校区を流れる古川と、 コイを育てる学習
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Transcript 校区を流れる古川と、 コイを育てる学習
校区を流れる古川と、
コイを育てる学習
松森俊尚
大きな空と運動場という大地に挟まれている。
運動場にいると、どの位置からも大きな空が視界に
入ってくる。
探偵ごっこをしているときも、サッカーボールを蹴って
いるときも、ドッジボールやなわとびをしていても、友
だちとお話しているときも、ひょっとしたら友だちとケン
カしているときでも
教室は1階と2階、休み時間はすぐに外に飛び出すこ
とができる。6年生が1年生の教室に遊びに行く。
そんな毎日が卒業までの6年間続く
子どもが育つ仕組み
子どもを育てる仕掛け
第1の仕掛け
いっしょにいること、共に
第2の仕掛け
授業:教える授業ではなく、
育てる授業、子どもが学ぶ授業
第3、第4・・・の仕掛け
児童会活動、全校集会、たて割り活動・・・
校区を流れる古川と、コイを育てる学習
授業がうまく行かない!
学級経営がうまく行かない!!
子どもたちの視線が集中し、気持ちがつなが
り合うような授業ができないだろうか?
クラスの現実を隠さない、
あの手この手で試行錯誤を続ける。
社会科の「水道」の単元
「せんせいね、大阪の寝屋川市に出てきて、い
つも思うことあるんよ」
「せんせいの故郷の徳島の水はもっとおいしい
ようなきがするんだけど」
飲み比べの授業
・寝屋川市の水道水
・コンビニの天然水
・徳島の水道水
教師が求め、人と出会い、学習が生まれる。
・市の下水道課、水辺クラブから
「古川で採れたコイのタマゴをかえして育てている
んだが、子どもたちで育ててくれないか?」
・Aさんがクラスに提案
4年生みんなで育てることにする。
学年集会で、水辺クラブのおじさんから話を聞く。
教室前のろう下に置いた水槽。
児童集会で訴える。
子どもたちは9か月間取り組んだ。
・水槽のそうじ
・エサやり
・観察
育てたコイを、生まれ故郷の古川に返した。
新しい4年生に学習が引き継がれていく。
・校区を流れている古川を通して、自分の生活と重ねながら
学ぶことができる。
・子どもたちの興味を惹きつけるに違いない。
・子どもたちが「ふしぎ」を見つけて、試行錯誤を繰り返しな
がら問題解決に取り組む学習
・昨年度の4年生が作ってくれた「わが町」を学ぶ教材
・市の下水道課や水辺クラブの人たちが応援してくれる。
・地域の大人たちが、自分たちが慣れ親しんだ古川のことな
らばと、応援してくれるかもしれない。
・地域を巻き込んだ学習をつくるチャンス。
・これだけ条件のそろった教材は、作ろうとしてもなかなかで
きるものではない。
5月連休の前の日に、コイのタマゴが届く。
水草に産み付けられたコイのタマゴ
下校時には、コイのタマゴ
を見ようと人だかり。
水辺クラブの人が、つきっ
きりで説明してくれる。
連休が明けて登校してくると、
校門を入ったところに・・・
たくさんのコイの赤ちゃんが生まれていた。
さっそく「いのちのふしぎ」を教えてくれる。
4年生の学年授業
下水道課のUさん、Hさん、水辺クラブのKさんも
参加する。
・昔の古川
・10年前にはコイも住んでいなかった。
・古川を守る活動
・古川に住む生き物の話
・「魚博士」のKさんと、質疑応答
コイを育てて、生まれ故郷の古川に返そう
プロジェクトの始動
水槽の準備
一番目立つ玄関に設置
コイの世話係 毎日の仕事
・学年で全員が当たるようにグループを作る。
・水替えとエサやり
・必要に応じて水槽のそうじ、濾過機のそうじ
・「観察カード」を記入して、掲示板に張る。
水温
水のようす
見つけたこと、考えたこと、ふしぎ
観察カードを水槽の上の
掲示板に張る
世話係の仕事
7月に入ると、コイはもう立派な魚の姿になっている。
出来るだけ実際の古川に近づけたいと、Kさんたちは考
えてくださる。
タイリクバナタナゴ、ドジョウが加わる。水草の種類も増
えていく。
夏休みの間も、子どもたちは毎日エサやり、水替え、
そうじ、観察カードを続けた。
水槽の中に古川が再現されていく。
水槽の中に生息した生き物は、コイ、フナ、タイリクバナタナゴ、
モツゴ、カダヤシ、タモロコ、コウライモロコ、▼貝では、シジミ、
ヒメタニシ、マルタニシ、カワニナ、イシガイ、▼水草はハゴロモ
モ、セキショウモ、マツモ、クロモ、オオカナダモ、ウイローモス
学年授業
▼10月 フィールドワーク
淀川と寝屋川から流れてくる導水路が出合う
古川のはじまり
コイの生まれ故郷
▼ノート「古川を歩いて見つけたこと、考えたこと、
ふしぎ」
▼学年授業
水辺クラブの
人たちも参加
する。
M「こんなに古川が汚れていたら、ぼくらの
育てたコイは放せない」
・古川にはいろんな
生き物がいる。
・生き物は、きれいな
古川の方が住み心
地がいい。
・ゴミがいっぱい落ち
ていると、見ている人
まで気分が悪くなる。
・ぼくは毎日古川を見て
いる。市の人が来てそう
じした後、しばらく魚が見
えなくなった。
・コイは元気。
・きれいなだけではだめ
なんじゃないか
・今の古川でバランスが
とれている。
古川をきれいにしたい
話し合うほどに、「古川をきれいにしたい」との思
いが募ってくるようだ。
「自分たちの住んでいる町を流れる古川」に馳せ
る願いというものかもしれない。
古川をきれいにするためにどうするのか
行動する子どもたち 3カ月かけて
学
年
が
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グ
ル
ー
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置
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置
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く
っ
て
、
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川
に
② ポスターを作って張る。
・自治会長さんの家を回って頼む。自治会掲
示板に張る。
・回覧板で回してもらう。
③ ゴミ箱を作り設置する。
・技能職員さんに手伝ってもらい2個作製。
・橋のたもとに設置。
④ 川そうじのグループ
コイを生まれ故郷に返す
以後、4年生が取り組む教材になったのだが、子
どもも変われば担任も変わる。自然を相手の学習
なので、環境も大いに影響する。
毎年ちがった学習の取り組みが営まれることに
なる。
タマゴがとれない
例年、4月から5月にかけてコイのタマゴを採取
する。
中旬を過ぎてもタマゴがとれない。
「春先の寒さが続いたために水温が上がらず、
水草が育たない」
「コイはたくさん産卵のために古川を遡ってくる
のだが、タマゴを産みつける水草が育たない」
全校放送
4年生への手紙
学年授業 何かいい工夫・アイデアはないか
・運動場の石に草をまきつけた「仕掛け」 ・水草に似た別
の葉 ・木にコケをまきつける ・水草を買う ・ヒモに草と棒
を付ける ・他の川から古川に水草を持ってくる ・囲いをつ
くってプールをつくりそこに水草を入れる ・箱に色を塗って
水草に似せる ・布を切って流す ・服を切って吊るす ・毛
糸をいっぱい付けて流す・・・
・自分で作った仕掛けを持ち込んでいる者もいる。
水辺クラブのおじさん
シュロの皮を剥いで、丸めて、合わせたものを
古川に流してみてはどうか
仕掛けを古川に設置する
7月5日 人口の水草を古川に仕掛ける
7月7日 水草を引き上げる
タマゴがほとんど付いていない。
もうコイの産卵期は終わってしまったのだと、あきらめ。
7月9日 古川から引き上げるのを忘れていた
シュロの仕掛けを上げてみると、
いっぱいタマゴが産み付けられていた
みんなのつくった「人工水草」を、古川に戻す。
翌日、引き揚げた仕掛けにはたくさんのタマゴがつ
いていた。
人工孵化、大成功!
魚大好き人間S君の学習
ドジョウとり器
児童集会で魚の研究発表してみないか!
「ええで!」
いとも簡単に相槌を打つ
「ほかにも魚のことが好きなヤツおるから、
さそうてみるわ」
目先の面白さにとびついてきた、元気者3人
「ぼくらもいっしょにやっていいですか」、
おとなしいけれど相当の魚好きと見える2人
一風変わった6人で取り組むことになる。
市の理科研究発表会
児童集会で発表
2年後
水辺クラブ主催の“淀川ワンド”のワークショッ
プに参加
S君「オレな、1年の時イジメにおうて2学期から
学校いかへんかってん」
不登校が続いた間も水辺クラブの活動には休
まずに参加。おじさんたちはふだんと変わらぬ
関わりを続けてくださった。
学校に行けなくても大好きな魚や川を相手に取
り組める居場所があった。
教える授業から
育てる授業、学ぶ授業へ
育てる
育てる
育てる
教える
教える
教える
育てる
育てる
育てる
教える
教える
教える
教える
教える
教える
育てる
育てる
育てる
育てる授業
学ぶ力を育てる
聞く力
考える力
話す力
友だち 仲間 集団づくり
聞き合う
考え合う 話し合う
学び合い
教えると学ぶは違う
■主語・主体がちがう
■「教える」の主語は、教師・大人
教師が教える
■「学ぶ」の主語は、子ども
子どもが学ぶ
教える授業
・「できる・できない」の価値観
・子どもを評価したがる。 ・テスト ・競争
・教師の評価
・できる教師、できない教師
・教育技術How・Toを求める
・子どものニーズではなく、教師のニーズ
・効率 ・習熟度別クラス
・分ける ・能力 ・発達段階
学ぶ授業
・子どもが学ぶ姿を見つめる
・子どもの学びを保障するための支援
・学びやすい環境
教室、座席、授業ツール・・・
・子どものニーズを大切にする
・一人ひとりのニーズに対応
教師の補助、チームワーク
・関係・関わり合いに注目する
・学び合う姿
・障害のある子どもをどう教えるかではなく、障害
のある子どもの学習(学び)を見つめ、保障する。
・友だちとの関わり、学び合いを大切にする。
教える授業からは、必然的に能力主義、評価
主義、競争主義が生まれ、序列化が進む。
子どもが学ぶ授業では、一人ひとりの子どもた
ちが自分のものの見方・考え方・追求の仕方で
学習に取り組み、そして友だちと学び合う。
教師は子どもを見つめ、子ども同士の関係や
学び合う姿に注目して、子どものニーズを大切
にした学びやすい環境づくりに努めなければな
らない。
(憲法26条1項)
すべて国民は、法律の定めるところにより、その
能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する。
「教育する権利」「教える権利」ではなく、「学ぶ権
利」を保障している。
このことを理解して実践することが、「共に学
び、共に生きる」授業、インクルーシブ教育を生
み出し、国家に教育権を手渡さない具体的な取
り組みだと 私は考えている。