肺生理の基礎

Download Report

Transcript 肺生理の基礎

肺生理の基礎

肺ガス交換と血液の酸素運搬 諏訪邦夫[email protected]

1999

年臨床呼吸機能講習会

肺生理の基礎:アウトライン • ガスの分圧について • ガス交換能について – 換気と血液酸素化の条件 • 血液と酸素:酸素解離曲線の解釈 – – 酸素解離曲線の基礎 酸素解離曲線の移 • ガス分析データの見方 – 少しだけ(よくご存知と思うので)

ガスの「分圧」を少し説明

• 空気中には酸素,窒素,二酸化炭素,水蒸 気 • 水蒸気は状況で変化、体内では体温で 飽和 47mmHg • • 気道のガスは他の三者で713mmHg ガス相で濃度と分圧は比例(ドルトン の法則) 濃度 20.93

分圧 149 酸素 窒素 79.04

564 二酸化炭素 0.03

0.2(≒0)

血液の「ガス分圧」とは

血液にガスを流す しばらく経過すると、流す ガスと血液とが平衡に達 する (両者間にガスの受渡しな し) 「平衡」が「血液のガス分 圧」 0.03

酸素 窒素 濃度20.93

分圧149 79.04

564 CO 2 0.2

肺生理の基礎:ガス交換能 • ガス交換能について – – – – 肺が「良好に機能する」には 「換気血流比:VA/Qc」の概念 これが「一様」か「ばらばら」か どういう病気や状態で? • 血液と酸素:酸素解離曲線の解釈 • ガス分析データの見方

肺胞モデルの2種: 導管風船モデルとラッパモデルを使い分け る

健康な肺はVA/Qcが大変に良好

上腹部手術のFio 2 とPao 2

麻酔+人工呼吸でVA/Qc悪化

肺生理の基礎:酸素解離曲線 • 血液と酸素:酸素解離曲線の解釈 – 酸素解離曲線の基礎 » ヘモグロビンと酸素の反応 » 正常値とS字の意味 – 酸素解離曲線の移動 » 移動の因子 » 移動の意味 • ガス分析データの見方

ヘモグロビン1分子に酸素4 分子 • 酸素がヘモグロビン分子に一つずつ入 る • Hb • HbO 2 • HbO 4 + + + O O 2 O 2 2 ⇔ HbO ⇔ HbO ⇔ HbO 6 4 2 • HbO 6 + O 2 ⇔ HbO 8 • 各段階に質量作用法則が成立:アデア 理論

酸素解離曲線を覚える(必要な し) Po 2 So 2 10 13 はじめは奇数を並べる 20 35 1,3→3,5→5,7という具合 に 30 57 40 75 5と7とを入れ替える.これは 覚える 50 83 ここから漸減する偶数を加 える +8 60 89 + 6 70 93 + 4 80 95 + 2 90 97 + 2 もう1度 2を加える 100 98 + 1 最後は 1を加える

酸素解離曲線のS字型の意味 • 化学反応としての意義 • 簡単な数式表現:ヒルの式 • 生理学的な意義 • S字でない人は不調

酸素解離曲線の数式表現 • ヒルのモデル:簡単で扱いやすい 化学反応一般に使う 酸素飽和度=kPo 2 ^ n/(1+kP o 2 ^n) nはべき乗で2.7(S字度)、k は 1/(P50)^(2.7) P 50 は27.0

• アデア理論:酸素解離曲線への適合良 好

化学反応としてのS字型の 意義

• ヘモグロビンに酸素分子が結合する際 • • 互いが独立ではない 最初の1個の結合が、以後3つの結合に影 響 – 1個目は入りにくいが、2個目以降は入りやす い

S字の生理学的な意義(1) • 肺胞レベルで飽和度が高い:大量に取 り込む • 静脈レベルで飽和度が低い:大量に渡 す • 特に、臓器の活動が活発な時に有用度 大 • 安静時での意義は高くないが 活動時や血流が障害された状況で有用

S字の生理学的な意義(2) • 安静時の混合静脈血は(40, 75) • 血流が全身に運んだ酸素の1/4だけ 利用 • ところが、激しい活動では • 酸素消費量が10倍に増すのに、心拍出 量は5倍に増えるだけ • その代わり混合静脈血は(30,50) – 酸素解離曲線は右方移動(体温↑とpH下 降)

曲線がS字でない人の体調 • 左方移動でS字の弯 曲も小さい例 – 肺で酸素をとりやす いが、末梢で放ちに くい – ふつうの生活には支 障はない – – 運動能力が劣る 過労に弱い

酸素解離曲線の移動と因子

酸素解離曲線移動の生理

• 酸素は右方移動で放出しやすく左方移 動で放出しにくくなる • 右方移動はいろいろに利用 – 運動(高温・pH低下),貧血・チアノーゼ (2,3DPG) • 左方移動利用の例は胎児 – 妊娠末期には母体の酸素解離曲線は右方移 動 – 胎児の血液の酸素解離曲線は左方 (P50=20)

ボーアの研究の意義

• • • • • • 気球の流行 高空での死亡事故 「高空では酸素不足 になるらしい」と判 明 ところが – 当時の酸素解離曲線 は極端に左より (Pco2 をコント ロールせず) 二つの事実が矛盾 ボーアが解決

2,3DPG:物質と役割 • 生成経路:糖→乳酸で産生(赤血球だ け) • 赤血球中に多い(ヘモグロビンと同じ モル数) • 反応:ヘモグロビンと結合して「右方 移動」 • 2,3DPG正常ならP 50 =27, ゼロでは P 50 =18 • 生理:酸素供給がきわどい時に増加す る

異常ヘモグロビンの問題

• 異常ヘモグロビンにはいろいろあるが • 左方移動でS字の弯曲も小さい例 – – – 肺で酸素をとりにくく、末梢で放ちにくい ふつうの生活には支障はないが 運動能力が正常より劣る • 一酸化炭素中毒もこれに似た状況

喫煙と一酸化炭素のこと • 1.

2.

3.

COHbがあると その分だけ酸素含 量が減少する 酸素解離曲線の左 方移動 二つの因子で、運 動能力低下

禁煙と減煙

• 20本/日でCOHb – は約5%:十分悪い! 10年の加齢に匹敵?! • 血液一酸化炭素は吸わなけれ1日でゼ ロに • したがって、「週に1日数本喫煙」なら 害は小 (ただし、これは一酸化炭素の問題 だけ、 がんの問題は別) • 禁煙がベストだが、せめて減煙して下

ガス分析データの見方:一つ だけ • Pao2 /Fio2 – – – は「肺の状態」 Fio2 が不明ではPao2 は評価がむずかしい 正常値は100/0.2 つまり500 100では100/1.0 だから「肺は非常に悪 い」 • Paco2 は「換気」 • pHとHCO3-(又はBE)は、「非呼吸性異 常」あるいは「代謝性異常」 – 頻度は乳酸↑と腎の異常が多い

「肺生理の基礎」の結論

今日学んだことは、 • • • • • ガスの分圧について ガス交換能について 血液と酸素:酸素解離曲線の解釈 ガス分析データの見方 とくに、「ガス交換能」と「酸素解離曲 線」を少し詳しく • 勉強の資料は豊富

おわりです

• おわり

血液ガスの値に二種類

• 報告に出てくる値 – – 実測値:pH, Pco 2 , Po 2 ,(ヘモグロビン) 計算値:[HCO 含量 3 ー ], Base Excess, So 2 , • 報告されない値 – 測定状況から判断: 吸入気酸素濃度,分時 換気量 – A-aDo 2 やシャント率・V D /V T

血液ガスの正常値:動脈血 で

項目 pH : Pco 2: 44 ) Po 2: [HCO 3 ー ]: 正常値 7.40

その幅 ( 7.36 - 7.44 ) 40 mmHg ( 36 90 mmHg ( 75 - 100 ) 24 mEq/L ( 22 26 ) Base Excess: 0 mEq/L ( -3 +3 ) 酸素飽和度 So 2 : 99%) 98 % (95 -

どの値が異常かを明確に

• わかることは三つ 1.肺の働きと,その良否 →Pao 2 2.換気は十分か 3.酸塩基平衡は良好か →Paco 2 →pHとPaco 2

肺の働きと良否はPao 2 で • Pao 2 でわかるのは二つ 1. 全身への酸素供給は充分か 2.肺は酸素を正常に摂取しているか, 改善に向かうか?悪化している か?

実例は次のスライドで

血液と酸素:酸素解離曲線 • 酸素飽和度とは – ヘモグロビン1個に酸素が最大4分子 • 酸素解離曲線は Po 2 と酸素飽和度の関係 • あのS字状の曲線 • 正常値 • 酸素解離曲線の移動