産学連携が大学の科学研究に与える影響の定量分析

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Transcript 産学連携が大学の科学研究に与える影響の定量分析

研究・技術計画学会第21回年次学術大会
1H01
産学連携が大学の科学研究に与え
る影響の定量分析
七丈 直弘
馬場 靖憲
東京大学大学院情報学環
東京大学先端科学技術研究センター
1
研究の目的(1)
 産業競争力を強化する観点から産学連携に対する関心が世界規
模で高まった結果、産学連携が企業に与える影響に関する研究
が急速に進んだ。大学の科学研究が企業のイノベーションにどの
ような影響を与えるかという点についての研究が蓄積され、効率
の良い産学連携を実現するための条件があきらかにされてきてい
る。(Powell, Koput et al. 1996; Zucker and Darby 1996;
Agrawal and Henderson 2002; Cohen, Nelson et al. 2002;
Thursby and Thursby 2002)。
 産学連携が産業に与える悪影響として、大学が産学連携に注力
することによって基礎研究の比重が低下し産業が長期的に停滞
する危険性も指摘されている(Florida and Cohen 1999))。
2
研究の目的(2)
 産学連携によって大学が産業に与える影響に関して
多くの研究が存在するのと対照的に、産学連携が大
学の科学研究に与える影響を明らかにする実証研究
は少ない(D‘Este and Patel 2005)。
 産学連携による能力形成を分析する場合、連携に
よって大学が企業に及ぼす効果に加え、企業が大学
に及ぼす効果を分析する必要がある。 そこで、企業
が大学に及ぼす効果に着目し、産学連携によって大
学の科学研究がどのような影響を受けているか分析
する。
3
産学連携の双方向性
 産学連携による大学から企業への貢献とは研究者間
にアイディアが流れ、大学から企業へイノベーション
の機会が提供されることでなく、関係者が共に学習す
ることによってイノベーションによって利益を得る能力
を形成することとして理解する(Breschi and Lissoni
2001)。
 産学連携による能力形成を分析する場合、連携に
よって大学が企業に及ぼす効果に加え、企業が大学
に及ぼす効果を分析する必要がある。
4
産学連携の定義
 本研究では、大学と企業が共著者として現れるような論文が出版
されることを「産学連携」として定義する。
 大学における産学連携の形態には、受託研究、企業研究者の受
け入れ、試料の相互提供、特許共同出願とう多様なモードが存在
するが、大学から企業に能力が移転するには、企業(研究者)によ
る大学の研究活動への一定のコミットメントが必要である。論文を
共同執筆によって、相互の関係の深さを知ることが出来る。
 上記のようにして観測された「産学連携」が後の大学における科
学的パフォーマンスにいかなる影響を及ぼしているかを統計的に
推定した。
5
大学の科学成果の定量的把握


広義の科学成果は、学術論文以外にも特許やノウハウ、人的資産の形
成等多様な形式で現れるが、本研究では学術論文のみを分析の対象と
した。(データの系統性・網羅性)
論文生産量(論文数)


科学的インパクト(被引用数)


同一研究者が執筆した論文であっても、論文ごとに被引用数には変動があ
る。被引用数はジャーナルの知名度、他の論文との比較等、総合的に決定さ
れるため、必ずしも常に論文の質を規定するのではない。特に研究分野間で
の被引用数の差が大きく、分野間での比較に向かない。
論文に体現された研究成果の波及効果を示す指標として適当。しかし、基盤
技術の産業化の過程では、論文以外の形で参考にされる場合もあり、被引
用数がインパクトの全てを示しているわけではない。特に、応用的研究では、
被引用数以外の影響の存在が無視できない可能性がある。
以上2つの指標の両者を比較した。
6
データの作成
 Science Citation Index(ISI)
 論文単位での著者、著者の所属組織、被引用回数を含むデータ
ベース。
 「光触媒」に関連した論文を全文検索により規定。
 上記データに出現した組織を「大学、公的機関、企業」のいずれか
に分類した。これと共著組織の組み合わせから、論文の特性(産
学連携の論文であるか、大学間連携の論文であるか)を規定。
 著者から組織(大学・公的機関・企業)への集約を行うことで、組織
における暦年ごとのパフォーマンス(論文生産量、科学的インパク
ト)を算出し、パネルデータ化。
7
書誌学的分析の結果
 1990年以降に著しい加速が見られる
 超親水性の発見(東陶)等により、産業化が加速
 新規参入組織は産・官・学を問わず増加傾向にあるが、その構成
比は変化が少ない。
 産学連携論文数についてもその全体に対する比率に大幅な変化
はない。
 産学連携のメカニズムは全期を通じて、(分野全体としては)大幅
な変化がないことが見込まれる。
 パフォーマンスにおいては、日本および米国の成果が突出
 他国に比べてこれら2国における、科学パフォーマンス発現の機
構に違いがある可能性がある。
8
6000
4000
2000
1970
1975
1980
1985
1990
Year
論文生産量
1995
2000
2005
0
0
200
400
600
800
Impact ( Citation weighted number of papers )
1000
8000
パフォーマンスの年次変化
1970
1975
1980
1990
1985
Year
1995
2000
2005
科学的インパクト
9
論文を出版した組織の構成
100%
80%
60%
7
49
103
151
365
678
1037
1473
76
119
200
114
177
308
40%
0
20%
0%
3
2
7
9
13
14
17
38
37
1970-1974 1975-1979 1980-1984 1985-1989 1990-1994 1995-1999 2000-2003
Firm
Govt
全期
Univ
10
400
U-U Collaboration Papers
0
200
N. of Papers
600
連携パターンごとの論文出版総数の推移
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
1985
1990
1995
2000
2005
1985
1990
1995
2000
2005
20
30
U-I Collaboration Papers
0
10
N. of Papers
40
1970
1975
1980
5
I-I Collaboration Papers
0
N. of Papers
10
1970
1970
1975
1980
11
パフォーマンスが高い10組織
順位
組織名(
論文数)
順位
組織名(
被引用数)
1
OSAKA UNIV (240)
1
UNIV TEXAS (6790)
2
CHINESE ACAD SCI (202)
2
UNIV TURIN (3885)
3
UNIV TOKYO (191)
3
UNIV TOKYO (3228)
4
UNIV OSAKA PREFECTURE (177)
4
CALTECH (3159)
5
UNIV TURIN (146)
5
OSAKA UNIV (3101)
6
UNIV TEXAS (133)
6
CONCORDIA UNIV (3035)
7
TOKYO INST TECHNOL (131)
7
UNIV OSAKA PREFECTURE (2812)
8
CONCORDIA UNIV (113)
8
TOKYO INST TECHNOL (2417)
9
KYOTO UNIV (103)
9
UNIV NOTRE DAME (2310)
10
ECOLE CENT LYON (98)
10
ECOLE CENT LYON (1917)
12
国別のパフォーマンス比較
順位
国名
論文数
順位
国名
被引用件数
1
JAPAN
1873
1
USA
29327
2
USA
1269
2
JAPAN
22394
3
PEOPLES R CHINA
735
3
GERMANY
6579
4
GERMANY
407
4
ITALY
6422
5
FRANCE
379
5
FRANCE
5276
6
ITALY
374
6
CANADA
4527
7
SPAIN
302
7
SPAIN
3203
8
INDIA
294
8
UNITED KINGDOM
3197
9
SOUTH KOREA
248
9
PEOPLES R CHINA
2511
222
10
AUSTRALIA
1699
10 CANADA
13
推計に用いたモデル(1)
 被説明変数である論文生産量と科学的インパクトは
非負の整数を値として持つため、通常ポアソンモデル
によって推計が行われる。しかし、今回の対象におい
ては分散が平均よりもきわめて大きい特徴(過分散)
を持つため、平均と分散の一致というポアソンモデル
における仮定が成立しない。よって、過分散の効果を
考慮にいれたモデルの一つであるネガティブバイノミ
アルモデル(Hausman, Hall et al. 1984)によって推
計することとした。
14
推計に用いたモデル(2)
e

Pr  yi xi  
 i

~i  e 
yi
i
 
xi   i

i
i
e  i i  i i 

Pr  yi xi ,  i  
yi !
yi !
 

E  yi xi    i  e xi  
yi
 i  1   
g  i  
i e
 i 
i
i
ポアソンモデル
 yi   i    i


Pr yi x i 
yi ! i    i   i


i i
i



 i

 i  i



yi
ネガティブバイノミアルモデル
15
被説明変数
 論文生産量および科学的インパクト
 組織がt年において出版した論文数をPapertとする。
また、組織がtにおいて出版した論文が、観測期間
全期(1970~2003年)を通じて得た被引用数をCitet
とする。
※ ただし、これらは説明変数としても用いる。
16
説明変数(1)
 共著研究者数 (Workforce)
 組織が、対象となる年tに対して過去3年 (t-3, t-2, t-1)の間
に出版した論文において、共著者として現れる研究者の総
数を共著研究者数
 技術分野の集中度 (Herfindahl)
 ISIではSCIの対象とする全科学雑誌を取り扱うテーマに応
じて類型化いるため、雑誌のタイプを論文の性質を表現す
るproxyとして用いる。各組織が出版した論文の集合に対
し、そこに見られるジャーナルタイプの頻度分布を
Herfindahl指数に変換し、組織間の研究対象の集中度を
比較する(Hall 2002)。
17
説明変数(2)
 産学連携の有無( UIt )
 各組織が、対象となる年tに対して過去3年間(t-2, t-1, t)に
出版した論文において、産学連携による論文数(共著者に
企業研究者を含む論文)が1以上である年に1の値をとる
ダミー変数。
 共著ネットワークにおける位置(ネットワーク指標)
 組織間の論文の共著関係に注目し、研究組織間のネット
ワークを構築して同ネットワークにおける近接中心性
(Closenesst)と媒介性中心性 (Betweennesst)を説明変数と
して用いた(Wasserman and Faust 1994)。
18
19
推計結果
 国別ダミーについては特に影響が見られないが、連携ダミーと国
別ダミーの交差項については、日本については正の効果、米国に
ついては負の効果が部分的に認められる。このことから、産学連
携の効果が日米以外の国々との比較において、日本においては
より高く、米国においてはより低いことが推察される。
 北米(米国、並びにカナダ)と日本について、産学連携が与える影
響を比較するために、対象を北米および日本に絞って推計を行っ
た結果、北米における産学連携の効果 (Model 5~8)は有意でな
かった。
 日本における産学連携の影響(Model 9~12)には正の効果
(p<0.1)が認められた。
20
対象
被説明変数
モデル名
ln P apert-1
日本の大学
P aper
C ite
M odel13
M odel14
M odel15
M odel16
0.479 ***
0.573 ***
(0.092)
ln P apert-2
0.285
(0.137)
0.182
0.313
(0.121)
0.200
*
(0.088)
ln P apert-4
(0.123)
0.191
***
(0.087)
ln P apert-3
0.039
ln C itet-2
0.272
0.136
***
0.117
0.146
***
0.392
(0.138)
0.605
(0.159)
0.155
(0.147)
-0.443
(0.269)
***
0.194
(0.200)
-0.022
(0.250)
U I1970~2003
***
0.589
(0.347)
***
(0.158)
-0.146
0.627
(0.343)
**
(0.194)
0.141
**
0.131
0.279
(0.168)
B etw eennesst-1
-0.012
(0.021)
N .of O bs
366
N .of G rp
57
C hi-squared
180.680
Log Likelihood -654.848
+
0.679
2.078
(0.947)
-0.012
0.015
(0.021)
366
57
191.966
-649.205
(1.182)
(0.047)
366
57
185.813
-1337.908
0.003
(0.036)
*
(0.129)
-0.238
0.138
0.168
(0.204)
-0.026
(0.261)
***
(0.042)
(0.027)
(0.163)
-0.446
(0.275)
-0.090
(0.354)
(0.362)
(0.189)
0.284
(0.149)
(0.963)
0.140
***
0.036
0.084
**
(0.046)
(0.033)
0.182
1.624
0.129
***
(0.035)
***
***
(0.052)
0.695
JP O
C losenesst-1
0.290
***
(0.039)
(0.036)
(0.117)
-0.203
(0.111)
0.174
***
-0.006
(0.027)
0.150
-0.024
(0.041)
0.027
+
(0.121)
(0.044)
(0.032)
ln C itet-4
(0.121)
(0.050)
(0.034)
ln C itet-3
0.202
(0.083)
***
0.129
*
0.046
(0.111)
0.158
0.198
(0.091)
(0.037)
H erfindahlt-1
0.202
+
-0.037
ln C itet-1
(0.135)
***
(0.092)
(0.121)
(0.076)
ln W orkforcet-1
日本の大学
P aper
C ite
M odel17
M odel18
M odel19
M odel20
0.524 ***
0.622 ***
+
1.187
(1.153)
0.039
(0.030)
366
57
213.447
-1324.091
2.150
(0.989)
-0.021
(0.024)
366
57
167.885
-661.245
(0.112)
*
1.305
(0.961)
-0.018
(0.024)
366
57
183.337
-653.519
*
0.319
*
(0.145)
2.626
(1.219)
0.006
(0.046)
366
57
179.152
-1341.238
0.291
*
(0.141)
*
1.764
(1.184)
0.018
(0.035)
366
57
202.757
-1329.435
共著論文の有無は、特許の共同出願の有無に比べ、大
学の科学パフォーマンスに対して倍程度の効果がある
21
対象
被説明変数
モデル名
ln P apert-1
特許共願のある大学(日本)
P aper
C ite
M odel21
M odel22
M odel23
M odel24
0.349 *
0.224
(0.165)
ln P apert-2
(0.183)
0.168
ln P apert-3
0.258
0.445
(0.166)
0.292
*
(0.115)
ln P apert-4
(0.151)
-0.083
(0.119)
(0.107)
0.182
0.133
(0.048)
(0.224)
H erfindahlt-1
(0.184)
-1.052
-1.125 *
(0.726)
(0.540)
0.104
*
-0.077
-3.475
(0.259)
***
(0.849)
-2.942
0.126
*
0.036
**
(0.913)
(0.051)
0.168
(0.242)
0.495
(0.238)
0.567
0.590
(0.323)
0.305
(0.359)
*
(0.060)
(0.039)
0.264
**
(0.061)
0.028
-0.065
(0.330)
0.196
***
(0.045)
(0.054)
***
(0.068)
(0.048)
-0.040
(0.038)
0.068
0.191
(0.060)
0.069 +
0.257
***
(0.051)
(0.072)
0.169 ***
0.119
0.204
0.000
(0.050)
ln W orkforcet-1
(0.170)
*
(0.087)
0.099 *
ln C itet-4
0.168
(0.134)
(0.060)
ln C itet-3
(0.192)
0.198
0.142 *
ln C itet-2
0.231
(0.146)
(0.138)
**
(0.171)
0.099
+
-0.153
ln C itet-1
(0.206)
0.505
**
(0.143)
(0.150)
-0.031
特許共願のない大学(日本)
P aper
C ite
M odel25
M odel26
M odel27
M odel28
0.702 ***
1.069 ***
1.299
(0.345)
+
(0.317)
**
(0.460)
0.911
*
(0.442)
JP O t-1
U It-1
0.403
*
(0.188)
C losenesst-1
2.743
(1.420)
B etw eennesst-1
-0.004
(0.028)
N .of O bs
N .of G rp
C hi-squared
Log Likelihood
153
21
127.194
-309.189
0.371 *
(0.183)
+
1.190
(1.331)
-0.035
(0.029)
153
21
140.111
-302.731
0.497
*
(0.239)
5.526
(0.043)
153
21
110.919
-638.088
+
(0.240)
**
4.478
***
0.138
(1.754)
0.186
0.398
153
21
113.125
-636.986
0.120
(0.147)
*
(1.799)
(0.051)
-0.039
1.819
-0.114
(0.064)
219
36
84.284
-346.239
0.096
1.246
(1.704)
-0.464
+
(0.058)
219
36
83.879
-346.442
(0.198)
1.670
(1.301)
+
0.051
(0.215)
1.488
(1.352)
**
-0.152
(0.131)
(0.113)
219
36
115.220
-693.246
(1.697)
***
-0.177
(0.110)
219
36
104.512
-698.600
注) 係数の下の数値は標準誤差を示す。また、***はp<0.001を、**はp<0.01を、*はp<0.05を、+はp<0.1を示す。
企業との特許の共同出願がある大学について産学連携による論文が科学研
究に与える効果が正(p<0.05)であるのに対し、企業との特許共願がない大学
については、産学連携論文の有無に有意な効果が認められない
22
分析結果(1)
全世界を対象とした場合、共著論文にみられる産学連携の効果を見いだすことは難しい。
しかし、分析対象となる組織の所属国を米国と日本に分けてみると、高い研究パフォーマ
ンスを示す2国において、産学連携が異なった効果をもたらしていることが判明した。すな
わち、日本において産学連携が科学論文の生産性と科学インパクトの両者の向上に寄与
しているのに対し、米国においては特段の影響がみられない。
これは、光触媒研究が産業化に到達している日本の状況と異なり、米国においては光
触媒研究が産業化段階に達していないことに起因するものと推察される。その特化する
研究分野が日米では異なり、日本の光触媒研究が研究開発のライフサイクルの産業化段
階に位置し、盛んになった産学連携が大学の科学研究に有意な効果を与えるのに対して、
米国の研究は基礎研究段階にあり、散見される産学連携の大学の科学研究に対する影
響は限定的である。
分析対象を日本の組織に絞り、論文の共著に加え産学による特許の共同出願が果たす
効果について推計した結果からは、産学連携の指標として論文共著と特許の共同出願を
比較した場合、本研究の対象分野に関しては特許の共願よりも論文共著が強い効果を与
えていることがわかった。これは、前章で述べたように、特許の共願関係と比較して論文
の共著関係において企業の大学との共同研究へのコミットメントが高く、その事実が大学
の研究生産性への効果に反映されると推測できる。
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分析結果(2)
次に、論文共著を指標とする産学連携を観察してみれば、最終的に産学による特許の共
同出願をもたらした連携において、論文共著の大学の科学研究に対する効果が強く出てい
る。日本の現状においては、企業における産学連携の目的が企業ごとに異なり、一方の極
には、産学連携を企業の社会的活動の一部と見なし研究成果の産業化を目標としないケー
スが存在し、この場合、連携から成果が得られたとしても特許出願にかかるコストの負担を
回避する傾向があるため、特許共願に至らない。対照的に、産業化を目的として産学連携
に取り組む企業においては、資金面のみならず、研究人員や研究設備などに関して大学に
対して積極的な協力を行い、連携の成果を特許として結実させる。以上に示唆した企業の
産学連携への取り組みの差異によって、企業の研究パートナーとしての大学研究者の行う
科学研究への効果に明確な差異が生まれることが判明した。
大学にとって望ましい産学連携とはパートナーとしての企業を選ぶ限定的な連携であるこ
とがわかる。すなわち、大学の存在意義は一義的には科学研究の推進にあり、大学が産学
連携を実施する際には、その連携が大学の科学研究にどのような影響を与えるか、推察し
て企業パートナーを選択する必要が生まれる。本章の分析が明らかにしたように、大学は
共同研究の成果を利用して論文出版に加え特許出願を行う産学連携に本腰を入れた企業
をパートナーとすることによって自らの科学研究の水準を向上する。大学研究者が企業との
共同研究の推進に当たって、その専門とする科学研究に関心を示し連携を希望する企業を
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無制限に研究パートナーとすることは合理的な選択とはいえない。
おわり
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