Transcript 講義資料
日本と東アジアの環境と貿易(二) アジア研究所 小山 直則 1 今日学ぶこと ●環境政策とその評価 (1) 直接規制 (2) 課税、補助金 (3) コースの定理(排出権取引) 2 第3章 環境政策の諸手段 ●環境政策の分類 (1) 法的な規制 (2) 経済的手段(課税、補 助金など) (3) コースの定理(排出権 取引など) 3 第3章 環境政策の諸手段 ●環境政策の分類 (1) 法的な規制 ①排出総量規制(emissions quota) ⇒環境汚染の排出量総量に 対して環境基準を設定す る。 ②排出基準規制(emissions standards) ⇒排出率に対して環境基準を 設定する。 *排出率=排出量/生産量 ●課税に比べて負担は軽 い? ⇒課税などの経済的手段に 比べると、環境基準を満た すための設備投資の費用 負担以外は、追加的な費 用負担が存在しない。 ⇒課税政策では排出を続ける 限り課税による費用負担が 毎年存在し続ける。 4 第3章 環境政策の諸手段 ●環境政策の分類 (2) 経済的手段(課税、補 助金など) ①排出課徴金(emission tax) ②投入税(炭素税(carbon tax)) ③生産物課徴金(生産税 (production tax) *排出課徴金:環境汚染 の排出量に対して課税 される税金。 *投入税:環境汚染の排 出の原因となるエネル ギーの利用に対して課 税される税金。 *生産物課徴金:企業の 生産物に対する課税。 5 第3章 環境政策の諸手段 ●環境政策の分類 ⇒その過不足分が市場で (3) コースの定理(排出権 取引されるのが排出権 取引など) 取引制度である。 ⇒国内企業は環境汚染を 排出する場合には、 排出量に応じた排出 権を購入しなければ ならない。 ⇒政府が国内企業に排出 権の初期保有量を与 え、 6 第3章 環境政策の諸手段 投入物→生産過程→生産物 ① ② ③ 環境汚染 生産物市場 ④ ⑤ 消費 環境汚染 7 第3章 環境政策の諸手段 ●環境政策の評価基準 (OECD) (1) 環境保護への有効性 (2) 経済的効率性 (3) 公平性 (4) 実行可能性 (5) 受容性 8 第3章 環境政策の諸手段 (1) 環境保護への有効性 ⇒このような場合、課税し ⇒経済主体の価格弾力 ても価格が上昇するだ 性や環境政策の技術 けで生産量(環境汚染) 進歩への効果の違い はあまり減少しない。 によって環境保護へ の効果が異なる。 ⇒一般的に直接規制より も課税の方が排出削減 ⇒消費者は一般的に生活 の技術革新への効果 必需品の価格が課税 が大きいといわれてい によって上昇しても需 る。 要量は大きく変化しな い(需要の価格弾力性 が小さい)。 9 第3章 環境政策の諸手段 (2) 経済的効率性 ⇒一般的に税の方が直接 規制よりも企業にとって ①費用効果性 負担が重いため、税の ⇒所与の環境汚染水準を 方が汚染削減技術を誘 最小費用で達成でき 発する可能性が高いと ること。 言われている。 ②動学的効率性 ⇒環境政策が企業に汚染 削減技術を誘発する 動機を与えること。 10 第3章 環境政策の諸手段 (3) 公平性 ①水平的公平性 ⇒同じ負担能力をもつ経 済主体は同じ税負担 であるべきであるとい う考え方。 ②垂直的公平性 ⇒より高い負担能力を持 つ経済主体はより重 い税負担をすべきで あるという考え方。 ⇒需要の価格弾力性が 低い生活必需品への 課税は消費者の支出を 増大させる。 ⇒したがって、低所得者 層への所得分配の不 公平を生じさせることに なる。 11 第3章 環境政策の諸手段 ③世代間の公平性 ⇒現在の世代は自分の 資源消費を重視し、将 来世代の資源消費を 考慮していない。 ⇒現在世代の過剰な資源 利用は将来世代が資 源から得る便益を少 なくする。 ⇒したがって、資源配分 に関する世代間の不 公平が生じる。 12 直接規制の長所と短所 ●直接規制の長所 ⇒人命や稀少生物への 影響など絶対基準に 基づく環境汚染削減 政策としては他の政 策よりも迅速かつ効 果的である。 ⇒企業にとって直接規制 の方が課税よりも負 担が小さい。 13 直接規制の長所と短所 ●直接規制の短所 ⇒各国が環境規制の緩 和競争を始まると世界 ⇒費用効果性が課税に劣 全体の環境が悪化する る。 (底辺競争:Race to ⇒動学的効率性が課税に the Bottom)。 劣る。 ⇒環境規制が強くなると 規制の緩い国に製造 業が移転する(汚染 リーケージ:Pollution Leakage)。 14 補助金の問題点 ●OECDの汚染者負担 原則 ⇒OECDは国際貿易と投 資に重大な歪みをも たらす補助金を用い てはならないと述べて いる。 ⇒なぜ補助金はだめなの か? ①汚染者負担原則に反 する。 ②企業数を過剰にしてし まう。 15 補助金の問題点 ①汚染者負担原則に反 する。 ⇒環境補助金は政府支 出を伴い、汚染企業 への利益増加につな がるため、汚染者負 担原則に反する。 ②企業数を過剰にしてし まう。 ⇒環境補助金は企業利 潤を増加させる。 ⇒したがって、短期的に 産業に超過利潤が発 生する。 ⇒超過利潤が消滅するま で産業に新規参入が続 き、汚染企業の数が増 加する。 16