Transcript 講義資料6
7 グローバル化と民主政治 ①冷戦の終わりとグローバル化 冷戦という長い平和 勢力均衡と核抑止 イデオロギー対立は大国に一定の 利他主義を強いた 経済援助 文化教育交流 冷戦の受益者としての日本 平和国家日本の虚実 焼け太りの経済成長 =朝鮮戦争、ベトナム戦争の特需 憲法9条の理想と現実 火事は常に向こう岸にあった 冷戦の終わりとグローバル化 社会主義の終わり=理念の消滅 市場経済の世界化 利益追求が唯一の価値尺度 競争の激化と労働力の値崩れ ②グローバル化は何を変えたか A 国家の衰弱と国家権力の強化 資本に隷従する国家権力 =底辺への競争 ビジネスのしやすい国家のための減税、規 制緩和競争 市民的自由の喪失 =常時監視社会とプライバシーの消失 B リスクの巨大化 • 規制緩和がもたらした金融商品の 複雑化 • テロ、伝染病のグローバル化 • 安全な生活の稀少価値化 リスクの3層構造 • 生存のリスク: 生命への脅威 =夜警国家による対処 • 生活のリスク: 健康で文化的生活へ の脅威 =福祉国家による対処 • 新しいリスク: 気候変動 =グローバルな主体の必要性 C 格差と特権 富は金持ちに集中し、リスクは庶民に 押し付けるという分極化 =99:1というスローガン Too Big To Fail という開き直り アメリカ経済の矛盾 ウォール街占拠 マイケルムーアの闘い 政府のダブルスタンダード ウルリヒ・ベックの言葉 • 強者に対する国家社会主義 • 弱者に対する自己責任と市場原理 ③ ウィナー・テイク・オールの政治 • 富める者はますます富み、貧しいも のはますます貧しくなる時代 • 平衡メカニズムの崩壊 累進課税の緩和 社会保障の縮小 公共サービスの商品化 富裕層の所得税負担率 マタイ効果 • 持っている人は与えられて、いよいよ 豊かになるが、持っていない人は持っ ているものまで取り上げられるであろう 『マタイによる福音書』13章12節 格差は自ら増長し、雪だるま式に広がる 一人勝ち経済 • デファクトスタンダードを決める者が 競争を制する ウィンドウズとビル・ゲイツ • 企業の変容と寡占、独占 競争の消滅 なぜ一人勝ちの政治なのか • 民主主義の機能不全 • 99は1に勝てない • 票よりも金の影響力 企業献金という表現? • 「企業の政治献金を表現の自由として最大限 保障?」 ─米最高裁判所政治資金(広告)規制法違憲判 決 • 2010年1月21日、アメリカ最高裁で、企業・団 体等が政治広告に資金を支出することを制 限した政治資金規制法についての違憲判決 が出た。 政治献金正当化の議論 • 多数意見は違憲の根拠として、企業・団体等 は政治的表現の自由について個人(自然人) と同じ権利を持つ、だから資金を出すのも個 人と同じ保障が及ぶ、 よって表現の自由に対 する許されない規制である、という点を上げ ている。 企業献金への疑問 • 反対意見の核心は、 政治市場に企業・団体の 資金が溢れることを許容することは民主政治を 崩壊させる、 企業・団体の言論を個人(自然人) の言論と同視する多数意見は誤りである等の点 にある。 • 今回の判決を受けてオバマ大統領は 「石油会 社・ウォールストリートの銀行・保険会社の大勝 利。支出制限がなければ、彼らは多額の金を支 出して、 一般のアメリカ人の声をかき消そうとす るだろう」 と述べている。 政治における対抗力 • 労働組合の衰弱 • サービス経済と組織化のインセン ティブの低下 • 成功と機会平等の神話 平等を忌避するイデオロギー • 機会の平等と結果の平等という二 分法の誤り • 平等と特権の関係 米国:アファーマティブアクション 日本:裁量的格差是正措置 グローバル化時代の平等感覚 • 巨大な格差の放任 • 小さな格差の争点化 • プチ正義感に基づく底辺での平等 再分配を拒否する政治 • アメリカにおける富裕層の反逆 • 公共政策に対する等価交換原理の 適用 • 負担超過=非効率というドグマ 2つの共同性 • 現実世界の共同性 再分配の拒絶 弱者に対する選択自由の適用 • 仮想空間の共同性 観念としての国土と国民 無国籍化する資本 • 貧民のナショナリズム、エリートのコ スモポリタニズム • タックスヘイブンの闇 • 国家の無力化 ③日本の現状 ⅰバブル期以後の漂流 エセ改革によって何が変わったのか • 安心社会の崩壊 =規制緩和と競争社会の到来 • 社会保障制度の侵食 • 歳出抑制と地方の疲弊 ⅱ 構造改革による構造劣化 • 人口減少と高齢化という社会構 造変化 • 人々を幸福にしない成長という 経済構造変化 • 自己修正能力のない政治・行政 構造 所得分布の実態 一人当たり雇用者報酬の変化 企業収益と雇用者報酬 貧困の拡大 相対的貧困率の変化 賃金総額 男:女 ④政権交代とは何だったのか ⅰ 民主党政権の達成 • 新しい公共と寄付税制 • 明確な理念と政策形成装置の構 築 • 政治的リーダーシップと社会運 動の連携 格差是正への一歩 • 貧困、不平等という問題認識 • 現金給付による生活支援 • 人への投資 子ども手当、高校無償化の効果 ⅱ 政治主導の失敗 • 主語はあっても目的語がない →決意だけでは特攻隊と同じ • 民主党における理念の不在 バラマキ批判になぜ反論できないのか • 誰と戦う政治主導か=敵は内にあり 民主党にもいる族議員 官僚主義とは何か • 擬似目的への献身 • プロクラステスのベッド症候群=手段に 合わせて目的を裁断 • 事実からの逃走 すべてまとめて無責任の体系 ⑤これからどうするか 二大政党は可能か 我々は、どんな社会に生きたいの か? =社会保障の将来像をめぐる論争の 必要 社会モデルの選択を • 生活支援サービスの商品化か公共 財化か • 国民負担の内実を見極める必要 • 国民的議論と政党、メディアの責任 「高齢者は健康なのに病院に行く」「低所得層を救済すると働 かなくなる」「政府・公務員はムダ遣いする」・・・他者を信頼で きない国民の「租税抵抗」 他人と接する時、相手を信頼できるか、用心した方がよいか? オーストリア スイス ニュージーランド オランダ カナダ オーストラリア デンマーク フィンランド ノルウェー イギリス ドイツ フランス スウェーデン アメリカ 日本 いつでも信用してよい 大抵信用してよい 大抵用心した方が良い いつでも用心した方がよい 0% 20% ISSP Citizenship 2004 47 40% より作成。 60% 80% 100% 「最低の租税負担」だが、 中間層の「痛税感」は北欧よりも大きい 中間層の租税負担に関する調査 あまりに高すぎる 高すぎる 妥当だ 低すぎる あまりに低すぎる アメリカ イギリス スイス スウェーデン ノルウェー ニュージーランド オランダ 韓国 日本 アイルランド 西ドイツ フランス フィンランド デンマーク カナダ オーストラリア 0% 20% 40% ISSP Role of Government 2006 48 60% より作成。 80% 100% 所得階層別の社会保険負担 20 18 18.2 16 15.8 14 13.2 12.613 12.112 11.7 11.5 11.4 11 10.910.610.610.5 10.39.9 10.3 10.210 9.8 9.8 9.3 9.4 8.8 9.1 9 8.5 8 8.5 7.2 5.9 % 12 10 8 6 4 2 2001年 以 円 80 2007年 上 0 75 0~ 0万 0 70 0~ 65 0 60 0~ 55 0 50 0~ 45 0 40 0~ 35 0 25 30 20 0~ 15 0~ 10 50 万 円 未 満 0 0 累進課税の緩和=金持ちが得する 本当の負担率:家計支出の内容 スウェーデン 民間保険・教育・ 2.7 私的年金 デイケア 1.7 計 4.4 税 36.8 計+税 41.2 アメリカ 18.8 10.4 29.2 10.4 39.6 負担率-受益率=純負担率・・・スウェーデン<日本 中間層の利益が少ない (%) 純公的負担率 18 15.6 16 10.6 10.2 10.3 10.6 アメリカ イギリス 11.1 スウェーデン 12 日本 14 10 8 5.5 6 4 2 9.309242278 4.463723129 イタリア ドイツ フランス 0 14.9001125 9.890118278 9.385903061 9.445306236 18.30430058 フランス ドイツ イタリア 日本 スウェーデン アメリカ イギリス 純公的負担率=(租税・社会保障負担の対GDP比+フローの赤字の対GDP比)-医療・教育・社会的保護の対GDP比 Revenue Statistics 1965-2007, OECD Stat, Source OECD等により作成。 52 「偏」対「遍」という対立軸 偏 投機経済 貪欲と損失の社会化 富の集中と格差→99対1 ある程度の平等はなぜ必要か =倫理ではなく、実利の問題 遍:人間の尊厳と平等 • 普遍的なセーフティネットの必要性 • 平等と成長は二者択一ではない • 求められる地方の視点 TPP 一次産業 雇用 環境 ⑥対抗勢力を再生する 民主党は何をしたいのか • 安倍自民党との対決をなぜ逡巡するのか • 党の分裂回避を求めるあまり、思考停止に • 自民党に不安を持つ市民の受け皿の不在 野党に必要なこと • 標準的な二極的政党システム • 穏健、リベラルという政治的スタンス • 日本の野党はなぜ弱いのか 政治的一極化と政治的対立軸 個人・自律 共生・リベラル 新自由主義 グローバル化の風圧 民主党 市場原理 再分配原理 反国家ポピュリズム 自民党 (福祉ショービニズム) 権威主義的右翼 権威・秩序 新保守主義 宮本太郎氏作成 再生論議の進め方 • 中期的な時間軸の必要性 世論にひそむ「安定志向」 • 世代交代と組織再建と政策刷新の三位一体 • 諸外国の「政権交代可能な政治」の実態 十年単位の政権交代 野党の時こそ党改革のチャンス 野党再編論をめぐって • メディアはなぜ再編が好きなのか • 民主党の失敗から何を学ぶか • 政界再編という発想の致命的な誤り • 地域の根を持たない政党の限界