えるとは限らない。
一方、ビジネスリスクなどを解決することは、環
境問題でない。
日本の環境問題の推移






1960年代:経済成長と公害の時代
1970年代:急速な環境規制の時代
1980年代:バブル経済と物量の時代
1990年代:地球環境と廃棄物の時代
2000年代:持続可能な社会の時代
2010年代:新しい価値の創生の時代
環境問題のトレンド
ローカルリスク(日本)
公害
ダイオキシン
環境ホルモン
BSE
.......
グローバルリスク
温暖化
人口爆発
資源不足
食糧不足
鳥インフル
.......
最終処分地リスク
|
1970
|
1980
|
1990
|
2000
|
2010
|
2020
|
2030
流行物質ベスト1
ダイオキシン問題
棚橋データの主張




埼玉県は、産業廃棄物の焼却炉多数
所沢、三芳、大井地区の新生児死亡率
(4ヶ月未満の死亡)が高い
大気中のダイオキシン濃度と相関が高い
家庭用焼却器の補助をしている町村で、
新生児死亡率が極端に高い


吉田町:4.65倍
荒川村、川里村:2倍以上
新生児死亡率 H1~4
1989-1992
平成元年~4年
埼玉県
所沢市
三芳町
吉田町
荒川村
川里村
出生数
323261
16199
1685
317
261
383
新生児
死亡数
835
60
6
4
1
2
新生児 その値以上
死亡率 になる確率
0.00258
0.00370
0.005
0.00356
0.272
0.01262
0.010
0.00383
0.491
0.00522
0.260
新生児死亡率 H5~9
1993-1997
平成5年~9年
埼玉県
所沢市
三芳町
吉田町
荒川村
川里村
出生数
340074
16815
1584
232
251
287
新生児
死亡数
712
40
5
0
1
2
新生児 その値以上
死亡率 になる確率
0.00209
0.00238
0.230
0.00316
0.240
0.00000
-------0.00398
0.409
0.00697
0.122
ダイオキシン急性毒性


特徴
生物種による効果の相違 LD50
モルモット
0.6~2μg/kg
ハムスター 1000~5000μg/kg
サル
70μg/kg
ヒト
?? サルより強い
セベソ事件1976年 0.25~130kg放出
トリクロロフェノール(除草剤)工場大爆発
(宮田先生:1gで1万7千人殺せる)
小動物は3000匹以上死亡、ヒト死亡0名
たばこからのダイオキシン







たばこの煙の総ダイオキシン含有量は
5300ng/Nm3
1本当たりの煙は0.002Nm3/本
1本あたり総ダイオキシン約10ng
TEQは実測濃度の1/1000とすると、ダイオキ
シンは10pg(TEQ)/本
現在の規制値 1~4pg/kg/日
50kgの人だと 50~200pg/日
20本吸う人は、規制値と同じぐらい摂取
母乳中のダイオキシンの濃度
環境省
ダイオキシン インベントリーより
益永先生の研究
9000
8000
7000
6000
9000
5000
8000
7000
4000
6000
3000
5000
4000
2000
3000
2000
1000
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
三井化学が大反発、しかし部分的に認めた
2005年
2004年
2003年
2002年
2001年
1998年
97
1997年
0
1999年
1000
2005年
2004年
2003年
2002年
02
2001年
2000年
1999年
1997年
1998年
0
2005年
2004年
2003年
2002年
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
0
2000年
1000
ユシチェンコ大統領候補の暗殺未遂?
平均的なダイオキシン摂取量だと、4万年分
それでも、メディアは「猛毒」という接頭語を使った。
さらに、「サリンの数倍」が復活した。
「ローカルリスク低減」の理解
発
展
途
上
国
リ
ス
ク
危険残留
安
全
圏
適
正
な
対
応
・
国
際
標
準
先
進
国
の
過
剰
な
対
策
別のリスク
が増大する
これがしばしば
グローバルリスク
実質安全
対策の強化
絶対安全
亜鉛の環境基準
生物A 水生生物の生息する水域
=0.02mg/L 以下
 生物特A 生物Aの水域のうち、水生生物
の産卵場(繁殖場)又は幼稚仔の生育場と
して特に保全が必要な水域
=0.01mg/L 以下

亜鉛の排出基準


日本の水質目標の設定は従来、人の健康
保護や水域の富栄養化防止に重点が置
かれ、水生生物保全の観点を中心に据え
た水質目標は設定されていなかった
2mg/l(現行は5mg/l)
なお、この排水基準は、1日当たりの平
均的な排出水の量が50立米以上である特
定事業場に適用するものとする
「リスク」とは何か

専門家の考えるリスク


できごとの危なさ × 起きる可能性 ×
被害を蒙りやすさ
市民団体の考えるリスク

できごとの危なさ × 社会の不条理
台風のリスク

専門家型


台風の強さや大きさ × 進路が自分のところ
に来るか × 防災体制の不完全性
市民団体型

台風の強さや大きさ × 政府の対応の悪さ
有害化学物質の毒性リスク

専門家型


化学物質の毒性 × どのぐらい摂取するか
× 体質的な敏感性
市民団体型

化学物質の毒性 × 商業主義優先
市民はなぜリスクを理解できないか
理由その0: リスクの大きさに対す
るイメージが何も無い。



イメージが無いと、少しのリスクも不安であ
るが、他のものとの比較が可能になると、
「このぐらいか」、という理解ができる。
安全圏というものの理解ができるようにな
る。
ある程度諦めるということが、生命の本質
であることを思い出す。
10万人あたり死亡数
飢餓(世界全体)
1460
喫煙(喫煙者)
365
がん
250
肥満
140
心臓病・血管関係の病気
127
アルコール飲料
117
自殺
24
発がん物質(職業上)
17
交通事故
9
窒息
6.9
転倒・転落
5.1
地震(阪神淡路大震災)
5
チェルノブイリ(ソ連圏、40万人、20年)
5
ディーゼル微粒子
2.8
入浴
2.6
火事
1.7
ホルムアルデヒド
0.8
他殺
0.52
チェルノブイリ(原発国、40万人、20年)
0.5
チェルノブイリ(ソ連圏、4万人、20年)
0.5
魚の有害物+漁業労災
0.35
出典
注7
注8
中谷内
注11
中谷内
注9
中谷内
注14
中谷内
中谷内
中谷内
武田
注18
注13
中谷内
中谷内
注17
中谷内
注18
注18
注19
コメント
損失余命20年と仮定
喫煙者2816万人、直接喫煙による死亡者10.2万
損失余命1.9年と仮定
損失余命1.6年と仮定
損失余命0.23年と仮定
損失余命14日と仮定
損失余命4.1日と仮定
ダイオキシンなどの有害物質
ヒ素(ミネラルウォータと食品)
コーヒー
ヒ素(水道水と食品)
自然災害
チェルノブイリ(原発国、4万人、20年)
チェルノブイリ(ソ連圏、4千人、20年)
HIV/エイズ
航空機事故
ガス器具による一酸化炭素中毒死
チェルノブイリ(原発国、4千人、20年)
食中毒
電磁波(超低周波磁場)
残留農薬
落雷
一酸化炭素中毒(パロマ関連)
サプリメント・痩せ薬
チェルノブイリ(原発国、4千人、20年)
食品添加物
原子力関係の事故
BSE
0.3
0.22
0.2
0.12
0.1
0.05
0.05
0.04
0.013
0.008
0.005
0.004
0.004
0.002
0.002
0.0008
0.0008
0.0005
0.0002
0.00008
0.0000001
注6
注15
注10
注15
中谷内
注18
注18
中谷内
中谷内
注19
注18
中谷内
注16
注4
中谷内
注2
注12
注18
注5
注1
注3
損失余命1.5日と仮定
損失余命1日と仮定
損失余命0.6日と仮定
1986年から20年間で199名死亡
損失余命0.01日と仮定
20年間で20名の死者と仮定
20年間で死者20名と仮定
軽水炉と黒鉛炉のリスク比10と仮定
損失余命0.001日と仮定
20年間で2名の死者と仮定
1000年に1名の死者と仮定
理由その1:原理原則を知らない

ビタミンにしてもミネラルにしても、生理活性
物質は、実は毒物。過剰摂取は危ない



ビタミンA、ビタミンD、亜鉛、銅
人間が生きるためには、多くの毒物が必要
である。 例えば、女性ホルモンは発がん物
質である。さらに、活性酸素も成長に必要な
毒物である。
多目に摂取しても良いものは、もともと薬効
の無いもの=毒にも薬にもならない
化学物質の毒性 コア知識





物質が毒かどうかは、量が決める。
量を多く摂れば、すべての物質は天然食
品を含めて毒物である。
生物は、生存のために、自分で毒物を作る
食物(=毒物)を摂取することを前提として
防御システムを備えている。
動物の中では、ヒトはもっとも精緻な防御
システムをもっている。
物質が毒かどうかは量が決める



通称:パラケルスス
本名:アウレオルス・フィリップス・テオフ
ラストス・ボンバストス・フォン・ホーヘン
ハイム(1493ー1541)
スイス人医師。錬金術師。後にバーゼ
ル大学教授。
理由その2: 知らない=単純な思い込み

ミネラルウォータは安全


割り箸を使う方が清潔



真実:ミネラルウォータの基準は、水道水よりも、5倍
程度緩い
真実:防腐剤、防カビ剤が含まれている
真実:そもそも洗っていない
食事の前に手を洗うべき


真実:ヨーロッパなどでは、お手拭はでないし、パンも
手づかみ。テーブルにじか置き。それでも別にお腹を
壊すことはない。
真実:インフルエンザの予防には、手を洗うのが正解
水道水-ミネラルウォータ比較



水道水の方が基準が緩い項目 なし
ミネラルウォータの方が基準が緩い項目
ヒ素(0.05mg/リットル) 5倍
フッ素(2mg/リットル)
2.5倍
ホウ素(~5mg/リットル) 約5倍
亜鉛(5mg/リットル)
5倍
マンガン(2mg/リットル) 4倍
水道水の発ガンリスクはヒ素が突出
6×10^-5 ミネラルウォータは?
理由その3:リスクのトレードオフ



高いリスクは、それだけを減らすことが可
能である。
しかし、すでに低いリスクをさらに減らそう
とすると、別のリスクが発生する。
特に、有害物質の低いリスクを減らすと、
消費エネルギーが莫大にかかる場合もあ
る。
リスクの状態 その1
安
全
圏
リスクのトレードオフ
リスクのトレードオフ
理由その4: ヒトの死なない社会




日本は、ヒトの死なない世界を達成
乳児死亡率
平均寿命の延び
現在の高齢者は特別
GDP vs. 平均寿命 1995年
WHO日常的なリスクによる損失余命比較 単位・年
低体重
鉄欠乏
VA欠乏
亜鉛欠乏
高血圧
コレステロール
体重オーバー
野菜果物不足
運動不足
危険な性交渉
避妊の欠落
たばこ
酒
ドラッグ
不衛生な水
大気汚染
煙の室内汚染
鉛暴露
気候変動
怪我(職業上)
発がん物質
SPM
ストレス
騒音
注射
幼児虐待
世界
20.73
4.22
4.25
4.35
9.07
5.71
3.78
3.83
2.59
12.57
0.69
7.45
5.34
0.79
8.04
1.05
5.74
0.46
0.81
1.16
0.22
0.24
0.00
0.00
1.50
0.28
日本+
0.01
0.05
0.00
0.00
5.94
3.01
1.92
1.87
1.78
0.23
0.00
6.15
1.61
0.49
0.03
0.54
0.00
0.05
0.00
0.23
0.23
0.06
0.00
0.00
0.00
0.16
北米
0.01
0.18
0.00
0.00
7.03
6.44
6.58
3.65
3.03
0.98
0.00
13.81
2.80
1.27
0.02
0.48
0.01
0.12
0.01
0.20
0.28
0.21
0.00
0.00
0.00
0.12
EU
0.00
0.09
0.00
0.00
8.86
6.97
5.71
2.53
2.95
0.46
0.00
11.43
3.01
0.97
0.02
0.28
0.00
0.13
0.00
0.23
0.35
0.17
0.00
0.00
0.00
0.07
日本人の平均余命推移
理由その5:自分の体は繊細


自分はヒトである
ヒトは高級哺乳類だから繊細



真実:ヒトは、最高性能の自己防衛システムを
備えている
真実:だから、これほど蔓延ることができる
ただし、ある人々は、以前よりも繊細かもし
れない=乳児死亡率の推移
乳児死亡率、死産率推移
理由その6: 思い上がり


人類には、安全で上等な専用の食料が用
意されている。
事実


人類は、歴史の中で試行錯誤をしながら、比
較的危険の少ない他の生命を食べてきた。
最後の最後に登場したホモサピエンスのため
に「専用の贈り物」を用意するほど、地球は優
しい天体ではない。
「ローカルリスク低減」の理解
リ
ス
ク
発
展
途
上
国
危険残留
安
実質安全
全
圏
生物として内在するリスク
適
正
な
対
応
・
国
際
標
準
先
進
国
の
過
剰
な
対
策
別のリスク
が増大する
これがしばしば
グローバルリスク
対策の強化 絶対安全
国際的な違い
EUの方向性
RoHS指令はリスクを削減するか


EUの毒性物質規制
重金属4種


臭素系難燃剤2種


Cd、Hg、Pb、Cr6+
PBDE、PBB
2006年7月、電子電気機器へ使用禁止
鉛で公園の土、砂汚染





2004年2月1日 朝日新聞1面
東大:吉永淳助教授
国環研:田中敦主任研究員
砂場:25.4ppm、表土:67.3ppm
150ppmを超す表土も
「すぐに危険なレベルではないが、身近な
場所で乳幼児が鉛汚染にさらされやすく
なっている」、吉永談。
Pb:健康被害者は居るのか




鉛に限れば、過去最大の環境問題は、ガソリン中
の四エチル鉛
米国では、総量で700万トンの鉛が大気に放出さ
れたとか
日本では、牛込柳町の鉛中毒事件
日本の土壌中の鉛汚染は、順調に低下中


一時期、表土は5000ppmといった濃度であった。
現在世界での鉛生産量700万トン。0.6%がはん
だ? 4万トン程度。
鉛の血中濃度



子供の知能の発達などに悪影響があるとされ
ている。10μg/dLあたり、IQが7.4下がるとす
る論文がある。それに対する反論もあるようだ。
さらに、3μg/dL以下でも女児の性徴の発達
に影響が無いとは言えないとする発表もある。
血中濃度とガソリン中の四エチル鉛の濃度との
相関が非常に高い。ガソリン中の四エチル鉛を
ゼロにすると、血中濃度は、3.1μg/dLぐらい
になる。
米国EPAの発表によれば、
「5歳児以下の子どもの血中の鉛濃度平均値は、
1976年~1980年の15μg/dLから
1999年~2000年の2.2μg/dLへと
約85%も減少した」.
End Use of Lead in USA
http://minerals.usgs.gov/ds/2005/140/lead-use.pdf
子どもの平均鉛血中濃度
平
均
血
中
濃
度
(
g
/
d
L
)
μ
年
間
鉛
放
出
量
(
千
ト
ン
)
ガソリンからの
鉛放出量
なぜ、EU流の環境規制か
EUの環境ポリシー







CONSOLIDATED VERSION OF THE TREATY
ESTABLISHING THE EUROPEAN COMMUNITY
Article 174:
1. Community policy on the environment shall
contribute to pursuit of the following
objectives:
— preserving, protecting and improving the
quality of the environment,
— protecting human health,
— prudent and rational utilization of natural
resources,
— promoting measures at international level
to deal with regional or worldwide
environmental
EUの環境ポリシー2


Article 174:
2. Community policy on the environment shall
aim at a high level of protection taking into
account the diversity of situations in the
various regions of the Community. It shall be
based on the precautionary principle and
on the principles that preventive action
should be taken, that environmental damage
should as a priority be rectified at source and
that the polluter should pay.
日本の環境ポリシー 環境基本法



「予防的」、「予防的な」といった言葉は、基本法に
は書かれていない。
しかし、第三次環境基本計画 2006では、
環境四原則




1.
2.
3.
4.
汚染者負担の原則
環境効率が重要
必要ならば、予防的な対処を
リスクによる判断を基本とする
科学的な知識が100%完全でないことを、予防的な対
処をしない理由にしてはならない。
予防的な対処と法規制の関係


何事にも、白と黒の中間に、灰色がある
予防的対処

全面禁止 + 例外規定(明示的リスト)
REACH型

リスクを基本とする対処

使用禁止物質の明示的リストを作る
予防型と禁止型の優劣

予防型




禁止型



劣:例外規定が多すぎると、管理不能
劣:例外は、「代替不能」で判断され、リスクでは判断
されない
優:安心が得られやすい
劣:すでに使われている物質の危険性が十分解明さ
れにくい
劣:安心を得るのが難しい
リスク削減効果=「安全」は変わらないが、「安
心」が違う
環境問題のトレンド
ローカルリスク(日本)
公害
ダイオキシン
環境ホルモン
BSE
.......
グローバルリスク
温暖化
人口爆発
資源不足
食糧不足
鳥インフル
.......
最終処分地リスク
|
|
|
生物として内在するリスク
1970 1980 1990
|
2000
|
2010
|
2020
|
2030
結論

有害物質管理の目的は、「環境リスクの削減」
である。


市民社会の価値観との整合性が重要



例えば、RoHSは、「環境リスクを削減するか」。
まずは、「リスクの定義」の共有
「リスクには安全圏がある」を共有すべき
EU流、米国流、日本流

ある意味、リサイクルなどを前提としてリスク管理
を原則としている点では、日本流がもっと先進的