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2015/2/13
修士論文発表会
SeaQuest実験における
ミューオントラックを用いた
ドリフト・チェンバーの性能評価
基礎物理学専攻 柴田研究室 眞田 塁
目次
1.
2.
3.
4.
5.
陽子の内部構造
SeaQuest実験の概要
ドリフト・チェンバーの検出効率の測定
ドリフト・チェンバーの検出効率向上の為の原因究明
まとめ
1
1. 陽子の内部構造
陽子は3つのヴァレンスクォーク、およびグルーオンと
海クォークから構成されている(左上図)
_ _
• u と d の存在量は同じであると考えられていた。
_ _
• u と d の量が同じではないことが判明
(1991年のNMCの深非弾性散乱実験)
• 0.015 < x < 0.35 の範囲でフレーバー非対称度 d u
を測定(E866実験)(左下図)
Bjorkenの x :
陽子の運動量に対するパートンの運動量の割合
2
d u
p parton
x=
パートン (parton) : 陽子の構成要素
p proton _ _
1
0
x < 0.3 : _d(x)/u(x)
_ >1
x > 0.3 : d(x)/u(x) < 1 ?(統計誤差が大きい)
x が大きな領域で反 u クォークの方が
反 d クォークよりも優勢であることを示唆
x
→ より精密な測定をする必要がある
2
2. SeaQuest実験の概要
SeaQuest実験
• アメリカのフェルミ国立加速器研究所で行われている固定標的型実験
• 陽子ビームと陽子ないし重陽子を標的としたドレル・ヤン過程(次ページ参照)を用いる
• 2013年11月から 2 年間に渡る物理ランが始まっており、データ収集を行っている
1.6
目的
_ _
0.1 < x < 0.45 の領域で d/u を精密測定
1.4
1.2
__
x の大きな領域で d/u < 1 であることを示せれば… d u 1.0
0.8
• 現在までにこのような x の大きな領域での実験値は無い
0.6
• このことを説明する理論は無い
0.4
陽子構造の新たな理論が必要であることを示唆できる
0.2
x
統計誤差の大きさの予測
3
ドレル・ヤン過程 :
q + q ® g * ® l+ + l-
特徴
• 反クォークが必ず反応に関与
→ 反クォークに対して高感度
• 散乱の運動学が明確
→ x を決定することが容易
ハドロン中の反クォークの
研究に対して有効な手段
_ _
ドレル・ヤン過程の反応断面積と反クォークの比 d(x)/u(x) には次の関係がある
s pd 1 é d (x) ù
@ ê1+
ú
2s pp 2 ë u(x) û
σpp : 陽子-陽子のドレル・ヤン過程の反応断面積
σpd : 陽子-重陽子のドレル・ヤン過程の反応断面積
_ _
反応断面積を測定することにより、d(x)/u(x) を算出できる
4
加速器
ターゲット
• フェルミ国立加速器研究所のMain Injector
• 120 GeVの高強度陽子ビーム
• ビーム強度 : 2 x 1012 protons / sec
→ 2年間で総計 1.05 x 1019 個の陽子ビーム
検出器群 (生成されるミューオンを検出する)
• 標的、2 つの電磁石(FMAG、KMAG)、4 つの飛跡検出器、2 つのハドロン吸収装置からなる
• この飛跡検出器によって、ミューオントラックの位置を知ることができる
• 電磁石によってミューオンは曲げられるので、その曲率から運動量を決定できる
(
Station 3
上がSt. 3+
下がSt. 3-
)
FMAG &
Hadron Absorber
陽子ビーム
KMAG
25 m
5
SeaQuest実験におけるドリフト・チェンバーの構造
• 各ドリフト・チェンバーは6層の検出層からなる
• XとXpは y 軸と平行にワイヤーが張られており、
VとVp、UとUpは y 軸に対してそれぞれ+14°、
-14°だけ傾けて張られている
y 方向の分解能を得ると同時に、
x 方向の分解能を高めている
1.8 m
y
z
2.2 m
x
ドリフト・チェンバーの原理
• カソードワイヤーに負の電圧(-2.4〜-1.4 kV)が
印加されており、セル内に電場が生じている
• 荷電粒子によって電離した電子がセンスワイヤー
に向かってドリフトし、電子雪崩となってセンスワ
イヤーで検出できる大きさの信号となり、荷電粒
子が検出される
電子のドリフト時間から、粒子の通過位置を調べられる
電子のドリフト速度は電場とガスの種類によって大きく変わる
SeaQuest実験ではAr:CH4:CF4 = 88 : 8 : 4 の混合ガスを使用
2 cm
6
SeaQuest実験の目標である精密測定を達成する為には、
生成されたミューオンの検出効率について調べることが重要である。
私は修士課程において、SeaQuest実験で用いられているドリフト・チェンバー
について、以下の研究を行った。
(1)検出効率の測定
(2)検出効率のヒット・レートに対する依存性の研究
(3)検出効率向上の為の原因究明
これらにより、精密測定を達成する為のドリフト・チェンバーの検出効率の評価
と、その調整に貢献した。
今回の発表では、(1)と(3)の研究について説明をする。
7
3. ドリフト・チェンバーの検出効率の測定
ローカル・トラック : 各チェンバーにおける6層分のヒットを用いて再構成されたトラック
(40 cm)
~~~~~~
グローバル・トラック : 全チェンバーのヒットを用いて再構成されたトラック(最大18層)
(25 m)
~~~~~
• これまでの検出効率の評価は、ローカル・トラックを用いて行っていた
• 私はグローバル・トラックを用いて、検出効率の評価を初めて行った
• グローバル・トラックのミューオンは、実際に物理解析に用いられる運動学的領域の
ミューオンである
St. 3+/-
ローカル・トラック
x
y ・
グローバル・トラック
z
8
解析するデータのミューオントラック : ダイミューオン(μ+μ-)トリガーによるデータを解析
y-position (cm)
D3pVp
D2U
60
7000
40
6000
20
5000
y-position (cm)
1200
100
450
140
400
120
350
100
300
80
250
60
200
40
150
20
100
St. 3+
50
0
-150
-100
-50
0
50
1000
100
150
x-position (cm)
0
50
800
4000
0
0
600
3000
-20
-50
400
2000
-40
1000
-100
200
-60
-40
-20
0
20
40
x-position (cm)
0
-100
-50
0
50
100
x-position (cm)
0
D3mXp
y-position (cm)
y-position (cm)
D1Up
160
0
700
-20
600
-40
500
-60
400
-80
St. 1
St. 2
-100
300
-120
200
St. 3-
-140
100
-160
主なミューオントラック
-150
-100
-50
0
50
100
150
x-position (cm)
0
x
z
y ・
9
検出効率の算出方法
• 再構成したミューオントラックの内、17層以上のヒットに
よって再構成されたグローバル・トラックを用いる
Neff : 注目する検出層にヒットがあるトラックの数
Ninef : 注目する検出層にヒットが無いトラックの数
これらを用いて、注目している検出層の
検出効率 E を以下のように定義する
注目する検出層
Neff にカウントされるトラックの例
N eff
E=
N eff + N inef
分母:少なくとも、注目している検出層以外の17層の
ヒットを用いて再構成されたトラックの数
分子:注目している検出層を含めて、18層全ての
ヒットを用いて再構成されたトラックの数
以下では、この検出効率 E を用いて評価する
注目する検出層
Ninef にカウントされるトラックの例
10
各単一検出層の検出効率の測定結果
各単一検出層での
検出効率の目標値 : 95 %
目標値との比較
• St. 1 ドリフト・チェンバー(D1)
目標値
全検出層で目標値達成
• St. 2 ドリフト・チェンバー(D2)
検出層XとXp以外で目標値達成
• St. 3+ ドリフト・チェンバー(D3p)
全検出層で目標値より低い
• St. 3- ドリフト・チェンバー(D3m)
全検出層で目標値達成
• 24層中16層の検出効率は目標値を大きく上回っていることが分かった。
• 目標値よりも低い8層の検出層については、目標値を大きく下回っている訳ではなく、
Stationごとに6層あるので、トラッキング効率への影響は大きくないと考えられる。
目標値によるトラッキング効率 = 93.5%
11
4. ドリフト・チェンバーの検出効率向上の為の原因究明
• St. 3+ドリフト・チェンバーで検出効率が目標値より低かった理由
St. 3+のリークカレント(〜10 μA)が他のドリフト・チェンバー(〜1 μA)よりも大きくなっていた
→ リークカレントの上昇を抑える為に、印加電圧を下げる(-2.07 kV→-2.03 kV)などの印加電圧
の調整をしながら運転していた
→ 印加電圧を下げることによって電子の増幅率が下がり、検出効率が小さくなった
検出効率向上の為には、リークカレントの上昇を防ぐ対策を取る必要がある
• リークカレントが大きくなる現象について、以下のことが分かった
1. 室内の湿度とリークカレントが相関を持っている
→ 空気中の湿度(水分)がSt. 3+ドリフト・チェンバーの測定に影響を与えている?
1. ほぼ同じ構造を持つSt. 3-ドリフト・チェンバーではリークカレントの上昇は見られない
2 つのチェンバーの異なる点は、表面に張ってあるMylarが、
St. 3-ではアルミ被覆されており、St. 3+ではされていない点である。
→ Mylarがアルミ被覆されていると、リークカレントは湿度に依存しない?
アルミ被覆されていないMylarを通して空気中の水分がSt. 3+ドリフト・チェンバー
内のガスに混入し、リークカレントに影響を与えている可能性がある
12
St. 3+
ドリフト・チェンバー
1.8 m
y
2.2 m
x
St. 3ドリフト・チェンバー
2.2 m
× z
1.8 m
13
実際に内部に湿度(水分)が混入しているかどうかを調べる為に、
ドリフト・チェンバーの測定値の湿度依存性について考える
・ 水分の混入によってガスの成分比が変わると、ドリフト速度が変化する
→ ドリフト速度に関係する測定値と湿度との相関を調べれば、ガス内への湿度(水分)の
混入による測定への影響があるかどうかが分かる
TDC時間 : 粒子が検出層を通った時間をSTART、全Stationのホドスコープを通過した
時間をSTOPとした時のSTART時刻とSTOP時刻の時間差の測定値。
• St.3+ドリフト・チェンバーとSt.3-ドリフト・チェンバーのTDC時間分布の形状について、
湿度が高い時と低い時とを比較をすることにより、 TDC時間分布の湿度依存性を調べる
Humidity(%)
比較するデータ:#1 (65%) vs #2 (45%)
2
1
65%
45%
Date
14
• 湿度の大きさによって、TDC時間分布の
形状が異なることが分かった
• St. 3+ドリフト・チェンバーのTDC 時間分布
は湿度に依存して変化すると考えられる
Normalized Yield
St. 3+(上半分のドリフト・チェンバー)での湿度依存性
TDC Time at D3p (in #57 runs)
0.04
#1 : 65%
#2 : 45%
#4 : low humidity (45%)
#6 : high humidity (65%)
0.035
0.03
0.025
0.02
0.015
• St. 3+では湿度(水分)が測定に影響を与
えていることが示された
0.01
0.005
0
0
50
100
150
200
St. 3-(下半分のドリフト・チェンバー)での湿度依存性
• St. 3-には、St. 3+のような違いは無い
TDC Time at D3m (in #57 runs)
Normalized Yield
• St. 3-ドリフト・チェンバーのTDC 時間分布は
湿度に依存していないと考えられる
250
TDC time (ns)
0.04
0.035
#6#1
: high:humidity
#4
65%(65%)
#2 : 45%
#4 : low humidity (45%)
#3
0.03
0.025
• Mylarがアルミ被覆されているので、水分が
0.02
混入せず、測定に影響が無い為だと考えられる 0.015
0.01
アルミ被覆していないMylarを通してSt. 3+内の
ガスに水分が混入し、測定に影響を与えている
0.005
0
0
50
100
150
15
200
TDC time (ns)
対策
40
2014年
30
20
10
Leak current (μA)
Leak current (μA)
• St. 3+ドリフト・チェンバーのMylarの上から、更に
アルミ被覆したMylarを重ねて張り、湿度の混入
を防いだ。
• 対策後、リークカレントの値は1 μA以下で安定して
おり、対策の効果は出ていると考えられる。(対策
前は約10 μA周辺で大きく変動していた)
• これより、検出効率は安定すると考えられる。
• トラッキングデータは現在取得中である。
0.6
対策後のSt. 3+ドリフト・チェンバー
2015年
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.0
対策前のリークカレント
Date
対策後のリークカレント
Date 16
5. まとめ
• 陽子は3 つのヴァレンスクォーク、およびグルーオンと海クォークか
ら構成される。
• SeaQuest実験の目的は、陽子内部のフレーバーの非対称度を精密
に測定することである。
• 精密な測定を達成する為には、生成されたミューオンの検出効率を
調べることが重要である。
• 私は物理ランデータの解析によるグローバル・トラックを用いて、ドリ
フト・チェンバーの検出効率を調べた。
 24層中16層の検出効率は、目標値である95 %を達成していること
が分かった。
 St. 3+ドリフト・チェンバーのガスに空気中の水分が混入し、測定に
影響を与えていることを示した。その結果を基に、チェンバー内に
水分が混入しないようにする対策を行った。
 対策前は10 μA周辺で大きく変動していたSt. 3+ドリフト・チェンバー
のリークカレントが、対策後は1 μA以下で安定するようになり、対策
の効果が現れていると考えられる。
17
• このように、ドリフト・チェンバーの検出効率の評価とその調整に貢献した。
Back Up
18
Mass 分布
1800
E906 preliminary
1600
シミュレーションによる分布と
バックグラウンドの和
1400
Events / 100 MeV
1200
J/ψ(シミュレーション)
1000
800
ψ’(しミュテーション)
600
ドレル・ヤン過程
(シミュレーション)
400
200
0
0
1
2
3
4
5
6
Mass (GeV)
7
8
9
10
バックグラウンド(物理ラン)
19
TDC Time at D3p (in #57 runs)
• 湿度に依存して変化する場合
 #1 と #3 の形状は同じになる
 #1 & #3 と #2 の形状は異なる
• 湿度に依存しない場合
 #1, #2, #3 の形状は全て異なる(時間依存)
か、全て同じ形状になる
右上図から比較すると…
•
•
Normalized Yield
#1 (46%), #2 (62%), #3 (45%)
0.05
0.045
#1 : 46%
#1 : humidity = 46%
0.04
0.035
0.03
#2 : 62%
#2 : humidity = 62%
#3 : 45%
#4
#3: humidity = 45%
0.025
0.02
0.015
0.01
0.005
0
0
湿度の大きさによってTDC時間分布が異なる
湿度が同程度の時、TDC時間分布は同じ形状を持つ
St. 3+ドリフト・チェンバーのTDC 時間
分布は湿度に依存して変化する
50
100
150
200
250
TDC time (ns)
湿度とリークカレントの相関
赤:高湿度
青:低湿度
21
Mylarの水蒸気透過率
Mylarの面積 : 5.6 m2 = 8640 in2
D3pの体積 : 1560 L
Mylarの厚さ : 50 μm = 2 mil
1時間に約3.6 Lの水蒸気が透過する
(湿度4〜7%、温度20〜30°C)
=5 時間でガスの1 %が水蒸気になる
ガスのflow rate(St. 3+) = 1時間に7 L
22