2015年8月4日(福田俊介)(5.3MB)

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JAMA. 2015 Feb 3;313(5):471-82.
外傷における輸血比の検討
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
福田 俊輔
救命救急センター
日本とアメリカの輸血単位の違い
日本
アメリカ
全血
200ml
450ml
RCC
150ml
250ml
FFP
80ml
200~250ml
Plt
20ml
40~50ml
日本の採血法:200mlの場合
1)200ml採血にACD30ml追加して遠心後、
血漿・血小板・白血球除去しHt90%とする
2)次にMAP液を46ml追加し最終的に送料
140ml、Ht60%となる
小児麻酔マニュアル 改訂第5版 p.126より
• FFP:RCC:Plt
米国での1:1:1
=日本では3:2:2
西部病院の血液製剤のSTOCKは?
A型:10-12U B型:4-6U O型:8-10U
AB型:2U
赤血球濃厚液のパッケージ
新鮮凍結血漿のパッケージ
凍結バッグ自動解凍器
輸血製剤の取り扱い
赤血球濃厚液(RCC)
容量:LR-2は献血血液400ml由来。濃縮後、280mlに。
保存:2-6℃で採血後21日間が有効期限。
投与速度:開始から15min→1ml/min
副作用の有無確認後5ml/min。
新鮮凍結血漿(FFP)
容量:献血血液400ml由来。濃縮後、240mlに。
保存:-20℃で採血後1年間が有効期限
方法:溶かすのに20分程度かかるので緊急輸血に不向き。
輸血製剤の取り扱い
照射濃厚血小板
容量:1単位(20ml)
保存:20-24℃で振盪保存。採血後4日が有効期限。
容量:1回の輸血で10単位の使用が標準的。
評価
RCC2単位によって改善されるHb値は
予想上昇Hb値=投与Hb量(g)÷循環血液量(dl)
中のHb量:26.5×2=53(g)
体重50㎏の成人:循環血液量35dl
と考えると、約1.5g/dlの増加が見込まれる。
(応用):投与単位数=ΔHb÷0.75(50㎏の場合)
血液製剤のCOST
• 照射赤血球MAP 日赤 2単位:1万6338円
• 新鮮凍結血漿 日赤2単位:2万2961円
• 照射濃厚血小板 20単位:15万3610円
• 赤十字 アルブミン25%:7400円
序
論
 アメリカで外傷は1歳から44歳までの死因の第一位
 外傷死の約20~40%は体幹部損傷による大量出血に関連
 迅速な出血コントロール+蘇生手段で防ぎ得る
Ann Surg. 2015 Mar;261(3);586-90
 Damage control resuscitation
 輸血を1:1:1の割合で早期投与
 凝固異常の予防と補正
 晶質液使用の最小化
迅速に出血をコントロール
J Trauma. 2007;62(2): 307-310
Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2013; 2013:656-659
Army Institute of Surgical Research. Joint Theater Trauma System Clinical Practice Guideline
 Damage control resuscitationの歴史
 US department of Defense clinical guideline(2004)
 戦場の標準治療・一般外傷センターも使用
 古典的な輸血手段と比較し優れた成績
US Army Institute of Surgical Research. Joint Theater Trauma System Clinical Practice Guideline
J Trauma. 2007;63(4): 805-813. Transfusion. 2010;50(2):493-500. Ann Surg. 2011;254(4):598-605.
JAMA Surg. 2013;148(2):127-136. Transfusion. 2013;53(12):3088-3099. JAMA Surg. 2014;149(9):904-912.
序
論2
 血漿成分を含む大量輸血製剤の安全性への懸念は過去の研究で
解決できず
Ann Surg. 2008;248(4):578-584. Arch Surg. 2010;145(10):973-977.
 生存をprimary end pointにした輸血の外傷蘇生に関する大規模複
数施設ランダム化臨床試験はなかった。
 複数の相反する推奨が存在
Anesthesiology. 2006;105(1):198-208. the panel.
Crit Care. 2011;15(6):242. 17.
American Society of Anesthesiologists. Standards, guidelines, statements and other documents.
Crit Care. 2013;17(2):R76.
 The Prospective Observational Multicenter Major Trauma
Transfusion(PROMMTT) study
 早期血漿輸血(病着数分以内)が病着6時間後生存率を向上
JAMA Surg. 2013;148(2):127-136.
J Trauma Acute Care Surg. 2013;75(1)(suppl 1):S24-S30.
目
的
本研究 The Pragmatic, Randomized Optimal
Platelet and Plasma Ratios(PROPPR)において、大
量輸血が予想される外傷患者への1:1:1輸血
と1:1:2輸血の効果と安全性を比較する。
方 法
study design&Intervention
 Pragmatic, phase 3, multisite, randomized trial
 症例は各施設でランダム化
 Blood bankから10分以内に輸血コンテナを輸送
 コンテナは割り当てまで盲検のため密閉
 患者は密閉が開けられたときに割付けられる
 輸血製剤は適切な割合を維持するため指定された順番に投与
方 法
study design&Intervention2
 1:1:1輸血のコンテナ
 6U 血漿、1 dose血小板(平均して6Uに相当)、6U赤血球
 順番:血小板→赤血球と血漿を交互
 1:1:2輸血のコンテナ
 最初のコンテナ:3U 血漿、0 dose血小板、6U赤血球
 順番:2U赤血球と1U血漿を交互
 次のコンテナ:3U血漿、1 dose血小板、6U赤血球
 順番:血小板→2U赤血球と1U血漿を交互
※IVラインが複数ある:同時に輸血可
方 法
study design&Intervention3
 輸血の中止基準
 止血を達成
 死亡
 治療無効の宣言
 ランダム化後に追加の輸血が不要
 プロトコル違反
 他の蘇生・薬物・臨床治療はコントロールされていない
方
法
Study Population
 対象症例
 重度の損傷+最も高度なtrauma activationの基準に合致
 各施設のTrauma activationの基準:HR、BP、RR、受傷機転
→患者到着前に外傷チームの招集を確保する
 重度の出血患者を迅速に同定
→inclusion criteriaは以下の要素を含有
 病着前or病着1時間以内に1U以上の輸血が施行
 Assessment of Blood Consumption Scoreが2点以上
 大量輸血(24h以内に10U以上のRBC)が必要との臨床医判断
方
法
Outcome
 Primary Outcome
死亡率のabsolute percentage difference(24時間後と30日後)
 Secondary outcome
① 止血までの時間
② ランダム化から止血までの輸血の数と種類
③ 病着24時間後までに止血後使われた輸血の数と種類
④ 23の合併症
⑤ 30日以内or退院までの無入院・無挿管・無ICU日数
⑥ 大手術の発生率
⑦退院時 or 30日後における機能状態
方 法
other variables of interest
 人種とヒスパニック民族は患者申告or病院スタッフの
判断
 Injury Severity Score
多発外傷患者に用い、死亡率と相関
0(無傷)~75(通常救命不可能な損傷)
 The critical administration threshold
出血による死亡の高リスク外傷群を示す
方 法
other variables of interest2
 The Assessment of Blood Consumption score
0~4点。2点以上で大量輸血と関連
 手術部における解剖学的止血
外科医による客観的評価であり、術野の出血はコ
ントロールされ、さらなる止血処置が不要
IVRでは、塞栓術後のcontrast blushの解消
方
法
Sample Size
 初期のサンプルサイズ:580症例
臨床的に優位な差として以下を設定
24時間死亡率で10%の差(11% VS 21%)
30日死亡率で12%の差(23% VS 35%)
 実際の数は680症例に増加
24時間死亡率で10%の差、30日死亡率で12%の差
それぞれ95%、92%の検出力で検出
両側4.4%の有意水準
対象症例の選出
 2012年8月~2013年12月、12施設
 14313症例の高度 trauma activation
78%がスクリーニング
 680症例がランダム化(338:1:1:1群、342:1:1:2群)
 669症例にランダム化された輸血が投与
 除外基準の主な内容(10505症例)
 7027症例 : 病着後1時間以内or病着前に1U以上の輸血なし
 1655症例 : 外傷現場からの直接搬送ではない
 882症例 : 大量輸血が必要と予想されなかった
 277症例:年齢<15y(or 体重<50kg)
両群間の比較
2群のBaseline characteristicsに
差はなし
24時間後及び30日後死亡率では有意差は検出できなかった
K-M曲線
死亡率に有意差なし(unadjusted logrank test, P=0.21)
24時間以内の出血死は1:1:1群で少ない
30日までの累計では死亡率は同等
1:1:1群でより多く解剖学的止血に到達
(86.1% VS 78.1%, P=,006)
介入中
血漿とRBCの比の中央値:1:1:1群 1.0 1:1:2群 0.5
血小板とRBCの比の中央値:1:1:1群 1.5 1:1:2群 0.4
介入後
1:1:2群においてRBCに対する血漿と血小板比が高値
病着前で同等の輸血:中央値 2U
介入期間の輸血量:中央値 16U(1:1:1) VS 15U(1:1:2)
介入後期間で1:1:1群はより少ない輸血(中央値 1U VS 2U)
24時間以内の輸血累積量:中央値 25.5U(1:1:1) VS 19U(1:1:2)
RBC投与量は同等(9U)
血漿(中央値 7U VS 5U)、血小板(中央値 12U VS 6U)で差あり
30日後の23の合併症で有意差なし
考
察 1
 重症外傷・大量出血患者への輸血
 ここ10年で輸血療法は大きな変革
より少ない晶質液+バランスのとれた早期輸血
→輸血量の減少、炎症性合併症の減少、生存率の向上
 The PROPPR trial
 死亡率をPrimary end pointにし、輸血投与比を比較した初の多
施設ランダム化試験
 大量輸血が予想される680症例に1:1:1 or 1:1:2の輸血を行い、
24時間と30日における死亡率に有意差なし
 1:1:1群でより多くの患者が止血を達成し、出血死を減らし、安
全性が保たれた
考
察 2
 PROMMTTの結果より
 早期のより多い血漿・血小板輸血(規定の輸血比ではない)
→6時間後生存率向上
 PROPPR trial:一定の割合で早期輸血の効果を評価
→急速な出血患者への早期(病着数分以内)の1:1:1輸血を支持
 1:1:1輸血の合併症
 炎症性合併症の懸念 (例:ARDS、MOF、感染、VTE、敗血症)
→2群に有意差なし
 本研究では近年の他の研究よりMOF(5%)、ARDS(14%)発生率は低値
→早期の輸血搬入(中央値:8分)
24時間以内の晶質液使用の制限に起因(中央値:6.3-6.6L)
 1:1:1の輸血を用いた数分以内の早期輸血
→止血達成の数↑、合併症増加なく、24時間以内の出血関連死減少
考
察 3
 検査結果に基づく輸血の影響
介入後に検査結果に則った標準治療あり
1:1:2群で検査結果に基づき血漿と血小板の補正
→1:1:1群の輸血累積比に接近
介入後の補正が、24時間後と30日後の死亡率や補助
outcomeの有意差を検出するのを妨げたかも。
考
察 4
 最も初期の出血死は2-3時間以内に生じる。
出血死までの時間(中央値)
PROMMTT:2.3時間
PROPPR:2.3時間
 FDPは phase 3 prothrombin complex concentrate trialの止血の
end pointを4時間以内へ変更。
外傷出血に関する介入研究が3時間でのend pointを含むという
近年のFDAの推奨を支持
考
察 5
 本研究でFDAは出血死のPrimary end pointとして
24時間後、30日後のみ承認
しかし、出血に関連するほとんどのoutcomeは早期に
起こった。(ランダム化の2-3時間以内)
そのため、2群間で死亡率が近似
24時間後と30日後での影響が減少
過去のランダム化蘇生研究と一貫性
考
察 6
 本研究の強み
 過去の研究のlimitationに対応
ランダム割付なし、出血が落ち着いてからの登録
生存バイアス・選択バイアス、小さいサンプル数
 インフォームドコンセントから例外的な条件
重症出血患者は即座に登録
10分以内に輸血が入手可能
 重度出血・重度外傷・ショック患者を迅速に登録
(中央値が19Uを越える輸血)
 24時間フォローアップは完全に遂行。
30日フォローアップでは4症例のみ失われた
考
察:Limitation ①
 検出力の問題
 24時間後で10%の差を95%の検出力で検出
30日後で12%の差を92%の検出力で検出するサンプル数設定。
 比較群(1:1:2)で観察された死亡率は予想よりも低値
1:1:1群で観察された死亡率は予想と同様
→1:1:1群の24時間後死亡率(12.4%)で4.2%の差を90%の検出力で
検出するには2968症例が必要
考
察:Limitation ②
 血漿と血小板輸血の効果を独立して評価できない
 少なくとも1U~3Uの輸血がランダム化前に投与
 初期輸血としてランダム化した輸血製剤を使えず
 臨床医はコンテナの開封後に盲検されない
→患者ケアを変えざるを得ない
考
察:Limitation ③
 生存不可能な脳損傷の患者を除外不可能
24時間後死亡:23%、30日後死亡:38%→外傷性脳損傷と関連
 確定診断がなされる前に迅速な登録
→出血と外傷性脳損傷での死亡が競合する問題
 1:1:1群で出血死の低い割合+安全性に有意差なし
臨床医は1:1:1比の輸血プロトコルを考慮して初期輸血開始
安定後に検査結果を元にした輸血すべき
結
語
 重症外傷及び大量出血患者において、血漿・血小板・
赤血球を1:1:1比で早期に投与することは1:1:2比に比
べ、24時間&30日の死亡率に有意差を認めなかった
 しかし、1:1:1群においてより止血を達成した患者が多
く、24時間での出血による死亡が少なかった。1:1:1群
で血漿・血小板の輸血は増えていたが、2群間で安全
性に有意差は認めなかった
今後の方針
 本研究の今までの背景
 早期の血漿輸血がoutcome向上に繫がる質の高い研究がなかった
 血漿・血小板輸血はARDSなどの有害事象との関連が報告
→ 血漿・血小板リッチな輸血戦略(1:1:1輸血群)を質の高い研究
で後押しし、合併症の懸念に対しても対応することが目的
 結果 : 1:1:1群 VS 1:1:2群
Primary outcomeで有意差はなかったものの、1:1:1群で24時間出血
死亡率と止血達成率の有意な効果を示した。
→ 輸血戦略において重要である、止血効果や早期の出血死予防に
有効性を示しており、過去の研究とも矛盾しない
 現時点での本研究を踏まえた戦略
大量輸血や高度の外傷が想定される患者では、現時点では1:1:1輸
血(日本ではFFP:Plt:RCC=3:2:2)を意識した早期の輸血を行い、状
態が安定後には検査値に準じた輸血戦略に切り替える