中央教育審議会への諮問 青少年の意欲を高め、心と体の相伴った成長

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Transcript 中央教育審議会への諮問 青少年の意欲を高め、心と体の相伴った成長

第11回 遺伝子と栄養
右の図はDNA(デオキシリボ核酸)の
構造を示しています。A,G,C,Tという4種
の塩基の並び方によって、生物の遺伝
情報はすべて決まります。僅か2種の0
と1の配列だけで、電算機は文章も図も
全て表すことが出来るのと同じです。
一個の細胞の全ての遺伝情報をゲノ
ムといい、身体を作っている60兆個の
体細胞の一つ一つに同じゲノムが入っ
ているのです。ゲノムは全身の設計図
ですから、親羊の1個の体細胞からク
ローン羊が作れるのです。 ニュートリ
ゲノミックスはニュートリション(栄養)と
ゲノミックス(ゲノム解析学)の合成語で
す。
DNAの二本鎖は互いにコピーして遺伝
水素結合
G-Cは3本
A-Tは2本
香川靖雄ほか. コア人体の分子生
物学, 丸善, 1997, 2p.
一卵性双生児は二卵性双生児よりも発病の一致度が高い
一卵性兄弟の一方が発病しないので高率の予防の可能性
双生児の兄弟両方の発症頻度
統計的な有意差
一卵性双生児
(男62組、女63組)
同性二卵性双生児
(男86組、女92組)
肥満度(BMI)
0.68
0.28
<0.001
120分血糖上昇
拡張期血圧
0.52
0.55
0.47
0.26
0.17
0.07
<0.05
<0.001
<0.01
HDLコレステロール
0.61
0.26
<0.001
収縮期血圧
p 値
値
文献 : P.Poulsen et al. Diabetologia 44:537-543 (2001)
アルデヒド脱水素酵素多型とエタノール消費量の分布
弥生系の日本人の多い近畿、中国、北陸で少。
日本人の栄養関連遺伝子多型の特徴
1.飢餓耐性: 軽い肥満でも糖尿病や梗塞: βARs、UCPs
2. 食塩感受性: 食塩1日10g以上で高血圧: AGTのTT型
3. アルコール感受性: 酒に弱い人は食道癌: ALDH2の2型
4.乳糖不耐性: 牛乳飲用の限度500ml: 成人lactase欠損
5.消極的・共同的性格: 指導は丁寧に: SerotoninTのSS型
6.葉酸とエピジェネティックス:認知症、脳梗塞: MTHFRのTT型
7.膵島分泌量:白人の半分で糖尿病体質: SOCS2の多型
8.解毒能特異性:食品機能成分有効性の人種差:CYP多型
9. ミトコンドリアのハプロタイプ : 新モンゴロイドの特徴
DNA複製
RNA転写
蛋白質翻訳
香川靖雄ほか. コア人体の分子
生物学, 丸善, 1997, 16p.
DNAの
抽出と
検出法
香川靖雄ほか. コア人体の分子
生物学, 丸善, 1997, 20p.
ニュートリゲノミックスの概要
各細胞内の
全集合体
(オーム)
環境因子
(栄養素、機能
成分、運動等)
DNA
:
ゲノム
転写
(リボ核酸)
個人差
遺伝子多型(SNPなど)
(デオキシリボ核酸) (genome)
RNA
解析学
(オミックス)
細胞内存在量比(プロファイル)
: トランスクリプトーム
(transcriptome)
細胞差
*DNAのCpGメチル化*
ヒストンアセチル化
遺伝子発現プロファイル
(mRNA合成量)
翻訳
Protein
: プロテオーム
(たんぱく質)
(Proteome)
たんぱく質発現ファイル
(酵素・受容体など)
代謝
Metabolites : メタボローム
代謝産物プロファイル
(代謝産物)
(血糖、血清脂質、乳酸等)
(Metabolome)
作用発現の多様性
ゲノミックス
(genomics)
*エピジェネティックス
(epigenetics)
トランスクリプトミックス
(transcriptomics)
プロテオミックス
(proteomics)
メタボロミックス
(metabolomics)
バイオインフォーマティックス
(bioinformatics)
心身の全活動
生活習慣病、老化
香川靖雄. やさしい栄養学.
女子栄養大学出版部, 2006, 163p.
生活習慣病予防とモンゴロイドの遺伝子多型
メタボリックシンドロームの機構
モンゴロイドの飢餓
耐性遺伝子多型
コーカソイドの生活様
式のグローバル化
安静時代謝量とβ3アドレナリン受容体多型
女子栄養大学生
175名
(平均年齢 21)
(kcal/day)
女子栄養大学
クリニック受講者
127名
(平均年齢 50)
2000
P<0.01
NS
1500
1000
500
R/W
W/W
0
R/W
W/W
出典:上西一弘教授(栄養生理学)
女子栄養大学栄養クリニックの肥満遺伝子多型
酵素ではなく生体膜の受容体や輸送体の多型
①β3アドレナリン受容体
(β3AR)
Trp64Arg
② 脱共役蛋白質2(UCP2)
45bp insertion/deletion
③ 脱共役蛋白質3
(UCP3)
C-55T
いずれもエネルギー変換
に関する膜蛋白質
β3AR
β3AR
UCP2
UCP1
白色脂肪細胞
褐色脂肪細胞
遊離脂肪酸
β2AR
UCP3
骨格筋細胞
日本人の肥満遺伝子多型の頻度と安静時代謝量の増減
受容体、輸送体の多型が多く、酵素の多型は少ない。
遺伝子名
遺伝子多型
残基と位置
安静時代謝量の差
Kcal/日
β3-AR
Trp64Arg
-200 (Arg アリル)
26%
β2-AR
Arg16Gly
+300 (Gly アリル)
16%
UCP1
a-3826g
-100 (G アリル)
40%
UCP2
Insert/Del
-200 (欠失)
35%
UCP3
c-55t
-100 (t アリル)
63%
Kir6.2
Glu23Lys
+100 (Lys アリル)
41%
LEPR
Gln233Arg
-100 (Arg アリル)
85%
RAGE
g1704t
-350 (t アリル)
14%
MTP
g-493t
-100 (t アリル)
21%
日本人中のアリル頻度 %
吉田俊秀,「肥満治療」, Available from <http://metab.kuhp.kyotou.ac.jp/IKAI/report/no8.html>, (accessed 2007-12-11)
日本人は軽度肥満で糖尿病になりやすい。インスリン分泌が少ない
SOCS2(supressor of cytokine signaling 2) 多型の相違
メタボリックシンドロームは危険因子保有数が
3を越えると健常人の31倍危険になる。
危険度は単なる足し算ではない。
発症オッズ 比
危険因子保有数と虚血性心疾患発症オッ ズ比
35
30
25
20
15
10
5
0
危険因子
発症オッズ比
肥満
高血圧
高血糖
0
1
2
3~4
危険因子保有数
高脂血
高血圧を促進する遺伝子多型のアリル頻度
(単位:%)
アンジオテンシノーゲン
T235
81
日本人
(Ishikawa, Hypertension
2001)
アルドステロン合成酵素
T-344
69
日本人
白 人
57
日本人
白 人 15
45
白 人
αアデュ-シン
Trp460
50
(Tsujita, Hypertens Res 2001)
(Ishikawa, Am J Hypertens
1998)
G蛋白β3(Na-Hポンプ)
T825
52
日本人
白 人
25
(Ishikawa, Am J Hypertens
2000)
一酸化窒素合成酵素遺伝子T786C多型でも、食
塩摂取量11.7g/日以下なら高血圧にならない。
150
145
140
135
TT型
TC/CC型
130
平均45歳の
日本人281人
125
120
115
<7.5g
7.5-9.2g
9.2-11.7g
>11,7g
17%が高血
圧になりやす
いTC/CC型
Miyaki. K. et al. “Salt Intake Affects the Relation Between Hypertension
and the T-786C Polymorphism in the Endothelial Nitric Oxide Synthase
Gene” Am J. Hypertension. 18(12), 2005, 1556-62
介入試験3年後における高血圧発症率と
アンジオテンシノーゲン遺伝子多型
50
高
血
圧
発
症
率
(
%
)
45 44
TT型
TM型
MM型
41
40
36
32
32
28
30
32
25
20
10
0
観察のみ
減塩食
減量
肥満度(BMI)は4種の肥満関連遺伝子多型があって
も、栄養クリニックの指導で無投薬で改善できる。
β3AR
(㎏/m2)
35.0
30.0
25.0
ns
p<
26.4
-1.7
p<
野生型群(n=91)
25.0
変異型群(n=56)
UCP3
35.0
30.0
-1.7
25.5 23.9
24.6
20.0
(㎏/m2)
(㎏/m2)
ns
p<
-1.8
26.1 24.4
-1.7
p<
25.9
-1.2
35.0
-1.8
30.0
-2.4
25.0
-3
20.0
(㎏/m2)
(㎏/m2)
-1.2
35.0
-1.8
30.0
-2.4
25.0
変異型群(n=83)
受講前
-1.7
26.2 24.5
野生型群(n=105)
-1.7
p<
25.5 23.9
変異型群(n=42)
-1.7
p<
0.0001
-1.8
-2.4
FABP2
ns
-3.0
(㎏/m2)
-1.2
-1.7
p<
26.1 24.4
20.0
-1.8
-2.4
-3.0
野生型群(n=59)
受講後
-1.2
p<
25.8 24.1
-3.0
(㎏/m2)
ns
24.2
20.0
野生型群(n=64)
UCP2
(㎏/m2)
変化量
変異型群(n=86)
受講前vs受講後はWilcoxonの符号付順位検定、
野生型群vs変異型群はMann-WhitneyのU検定
脱共役蛋白質2の欠失/欠失同型接合体変異型
の栄養・運動指導後の血清脂質改善
(mg/dl)
260
総コレステロール
p=0.0007
p=0.0005
p<0.0075
(mg/dl)
p=0.0417
p<0.0001
115±48
241±53
240
130
中性脂肪
110
p<0.0001
p<0.0001
97±42
225±46
90
220
210±36
80±25
75±25
200
180
70
197±36
50
受講前 受講後 受講前 受講後
野生群
(n=105)
変異型群
(n=42)
受講前 受講後 受講前 受講後
野生群
(n=94)
変異型群
(n=34)
西欧化でタイでも糖尿病・冠疾患が激増
During this 15 years:
Heart diseases x 5.1
Diabetes x 7.5
Cancer x 1.3
Heart
disease
Diabetes
Cancer
Thailand Health Profile 2000
アジア人の間の遺伝子多型頻度は類似
女子栄養大学ハイテク・リサーチ・センター
Okinawa (n=100)
PPARg2
LEPR ex6
Apo E
AGT M235T
2
98
11
2
AGT a-20c
b3AR
LEPR ex14
4 26
7 30
63
52
42
25
56
46
19
40
70
14
25 5
95
5
31
25
36
66
81
90
40
31 3
18 1
91
7
88
96
69
91
99
58
12 4
51
8 1
86
7 35
68
2 12
73
56
9
12 2
71
12 20
36
Mongol (n=252)
96
326
81
3
6
13
70
7 7
91
Palau (n=118)
94
6
89
UCP2
UCP3p
Thai (n=212)
81
41
27
3
15
41
52
69
4
45
14
30 1
72
26 2
9
65
33 2
1
71
27 2
生活習慣病とモンゴロイドの感受性遺伝子
A
モンゴロイドの感受性遺伝子
B
脂質、食塩、酒、牛乳、運動、ストレス、薬物
交互作用
発 症
世論も遺伝子検査への賛成が圧倒的に増えた
朝日新聞2006年3月12日朝刊 文部科学省特定領域研究
「DNA」は知らない人が1%、意味を理解してい
る人が55%と、かなり遺伝子の情報は定着。
医療に応用するゲノム研究については70%が
賛成、1%が反対、29%はどちらともいえな
いと答えた。薬の効きやすさを判定するため
の遺伝子検査を受けたいと答えた人は66%
で、成果を医療に応用することには肯定的
だった。
05年11月、全国の一般国民約4千人に質問
73%の人は遺伝子検査を希望
経産省:ゲノムベースによる
新健康増進サービス調査
(2006年2月)
節約遺伝子多型は適切な生活指導で経済的にも有利
で、抵抗力も強くなるので多型を告知するのが倫理的。
多型とは正常人集団の中の多様性であり、病気ではない。
節約遺伝子のβ3アドレナリン受容体のArg多型は1日200kcal少
なくて済む。一般食品は1kcal=1円、1家で36万円/年節約
節約遺伝子の保有者は災害時の生存の可能性が高い。
節約遺伝子の保有者であることを告知され、指導を受ければ、
一般人と同様に生活習慣病は予防されるので不利ではない。
節約遺伝子は不利だから、差別が起こると宣伝したのは誤解。
節約遺伝子の検査、告知は生活習慣病の予防に有益なので、
遺伝子検査への反対や、不安を煽る報道は非倫理的。
治療予防の可能な遺伝子検査と指導は、健診でも推進したい。
患者
自分
致死的疾患(末期癌等)に対する(第一世代)
遺伝子治療
患者
自分
重篤な生活の質低下に対する(第二世
代)
遺伝子治療
患者
自分
アイスランド等の全国民の遺伝子検査の
法的な促進
患者
自分
米国等のミトコンドリア移入等子孫に
伝達される遺伝子治療
患者
自分
健常者の心身の能力、容貌などを改善
する遺伝子操作の自由
○
×
○
×
その他
その他
遺伝子医学の倫理の賛否
(医学生の調査結果)
世界の遺伝子組換え農作物の世界の栽培面積の割合
(百万ha)
遺伝子組換え
非遺伝子組換え
160
140
120
100
80
60
40
20
0
55%
大豆
21%
ワタ
16%
ナタネ
11%
トウモロコシ