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ゲノム分子生物学1 (金井 昭夫、柘植 謙爾、中東 憲治 )
2008年度春学期 水曜日1時限(9:25-10:55)
科目コード: 44200 / 2単位
カテゴリ:
(学部)先端開拓科目-環境情報-生命と身体
開講場所:SFC(湘南藤沢キャンパス)・TTCK(鶴岡タウンキャンパス)
授業形態:講義・遠隔あり(主にTTCKより)
ゲノム分子生物学1(ゲノムサイエンス)
1. 主題と目標/授業の手法など
主題:
ゲノムサイエンスは21世紀の生物学を担う学問の一つ
生命科学を専攻する大学生・大学院生にとって必須の学問分野
本授業と秋学期のゲノム分子生物学2で基本的な事象から、
最先端の議論まで
授業:
教科書「ゲノム3」
第I部 ゲノムを学ぶ
第II部 ゲノム解剖学
講師3人が分子生物学やゲノム研究に従事してきた経験から
より具体的な解説を行う。
2. 教材・参考文献
教科書:「ゲノム第3版」
T.A.BROWN [著]; 村松正實・木南 監訳
メディカル・サイエンス・インターナショナル ISBN:4895923371
ゲノム2
教科書の構成と講義内容
「ゲノム分子生物学1」
第I部 ゲノムを学ぶ
ゲノム-トランスクリプトーム、プロテオーム研究法
第II部 ゲノム解剖学
ゲノム構造
「ゲノム分子生物学2」(秋学期)
第III部 ゲノムの機能
ゲノムの発現
第IV部 ゲノムの複製と進化
ゲノムの維持と変化
ゲノム分子生物学1(ゲノムサイエンス)
3. 授業計画
第2回 ガイダンスおよび「ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム」 講師:中東
第
3回 DNAを知る 講師:中東
第4回 ゲノム地図の作成 1 講師:中東
第5回 ゲノ
ム地図の作成 2 講師:中東
第6回 ゲノム配列の解析 講師:柘植
第7回 遺伝
子の機能を調べる 1 講師:柘植
第8回 遺伝子の機能を調べる 2 講師:柘植
第9回 ゲノムがどのようにして機能するかを理解する 講師:柘植
第10回 真核生物ゲノム
第11回 原核生物ゲノムと真核生物の細胞小器官ゲノム 講師:金井
第12回 ウイルスゲノムと動く遺伝子 講師:金井
第13回 最終テスト 講師:金井、中東、柘植
ゲノム分子生物学1(ゲノムサイエンス)
4. 提出課題・試験・成績評価の方法など
成績評価:期末テスト、小テスト、出席、授業態度を加味した上で評価
5. 履修上の注意・その他
・本講義を受講するまでに、基礎分子生物学1-4を履修していることが望まれる。
・授業は湘南藤沢キャンパス(SFC)でも鶴岡タウンキャンパス(TTCK)でも履修可
能であるが、基本的にTTCKからの遠隔システムを用いて進められる。
・より直接的な授業を望むならばバイオキャンプ時にTTCKで受講することを推奨
する。
6. 前提となる知識(科目名等)
基礎分子生物学1-4で単位を取得していることが望まれる。
7. 履修者数制限(予定人数および制限方法)
履修人数を制限しない。
ゲノム分子生物学1
8. 授業URL
(http://www.bioinfo.sfc.keio.ac.jp/class/GenomeScience/) ?
9. 学生が準備するソフト・機材
10. 授業に関する連絡先
[email protected]
Part 1
今日の講義内容
第I部 ゲノムを学ぶ
第1章 ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム
Figure 1.2 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
ゲノムとは?
Genome(ゲノム)=Gene(遺伝子)+ome(集団)
「ある生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報」 すなわちその生物の遺伝子の総和
1920年にH. Winklerによって配偶子が持つ染色体の一組として定義された。後にコムギの
研究を通して木原均(1930年)がある生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報として
概念的に定義し直した。 (Wikipedia)
Transcriptome = Transcript(転写産物) + ome
Proteome = Protein(タンパク質) + ome
Metabolome = Metabolite(代謝産物) + ome
Interactome = Interactant(相互作用) + ome
Phenome = phenotype (表現型) + ome
遺伝子(Gene)とは?
遺伝子(いでんし)は生物の遺伝的な形質を規定する因子であり、
遺伝情報の単位
遺伝情報は次世代に伝達される。
遺伝情報は生物の形質として発現する。
遺伝情報の実体は DNAの塩基配列である。
1.1
DNA
1.1.1 遺伝子はDNAで出来ている
遺伝情報の実体は DNAの塩基配列である。
遺伝情報の実体がDNAだと理解されるまでにはどのような発見が
必要であったか。
1.1 DNA
細胞の遺伝物質とは何か?
1866年
遺伝因子に関する論文 (G. Mendel) エンドウ
1869年
DNAの発見 (J. F. Miescher) ヒト白血球
酸性、リン酸に富む物質、細胞におけるリンの貯蔵?
1900年
メンデルの法則の再発見
1903年
染色体説 (WS Sutton) 。遺伝因子は染色体にある
(染色体は核酸とタンパク質の複合体)
1928年
形質転換 (transformation) の発見 (F. Griffith)
1944年
形質転換物質の同定 (O. Avery)
1952年
バクテリオファージを用いた形質転換物質の同定
(A. Hershey and M. Chase)
図形質転換
1.2
(transformation) の発見 (F. Griffith): 1928年
The significance of pneumococcal types
F Griffith - J. Hyg, 1928
肺炎球菌
Type 「免疫型(筴膜組成)の違い」
II
III
IV
(全て病原性、S型)
(Streptococcus pneumoniae)
病原性のあるS株から、病原性の無い(筴膜のない)
R型の突然変異株が
+
生じることがある。
IIS ⇔ IIRなど、逆もあるが、II ⇔ IIIなどの変異はおきない
図形質転換
1.2
(transformation) の発見 (F. Griffith): 1928年
The significance of pneumococcal types
F Griffith - J. Hyg, 1928
Type I, III, IVetc..
マウス死亡
マウス生存
Type IIR
マウス生存
Type I, III, IV etc..
肺炎球菌
Type
II
III
IV
(all S)
(Streptococcus pneumoniae)
マウス死亡
Type IIR
+
Type I, III, IV etc..熱で死んだ方の型が
検出された!
Type I, III, IV etc..
形質転換し
た!
死んだ病原性型菌から遺伝物質がIIRに取り込まれた?
図1・3a
図
1.2 形質転換物質の同定(O. Avery): 1944年
1.3
病原性型菌(SIII型)からの抽出物
熱処理
Wash(ppt.)
0.5% SDS,デオキシコール酸での溶出(sup.)
エタノール沈殿(ppt., デオキシコール酸除去)
クロロフォルム処理(タンパク質除去)
酵素によるポリサッカライド除去
エタノール沈殿でactive materialの濃縮
active materialを分析した結果、DNAの元素
組成とほぼ同じだった。
(ほぼ全てDNA)
図1・3a
図
1.3 形質転換物質の同定(O. Avery): 1944年
病原性型菌(SIII型)からの抽出物
熱処理
Wash(ppt.)
0.5% SDS,デオキシコール酸での溶出(sup.)
エタノール沈殿(ppt., デオキシコール酸除去)
クロロフォルム処理(タンパク質除去)
酵素によるポリサッカライド除去
エタノール沈殿でactive materialの濃縮
active materialを分析した結果、DNAの元素
組成とほぼ同じだった。
(ほぼ全てDNA)
僅かに残っている成分がactive materialの
可能性もあるので、
分解酵素による確認を行なった。
RNA分解酵素
形質転換を担うのは DNA?
DNA分解酵素
図 1.4, 1.5
バクテリオファージを用いた形質転換物質の同定
(A. Hershey and M. Chase): 1952年
INDEPENDENT FUNCTIONS OF VIRAL PROTEIN AND NUCLEIC ACID IN GROWTH OF BACTERIOPHAGE
The Journal of General Physiology, Vol 36, 39-56
バクテリオファージT2
タンパク質とDNAより成る
大腸菌
大腸菌に感染
遺伝物質を注入
37℃、20分
(P1 phage)
250~300個の子ファージ
図 1.4, 1.5
バクテリオファージを用いた形質転換物質の同定
(A. Hershey and M. Chase): 1952年
INDEPENDENT FUNCTIONS OF VIRAL PROTEIN AND NUCLEIC ACID IN GROWTH OF BACTERIOPHAGE
The Journal of General Physiology, Vol 36, 39-56
バクテリオファージT2
DNA:32P
タンパク質とDNAより成る
タンパク質:35S
大腸菌
大腸菌に感染
遺伝物質を注入
DNA, タンパク質それぞれ
を放射性同位体でラベル
細胞内に取り込まれる
ほうが遺伝物質だろう
37℃、20分
250~300個の子ファージ
図 1.4,バクテリオファージを用いた形質転換物質の同定
1.5
図1・3b
(A. Hershey and M. Chase): 1952年
100% of 32P
100% of 35S
70% of 32P
20% of 35S
細胞内
30% of 32P
80% of 35S
細胞外
1.1 DNA
細胞の遺伝物質とは何か?
1928年
形質転換 (transformation) の発見 (F. Griffith)
1944年
形質転換物質の同定 (O. Avery) :図1・3a
1952年
バクテリオファージを用いた形質転換物質の同定
(A. Hershey and M. Chase) :図1・3b
DNAが遺伝物質かも知れない
1953年
DNAの二重らせん構造の発見 (Watson and Crick)
1953年当時のDNAの構造についての知識
1.1.2 DNAの構造 (ヌクレオチドの構造)
アデニン
プリン塩基
シトシン
ピリミジン塩基
Figure 1.4 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
グアニン
プリン塩基
チミン
ピリミジン塩基
DNAの構造
(ポリヌクレオチドの構造)
ホスホジエステル結合
Figure 1.5 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
DNAの構造
Figure 1.6 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
(ポリヌクレオチドの形成)
図 1.10
二重らせんへとつながる証拠
1953年
Watson and Crick
1. 生物物理学データ
(DNA繊維の水分含有量)
2. X線解析像
R. Franklin
(らせん構造)
3. 塩基存在比
E. Chargaff
4. 原子の相対的配置 (模型の組立)
全ての要件を満たす構造
塩基存在比 (E. Chargaff)
図 1.11補足2
DNAの二重らせん構造
F. Crick
J. Watson
図 1.11
DNAの二重らせん構造の重要な特徴 (1a)
1. 塩基対形成(水素結合)
AとT、GとCがペアになることで、安定で大きさの同じ塩基の組ができる
図 1.11
DNAの二重らせん構造の重要な特徴 (1b)
2. 塩基のスタッキング(p-p相互作用)
による、安定な構造
外側に親水的なリン酸と糖、内側に
疎水的な塩基が位置する
DNAの二重らせん構造の重要な特徴 (2)
図 1.11補足
(遺伝物質としての役割を示唆する重要な特性)
DNAの半保存的複製(鋳型依存性DNA合成)
が容易に想像できる
1.2 RNAとトランスクリプトーム
1.2.1 RNAの構造
Figure 1.10a Genomes 3 (© Garland Science 2007)
図 1.9
RNAとDNAの構造上の違い
リボース(五炭糖)
DNA依存RNAポリメラーゼによるRNAの合成
(鋳型依存性RNA合成、転写)
Figure 1.11 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
1.2.2 細胞に含まれるRNA
トランスクリプトームの構成要素
Figure 1.12 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
1.2.3 RNA前駆体のプロセシング
Figure 1.13 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
1.2.4 トランスクリプトーム
Transcriptome
Total messenger RNA expressed in a cell or tissue at a given point in time.
(IUPAC Glossary of Terms Used in Toxicology, 2007)
ある時間に、特定の細胞(組織、生物etc)に発現している(存在する)全てのmRNA
新たに合成される事はなく、細胞分裂時に親細胞から受け取り、
分解と新規合成による置き換わり(turnover)によって維持されている
プロテオーム
Proteome
Description of the complete set of proteins encoded by the genome.
(IUPAC Glossary of Terms Used in Toxicology, 2007)
特定の細胞(組織、生物etc)に存在して、その細胞の持つ生理的活性を決めて
いる全タンパク質
ある時間に、特定の細胞(組織、生物etc)に存在する全タンパク質
新たに合成される事はなく、細胞分裂時に親細胞から受け取り、
分解とmRNAの翻訳による合成による置き換わり(turnover)によって維持さ
れている
1.3 タンパク質とプロテオーム
Figure 1.17 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
1.3.1 タンパク質の構造
タンパク質の一次構造はアミノ酸がペプチド結合で繋がったポリペプチド
アミノ末端
カルボキシ末端
ペプチド結合
Figure 1.15 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
タンパク質の二次構造
ペプチド結合のバックボーンに形成される水素結合によってできるα-ヘリックス、β-シート
等の立体構造(コンフォメーション)
R-基は各構造の取りやすさに
寄与するが、結合には参加し
ない
Figure 1.16 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
タンパク質の三次構造
二次構造を構成単位として、これらが折りたたまれて生じる3次元の立体構造
R-基が参加するため、一次構造によって多様な構造を取りうる
水素結合
静電的相互作用
疎水性相互作用
ジスルフィドボンド
等、様々な要素で安定化
Figure 1.17 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
タンパク質に多様性をもたらすアミノ酸の多様性
R-基
Figure 1.18 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
Figure 1.19 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
トランスクリプトームとプロテオームの関係
DNAからRNAへの情報の流れ
・塩基間の1対1対応
・塩基の対合によって相手を指定
RNAからタンパクへの情報の流れ
・4種類の塩基(A, U, G, C)で20種のアミノ酸をコードする
・塩基対のような物理化学的な必然性の欠如?
3.3.2 トランスクリプトームとプロテオームの関係
RNAからタンパクへの情報の流れに伴う疑問
・塩基対のような物理化学的な必然性の欠如
mRNAと合成中のタンパク質をつなぐアダプター分子が存在?
1957, F. Crick
194x後半〜
in vitro タンパク質合成系の開発
cell free system for incorpotation of amino acids into protein fraction
アミノ酸はいったんRNAと結合してからタンパク質に取り込まれる。
(A soluble ribonucleic acid intermediate in protein synthesis)
1958, HOAGLAND MB, STEPHENSON ML, SCOTT JF, HECHT LI, ZAMECNIK PC, J Biol Chem
3.3.2 トランスクリプトームとプロテオームの関係
RNAからタンパクへの情報の流れに伴う疑問
・4種類の塩基(A, U, G, C)で20種のアミノ酸をコードする
3.3.2 トランスクリプトームとプロテオームの関係
RNAからタンパクへの情報の流れに伴う疑問
・4種類の塩基(A, U, G, C)で20種のアミノ酸をコードする
図1.20 遺伝コード(genetic code)(普遍コード)
遺伝コードは普遍?
Figure 1.20 Genomes 3 (© Garland Science 2007)
遺伝コードの成立と普遍性
“偶然の固定化(Frozen accident)”説 (F. Crick)
(いったん固定化した後の変更は困難故、暗号は普遍的)
成立は偶然ではなかったかも知れない(説)
・特定のRNAがアミノ酸に結合
遺伝コードは普遍的でない
・種特異的な非普遍コードを使う生物(細胞内小器官)の存在
・配列依存的コドン再指定(context-dependent codon reassignment)
・配列依存的フレームシフト
遺伝コードは普遍的ではない
種特異的な非普遍コードを使う生物(細胞内小器官)の存在
生物種
コドン
普遍コード
実際の指定
UGA
終止(termination)
Trp
AGA, AGG
Arg
終止
AUA
Ile
Met
UGA
終止
Trp
AGA
Arg
Ser
AUA
Ile
Met
UGA
終止
Trp
CUN
Leu
Thr
AUA
Ile
Met
数種の原生生物
UAA, UAG
終止
Gln
カンジダ(真菌)
CUG
Leu
Ser
AGA
Arg
終止
AUA
Ile
終止
ユープロテス属
UGA
終止
Cys
マイコプラズマ属
UGA
終止
Trp
CGG
Arg
終止
ミトコンドリア
ほ乳類
ショウジョウバエ
Yeast
核
真正細菌
ミクロコッカス属
表3.2 非普遍コードの例(種特異的な変化)
遺伝コードは普遍的ではない
種特異的な非普遍コードを使う生物(細胞内小器官)の存在
Trends Biochem Sci. 1999 Jun;24(6):241-7
遺伝コードは普遍的ではない
種特異的な非普遍コードを使う生物(細胞内小器官)の存在
Nonsence(unassigned)とstopは(本当は)違う!
普遍コード〜種特異的コードへの変化
1. 非常に小さなゲノムでのtRNA遺伝子数の節約
2. nonsenceを経由したコドン変化(codon capture theory)
3. nonsence を経由せず、曖昧なcodonを経由した?
CUGコドンがLeu, Serどちらもコードする中間段階の存在
遺伝コードは普遍的ではない
配列依存的コドン再指定
コンテキスト(周辺のmRNA構造)に依存して、終止コドンが21番目、
22番目のアミノ酸に読み替えられる。
UGA 終止 → selenocysteine
UAG 終止 → pyrrolysine