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医療保険改革

鈴木亘

• ①日本の医療保険制度の概要 • ②日本の医療保険制度の現状と問題 • ③これまでの医療制度改革とその評価 • ④今後の改革のあり方 • ⑤医療規制改革とその評価

①日本の医療保険制度の概要

• • • 医療サービスに対する公的な医療保険制度。 保険料を支払う代わりに、医療サービスを受 けたときに、自己負担を除く部分を保険が負 担してくれる制度。 日本は、 1961 年から国民皆保険制度をとっ ており、日本に居住する全ての人々が医療 保険に強制加入する制度。 例外は生活保護者(医療扶助)。また、保険 料滞納や申告漏れで保険証を持たない人々 も存在しているが、法律的には国保などに属 することになっている。

• 医療保険の給付は「現物給付」という制度を 採っている。これに対して、「償還払い・療養費 払い」というものもあり、高額療養費などではこ の仕組みを使う。 • 現物給付は、保険医療機関の指定を受けた医 療機関のみで扱う。保険医療機関の申請は、 厚生労働大臣(実際には、各都道府県の社会 保険事務局長)に行う。 • 現物給付のほかに、金銭給付も存在している。 それが、「傷病手当金」。働けなくなって 4 日目 以降、 1 年 6 ヶ月まで給与日額の 60 %を支給。

組合健康保険 政府管掌保険 共済保険 国民健康保険(国保) ・大企業の従業員の保険 ・約3000万人が加入 ・保険料率8%から9%程度(企 業によって異なる)。 ・国庫負担なし。 ・付加給付などの仕組みが存 在している。 ・自己負担は3割、ただし3歳以 下は2割、70歳以上は老健と同 じ(以下、全ての保険で同様)。 ・中小企業の保険。社会保険 とも言われる。 ・約3500万人が加入 ・保険料率は8.2% ・社会保険料が運営を行って おり、全国でひとつの制度。 ・国庫負担あり(給付費の 13.0%、老健拠出金の 16.4%) ・公務員の保険。共済短期 保険とも言う。 ・約1000万人が加入。 ・国庫負担なし。 ・自営業者、農業者等の加入 する保険。「市町村」、「国保 組合」に分かれ、市町村は 「一般」と「退職者医療制度」 に分かれる。 ・「国保組合」は、美容師や弁 護士、医師などが作ってい る。 ・「退職者医療制度」は、被用 者保険の退職者が加入。退 職者拠出金と保険料により、 別会計で運営される。 ・加入は約5000万人。 ・公費負担は約50%(43%が 公費、7%が都道府県財政調 整交付金)。 老人健康保健制度 ・75歳以上の全ての保険加入者が入る制度。1500万人。 ・自己負担1割、高額所得者は2割。 ・公費負担は5割(国が1/3、都道府県1/12、市町村1/12)、残りは各保険者から拠出される老健拠出金が賄う。一部は保 険料。 ・実施主体は市町村。 ・現在過渡期で、2002年から5年かけて調整中(年齢70→75才、公費負担3割→5割)

• • • • • (被用者保険) 被用者保険とはサラリーマンの保険。組合、政 管、共済。 被用者保険の対象事業所は、常用雇用 5 人以 上の事業所もしくは 5 人未満の法人事業所。組 合を作らなくても、政管に加入すればよい。 基準を満たさないパートタイム労働者や短時 間労働者は加入させなくてもよい。 被扶養者については保険料負担は無い。

• • • • (総報酬制) 保険料は毎月の給与を基準とした標準報酬に 保険料率を乗じる。ボーナスの分についても 同じく保険料率を乗じる。 給与分の標準報酬は 98 万円(月)が上限。 ボーナス分は 200 万円(月)が上限。 保険料は労使折半。 • • (被扶養者) 年収 130 万円以下( 60 歳以上は 180 主に生計費を維持している人々。 万円以 下)で、被保険者(サラリーマン本人)によって

• • • (国保) 保険料と保険税。 保険料負担は、①所得割(収入に応じて徴収)、 ②資産割(固定資産税に応じて徴収)、③平等 割(世帯ごとに徴収)、④均等割(世帯内の被 保険者数に応じて徴収)、①②を応能割、③④ を応益割と呼ぶ。 • 4 種類を市町村裁量で組み合わせる。所得割 と均等割が入っていれば、 3 種類でも 2 種類で もよい。

• • ( 1 )保険給付の範囲 医療保険の保険給付の中心は、現物給付(療養の 給付)。 • • • 保険の適用外の医療(美容整形、出産、眼鏡、補聴 器、研究段階の先端医療、特殊な歯科補綴、町の薬 局で買う大衆薬( OTC )) • 混合診療の禁止 • 1984 年から特定療養費制度が創設される(①差額 ベット代、②前歯部の金属材料差額 、③金属床総義 歯、④200床以上の病院についての初診 ⑤200床以上の病院についての再診、⑥予約診療、 ⑦診療時間外診療 ⑧治験に関する診療 、⑨う触患者の指導管理、⑪ 入院期間が180日をこえる入院 ななど)

• • • • • ( 2 )患者の一部負担 ・現在は老人を除く自己負担は 3 割に統一(た だし、 0-3 歳は 2 割) 老人( 70 歳以上)は、原則 1 割(一定以上所得 者は 2 割)。老健対象者だけではなく、 70 歳以 上が 1 割である点に注意。 老人医療は 担を導入。 1973 2002 年から 1983 年まで無料。 年から定率負担( 1 83 年の老人健康法施行以来は、定額の一部負 割または 2 割)を導入。 高額医療費制度

• ( 3 )出来高払いと包括払い – 出来高払い・・・治療をすればするほど医療費がか かる制度、一般的 – 包括払い・・・疾病により一定額以上は払わないと する仕組み。老人医療(外総診)や一部の医療(マ ルメ)などで実施している(た)。日本の場合、選択 性であることが問題。近い概念に見込み払い。 – 2003 年から全国 82 病院で、急性期入院医療につ いて 1 日あたりの包括化制度、包括評価( DPC )が 始まっている。 1 日単位、検査の外来か、回転率上 昇などにより、むしろ医療費は増加している。

• ( 4 )診療報酬点数表 – 保険診療の料金表、保険へ請求するレセプトもこ れを元に計算される。 – 1 点 10 円。 • ( 5 )中医協 – 診療報酬点数表を決める審議会 – 支払い側 8 名、診療側 8 名(医師会、薬科医師会、 薬剤師会)、公益委員 4 名の構成。推薦制度があり 医師会の勢力が強いことから、委員会決定の見直 しが予定されている。

• • ○薬価基準 – 薬の料金表は薬価基準 – 1 万 2000 点が収載 – 市場価格と薬価の差額は薬価差益 – 日本は薬価差益が大きいことが問題であった。現在は、相 次ぐ改革で、 2 年に一度の薬価差益解消が図られている。 ○審査払い – レセプトの審査機関は、社会保険診療報酬支払基金(被用 者保険グループ、 47 都道府県に支部)、国民健康保険団 体連合会(国保、都道府県に 1 つ)が実施。国保連合会は、 介護保険も審査。 – レセプトの情報開示・・・ 1997 年から本人や遺族が開示請 求をすれば開示。

• ( 6 )老健制度 – – 狙いは財政調整、自己負担の復活、検診健康指導 老健による老人医療費は 12 兆円、国民医療費の 1/3 – 老健拠出金算定の仕組み(単純化した計算)

7

)退職者医療制度

• 国保の中にある退職者用の医療制度。 • 1984 年に創設。 • 60-75 歳までの対象者で、被用者保険の OB 。 • 保険料(税)を納付するがそれで不足する分を被用者保 険が共同で負担。 • 公費負担はない。

②日本の医療保険制度の現状と問題

医療費/国民所得比 8.00

7.00

6.00

5.00

4.00

3.00

2.00

1.00

-

2004年度 2010年度 2015年度 2025年度 (平成16) (平成22) (平成27) (平成37) 高齢化率(%) 19.4

22.5

26.0

28.7

社会保障給付費(兆円) 86 110 121 176   医療給付費(兆円) 26 35 41 60 注)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成14年推計)」及び 厚生労働省「社会保障の給付と負担の見通し(平成16年5月推計)」より。

社会保障の給付と負担の見通し (平成1 8 年5月推計)

図 1 1 人当り医療保険給付費・保険料の年齢別分布 ( 2004 年予算ベース、組合健保被保険者、被扶養者分を考慮) 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 134 0 73 0 55 0 149 47 179 53 222 67 278 77 79 318 345 370 394 383 94 118 147 194 248 145 293 90 434 449 404 69 51 30 310 15 103 5 受給 保険料

• • • 財政赤字の拡大 保険料、保険料率の引上げ 世代間不公平の拡大 保険給付費(兆円) モデル推計 厚生労働省推計 2004年 26.0

26.0

2005年 27.1

2010年 33.5

34.0

2015年 40.9

41.0

2020年 49.5

2025年 *厚生労働省推計は、「社会保障の給付と負担の見通し-平成16年5月推計-」 59.2

59.0

2050年 123.0

2075年 211.1

2100年 362.1

組合健保保険料率(%) 2004年 モデル推計 厚生労働省推計 7.2

7.2

2005年 7.1

2010年 7.4

2015年 8.1

2020年 8.7

2025年 *厚生労働省推計は、「社会保障の給付と負担の見通し-平成16年5月推計-」 9.4

9.0

2050年 10.1

2075年 10.0

2100年 10.1

政管健保保険料率(%) 2004年 モデル推計 厚生労働省推計 8.2

8.2

2005年 8.2

2010年 8.6

2015年 9.3

2020年 9.9

2025年 *厚生労働省推計は、「社会保障の給付と負担の見通し-平成16年5月推計-」 10.7

10.7

2050年 11.6

2075年 11.3

2100年 11.3

医療保険の生涯保険料率と生涯受給率(組合健保加入者) % 12.0

11.0

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

19 40 19 45 19 50 19 55 19 60 19 65 19 70 19 75 19 80 19 85 19 90 19 95 20 00 20 05 20 10 20 15 20 20 20 25 生年 生涯保険料率 生涯受給率

③これまでの医療制度改革とその評価

• • • • • 2002 年改正の概要 自己負担率の引上げ(幼児・高齢者を除き原 則 7 割に) 高額療養費療養費自己負担限度額見直し 薬剤一部負担金制度廃止 保険料の見直し(総報酬制、政管保険料引き 上げ)

• • • • 高齢者医療制度の対象年齢の引き上げ (70 歳 を段階的に 75 歳に ) 高齢者患者の一部負担引き上げ( 自己負担限度額見直し 1 割) 公費負担の重点化(老人医療について5割へ 引き上げ) • 診療報酬・薬価基準等の見直し

• 自己負担率引上げ ⇒ 一時的な効果しか持ちえ ない。トレンドは変えられない。 800,000,000 750,000,000 700,000,000 650,000,000 600,000,000 550,000,000 500,000,000 450,000,000 平成8年 平成10年 平成12年 平成9年 平成11年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

保険者別財政予測(政府管掌保険) 10000 0 -10000 -20000 -30000 -40000 -50000 -60000 -70000 20 01 年 20 03 年 20 05 年 20 07 年 20 09 年 20 11 年 20 13 年 20 15 年 20 17 年 20 19 年 20 21 年 20 23 年 20 25 年 ①ベンチマーク ②被用者保険の自己負担増 ③老健対象年齢引上+老人自 己負担増 ④老人拠出金の国庫負担割合 増 ⑤老人医療費伸び率管理制 ⑥退職者医療制度分老人拠出 金負担割合変更

診療報酬引下げの効果

• • • • 「 三方一両損 」として、 -2.7% の 引 き 下 げ。 内訳 は、 薬剤 や 医療材料価格 が -1.4

%、それを 除 く 診療報酬本体 が -1.3

%。 本体部分 が 引 き 下 げられたのは 初 めて。 医師会 の 緊急 レセプト 調査 ( 平成 14 年 6 月 )で は 1 日 あたり 医療費 は、 昨年比ー 4% 、 特 に 影響 が 深刻 な 整形外科 は ー 7.0% の 落 ち 込 み、 医療機関 経営 に 深刻 な 影響 とされた。 しかし、 改定 が 恒常的 な 効果 をもったのかどう かについては、 懐疑的 な 見方 ( 鈴木・鈴木・八 代 ,2003 )

• • • 医師誘発需要が存在するのであれば、その後の 患者あたり医療費はその後引き上げられ、診療 報酬改定の効果は相殺されるはず。 ところが、効果を検証することは難しい。 10 月に は老健の自己負担や年齢引き上げ改革が入り、 純粋な効果が見れない。また、景気要因や高齢 化要因など様々な要因が影響してしまい、マクロ データでは検証が困難である。 そこで、個票レセプトデータを用いて、いろいろな 要因をコントロールした上で、純粋に医師誘発需 要の存在を検証する。

医師誘発需要モデル

• 代表的 モデルの 一 つが Evans(1974) 。 代替効 果 が 所得効果 を 下回 る 通常 の 場合 では 診療 報酬低下 により 誘発需要 が 起 きる。

U

U

(

Y

,

D

)

Y

U Y

 0 ,

U D

 (

Q

D

)  0 ,

U YY

 0 ,

U DD

 0

U Y

/

U D

 

所得 U 1 A B U 2 I 1 I 2 誘発需要 D 1 D 2 U の形状により D の大きさは変わる。所得効果小さければ D が縮小することも。また、非営利性が低い民間病院は D が大きくなる可能性。ソフトバジェットがある公立は小さい。

データ

• 富山県国保連合会国保一般 、 退職者医療保険制 度 、 老健加入者 のレセプトから 外来 を 抽出 。 • A デ ー タは、 医療費 や 自己負担額 、 医療費 の 細 目 ( 医療費 、 給付費 、 公費 、 高額療養費 、 食事 療養費 など)、 日数 、レセプト 枚数 、 年齢 、 性 別 などが 把握 されている 一方 、 B デ ー タは A デ ー タと 同様 の 変数 の 他 、 医療機関 や 疾病名 ( 疾病 コ ー ド ) 、 診療科 などの 所属性 がわかる。

実証モデル

log(

Y i

,

t

)   0  

j

j X j

,

i

,

t

 

t

t T t

,

i

u i

 

i

,

t

• • • 医師 がコントロ ー ルしている 変数 として、 被 説明変数 は

1

日 あたり 医療費 を 用 いる 説明変数 コ ー ド、 は、

X j,i,t

が 個人属性 居住市町村 、

(

年齢 医療機関

)

、 性別 、 疾病

T t,i

はベンチマ

2001

4

月 ー から クを

2003 2001

3

月 年度全体 まで

1

ヶ として、 月 ごとに 作 られている 月次 ダミ ー 。この 係数 の 推移 で 検 証 。

0.04

0.02

0 -0.02

-0.04

-0.06

-0.08

-0.1

-0.12

4月分 5月分 6月分 7月分 8月分 9月分 10 月分 11 月分 12 月分 1月分 2月分 3月分 全体

0.1

0.05

0 -0.05

-0.1

-0.15

-0.2

4月分 5月分 6月分 7月分 8月分 9月分 10 月分 11 月分 12 月分 1月分 2月分 3月分 公立病院 民間病院 診療所

政策的含意 • 診療報酬のマイナス改定は、その後相殺されてし まうことを考えると実効性の乏しい改革手段。政 治的コストも大きい。 • 「老人医療費の伸び率管理制度」にとっても重要 な教訓。 • もし、今後、診療報酬の引下げを政策手段として 用いるのであれば、単純な手段ではなく、医療機 関が需要を誘発するインセンティブを封じるDRG・ 包括化といった手段を検討するべきである。 • また、そもそも誘発需要の厳選である寡占や情報 の非対称性の緩和(情報公開)も考慮すべきか。

• 2006 年改正 ①中長期的な医療費抑制策 ・保険者の検診・保健事業の義務付けによる生 活習慣病患者・予備軍の減少 ・在宅医療の促進・病床転換による平均在院日 数の短縮を実施。 ・数値目標の実効性を担保するために、都道府 県に医療費適正化計画を策定させて実績評 価を行い、達成状況に応じて、被保険者には 後期高齢者医療支援金加算・減額による動機 付け。

②短期的な医療費抑制策 ・高齢者の患者負担見直しとして、 70 - 74 歳は 1 割から 2 割へ自己負担率が引き上げ ・現役並みの高所得を持つ高齢者の自己負担 率が 3 割に引き上げ。 ・高額療養費の上限を引き上げ ・療養型病床の入院患者からのホテルコスト徴 収・食費負担引き上げが実施。

③都道府県別の保険者再編・統合 ・政管健保の都道府県単位化 ・年齢格差・所得格差のリスク構造調整 ・市町村国保については都道府県単位での保 険運営を推進するために、都道府県内の市 町村の拠出による共同事業の拡充を行う。 ④高齢者独立医療保険制度の創設 ・ 75 歳以上の後期高齢者について独立した医療 制度を創設する。財源は、高齢者保険料 援金) 4 割、公費 5 割。 1 割、 医療保険からの支援金(後期高齢者医療支 ・前期高齢者財政調整

• • • 問題点 試算の医療費抑制策が「対策の効果があると して」計算されている。 生活習慣病の予防・コントロールは、医療費引 き下げ要因にはならない。 患者に対して生活習慣病対策を実施するイン センティブが存在せず、保険者へのインセン ティブも限定的(後期高齢者、前期高齢者財政 調整のため、保険者は生活習慣病対策に努 力をしてもしなくても財政に影響しないことから、 保険者に対策のインセンティブが存在しな い。 )

• • 国保・高齢者独立医療保険における平均在院 日数の減少という目標についても、後述する医 師誘発需要のために、医療費抑制につながる とは思われない。 短期的な医療費抑制策として打ち出された高 齢者の自己負担率の部分的引き上げである が、実はこうした対策は医療費に対してワン ショットの水準変化があるだけ

• 平均在院日数の短縮についても、現在行われている 医療費包括化(DPC)対象病院の動向を見る限り、 それが医療費抑制につながっていない、回転率を上 げて単価の高い入院初期の医療費を稼いだり、入院 外での医療費を高めたりするからである。 • 国保については、診療報酬明細書(レセプト)一件に つき三十万円以上の高額医療費を共同事業拡大に よって無条件に再保険で財政調整してしまうことに なった。これでは、財政負担となるある程度高額の生 活習慣医療費は、財政調整によって保険者の負担と はならないから、さらに努力の動機を殺ぐことになる。

④今後の改革のあり方

• • • 医療保険財政悪化の主因は、高齢化(とそれ にともなう技術革新)。 医療保険は、年金に近い財政方式。 したがって、財政的には対策は 3 つ。保険料 引上げ、給付引き下げ、積立方式の導入。 • 保険料引下げは限界。給付引き下げも難し い。すると、積立制度の導入が現実的。

積立金の推移(組合健保) 70.0

兆円 60.0

50.0

40.0

30.0

20.0

10.0

0.0

-10.0

-20.0

1995 2005 2015 2025 2035 2045 2055 2065 2075 2085 2095 西暦 完全基金 保険料率9.8%一律化の ケース 保険料率9.2%一律化の ケース

図 8 フェアな財政方式に移行した場合の生涯保険料率(組合健保、男子) 0.12

0.11

0.10

0.09

0.08

0.07

0.06

1940 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 生年 生涯保険料率(1995 年以降 9.8%固定) 生涯受給率 <参考>生涯保険料率 (

• 世代間不公平の軽減の為に、高齢化に備えた積立 金を各保険単位で所有する「フェアな財政方式」への 移行。 • 完全基金を達成する目標年を 2100 年という遠い将来 に設定することにより、改革に必要な保険料引上幅 は、約 2% ポイント(フェアな保険料率からは 0.6% ポイ ント)に抑えられる。 • • 2 重の負担の問題は解決可能(年金と同様)。 二重の負担をすぐに顕在化させる必要性はまったく なく、将来の多くの世代にわたって少しずつ負担を徴 収することで、十分に実行可能な保険料引き上げ幅 にとどめることが可能である。

• • • • シンガポールのように、個人レベルで医療貯蓄口座 (MSA)を導入。 現在の高齢者の貯蓄の中には、将来の医療費や介 護費負担に備えている目的の貯蓄がずいぶんと存 在すると考えられる。こうした貯蓄を、優遇税制を適 用することや、高齢者の保険料を減額することと引 き換えに、医療用にしか使えない貯蓄として提供 勤労者については、現在徴収されている保険料の 一部を労使折半でMSA口座に積み立てていくこと にする。 MSAは、残った場合には年金として受給できるので、 個人はなるべくその積立金を減らすまいとして医療 費抑制の動機付けが行われる点も重要である。

• • • • • しかしながら、それだけでは世代間不公平の 解消は難しく、痛みも多い。 したがって、現実的には、給付の削減とともに 行うことになるであろう。 公的保険範囲の縮小という問題。 ①無駄な医療費の削減、②公的保険範囲の 縮小、③医療提供体制の効率化、④経済的な 予防の動機付け、といった方策が必要である。 これは必然的に、医療の規制緩和を伴うこと になる。

①無駄な医療費 ・典型例は、終末期医療費。 • • 70 歳以上の死亡前 1 年間の終末期医療費の 規模は、およそ 9,875 億円 ( 老人入院医療費 に占める割合 19.2%) 。老人医療費全体の 10% 程度を占める。 終末期医療・延命医療は、「事後的」には無 に帰してしまう医療費。急速に膨張する老人 医療費の抑制対象として、終末期医療に注 目が集まっている。

800,000 700,000 600,000 500,000 400,000 300,000 200,000 70-74歳 75-79歳 80-84歳 85-89歳 90歳以上 100,000 0 11 ヶ 月 前 10 ヶ 月 前 9ヶ 月 前 8ヶ 月 前 7ヶ 月 前 6ヶ 月 前 5ヶ 月 前 4ヶ 月 前 3ヶ 月 前 2ヶ 月 前 1ヶ 月 前 死亡月

80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0

• • • • • • しかしながら、どうやって減少させるのかという点につ いては難しい課題がある。 予測の難しさ。 法律的や制度的な制約要因。 ガイドラインや患者の自己選択を進めることが重要で ある。 医療費の自己負担額については、影響しないか、影 響したとしてもその弾力性は極めて低い ①リビングウィルの実行性が確保される場合には 6.0% ポイント、②緩和ケア病棟やホスピスが確保さ れる環境では 11.2% ポイント、③終末期認定の厳密 化が行われる環境では 3.2% ポイント、④告知と病状 説明が十分行われる環境では 9.1% ポイント、それぞ れリビングウィルの作成確率が高まる

図1 リビングウィルの例(日本尊厳死協会) 終末期の宣言書( リビングウィル Li vi ng Wi l l ) 私は私の傷病が不治であり、且つ死が迫っている場合に備えて私 の家族、縁者ならびに私の医療に携わっている方々に次の要望を 宣言いたします。  この宣言書は、私の精神が健全な状態にある時に書いたもので あります。従って、私の精神が健全な状態にある時に私自身が破 棄するか、又は撤回する旨の文書を作成しない限り有効でありま す。 ①私の疾病が、現在の医療では不治の状態であり、既に死期が 迫っていると診断された場合には徒に死期を引き延ばすための延 命措置は一切おことわりいたします。 ②但しこの場合、私の苦痛を和らげる処置は最大限に実施してく ださい。そのため、たとえば麻薬などの副作用で死ぬ時期が早 まったとしても、一向にかまいません。 ③私が数ヶ月に渉って、いわゆる植物状態に陥った時には、一切 の生命維持装置を取り止めてください。 以上、私の宣言による要望を忠実に果たして下さった方々に深く 感謝申し上げるとともに、その方々が私の要望に従ってくださっ た好意一切の責任は私自身にあることを附記いたします。                    年   月    日 自著 氏名             印 生年月日 住所

• • • • 公的医療保険範囲の縮小 医学的な線引きは難しいが、イギリスの NHS の方法もある。 国民の意思を聞き削減範囲を決める方法もあ る。 その一つとして、 Conjoint Analysis という仮想 市場法を使う試みがある。

軽医 化 終末期 医 療の全額自己負担化 高額 高 齢 療の全額自己負担化 高度先端 医 医 療費の自己負担 者からの保 険 料 増 徴収 療の全額自己負担 加 月額1万円までの外来医療(風邪や頭痛・腹痛等 の軽医療や外来薬剤)を保険対象外にして全額自 己負担にする。 高度先端医療(心臓移植手術やインプラント義歯 といった本来全額自己負担で行われる先進的な 医療技術による治療のこと。大学病院等の承認を 受けた医療機関で高度先端医療を受けると、医療 費の一部が公的医療保険から給付されます。) 末期ガンなどの不治の病の場合、死ぬ前6ヶ月間 の延命治療措置を保険対象外にして、全額自己負 担にする。 一般的な高齢者の場合、外来では1万2000円、入 院で4万200円以上の自己負担額(月額)は支払わ なくても済むことになっています。この額を外来 4万円、入院8万円に引き上げ、自己負担を増加す ることとします。 75歳以上の高齢者が加入する独立した医療保 険制度を創設する。高齢者は年金受給額の中から 月額5%程度(年金受給額が12万円の場合、月額 6000円程度)の保険料を収めることになります。

β 費用(兆円) 限界効用/一人当たり価格 軽医療 終末期医療 高額医療費の 自己負担増 保険料徴収 医療保険自己 負担率1割増 0.551

0.70

44.9

0.588

1.11

30.2

-0.190

-0.17

63.7

-0.145

-1.25

6.6

0.102

0.94

6.2

混合診療の全面解禁

禁止 解禁 自由診療 + 一部自己負担 自己負担 一部自己負担 全額自己負担 保険診療 保険診療

A P

理論的枠組み

X :

(診療水準に対応する)

QALY

c : QALY

s一単位あたり費用

(

価格)

d : QALY

s一単位あたり一部自己負担価格

G B F

追加的余剰

C O E

一部自己負担

D

↑ 保険給付上限

H c I

J

↑ 自由価格

c

のもとでの均衡点

x

結果のまとめ

①制度変更前後における自己負担の分布の変 化は、所得階層間であまり変わらない ②混合診療解禁後のほうが、ジニ係数でみた 再分配後所得は改善 ③医療費支払いの逆進性は、制度変更前後で ほとんど変わらない ④しかし平均支出比率は解禁後で下がる ⇒ 混合診療の解禁が所得・資産格差による不 公平をもたらすとは言い難い

• • • • • • ③医療提供体制の効率化 • EBM(Evidence Based Medicine) 電子レセプト、電子カルテ、医療の標準化 医療の CBA,CUA,CEA などの経済評価 株式会社・営利法人の参入については賛否両 論 保険者機能の強化 ただし、これについても賛否両論がある。

• • • ④経済的な予防の動機付け タバコ税、禁煙補助財の保険適用など。 – – 喫煙を原因とする疾病にかかる医療費の甚 大さ 年間 1 兆 2241 億円(医療経済研究機構 ,1997 ) 年間 3 兆 2000 億円 ( 後藤 ,1995,1996)

ニコチンガムの需要は、①価格が1万円下がると 15.3% ポイント、②タバコの価格が 100 円上がると 3.9% ポイント、③タバコのように自販機・コンビニ での購入が可能になると 3.0% ポイント、それぞれ 高まることがわかった。 ニコチンガムは、高価格 ( 標準的な使用量で禁煙ま で 3 万 6 千円 ) 保険対象薬と同じ 3 割の価格( 7 割の価格補助政策) にする禁煙支援策を考える。

こうした価格補助政策を正当化する理由は、公的医 療保険による外部性の存在(禁煙成功により、喫 煙に伴う疾病が減少すれば、保険給付費が減少 する) – 総費用は 855 億円である。 – 医療保険給付費は年間 164 億円減少。これは、わ ずか5年ほどで (822 億円 ) 、ほぼ費用に見合う医療 保険給付費の節約が得られることを意味する。

• • • • • 同様に、生活習慣病対策として、経済的動機 付けは重要。 アルコール、肥満、喫煙、運動習慣 保険料に差をつける。あとからのキックバック のほか、 SINTAX などが考えられる。 そうでない場合の啓蒙や教育の効果は悲惨で ある。医師や周りの家族の病歴も楽観バイア スのために効果が余りない。 疾病マネジメントの導入も一案。