第10回講義の内容 - 東京医科歯科大学

Download Report

Transcript 第10回講義の内容 - 東京医科歯科大学

多様性の生物学
第10回 小進化と大進化
和田 勝
東京医科歯科大学教養部
進化は
1)新しい対立遺伝子が生じない
突然変異(mutation)
2)離脱・流入個体がなく、新しい対立遺
遺伝子流(gene flow)
伝子が入ることも、出て行くこともない
3)個体群は十分大きく、頻度の有意な
遺伝的浮動(genetic drift)
変化が偶然におこることはない
4)すべての個体が繁殖可能になるまで
自然選択(natural selection)
生き残って同等に繁殖する
5)有性生殖によってランダムに混ぜ合
非ランダム交配(non-random mating)
わせられる
進化は
「進化」を集団遺伝学の立場から見ると
これらの5つの要因が、単独あるいは
複合して個体群にはたらき、遺伝子頻
度に変更を加えることだと定義すること
ができる。
変異、自然選択、進化
変異はDNAのレベルで起こる。
自然選択は個体のレベルで起こる。決
して遺伝子のレベルでは起こらない。
進化は個体群で起こる。決して個体の
レベルでは起こらない。環境に適応した
「良い」遺伝子が固定される。
これが進化の総合説の考え方だった。
遺伝子頻度変化の要因は
新しい対立遺伝子が生じるのは
突然変異、遺伝子流
遺伝子が世代を受け渡されるとき変更
が生じるのは
自然選択、遺伝子浮動
非ランダム交配
突然変異
突然変異には、
遺伝子突然変異(gene mutation)
染色体突然変異(chromosome
mutation)
遺伝子に起こる突然変異
DNAを構成する塩基が
欠失(deletion)
挿入(insertion)
置換(substitution)
遺伝子に起こる突然変異
遺伝子に起こる突然変異
1)一塩基の欠失あるいは挿入(ポイ
ントミューテイション)によって、フレ
ームシフトがおこり、広範な影響を受
ける。
2)コドンの2あるいは3番目の置換
では同じアミノ酸をコードしている例
が多いので、変化は起こらない(同
義置換)。
遺伝子に起こる突然変異
ミスセンス突然変異
ナンセンス突然変異
とはなんでしたっけ?
染色体に起こる突然変異
染色体の一部が
欠失(deletion)
重複(duplication)
逆位(inversion)
転座(translocation)
染色体に起こる突然変異
突然変異がおこる細胞は
体細胞突然変異(somatic cell
mutation)
生殖細胞突然変異(germ cell
mutation)
当然、進化に関係するのは生殖細胞
に起こった突然変異である。
突然変異がおこる確率
1960年代になってヘモグロビンのア
ミノ酸組成が分かってきたので、最
初にこの問題に取り組んだのがズッ
カーカンドルとポーリングである(
Zuckerkandl and Pauling, 1965)。脊
椎動物のいくつかの種のヘモグロビ
ンのアミノ酸組成を比較して、置換
の速度を推定した。
突然変異がおこる確率
その結果を化石年代と対応させて、
アミノ酸の置換の速度が一定である
と主張した。こうしてアミノ酸の置換
の速度を時計のように使うことがで
きるとして、分子時計(molecular
clock)という言葉を作る。
アミノ酸配列の比較
ヒトとウマのαグロビン分子
1
11
21
31
41
51
1 VLSPADKTNV KAAWGKVGAH AGEYGAEALE RMFLSFPTTK TYFPHFDLSH GSAQVKGHGK
1 VLSAADKTNV KAAWSKVGGH AGEYGAEALE RMFLGFPTTK TYFPHFDLSH GSAQVKAHGK
60
60
61 KVADALTNAV AHVDDMPNAL SALSDLHAHK LRVDPVNFKL LSHCLLVTLA AHLPAEFTPA
61 KVADGLTLAV GHLDDLPGAL SDLSNLHAHK LRVDPVNFKL LSHCLLSTLA VHLPNDFTPA
120
120
121 VHASLDKFLA SVSTVLTSKY R
121 VHASLDKFLS SVSTVLTSKY R
上段がヒト、下段がウマ
18アミノ酸が異なっている
アミノ酸の置換数
脊椎動物の主な種
コイ
ネズミ
ウマ
ヒト
ー
68
67
68
コイ
ー
23
17
ネズミ
ー
18
ウマ
ー
ヒト
突然変異がおこる確率
計算の仕方
古生物学の研究からヒトとウマの
共通祖先が分岐したのは、今か
らおよそ8,000万年前にさかのぼ
ることがわかっている。
18
-7 ÷ 2
-9
÷
8x10
0.8x10
=
141
(1アミノ酸/年)
アミノ酸置換率
ヘモグロビンでは、平均して一つの
アミノ酸部位で置換の起こる割合は
おおよそ10億年に1回(10-9)。
他のタンパク質でも大体同じオーダ
ー。ただし、ヒストンH4のように100分
の一のものも。
それぞれのタンパク質で少しずつ異
なるが、同一タンパク質では脊椎動
物内の種でほぼ一定であった。
突然変異の方向性
突然変異は全くランダムに起こるの
で、その個体の生存にとって有利な
突然変異も起こりうるし、不利な突然
変異も起こる。
「突然変異には方向性は無い」
有利な突然変異と自然選択
ウサギの足の速さ
捕食者の足の速さ
変異によって次世代に子を残す確率に差
蛾の工業暗化
標本では、産業革命以前は霜降り模
様の野生型のみ
産業革命以後は黒化型の割合が増
える
これらの観察から、捕食の差による
自然選択によって進化が起こった?
蛾の工業暗化
そこでフィールド実験
放して再回収実験
回収率
野生型
非汚染
地区
汚染地
区
黒化型
13.7(%)
4.7(%)
13(%)
27.5(%)
非汚染地区では黒化型が、汚染地
区では野生型の回収が悪い
そこでフィールド実験
本当に捕食のためか
木の幹のタイプ
地衣あり
地衣なし
野生型
20(%)
44(%)
黒化型
40(%)
15(%)
地衣類がある黒化型が、地衣類がな
いと野生型が捕食されやすい
自然選択の種類
方向性のある自然選択
自然選択の種類
安定化に向かう自然選択
自然選択の種類
分断化する自然選択
性選択
ところでダーウィンを悩ませたのが、
著しく生存に不利な形質が雄に認め
られることだった。自然選択の考え
方では、生存に不利な変異は、個体
群から取り除かれていくはずだから
である。
たとえば雄クジャクの長い尾
性選択
そこでダーウィン
は自然選択の考
えを補強するた
めに、雌による
雄の選択という
要因を考え、性
選択という概念
を進化の枠組み
に導入した。
ツバメでの実験
ツバメでの実験
ランナウェイ仮説
分子進化の中立説
アミノ酸配列が分かって、その置換率
からゲノム全体の変異率を求めたとこ
ろ予想以上に大きな値が得られた。
大きな値を説明するためには、突然
変異には自然選択にかからない(自
然選択に中立な)ものがあると仮定し
なければ説明できないことを木村資生
が発表(1968)。
分子進化の中立説
激しい論争が起こった。
しかしその後、中立説を支持する証拠
がしだいに見つかる。
機能的制約
機能的制約
AとB、C鎖それぞれのアミノ酸置換率
を求めてみると、
AとB鎖:0.4x10-9
C鎖:2.4x10-9
(いずれもアミノ酸/年)
機能と関係ない部位のアミノ酸置換率
が大きな値
偽遺伝子
偽遺伝子Ψでは置換率が大きい
中立突然変異の固定は
漸進説、種分化、小進化
地理的隔離による異所的種分化の例
断続平衡説、大進化
遺伝子重複と中立突然変異