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生物学
第14回 突然変異と生物多様性
和田 勝
突然変異
DNAは複製の過程の誤りを正し、損
傷を修復して、DNAを次の世代に伝え
てきた。
しかしながら、DNAの誤りがまったく伝
わらなかったわけではない。どこかで
変異がおこり、それが伝えられたから
こそ、現在見られるようにさまざまな生
物が地球上に生息しているのである。
変異は一定の割合で、、
DNAの塩基配列を比較することにより
、DNAの塩基の変異は一定の割合で
起こっていることがわかっている。
生殖細胞の複製の過程で起こるミスマ
ッチが訂正されなかったり、突然変異
が起こったのであろう。
変異の固定
ダーウィンは遺伝の実体も遺伝子の存
在も知らなかったが、この変異がどの
ように世代から世代に伝えられていく
かを示した。
ある変異が、生息している環境に適応
していれば子孫を残せる(自然選択)と
いう考え方である。すなわち、、
自然選択により変異が伝わる
1)生物の集団に変異(variations)が
存在すること
2)変異は親から子に伝わること
3)環境の収容力が繁殖力よりも小さ
いこと
4)その環境のもとでは、変異に応じて
次世代に子を残す期待値に差が生
じること
変異の固定
個体群が、何らかの理由で分かれ
て、両者の個体間で自由な交配が
できなくなる(隔離)。
環境に適応した変異が個体群の中で
広がっていく。
元の個体群とは異なる表現型を持っ
た種ができる(種分化)。
ハーディ-・ワインベルグの法則
「一定の理想的な状況のもとでは、有性
生殖をおこなう集団における対立遺伝
子の頻度は、一世代で一定となり、その
後、世代を越えて一定に保たれる。また
、遺伝子型の頻度は、この遺伝子型を
構成する遺伝子の頻度の積で表すこと
ができる。」
1908年に標記2人が独立に発見。
成立の条件
1)新しい対立遺伝子が生じない
2)離脱・流入個体がなく、新しい対立遺
伝子が入ることも、出て行くこともない
3)個体群は十分大きく、頻度の有意な
変化が偶然におこることはない
4)すべての個体が繁殖可能になるまで
生き残って同等に繁殖する
5)有性生殖によってランダムに混ぜ合
わせられる
実際には
ハーディー・ワインベルグの法則が成り
立つのは、5つの条件を備えた理想的
な個体群においてである。
しかし、実際にはこのような個体群はあ
りえない。
突然変異によって新たな対立遺伝子が
生じ、個体群間の個体の移動によって
遺伝子の流入や離脱が起こる。
実際には
また、すべての個体が繁殖に参加でき
るとは限らないし、個体群の大きさによ
っては、偶然的は変動が起こることがあ
る。
すなわち、遺伝子頻度に変化が起こる。
これは、進化が起こるということである。
進化は
1)新しい対立遺伝子が生じない
突然変異(mutation)
2)離脱・流入個体がなく、新しい対立遺
遺伝子流(gene flow)
伝子が入ることも、出て行くこともない
3)個体群は十分大きく、頻度の有意な
遺伝的浮動(genetic drift)
変化が偶然におこることはない
4)すべての個体が繁殖可能になるまで
自然選択(natural selection)
生き残って同等に繁殖する
5)有性生殖によってランダムに混ぜ合
非ランダム交配(non-random mating)
わせられる
進化は
「進化」を集団遺伝学の立場から見ると
これらの5つの要因が、単独あるいは
複合して個体群にはたらき、遺伝子頻
度に変更を加えることだと定義すること
ができる。
変異、自然選択、進化
変異はDNAのレベルで起こる。
自然選択は個体のレベルで起こる。決
して遺伝子のレベルでは起こらない。
進化は個体群で起こる。決して個体の
レベルでは起こらない。
中生代は爬虫類の時代
大型爬虫綱の絶滅
X
XX
XX X
KT境界線(KT boundary)
今から6500万年前の中生代の白亜紀と
新生代の第三紀では、化石の種類に著
しい差がある。この境界を、白亜紀-第
三紀境界線(KT boundary)と呼んでい
る。
恐竜、大型の植物食爬虫類、魚竜など
の海生爬虫類、翼竜などの飛行性爬虫
類などが絶滅した。アンモナイト、有孔
虫、二枚貝も滅んだ。
KT境界線(KT boundary)
KT境界線(KT boundary)
ココ
恐竜はなぜ滅んだか
なぜ恐竜は突然、滅んだのだろうか。
さまざまな説が提出されていたが、どれ
も満足のいくものでは無かった。
恐竜絶滅を説明する
Nobel laureate Luis Alvarez, his geologist son Walter
Alvarez, nuclear chemist Frank Asaro, and paleontologist
Helen Michael (from right to left)
KT境界線のイリジウム
絶滅のシナリオ
●イリジウム地表には極く稀な希元素
である
●隕石、彗星、小惑星に多い
1)隕石が衝突し(impact)、衝突の熱
で地表の物質とともに吹き上げられ、そ
の後地上に降り積もった
2)層の厚さとイリジウムの量から計算
して、隕石の直径はおよそ10km
3)もしもこの大きさの隕石が衝突する
と、直径150から200kmのクレーターが
残ることになる
4)塵によっておこった太陽光の遮断
による天候の変化によって、急激に多く
の生物が絶滅
その他の証拠
火山の噴火でも地球内部のイリジウム
が堆積すると言う反論
微小テクタイト
衝撃水晶
クレーター探し
予想される大きさのクレーターは見つか
っていなかった。ドリリング調査。
クレーター探し
地磁気の異常
クレーター探し
セノーテの分布
クレーター探し
チチュルブ(Chicxulub)
クレーターの構造
宇宙から見ると
クレータの規模
衝突の想像図
シューメイカー・レビー第9彗星
シューメイカー・レビー第9彗星
木星に衝突
シューメイカー・レビー第9彗星
木星に衝突
ハッブル望遠鏡による衝突後
http://oposite.stsci.edu/pubinfo/Comet/Comet_Recent.html
衝突後から1ヶ月後まで
衝突の影響
衝突によって多量の塵が吹き上げられ
いわゆる「核の冬」をもたらした。
衝突の影響
短期的
衝突の衝撃、津波、急速な火災の拡大
長期的
吹き上げられた塵による太陽光遮断
光合成低下、植物資源減少
植物食恐竜減少、動物食恐竜減少
生き残った動物もいた
大型の動物が滅んだ
爬虫類の中でも小型のものは生き残っ
た
鳥と哺乳類も生き残った
生き残った哺乳類
哺乳類の放散
こうして空いた生活空間に生き残った哺
乳類が適応放散した
絶滅によって新たな動物群の進化
を促した
こうして霊長類も出現することができ
た
大絶滅は繰り返し起こった
地質時代
第三紀末(160万年前)
白亜紀末(6500万年前)
三畳紀末(2億800万年前)
ペルム紀(二畳紀)末(2億4500万年前)
デボン紀末(3億6000万年前)
オルドビス紀末(4億3800万年前)
カンブリア紀末(5億500万年前)
大進化と小進化
絶滅のたびに、分類階級の上位の動物
群生じた?
ただし、それまでに準備は整ってい
たと考えられる
その後、環境に適応して種や属のレ
ベルの進化(小進化)がおこる?
カンブリア大爆発
エディアカラ動物群
カンブリア紀になっ
て、地球環境が変化
する(酸素濃度が高
まる、リン酸塩の蓄
積など)
多細胞生物の体制の複雑化
カンブリア大爆発
バージェス頁岩(カナディアンロッキー)
によく保存されていた
カンブリアの海
地球と生命の歴史
このような歴史を経て、現在の地球環
境があり、そこに適応して生物が生息し
ている
環境の多様性こそが、生物の多様性を
保証する
(地球)環境と生物は相互の影響しあっ
ている
環境要因
1)非生物的環境要因
光要因、温度要因、(水分要因、酸素要
因、二酸化炭素要因、土壌要因)
生息場所の地理的・気候的要因(緯度、
高度、降雨、積雪など)
2)生物的環境要因
食物要因、生息場所(植生)、同種他個
体、異種
生態系
上にあげた環境要因の組み合わせによ
って、さまざまな生態系が生じる
森林(針葉樹の森林、広葉樹の森林、混
交林、熱帯雨林など)、サバンナ、砂漠、
ツンドラ、海(海岸の潮間帯、浅い海、深
海、暖かい海、冷たい海)、河、湖沼、草
原など
生態系
熱帯雨林
サバンナ
デザート
潅木林
温帯草原
温帯落葉樹林
温帯雨林
ツンドラ
この鳥を知っていますか?
カカポ
この鳥は、ニュージーランドにしかい
ない、カカポというオウムの一種。
飛ぶことを止めてしまった、珍しい
大型のオウムである。絶滅の縁か
らかろうじて舞い戻った、貴重な鳥。
カカポのたどった運命について、お
話ししよう。
大陸の移動
南アメリカ、アフリ
カ、インド、オースト
ラリア、南極大陸
ゴンドワナ
+ローラシア
パンゲア
移動の証拠
南アメリカ、アフリ
カ、インド、オース
トラリア、南極大
陸に共通する化
石が見つかる。
プレートテクトニクス理論
動物地理区
こうして動物の種類に特徴が生まれた。
オーストラリア区
オーストラリア区を載せたプレートは、
早くから移動を始めたために、特異な
生物を有する地理区となっている。
オーストラリアには真獣類がいなかっ
たので、単孔類と有袋類が生き残っ
た。ニュージーランドには哺乳類がい
なかったので、鳥類が一番進化した
動物種となった。
ニュージーランド
ニュージーランドのは哺乳類が居な
かったので、鳥が最上位のニッチを占
めた。
飛ぶことを止めてしまった鳥や、大型
の鳥が進化した。
飛ばない大型の鳥
大型化し、飛ぶことを止めてしまった
体長およそ63cm
飛ばない大型の鳥
ヒクイドリ
エミュー
体長およそ1.5-2.0m
体長およそ2.0m
飛ばない大型の鳥
ニュージーランドのモアは絶滅して
しまった。
大型種の体
長はおよそ34mあった。
キウィも有名
カカポの絶滅の縁への道
ポリネシアから移住したマオリは、カ
カポを捕獲して食料に、美しい緑色の
羽は礼装用のケープに使った。
数は減少したが、それでも絶滅したわ
けではなかった。
1840年代にヨーロッパからの移住者
が持ち込んだ動物によってカカポは
駆逐されてしまった。
カカポの絶滅の縁への道
1950年代になってNew Zealand
Wildlife Serviceが設立され、1949年
から1973年までに60回ものカカポ探
索の調査旅行が行われた。
1974年の時点では状況は絶望的だっ
た。1977年までに18頭がフィヨルドラ
ンド(南島南西部)で発見されたが、
すべて雄だった。
ニュージーランド
ミルフォードサウンドへの道
ホーマートンネル
ミルフォードサウンド
カカポ救出作戦
同じ年の暮れに雌を含む200頭の個
体群が南島最南端の沖にあるスチュ
ワート島で見つかった。
この個体群もネコのために急速に減
少していったので、ついに1995年に
50頭を全頭捕獲して天敵の居ない島
に移した。
2004年現在、86頭に増えた。
絶滅の記録
カカポは個体数が回復するかもしれ
ないが、絶滅してしまった数は多数
に上る。
ヒトが移住した後に、49種が滅んで
いる。
絶滅は、何もニュージーランドに限
ったことではない。
リョコウバトの悲しい旅行
鉄道敷設
の労働者
の食料と
なって絶
滅してし
まった。
ドードーとしていても
ヨーロッパ
からきた船
員の食料
となって絶
滅してしま
った。
トキすでに遅し
農薬によるドジョウなどの餌の激減
が絶滅につながった。
絶滅種
●絶滅 Extinct (EX)
過去、日本で生息していたが、すで
に野生、飼育ともに絶滅したと考えら
れる種
●野生絶滅 Extinct in the Wild (EW)
過去、日本で生息していたが、現在
では飼育のみで存続している種
絶滅危惧種
●絶滅危惧種Ⅰ類
・絶滅危惧ⅠA 類 Critically Endangered (CR)
・絶滅危惧ⅠB 類 Endangered (EN)
●絶滅危惧Ⅱ類 Vulnerable (VU)
絶滅の危険性が増大している種)
●準絶滅危惧 Near Threatened (NT)
生息条件の変化によっては「絶滅
危惧種」に移行する可能性がある種
日本の絶滅種(鳥類)
ハシブトゴイ、カンムリツクシガモ、マ
ミジロクイナ、リュウキュウカラスバト
、オガサワラカラスバト、ミヤコショウ
ビン、キタタキ、ダイトウミソサザイ、
オガサワラガビチョウ、ダイトウウグ
イス、ダイトウヤマガラ、ムコジマメグ
ロ、オガサワラマシコ(以上EX13種)
トキ(以上EW1種)
日本の絶滅危惧種(鳥類)
チシマウガラス 、コウノトリ、クロツラ
ヘラサギ、シジュウカラガン、ダイト
ウノスリ、カンムリワシ、カラフトアオ
アシシギ、コシャクシギ、ウミガラス、
ウミスズメ、エトピリカ、ワシミミズク、
シマフクロウ、ノグチゲラ、ミユビゲラ
、 ウスアカヒゲ、オオトラツグミ(以上
CR17種)
日本の絶滅危惧種(鳥類)
コアホウドリ、アカオネッタイチョウ、 アカア
シカツオドリ、サンカノゴイ、 オオヨシゴイ、
ツクシガモ、オジロワシ、オガサワラノスリ
、クマタカ、イヌワシ、 シマハヤブサ、ヤン
バルクイナ、チシマシギ、ヘラシギ、アマミ
ヤマシギ、セイタカシギ、アカガシラカラス
バト、ヨナクニカラスバト、キンバト、キンメ
フクロウ、オーストンオオアカゲラ、ヤイロ
チョウ、モスケミソサザイ、オオセッカ、オガ
サワラカワラヒワ(以上EN25種)
日本の絶滅危惧種(鳥類)
アホウドリ、シロハラミズナギドリ 、ヒメクロウミツバメ 、ク
ロコシジロウミツバメ、オーストンウミツバメ、クロウミツバ
メ、アオツラカツオドリ、 コクガン、ヒシクイ 、トモエガモ 、
オオワシ、オオタカ、リュウキュウツミ 、チュウヒ、ハヤブ
サ、ライチョウ、タンチョウ、ナベヅル、マナヅル、オオクイ
ナ、シマクイナ、アカアシシギ、ホウロクシギ、ツバメチド
リ、ズグロカモメ 、オオアジサシ、コアジサシ、ケイマフリ
、カンムリウミスズメ、シラコバト、リュウキュウオオコノハ
ズク、ブッポウソウ、クマゲラ、アマミコゲラ、サンショウク
イ、チゴモズ、タネコマドリ、アカヒゲ、ホントウアカヒゲ、
アカコッコ 、ウチヤマセンニュウ、イイジマムシクイ、ナミ
エヤマガラ、オーストンヤマガラ 、オリイヤマガラ、ハハ
ジマメグロ、コジュリン、ルリカケス(以上VU 48種)
現在は新たな絶滅期?
全生物の95%以上が絶滅したと考え
られているペルム紀大絶滅や、KT境
界における恐竜の大絶滅のように、地
球上ではこれまでに何回かの大絶滅
が起こった。
今、起きている多数の種の絶滅は生
物の進化の歴史の中で必然的?
過去の絶滅との違い
絶滅のスピードが速すぎる。
人口の増加と、ヒトの活動による生
息環境破壊(habitat destruction)が
もっとも大きな要因である。
たった一つの生物種(Homo sapience)
によって、絶滅が起こっている。
生物多様性とは
1)遺伝子レベルの多様性
2)種レベルの多様性
3)群集と生態系レベルの多様性
生物多様性とは
遺伝子レベルの多様性
種レベルの多様性
群集と生態系レベルの
多様性
生物多様性消失の要因
1)生息環境の破壊(habitat destruction)
2)外来種の移入(introduced species)
3)乱獲(overexploitation)
4)食物連鎖の攪乱
(food chain disruption)
生物多様性条約
1992年、ブラジルのリオデジャネイル
で世界環境会議が開かれ、生物多様
性条約に参加した各国は署名、その
後国内で加盟手続き。日本は翌年加
盟。
多様性の保護に関して各国の行動を
規定。多様性の消失に一定の歯止め
のために有効であると思われる。
生物多様性条約
アメリカはいまだに加盟していない。こ
の後、1996年暮れに、京都において
開催された地球温暖化防止京都会議
で採択された京都議定書も同様に参
加していない。
このようなアメリカ一国主義は糾弾さ
れるべきであろう。
何故生物多様性か
「生態学上、遺伝上、社会上、経済上
、科学上、教育上、文化上、レクリエー
ション上及び芸術上の価値を意識し」
と多様性条約の前文に書かれている。
これって生物のことを考えているわけで
はないことが明白。ヒトの都合。
何故生物多様性か
「地球上に生息するすべての生物は
それ自身で固有の価値を持ち、生存
する権利を有する。それらが多様であ
ればあるほど、お互いの結びつきは
多様になり、地球上での生命の歴史
をともに歩むためにより豊かになるこ
とを意識し」
ぐらいのことを書いてほしかった。
多様なわれわれ
最近になってSNP(single nucleotide
polymorphism、スニップ、一塩基多型
)と呼ぶ、遺伝子DNA塩基配列の1ヶ
所だけが個人によって違う個所が、日
本人では19万個あると発表。
見かけは同じでも、遺伝子のレベルで
見れば我々はこのような多様性を内
包しているのである。
多様なわれわれ
そのことを自覚し、ヒトとは違う生物の
多様性を理解し、生態系の多様性を
考えて、我々ヒトはどのような行動をと
ったらいいのか、真剣に考えていこう
ではないか。