Transcript 講義資料
日本と東アジアの環境と貿易(二) アジア研究所 小山 直則 1 講義計画 ●年間講義計画 ⇒http://www.geocities.jp/naonorikoyama/tku99b/tk u99b.htm ⇒講義資料は上記のweb siteから各自ダウンロードし て下さい。 ●講義方法 ⇒毎回の講義の前半は私が講義する。後半は参加者 が報告する。 ●教科書 ⇒ 2 講義計画 ●教科書 (1) 細田、横山(2007)『環境経済学』有斐閣アルマ、 第5、6、9、11、12章。 (2) 経済産業省(2010)『通商白書』第2章 (http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2010/2010h onbun_p/index.html) (3) 天野(2001)『地球温暖化の経済学』日本経済新聞 社、第1-4章。 (4) 荏開津典生(2008)『農業経済学第3版』岩波書店、 第11章 3 グローバル経済と環境 ●教科書 ⇒細田、横山(2007)『環境経済学』有斐閣アル マ、第12章。 ●第12章の内容 12.1. 開発と環境のジレンマ 12.2. 人口問題と環境保全 12.3. 貿易と環境 12.4. 公害輸出 4 12.1. 開発と環境のジレンマ ●経済が豊かになるにつ れて環境への関心が 高まるのはなぜか? ⇒環境保全(環境財への 需要)と所得には一定 の関係がある。 ⇒経済が豊かになり所得 が増えると環境財への 需要が高まるから。 *環境財: 環境の質 (Environmental Quality)を決定するよう な財・資源を環境財と いう。具体的には、自 然景観、アメニティー、 大気、水、土壌などが ある。 5 12.1. 開発と環境のジレンマ ●経済が豊かになるにつ *上級財:所得が増加(減 少)すると、需要量が増 れて環境への関心が 高まるのはなぜか? 加(減少)するような財を 上級財という。 ⇒環境財は上級財である から経済が豊かになり 所得が拡大すると環境 財への需要が拡大する。 6 12.1. 開発と環境のジレンマ ●経済が豊かになるにつ *需要の所得弾力性:所 れて環境への関心が 得が1%増加(減少)した 高まるのはなぜか? とき、需要量が何%変 (1) 環境財は上級財であ 化するかを表す指標。 るから経済が豊かにな り所得が拡大すると環 *需要の所得弾力性が 大きいとき、所得が1% 境財への需要が拡大 拡大すると財の需要量 するから。 は1%以上拡大する。 (2) 所得水準が高まるに つれて環境財の需要の 所得弾力性が大きくな るから。 7 12.1. 開発と環境のジレンマ ●経済が豊かになるにつ れて環境への関心が 高まるのはなぜか? ⇒例. 家庭浄水器 ⇒2009年7月時点で、日 本全国の浄水器普及 率は30.1%。 ⇒例. 水の豊かさランキン グ(世界水協議会(本部 フランス)) ⇒トップはフィンランドの 78.0点、最下位はハイ チの35.1点で、下位国 のほとんどが貧困国。 日本は34位で64.8点。 8 12.1. 開発と環境のジレンマ ●経済が豊かになるにつ れて環境への関心が 高まるのはなぜか? ⇒水の豊かさランキング の結果を見てわかるよ うに下位の国は途上国 であり、 ⇒所得水準が低いとき、 人間はあまり環境を考 慮しないことが多い。 ⇒衣食住の基礎的消費 が十分になった後、初 めて自然環境に対する 需要が高まる。 9 12.1. 開発と環境のジレンマ ●環境の南北問題 ⇒森林資源の破壊、大気 ⇒所得水準の高い先進国 汚染、土壌浸食や砂漠 は生命や健康に影響を 化が問題となっている。 及ぼす環境財への需 要が高く、 ⇒自然環境保全への意 識が高い。 ⇒一方、所得水準の低い 途上国は環境財よりも 経済成長が優先され、 10 発展と開発の権利 310ページ ●越境汚染問題 *越境汚染:国境を越え (Transboundary て移動する環境汚染。 Pollution) 例. 地球温暖化問題、酸 ⇒風上の国から風下の国 性雨問題、複数国を流 れる河川の汚染問題。 に硫黄酸化物や窒素 酸化物が流れる場合、 ⇒風下国に酸性雨の被害 がもたらされる。 11 発展と開発の権利 310ページ ●越境汚染問題の解決 策 (1) 汚染者負担原則 ⇒加害国が被害国の汚 染の費用を負担する。 (2) 被害国による経済援 助、排出削減技術の 移転 ●発展と開発の権利 ⇒先進国もかつては環境 を汚染しながら経済を 成長させたのだから、 ⇒途上国にも発展と開発 の権利があると考えら れる。 ⇒したがって、(1)の解決 方法は不公平なもので ある。 12 環境保全と技術発展 320ページ ●環境問題 (1) 同世代、地域間の環 境問題 例. 環境の南北問題、越 境汚染問題。 (2) 世代間の環境問題 例. 親の世代の環境汚染 は子供や孫の世代の 環境に影響を及ぼす。 例. 親の世代 環境汚染 子供、孫の世代 健康 例. 環境税 ⇒各世代が消費や環境 から得られる利益を公 平に保つためには、親 の世代への課税が必 要となる。 13 環境保全と技術発展 320ページ ●持続可能な開発 ⇒「将来の世代が自らの ニーズを充足する能力 を損なうことなく、現在 の世代のニーズを満た すような開発」を持続可 能な開発という。 例. 親の消費 10 -2の環境汚染 子供の消費 10-2=8 -2の環境汚染 孫の消費 10-2=8 ⇒現在世代の親は10の 満足度(効用)を得るが、 将来世代の子供や孫 は8の効用しか得られ ない(世代間不公平)。 14 環境保全と技術発展 320ページ 環境汚染 ●環境保全と経済発展の 関係 ⇒一人当たりのGDPが高 まるにつれて環境汚染 は拡大するが、 ⇒ある一定以上所得水準 が増えると環境汚染は 減少していく傾向があ るという仮説がある(環 境クズネッツ仮説)。 環境クズネッツ曲線 一人当たりGDP 15 環境保全と技術発展 320ページ 環境汚染 ●環境保全と経済発展の 関係 ⇒一人当たりGDPがY*に 至るまでは、環境汚染 と経済発展の間にト レードオフの関係があ る。 ⇒Y*を超えて経済が発展 すると環境財への需要 が高まり、環境汚染は 減少していく。 環境クズネッツ曲線 Y* 一人当たりGDP 16 環境保全と技術発展 320ページ ●環境規制と産業競争力 ⇒ポーター仮説 (M.Porter(1991)) ⇒適切な環境規制は費用 低減や品質向上などの 技術革新を刺激し、 ⇒これは産業の競争優位 を高め、生産性を向上 させる可能性がある。 ●例. アメリカのマスキー 法 ⇒アメリカの自動車への 排ガス規制の強化は、 日本車の低燃費車開 発の技術革新を刺激し、 ⇒欧米における日本車の 競争力を高めた。 17 環境保全と技術発展 320ページ ●環境規制と産業競争力 ⇒ポーター仮説 (M.Porter(1991)) ⇒適切な環境規制は費用 低減や品質向上などの 技術革新を刺激し、 ⇒これは産業の競争優位 を高め、生産性を向上 させる可能性がある。 ●問題. 環境規制は経済 成長を阻害するのであ ろうか? ⇒日本の環境政策の事 例 ⇒途上国の環境政策は 途上国産業の競争力を 高めるのであろうか? 18 経済成長と環境保全 322ページ 二酸化硫黄の排出量 ●環境クズネッツ曲線の 妥当性 ⇒環境汚染が二酸化硫 黄の排出量ならば、ほ とんどの先進国で環境 クズネッツ曲線が当て はまる。 ⇒二酸化窒素の場合は 必ずしも明らかではな い。 環境クズネッツ曲線 Y*=7,000~8,000ドル 一人当たりGDP 19 12.2. 人口問題と環境保全 324ページ 魚の個体数 ●人口増加と環境容量 *環境容量(Carrying 環境容量 Capacity) ⇒魚の場合、与えられた 環境の下で、生育可能 な最大の個体数を意味 する。 ⇒環境の質(大気)の場合、 これ以上綺麗にならな い最大の質を意味する。 S字曲線 時間 20 12.2. 人口問題と環境保全 324ページ 魚の個体数 ●人口増加と環境容量 ⇒魚の個体数の時間を通 環境容量 じた変化は、S字曲線 のように推移していくと 考えられている。 ⇒①個体数が少ないとき は、増殖の速度が遅い ためゆっくり成長する。 S字曲線 ① 時間 21 12.2. 人口問題と環境保全 324ページ 魚の個体数 ●人口増加と環境容量 ⇒②個体数が増えると増 環境容量 殖が進み、餌の獲得に 混雑が生じない段階で は速く成長する。 ⇒③しかし、個体数があ る一定水準に達すると 混雑効果によって個体 数の増加の速度が遅く なる。 S字曲線 ③ ② 時間 22 12.2. 人口問題と環境保全 324ページ 世界人口 ●人口問題 ⇒魚の個体数は環境の 制約(Environmental Constraint)によって最 大の個体数以上には 増えない傾向がある。 ⇒しかし、人間は環境の 制約を技術的に取り除 いてきたため、世界人 口の拡大速度は上昇し 続けている。 時間 23 12.2. 人口問題と環境保全 324ページ 世界人口 ●人口問題 ⇒しかし、人間は環境の 制約を技術的に取り除 いてきたため、世界人 口の拡大速度は上昇し 続けている。 ⇒人間が環境を改変する ことが地球環境問題を 深刻化させている。 時間 24