宇宙戦艦ヤマト - 国際基督教大学
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Transcript 宇宙戦艦ヤマト - 国際基督教大学
われわれの戦争の世代的足跡の探求
第二次世界大戦後の日本人の
アイデンティティに見られる
未解決のトラウマ
国際基督教大学 高等臨床心理学研究所
西村 馨
IAGP Rome, August 28, 2009
Revised for TNA Seminar, February 8, 2010
1. 近代日本の国家的アイデン
ティティ
連合国に対抗する日独伊軍事同盟
象徴的存在としての天皇
1868年からの新政府(明治政府)
国家的アイデンティティは「作られ
た」ものであり、ナショナリズムが強
化された
武士の倫理である「武士道」が歪めら
れ、純化されて国民教育に用いられた。
Hopperの[基底的想定]非凝集:
塊状化(massification)
「…塊状化した社会では、攻撃性の制
御を言語、人種、民族性、習慣、そし
て美的価値にまで及ぶ純化と関連した
さまざまなナショナリズムの中に見出
せる。」 (Hopper, 2003, p. 76)
Hopperの[基底的想定]非凝集:
塊状化
「攻撃的感情や攻撃性が塊状化の維持
にはいっそう不可欠なものになる。」
(p. 77)
戦後…
日本人は、天皇家が滅んでしまうと
自らのアイデンティティが消滅してし
まうのではないか、と恐れてきた。
国家的アイデンティティの混乱
敗戦に直面して、国家的アイデンティ
ティの混乱は不可避であった。敗戦の
事実は強い恥の感覚を喚起させた。
若者たちは国家に裏切られた。そして
自分たちを国家から引き離そうとした。
恥の強い感覚によって、若者は塊状化
タイプのグループを避けるようになっ
た。戦後の空虚感は人々を集合化させ
るように導いた。
Hopperの[基底的想定]非凝集:
集合化 (aggregation)
「集合化によって特徴化される社会シ
ステムでは人々は『分離株isolate』に
なりがちである。主体性と責任の認識
を避け、それゆえ、婉曲表現と官僚主
義でコミュニケーションしたがる。そ
のため言葉と関連する情緒をそいでし
まう。」 (2003, p.72)
国家アイデンティティの危機
塊状化
恥
国家アイデンティティの混乱
ナショナリズム
敗戦について
ファシズム
塊状化したことについて
個人アイデンティティの喪失
自由主義/国家主義
[地下に埋められる悪しき記憶]
集合化
Figure 1. Confusion of National Identity in Japan after the War (1)
2. 戦後のトラウマの反復と修復の試み:社会
とポップカルチャーにおける無意識過程
旧日本海軍 戦艦大和
(1941-1945)
徳之島ノ北西二百浬ノ洋上、「大和」
轟沈シテ巨体四裂ス 水深四百三十米
今ナホ埋没スル三千ノ骸
彼ラ終焉ノ胸中果シテ如何
(吉田満「戦艦大和ノ最期」)
宇宙戦艦ヤマト (1974)
遊星爆弾、焦土と化した地球、
戦艦大和の残骸(宇宙戦艦ヤマト)
「『宇宙戦艦ヤマト』が最初に放映さ
れた当時は人気も視聴率も伸びず、
1975年3月にわずか半年で終了した」(
山口康男 2004 「日本のアニメ全史」
p.110)
「…悲劇的敗戦の悪夢を呼び戻す戦艦
大和に嫌悪感を覚える向きも少なくな
かった」(同上, p. 111)
「当時の日本人は、太平洋戦争敗戦の
コンプレックスからまだ抜け出せずに
いた。敗戦から、すでに30年近くが経
過していたにもかかわらず、傷が癒え
ていなかった。自虐的で、日本を卑下
することが多く、戦争で無惨に沈んだ
戦艦大和は、そのコンプレックスの象
徴でもあった。」(同 p.112)
「しかし、宇宙戦艦ヤマトは猛々しく
蘇った。船出して間もなく圧倒的な米
空軍の猛攻にあってさしたる反撃もで
きずに悲壮な最期を遂げた『大和』で
はなく、地球を救うために宇宙へ飛び
立つ『ヤマト』であった。」(同
p.112)
ド・メンデルスゾーン「英雄的
解決」(heroic solution)の概念
屈辱を受けた人は時に「反動形成のパ
ターンを取る。すなわち、恥や自己卑
下という初期の感情が否認され、プラ
イドや防衛目的の自己拡大によって反
対側に作用するのである」 (de
Mendelssohn, 2007, p. 393)
「英雄的解決」
(de Mendelssohn)
「しかし、恥の問題に対する『英雄的
解決』、つまりかつては恥ずべきこと
と思われたことをあえて誇りとするこ
とには肯定的機能もある。なぜなら、
恥ずべき経験によって打撃を受けた自
我機能を修復する試みだからであ
る。」 (p. 399)
大和ミュージアム(2005-)
大和ミュージアムの1/10サイズ(26.3m)の巨大模型大和
ポップカルチャー作品を通した
トラウマの伝達
[第 1 世代]
[第 2 世代]
恥
国家アイデンティティの混乱
無念, 憤怒
現実生活での
英雄的解決 (?)
衰微、陳腐化
ポップカルチャー作品
トラウマの伝達
における英雄的解決
[復讐心, 憤慨]
塊状化への
傾向
Figure 2. Transmission of Trauma through Pop Culture Work
宇宙戦艦ヤマト製作の時代背景
第4次中東戦争(1973)によって生じ
たオイルショック
戦後最悪の経済危機に直面して生じて
きた不安、絶望、絶滅不安
子どもにとって、それは戦争の恐怖の
間接的伝達であった。
社会的無意識 (Weinberg)
「社会的無意識は共同体、社会、国家、
文化といった特定の社会システムのメン
バーの共同構築された共有的無意識であ
る。」(Weinberg, 2007)
「トラウマを抱えた社会や共同体・国家
の危機的事件に際しても現れる。このよ
うな時、自然大集団(社会的、教育的、
民族的、政治的構造としての大集団)も
が退行してしまう。」→Hopperの集合化
/塊状化が発生する
「社会的無意識は特定の社会の共有的
記憶、とりわけ世代を通して伝達され
るトラウマティックな記憶に基づいて
いる。」(Weinberg, 2007)
時代的出来事と歴史的トラウマ
の想起:世代間伝達
[第一世代]
[第二世代]
社会的出来事
パニック様反応
不安
絶滅の恐怖、戦争
社会的状況の誤知覚
トラウマの想起
終末思想
Figure 3. Transgenerational Transmission of Trauma through Social Event
戦争トラウマを伝達する代表的
作品
ゴジラ (1954)
はだしのゲン (1973-1985)
はだしのゲン (1973-1985)
3. 個人的体験:家族でのトラウマの潜在
的伝達
私の父親
• 1934年生まれ (日中戦争3年前)
• 1940年に両親が離婚
• 1941年、真珠湾攻撃の前に父死亡
• 1944年、同居(養育者)の祖母病死
• 1945年、戦後、実母と「継父」と住み
始める
彼の父の死をめぐる、彼と妻(私の両
親)の考え
家族内の恥ずべき出来事が戦争の悲劇
の中に埋められ、戦争のせいにされる。
私自身
• 1965年生まれ, 戦後20年
• 父親の勤める企業の組織体質
塊状化した組織は、その成員の家族を
ばらばらにしてしまった
両親の「苦労」観
私自身の厭世感
カルト集団体験
父の猛烈な仕事ぶりは人生の無意味さを
伝えるものだった。
戦争のトラウマの反復。
4. 今日見られる未解決のトラウ
マ
1990年代の多数のカルト集団
ウム真理教
塊状化集団
地下鉄サリン事件(1995年)
オ
村上春樹による犠牲者へのインタ
ビュー(アンダーグラウンド, 1997) と
元信者へのインタビュー(約束された
場所で, 1998)
元信者は厭世的な傾向があり、世俗の
成功への軽蔑心と明確な世界観への飢
餓があった。
オウム真理教とポップカルチャー作品
私と同世代の元信者は宇宙戦艦ヤマト
と終末思想に強い影響を受けていた。
[第一世代]
[第二世代]
現実主義者
家族内伝達
精神主義者
塊状化(カルト)
への関与
塊状化
への恥
社会への
パニック様反応
現実の誤知覚
悲観主義、厭世感
分離株:集合化
戦争のトラウマ
ポップカルチャー作品
Figure 4. Cult, Isolate, and Transmission of Trauma
村上春樹とオウム
村上春樹は、信者、元信者たちが自分
自身の思考を失い、教義に屈している
ことを見出した。
村上春樹は「集合化」の具象的人物なの
かもしれない。つまり、オウム現象と
同じ面の裏表をなしている。
村上春樹
オウム真理教の武装化と村上作品の変
化との一致性(島田, 2000)
地下鉄サリン事件を聞いた時、「世界
の終りとハードボイルドワンダーラン
ド」が現実化した、と感じた(アン
ダーグラウンド)。
「ねじまき鳥クロニクル」と暴力
時に、表面的なアイデンティティから
解離された日本人が「地下」に閉じ込め
られ、集合化や村上作品によって表現
されたり、オウムの塊状化によって表
現されたりするようである。
グローバリゼーションにもかかわらず
集合化する一方、別の世界では塊状化
している日本の現状
5.結論
戦争第1世代から第2世代にそのトラウ
マが伝達される際に、直接語ることよ
りもむしろ語らないことによる間接的
伝達の役割が大きい。
危機に直面した国家では、社会的無意
識が表面化する。すなわち、無意識に
過去のトラウマを想起し国家としての
アイデンティティが混乱する。
5.結論
そのような社会状況の中で、その過去
のトラウマが無意識に次世代に伝達さ
れる。
同時に、ポップカルチャー作品が「英
雄的解決」の働きをしたのが私の世代
である。
だが、それは語らない親を持つ家庭状
況の中では、現実主義、俗世的価値の
否定とスピリチュアリズムへの傾倒を
生んだ。
5.結論
その一つの結果が、カルト集団の横行
であり、結果として、塊状化していた
社会(国家主義)を別の形で反復させ
ることになる。
もう一つの結果が、所属を嫌い、孤立
化する集合化のプロセスである。
オウム真理教と村上春樹の活動は奇妙
な表裏一体性を持っている点で興味深
い。
5.結論
脆弱な国家的アイデンティティに基づ
く日本は、その凝集点を見いだせない
まま現在に至っている。その社会的無
意識に多くのトラウマを抱えている。
(村上春樹流に表現すれば、それは地
下に閉じ込められた「やみくろ」であ
る。それは、ちょっとした機会にさま
ざまな形で現れてくる。)
5.結論
そこに育つわれわれは、国家のために
奉仕することに嫌悪感を抱きつつ、自
己実現の幻想に踊らされ、自分のより
どころや社会との確かな接点を見いだ
しにくい。
5.結論
しかしそれを語り合うこと、隠された
ものを発見すること、分析していくこ
とはできる。
日々の個人臨床にとどまらず、個人発
達の土台となっている社会をとらえる
ことは、臨床的視野を広げるものにな
ろう。
その際、自分の世代の分析を試みてみ
ること、自己分析にもうひとつの有意
義な視点を与える。
Thanks a lot