第6章.株式市場と株価

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○企業が成長し、1株当り配当も毎年増大(成長率g)する
ケース
D1= D, D2 = D(1+g), D3= D(1+g)2, ‥‥
では、株価Pを表す式⑥はどう変わるか?
・株価P=D/(1+r+δ)+ D(1+g)/(1+r+δ)2
+D (1+g)2/(1+r+δ)3+‥‥
:⑦式
等比数列の無限和(無限等比級数):
公比 (1+g)/(1+r+δ) 初項 D/(1+r+δ)
P=初項/(1-公比) if |公比|<1
・株価P=
D /( 1  r   )
1
1 g
=D/(r+δ-g)
:⑧式
1 r  
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• 株価の決定要因:配当、配当増大率(企業
成長率)、金利、リスクプレミアム
• 例えば、配当D=50円、金利3%(r=0.03)、リ
スクプレミアム2%(δ=0.02)、企業成長率
2.5%(g=0.025)なら、
• 株価P=50/0.025=2000円
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(5)株式市場の役割
①資金調達の場
• ベンチャー企業は、株式市場を通じて活発
に資金を調達
• 成熟企業は、余り株式市場を通じて資金を
調達していない。
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IPO: Initial Public Offering株式新規公開
日本証券経済研究所『アメリカの証券市場』p.65
・2004年の株式発行額1700億ドル/株式発行残高17兆ドル=1%
4
M. Kohn Financial Institutions and Markets p.310
・株式による資金調達: 2004年1411億ドルのマイナス
2005年3660億ドルのマイナス
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• アメリカでは
• 株式による資金調達
• =
•
– ②の内容:自社株買い、現金によるM&A
• アメリカの企業全体を見ると、①より②が大きい
• アメリカの企業全体では、株式市場は資金調達上、
重要な役割を果たしていない。
• では、株式市場はどういう役割を果たしているのか?
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• 日本でも、株式による資金調達は大きくない。
• 株式の新規発行による資金調達
– 2004年:3.6兆円(内IPO:4200億円)
– 2005年:3.8兆円(内IPO:4000億円)
• 自社株買い
– 2004年: 2.6兆円
– 2005年: 3.3兆円
• 株式による(差し引きの)資金調達
– 2004年: 1兆円
– 2005年: 5000億円
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②株式に対する流動性の付与
• 株式市場(取引所)の存在により、株式の現金化が
容易になっている
• 株式市場(取引所)が存在しなければ、一旦取得し
た株式を売却・現金化することは非常に困難
⇒
いつでも売買できる機会を提供している。
・
・ネット証券会社もコストの面で株式の流動性を高めている。
・資産の特性:リターン、リスク、流動性
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③株価のシグナル機能
• 株式市場(取引所)の機能:
–
• cf.前期講義第2章「情報生産」
– 株価:数多くの投資家の意見を集約(公正)。現在
の株価が割高と考える投資家は売り、割安と考え
る投資家は買い、そうした意見を集約して株価が
決定されている(適正)。
• 投資家に対する情報提供
– 投資判断上重要な情報を投資家に提供
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• 企業に対する情報提供
– 投資・事業計画、経営戦略、現行の経営陣の質に
対する市場の判断を示す
– この企業の事業リスクに対する市場の判断(資本
コスト)→投資・事業計画の基礎的判断材料
• 資本コスト:株主価値を引き上げるために必要最低限の
事業投資(の期待)収益率
• 事業リスクの大きい(小さい)企業は、資本コストが大き
い(小さい)
• cf. 福光・高橋『ベーシック証券市場入門』第6章、
• 井出・高橋『ビジネス・ゼミナール経営財務入門』第6章
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④企業支配権の移転を促進
• 株式市場で株を買い集めることで、企業の支配権を
獲得する(or影響を及ぼす)ことができる。
– TOB(株式公開買付)、村上ファンド
• 株式交換制度を利用することによって企業の買収・
合併が容易になる
– 株式交換:
• 国有企業の民営化
– 国有企業の支配権を株式市場を通じて民間に移転
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⑤コーポレート・ガバナンス機能
• 株価は、企業の投資計画、経営戦略、現行
の経営陣の質に対する投資家の判断を示す
• 企業が買収される危険性
– 株価低迷は買収される危険性を高める→経営陣
に対する株式市場からの強い圧力
• 特にPBR(株価純資産倍率)が1以下といった企業は買
収の対象になりやすい
– 株式の非公開化:ワールド
• 株式市場からの資金調達の必要性が低い企業、株式
市場からの経営に対する圧力・関与を避ける、企業買
収の危険性を避ける
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○日航の増資と株価急落
• 日航の増資の経緯
– 06年6月28日:株主総会、赤
字・無配、西松氏社長就任
– 6月30日:7億株の増資発表
(発行済株式が4割増)、株
主総会で説明なし
– 7月19日:公募価格211円に
決定(当日終値220円より
4%低い)
– 7月27日:1386億円の払い
込み完了(当初の調達予定
は2000億円)
日経06.10.13.
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• 株価急落を引き起こした要因
• ①直前の株主総会での説明なしでの、大幅増資
による株式希薄化
– 株式希薄化:株数増大による株式価値低下(1株当りの
利益や純資産の減少)
• ②事業立て直し策が不明確な中での大規模増資
– 調達資金の使途:日航は航空機購入と説明、転換社債
1000億円の償還資金として必要となる可能性もある
– 赤字(06年3月期472億円)からの脱却策、事業リストラ
策が不明確
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⑥資本の集中とリスクの分担
• cf.前期講義第3章「リスクの配分・管理」(1)「株式会社制
度と事業リスクの分担」
• 株式会社制度
– 株式の発行を通じて幅広く事業に必要な資本を集
中、事業リスクを多くの株主間で分担
• 多くの投資家から資本を提供(リスクを負担)し
てもらうには、流動性のある株式市場②が必要
•
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• リスク負担の裏側:ハイリターンの投資対象を
投資家に提供する(という株式市場の役割)
• 資本集中とリスク分担という制度の矛盾:
企業への出資者である株主の利益を実現する
よう、本当に企業が管理・運営されるのか?
→コーポレート・ガバナンスの問題
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○リスク分担の促進の例:
• IPOにおける企業家保有株の売出し
– 売出し:大株主が保有する既発行株を不特定多数の投資
家に売却し、取得させること
– 新規株式公開IPO時の売出し株と新規株式発行額
• 2004年: 1兆億円と4200億円
• 2005年: 5100億円と4000億円
– 新規株式発行よりも売出の金額が大きい
• 国有企業の民営化
– 国有企業株の売り出し:多くの株主に事業リスクを分担し
てもらう
• NTT、JR、郵政
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○第1章参考文献
• 福光・高橋編『ベーシック証券市場論』第3
章、6章、同文舘出版
• 井出正介・高橋文郎『ビジネスゼミナール
経営財務入門』日本経済新聞社、第4章
• 日本証券経済研究所『詳説:現代日本の
証券市場2006年版 』日本証券経済研究所
• 日本証券経済研究所『図説:アメリカの証
券市場2005年版』日本証券経済研究所
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