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○先週の授業の補足(1):
自社株買いの理由:
自社株買いは買収防衛策か?
• 自社株買いで取得した株式(自己株式)の処理方法
• 消却処分、合併・株式交換に伴う移転、再発行
• 2011年:自社株買い:1兆6559億円、消却処分:1兆3601億
円、合併・株式交換に伴う移転:3413億円、再発行:793億円
• 金庫株:会社が買い取ってまだ処理せず、保有している自社株
• 金庫株には、株主総会での議決権はない。
• 自社株買いをやって会社の株式時価総額を減少させ
るのは、逆に買収をやりやすくする。
1
• 自社株買いで浮動株を減少させ、安定株主の保有
比率を高める
• →買収をやりにくくする
• しかし、こうした効果には限界があることから、買収
防衛策として自社株買いをやっている例はほとんど
ないと考えられる。
• 米国:高値での買収は株主に歓迎される。
– 買収の動きがあった時の経営者の役割:買収価格を引き
上げること
– 買収防衛策として自社株買いが行われることは考えられ
ない。
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・先週の授業の補足(2):
米国金融の資金調達方法:非金融法人企業
米国の企業は株式市場から資金を調達していない。
では、どこから資金を調達しているのか?
2000-06年
平均
2007
2008
2009
2010
2011
内部資金
8175億ドル
9454
9613
9889
12051
12898
株式
-1789
-7868
-3360
-646
-2800
-4727
社債
1652
3111
2055
3876
4228
3846
CP:コマーシャ
ル・ペーパー
-143
113
77
-731
245
334
金融機関借入
999
4471
684
-4814
-2061
1054
・
・
3
③株価のシグナル機能
• 株式市場の機能:
–
– 株価:数多くの投資家の意見を集約(公正)。現在
の株価が割高と考える投資家は売り、割安と考え
る投資家は買い、そうした意見を集約して株価が
決定されている(適正)。
• 投資家に対する情報提供
– 投資判断上重要な情報を投資家に提供
4
• 企業に対する情報提供
– 投資・事業計画、経営戦略、現行の経営陣の質に
対する市場の判断を示す
– この企業の事業リスクに対する市場の判断(資本
コスト)→投資・事業計画の基礎的判断材料
• 資本コスト:株主価値を引き上げるために必要最低限の
事業投資(の期待)収益率:金利r+リスクプレミアムδ
• 事業リスクの大きい(小さい)企業は、資本コストが大き
い(小さい)
• cf. 渡辺茂『しっかりわかるファイナンス』中央経済社、第2,3章、
• 井出・高橋『ビジネス・ゼミナール経営財務入門』日本経済新聞社、
第6章
5
④企業支配権の移転を促進
• 株式市場で株を買い集めることで、企業の支
配権を獲得する(or影響を及ぼす)ことができ
る。
• 株式交換制度を利用することによって企業
の買収・合併が容易になる
– 株式交換:
• 国有企業の民営化
– 国有企業の支配権を株式市場を通じて民間に
移転
6
・株式交換の例
• ソフトバンクの株式交換によるイー・アクセス
買収(完全子会社化)2012年10月1日
– 買収の狙い:イー・アクセスが割り当てを受けた
1.7ギガ・700メガヘルツ帯の電波をソフトバンクも
利用可能にする
– 株式交換比率:イー・アクセス1株に対してソフト
バンク株16.74株
– 交換比率の理由
• イー・アクセス株1株の評価52,000円、ソフトバンク株1
株の評価3108円(過去3カ月の株価の平均値)
• 直近(9月28日)のイー・アクセスの株価は15,070円
• 株式交換における評価額は直近株価の3.45倍
7
・イー・アクセス株価の推移
10月1日
SBI証券
8
・ソフトバンク株価の推移
10月1日
SBI証券
9
・交換比率に関する財務アドバイザーの分析
・ソフトバンク側財務アドバイザー:みずほ証券
採用手法
株式交換比率の算定結果
市場株価基準法
4.72~5.27
類似企業比較法
2.57~6.65
DCF法
15.55~22.71
・Discounted Cash Flow法:将来のキャシュ・フローを現在価値にして総和し
たもの。配当割引モデルもDCF法を使っている。
ここでは、企業の将来のフリーキャシュ・フローから株主価値を求めている。
・イー・アクセス側財務アドバイザー:ゴールドマンサックス証券
手法
株式交換比率の算定レンジ
市場株価分析
3.92~7.07
類似会社比較法
0.22~16.87
DCF法(永久成長法)
6.42~15.60
DCF法(マルチプル法)
7.10~18.01
10
– 財務アドバイザーの分析では、無理して将来収益
をかさ上げしたDCF法で株式交換比率を正当化し
ている。
• ソフトバンクがどんな値段であってもイー・アクセスを買
収したかったから
• 今後のスケジュール
– 2013年1月:イー・アクセスの株主総会(本件の承
認)
– 2月:イー・アクセス株の上場廃止(東京証券取引
所)
11
• 株式交換は、子会社を完全子会社化するのに使われ
るというケースが多い
– トヨタ自動車によるトヨタ車体の完全子会社化2012年1月
• トヨタは以前から、トヨタ車体株の56.23%を保有
• 株式交換比率:トヨタ車体株0.45株に対しトヨタ株1株
• トヨタ車体は証券取引所(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌)に上場
しているが、株式交換により上場廃止
– パナソニックによる三洋電機の完全子会社化2011年4月
• パナソニックは、2010年10月のTOB(株式公開買い付け)により三洋
電機株の80.77%を保有
• 株式交換比率:三洋電機株1株に対しパナソニック株0.115株
• 三洋電機は株式交換により上場廃止
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⑤コーポレート・ガバナンス機能
• 株価は、企業の投資計画、経営戦略、現行の経営陣
の質に対する投資家の判断を示す
– Cf. 前期の「証券経済論」第1章金融仲介、金融システムの
比較(市場型と相対型)、④コーポレート・ガバナンス機能
– 本章第2節株式の流通市場、外国人の日本株投資
• 企業が買収される危険性
– 株価低迷は買収される危険性を高める→経営陣に対する
株式市場からの強い圧力
• 特にPBR(株価純資産倍率)が1以下といった企業は買収の対象に
なりやすい
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⑥資本の集中とリスクの分担
• 株式会社制度
– 株式の発行を通じて幅広く事業に必要な資本を集中、
事業リスクを多くの株主間で分担
• 多くの投資家から資本を提供(リスクを負担)しても
らうには、流動性のある株式市場②が必要
14
○リスク分担の促進の例:
• IPOにおける企業家保有株の売出し
– 売出し:大株主が保有する既発行株を不特定多数の
投資家に売却し、取得させること
– 新規株式公開IPO時の売出し株と新規株式発行額:新
規株式発行よりも売出の金額が大きい
2004年
05
06
07
08
09
10
11
12年上半期
新規公
開株式
発行
4200億
円
4000
億円
5950
1465
432
339
2068
1285
173
売出し
1兆円
5100
億円
9260
1460
936
234
1兆1130
億円
375
6740
・日本証券
業協会
「増資等の状況」
・国有企業の民営化
国有企業株の売り出し:多くの株主に事業リスクを分担してもらう
NTT、JR、JT、郵政
15
• リスク負担の裏側:ハイリターンの投資対
象を投資家に提供する(という株式市場の
役割)
• では、幅広いリスク分担がそれ程必要でな
く、株式市場からの資金調達の必要性も
低い企業にとって、株式の上場・公開は必
要か?
– 同族等ですべての株式の保有・リスク負担が
できる企業
– そうした企業にとって、株式の上場・公開の必
要性は低い
– →株式の非上場化・非公開化の動き
16
・株式の非公開化・非上場化
・MBOによる非上場化の推移
• 上場企業が上場を止め、株
式を非公開にすること
• MBO( Management Buyout)
– 所有と経営の一致
– リスクは経営陣・ファンドに集中
• 事例
–
–
–
–
2005年:ワールド
2006年:すかいらーく
2010年:吉本興業
2011年:カルチュア・コンビニエ
ンス・クラブ
『MARR』2011年7月号
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• 非公開化・非上場化の理由・促進要因
– 上場維持コストが負担
• 会計監査費用、証券取引所への上場料等
– 株式市場からの資金調達の必要性が低い
– 株式市場からの経営への干渉を避ける
• 株主からの経営への干渉を避けて、抜本的経営改革をやる
– 買収ファンドと組んで、経営改革後の再上場を目指す
– e.g.すかいらーく
• 買収の危険性を避ける
• 同族会社的経営に戻る
– MBOのための資金調達が容易
• 金余りの中で銀行が積極的にMBOローンを提供
• 非公開化・非上場化により外部からの経営への
チェックは働きにくくなる
• 多くの株主による幅広いリスク分担が必要でない企
業にとって、株式公開の必要性は低い
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• 大規模な企業で多くの株主によって幅広くリスク
が分担されている企業では、特定の株主がすべ
ての株式を取得し、すべてのリスクを集中して負
担することは不可能。
• →現代の大規模な企業の存続のためには、株式
市場の存在を前提とした、幅広いリスク分担が
必要
– 幅広い投資家による事業のリスク分担
– →所有と経営の分離
– →企業への出資者である株主の利益を実現
するよう、本当に企業が管理・運営されるの
か?
– →コーポレート・ガバナンスの問題
19
○第1章参考文献
• 二上・代田編『証券市場論』有斐閣ブックス
• 井出正介・高橋文郎『ビジネスゼミナール
経営財務入門』日本経済新聞社、第4章
• 日本証券経済研究所『図説:日本の証券
市場2010年版 』日本証券経済研究所
• 日本証券経済研究所『図説:アメリカの証
券市場2009年版』日本証券経済研究所
• 「MBOを活用した経営戦略」『MARR』 July
2011
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