トランジット惑星系におけるRossiter効果 I.HD209458での観測結果

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トランジット惑星系におけるRossiter効果
I. HD209458での観測結果
東京大学大学院 理学系研究科 成田憲保
共同研究者
太田泰弘、樽家篤史、須藤靖 (東京大学)
Joshua N. Winn (Harvard-Smithsonian Center)
Edwin L. Turner (Princeton Univ.)
佐藤文衛、田村元秀、山田亨、青木和光(国立天文台)
Rossiter効果について
惑星が主星の前を横切ることによる
見かけの視線速度(RV)のケプラー運動からのずれ
→ 惑星の公転の仕方に関する情報が得られる
視
線
速
度
の
ず
れ
惑星の公転軌道例
時間
Ohta, Taruya & Suto (2005)
これまでの検出例
• OHP /ELODIE Queloz et al. (2000) , Bouchy et al. (2005)
• Keck /HIRES
Winn et al. (2005) , Sato et al. (2005)
• VLT /UVES
Snellen (2004)
それぞれの視線速度の決定方法
• リファレンス+星のスペクトル
 視線速度測定用のヨードセル+解析ソフトを用いる(Keck)
 ファイバー分光でThと星の同時観測を行う(ELODIE)
• 高分散分光観測で星の各吸収線の波長変動を調べる
 Snellen (2004) で検出が報告された(VLT)
Motivation
すばる望遠鏡でRossiter効果の初検出を目指す
ヨードセル vs 通常分光観測
 すばるではヨードセルを使わずどれくらいの精度があるのか?
 将来のRossiter効果の観測に適した戦略は何か?
 視線速度の決定精度を決める誤差の要因は何か?
今回はすばる/HDSでHD209458のトランジットを
分光観測したデータを用いて視線速度解析を行った
観測設定
すばる /HDS による高分散分光観測
2002年10月の1晩でTransitを含む
30フレームのデータを取得
(観測前後にTh-Arデータを取得)
観測パラメータ
観測波長領域 4100~6800Å
観測phase
波長分解能
45000
露光時間
~ 500 秒
SN / pix
~ 450
解析手順1.Lineの決定とRVへの変換
解析の流れ
1. IRAFで一次処理の後、fitsからasciiデータに変換
– IRAFでTh-Arによる波長較正を行い、continuumをとった
2. 強度が0.15以上のlineについて、中心部の20pixelを用いて
Gaussianフィットを行いline centerを求める
– フィットのχ2/νが1より小さいもののみlineとして採用した
3. 基準のフレームに対するRVを求める
4. 各lineのRVの時間平均が0になるようRVの原点を取り直す
– 基準フレームのRVは平均値のまわりにほぼランダムにばらついた
RVの変化要因
各時刻(ti)・各吸収線(n)のRV
星の視線速度(求めたいもの)
地球運動による視線速度のずれ
観測機器の何らかの変動による
見かけの視線速度のずれ
解析手順2.地球運動の補正
RV correction(+)
Earth Motion Correction
400
300
200
100
0
-100
-200
-300
-250
-200
-150
-100
-50
time(min)
0
50
100
150
TEMPOを用いてパルサーのパルス到達時刻から
地球運動のRV補正値を求め、補正した
解析手順3.RVのpixel依存性の決定
本来全ての吸収線は同じRVを示すはず…
CCDのpixelによって、RVが±200m/s程度のうねりを見せる
pix vs RV (8761)
(8721)
observed RV
300
200
200
100
100
0
0
-100
-100
-200
-200
-300
-1
-0.5
0
pix [0,4100]=[-1,1]
0.5
1
平均値をRVとし、フィットのまわりのバラつきを誤差とした
解析手順4.Telluric Lineの位置合わせ
6275-6310Åの強い酸素大気吸収線を用いて
Cross-Correlationで求めたTelluric Lineの位置のずれを補正した
誤差の見積り
1. RVの特性曲線のまわりのバラつき ~30 m/s
2. Telluric Lineのずれの決定精度 5~15 m/s
3. 地球運動補正値の決定精度 ~1 m/s
以上の square rootから典型的な誤差は~35 m/s となった
結果:全体の視線速度曲線
Observed RV and best-fit curve
150
RV (m/s)
100
50
0
-50
-100
-150
Kepler運動の部分がかなりずれている
-250 -200 -150 -100
-50
time (min)
0
50
100
150
トランジット中のデータから求めたOTS公式(2005)による
ベストフィットは順方向のRossiter効果を示した
結果:Na D線との比較
Overall - Sodium
100
RV residual
75
50
25
0
-25
-50
-75
-100
-250
-200
-150
-100
-50 systematicなずれがあるように見える
0
50
100
150
time(min)
pixel補正を行ったNa D線のRVの平均値を全体から引いたもの
errorが大きく有意なRossiter効果の変化は見られない
明らかになった事と今後の課題
• ヨードセルを用いないすばる/HDSのRVの決定精度は
~35 m/s となった
 主要な誤差はpixel依存した特性曲線のまわりのバラつき
 「検出」はできても惑星系の「モデリング」まではできないレベル
• 精度の向上を目指すにはどうしたらよいか?
 ヨードセル入りflat fieldのデータに同様の解析をすればHDSの
特性曲線の動向がつかめるのでは?
 トランジットのない日のデータセットに対しても解析を行う
 理論曲線とのresidualに対して天体のaltitudeや望遠鏡の回転
速度など他のパラメータとの相関を見る
まとめ
• すばる/HDSの通常分光観測データでRossiter効果の
検出を試みた
 HDSのpixelに依存したRV特性曲線が見つかった
 視線速度の精度としてはヨードセルに及ばない
 順方向のRossiter効果を検出した
• 観測への示唆
 この方法には星のスペクトル情報が残るという利点がある
 現状ではヨードセルを用いた視線速度観測の方がすばるでの
Rossiter効果測定に適していると思われる
• 今後の追加解析
 観測機器によるRV変動のモデル化と除去を目指す