Transcript 講義資料
日本と東アジアの成長と貿易 日本経済入門(二) アジア研究所 小山直則 1 今日学ぶこと ●『人口経済学』第6章 人口減少、高齢化と社会保障制度 2 6.1. 社会保障の役割と概要 ●社会保障 ⇒例. リスク ⇒社会保障制度は、経済 高齢になると所得を稼ぐ 主体の経済的安定性を 能力が低下する、病気 損なうリスクに対応する からの回復力が遅くな ための制度である。 る、介護に依存する可 能性が高くなるなど。 ⇒例. 年金制度、医療制度、介 *経済学では、将来一定 の確率で発生すること 護制度など がわかっているような 現象をリスクと呼んで いる。 3 6.1. 社会保障の役割と概要 ●社会保障制度の役割 (1) 社会的安全装置(セー フティーネット) (2) 所得再分配 (3) リスク分散 (4) 経済社会の安定、経 済成長 4 6.1. 社会保障の役割と概要 ●社会保障制度の役割 (1) 社会的安全装置(セー フティーネット) ⇒日本国憲法第25条「① すべての国民は、健 康で文化的な最低限 度の生活を営む権利 を有する。」 ⇒第25条「②国は、すべ ての生活部面において、 社会福祉、社会保障及 び公衆衛生の向上及 び増進に努めなければ ならない。」 ⇒憲法で保障された最低 限度の生活を保障する 制度を社会的安全装置 と呼んでいる。 5 6.1. 社会保障の役割と概要 ●社会保障制度の役割 (2) 所得再分配 ⇒高齢者や障害者は一 般的に職場が限られ ているし、所得稼得能 力が低い。 ⇒乳幼児を抱えた単身世 帯は労働時間に制約 がある。 ⇒疾病や事故によって労 働ができなくなることが ある。 ⇒市場に任せておくと安 定的な経済生活が送 れなくなるリスクがある。 ⇒このため租税制度や社 会保障制度を通じた所 得移転が必要となる。 6 6.1. 社会保障の役割と概要 ●社会保障制度の役割 (2) 所得再分配 ⇒所得の再分配には金銭 的な移転と医療・保育 サービスのような現物 給付の形がある。 ⇒例. 生活保護制度 高所得者から低所得者へ の所得再分配。 ⇒例. 医療保険制度 健康な人から病気の人へ の所得再分配。 ⇒例. 公的年金制度 所得稼得能力がある現役 世代から高齢世代への 世代間の所得再分配。 7 6.1. 社会保障の役割と概要 ●社会保障制度の役割 (3) リスク分散 ⇒失業、病気、事故など の将来起こりうるリス クに対して、 ⇒そのようなリスクが発生 したときにその影響を 極力小さくするために リスク分散が必要であ る。 ⇒例えば、医療保険に加 入し毎月保険料を支 払っておけば病気のと き医療負担を最小限に することができる。 ⇒このように社会保障制 度はリスクを分散する 機能を持っている。 8 6.1. 社会保障の役割と概要 ●社会保障制度の役割 (4) 経済社会の安定、経 済成長 ⇒社会保障制度は、生活 に安心感を与えたり、 ⇒実際に生活困難な状態 になった場合に救済し たり、 ⇒所得格差を解消する所 得再分配機能があるこ となどから、 ⇒社会や政治を安定化さ せる機能を持っている。 ⇒さらに、景気変動を緩 和する経済安定化機能 も持っている。 9 6.1. 社会保障の役割と概要 ●日本の社会保障制度 (1) 社会保険(老人保険制 度を含む) (2) 公的扶助 (3) 社会福祉 (4) 公衆衛生(および医 療) 10 6.1. 社会保障の役割と概要 ●日本の社会保障制度 (2) 公的扶助 (1) 社会保険(老人保険制 ⇒生活困窮者に対する国 度を含む) からの所得補償であり、 困窮の程度に応じて必 ⇒社会保険は、保険料の 要な保護を行い、最低 納付と引き換えに給 限の生活を保障する制 付を受けるという制度 度である。 である。 例. 生活保護 ⇒例. 年金保険、医療保 険、介護保険、雇用保 険、労災保険 11 6.1. 社会保障の役割と概要 ●日本の社会保障制度 (4) 公衆衛生 (3) 社会福祉 ⇒国民が健康に生活でき るように食品衛生や感 ⇒障害者、母子家庭など 染症対策などに関する 社会生活をする上で 政策を実施し、病気の 様々なハンディ キャッ プを負っている国民が、 予防や衛生管理を実現 するための制度である。 そのハンディキャップ を克服し て、安心して 社会生活を営めるよう、 公的な支援を行う制 度である。 12 6.2. 年金の経済学 ●賦課方式 ⇒賦課方式の年金制度 は、第二世代の若年者 において支払われた年 金保険が第一世代の 老人に支払われる。 ●世代重複モデル (Overlapping Generation Model) 若年期 老年期 第一世代 第二世代 若年期 老年期 13 6.2. 年金の経済学 ●人口 ●世代重複モデル ⇒t期に第一世代がN1人 t期 t+2期 t+1期 生まれたとする。 ⇒t+1期に第二世代がN2 老年期 第一世代 若年期 人生まれる。 第二世代 N1人 N1人 若年期 老年期 ⇒t+1期の総人口は N1+N2人である。 N2人 ⇒人口成長率をnとすると、 N2=(1+n)×N1 14 6.2. 年金の経済学 ●保険料収入 ⇒第二世代の若者の一 人当たりの所得をy万 円、保険料率をaとする と、 ⇒保険料収入 =a×y×N2 となる。 ●世代重複モデル t期 t+1期 t+2期 若年期 老年期 第一世代 N1人 N1人 若年期 第二世代 老年期 N2人 y万円 15 6.2. 年金の経済学 ●年金給付額 ⇒第一世代の老人は第 二世代の若者が支払っ た年金保険から年金給 付を受ける。 ⇒年金給付総額 =b×y×N1人 *b:年金給付水準 ●世代重複モデル t期 t+1期 t+2期 若年期 老年期 第一世代 N1人 N1人 若年期 第二世代 老年期 N2人 y万円 16 6.2. 年金の経済学 ●収支均衡原則 ⇒年金会計の収支は均 衡していると仮定する。 ⇒年金保険料収入 =年金給付額 ⇒ a×y×N2= b×y×N1 ●世代重複モデル t期 t+1期 t+2期 若年期 老年期 第一世代 N1人 N1人 若年期 第二世代 老年期 N2人 y万円 17 6.2. 年金の経済学 ●収支均衡原則 ⇒ a×y×N2= b×y×N1 ⇒年金給付水準b =a×(N2/N1) =a×(1+n) *人口成長率をnとすると、 N2=(1+n)×N1 ●世代重複モデル t期 t+1期 t+2期 若年期 老年期 第一世代 N1人 N1人 若年期 第二世代 老年期 N2人 y万円 18