第13章 顕示選好法

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Transcript 第13章 顕示選好法

8章 顕示選好法1
市場類似法、トラベルコスト法など
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1
•
プライマリー・マーケットが存在しない場合に、観察
される行動から影の価格を推定することで政策の
効果を評価する方法について検討する。
•
とくに、消費者余剰(あるいは補償変分、等価変分)
の変化の測定に絞って分析する。
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2
8.1 市場類似法
(market analogy method)
8.2 中間財手法
(intermediate good method)
8.3 トラベルコスト法
(travel cost method)
8.4 防御支出法
(defensive expenditures method)
8.5 補論**:環境質改善の便益評価と弱補完性
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8.1
市場類似法
市場類似法を用いて、道路整備事業で生み出される便益について評価する方法について検
討しよう。道路整備事業の便益評価に際しては考慮される便益としては、
「走行時間短縮便益」
、
「走行経費減少便益」
、
「交通事故減少便益」
などがある。ここでは、走行時間短縮便益と交通事故減少便益の測定方法について検討す
る。
【時間の評価】
(労働市場=時間の取引をしている市場)
道路の整備により経済主体が得る経済的価値の推計方法は、その整備により経済主体が短
縮(節約)することができる走行時間の機会費用で測ることができる。すなわち、
「走行時間短縮便益」=短縮時間×賃金率(時給)
で求める。なお、
「費用便益分析マニュアル(国土交通省、平成 15 年)」では、乗用車 1 台
の走行時間を 1 分短縮する便益(時間価値原単位)を約 63 円(平成 15 年価格)としてお
り、バスに関していは約 520 円としている。
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(問題 8-1)現状は道路 A だけが存在し個人1と個人 2 はともに往復 2 時間かけて通勤し
ているとする。
ここに、道路 A のバイパスである道路 B を整備するプロジェクトが計画されて
いるとする。そして、道路 B が建設されてから個人1は道路 B を利用して往復
1 時間で通勤できるようになり、個人2は道路 A を用いて往復 1 時間 30 分で通
勤できるようになるとする。
さらに、個人 1 の時給は 2000 円、個人2の時給は 3000 円であるとする。この
とき、個人1と個人2はこのプロジェクトから 1 日あたり時間節約の便益を幾
ら得ていると評価できるであろうか。
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問題8-1
個人2の時給=3000円
1時間30分
2時間
道路A
個人2
個人1の時給=2000円
1時間
2時間
個人1
道路B
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問題8-1
<個人1について>
• 節約時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間節約の便益=?円
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問題8-1
<個人1について>
• 節約時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間節約の便益=2000円×1=2000円
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問題8-1
<個人1について>
• 節約時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間節約の便益=2000円×1=2000円
<個人2について>
• 節約時間=0.5時間
• 時給=3000円
⇒ 時間節約の便益=?円
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問題8-1
<個人1について>
• 節約時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間節約の便益=2000円×1=2000円
<個人2について>
• 節約時間=0.5時間
• 時給=3000円
⇒ 時間節約の便益= 3000円×0.5=1500円
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問題8-1
<個人1について>
• 節約時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間節約の便益=2000円×1=2000円
<個人2について>
• 節約時間=0.5時間
• 時給=3000円
⇒ 時間節約の便益= 3000円×0.5=1500円
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<市場類似法の理論的な基礎>
時間短縮の便益を
「短縮時間×賃金率(時給)」
と計算できる理論的な根拠について検討しよう。
モデルで想定している単位期間は 1 日であるとする。
c =私的財の消費量
l =レジャー時間(の消費量)
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T =総利用可能時間
t =状態 1 のもとでの(道路整備前の)通勤時間
1
t =状態 2 のもとでの(道路整備後の)通勤時間( t
2
2
t )
1
w =賃金率(時給)
c  w  (T  t  l ) :状態 j のもとでの予算制約式
j
(8-1)
m  w  (T  t ) :状態 j のもとでの(実現可能)最大所得
j
j
c  w  l  m :状態 j のもとでの予算制約式
j
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(8-2)
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状態 1 のもとでの①予算制約式(8-2)、②個人の最適な消費パターン ( l 1 , c 1 ) 、
③ ( l 1 , c 1 ) を通る無差別曲線 I 1 を、 l c 平面に図示すれば次の図のようになる。
c
m  w  (T  t )
1
1
c  w l  m
c
1
1
I
1
w
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l
1
T t
1
l
14
(問題 10-2)状態 2 のもとでの①予算制約式、②個人の最適な消費パターン ( l 2 , c 2 ) 、③
を ( l 2 , c 2 ) を通る無差別曲線 I 2 を、上の図に図示するとともに、状態 1 から状
態 2 への変化(道路を整備)で生じる補償変分 CV 、等価変分 EV を、図示し
1
2
なさい。また、 CV と EV を w 、 t 、 t を用いて表しなさい。
c
CV  EV  m  m  w  ( t  t )
2
m  w  (T  t )
2
2
1
1
2
EV  CV
m  w  (T  t 1 )
1
c
c
2
1
I
2
I
1
w
l
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1
l
2
T t
1
T t
2
l
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<賃金率で便益を評価する留意点>
• 賃金に便益が含まれていない。
• 電車の中でも仕事ができる。
• 税金を考慮する必要がある。
• ドライブでは景観を楽しめる。
• 賃金率は仕事の特性を反映している。
• 労働時間を調整できない可能性がある。
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8.2 中間財手法
• これは、政府のプロジェクトが生み出す財が、他
の川下の(downstream)の活動のための投入要
素(=中間財)となるケースに関する評価方法で
ある。
<灌漑プロジェクトの評価>
灌漑プロジェクトの便益
=灌漑による農家所得の増加分
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<教育プロジェクトの評価>
大学教育の私的便益
=「大学を卒業することによる所得の増分」
-「 大学を卒業することに必要な機会費用」
教育プロジェクト=奨学金制度、(大学への)補助金制度
ある制度の社会的便益
=「その制度があるときの大学教育の私的便益の和」
-「その制度が無いときの大学教育の私的便益の和」
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<教育プロジェクトの評価方法の留意点>
• 所得以外の側面の軽視
仕事から得られる楽しみ
• 大学教育の消費的側面
• 大学進学者の能力の高さ(self-selection)
• 大学卒業証書のシグナリング効果
• 教育の外部性
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8.3 トラベルコスト法(travel cost method)
トラベルコスト法を用いて、自然公園などのレクリエーション施設を整備すること
の社会的便益を評価する方法について検討しよう。
簡単化のため各個人は自宅からその自然公園までの距離が異なるだけで、その他の
点では同一であるとする。なお、モデルで想定する単位期間は 1 年間であるとする。
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x =自然公園利用(訪問)回数
y =その他の財(私的財)の消費量(財 y の価格は 1 に標準化)
T =総利用可能時間(自然公園での滞在時間は控除済み)
t i =個人iの自然公園までのトラベル(旅行、訪問)時間( t 1  t 2    t N )
w =賃金率(時給)
AF =自然公園の入場料
このとき、予算制約式は
AF  x  y  w  (T  t i  x )
(8-3)
である。
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TC i  w  t i :個人iの自然公園までの旅行コスト
( TC 1  TC 2    TC N )
p i  TC i  AF :個人 i の自然公園利用の総コスト(一般化価格)
とおけば、(8-3)の予算制約式は
pi  x  y  w  T
(8-4)
=(実現可能)最大所得
と書き換えることができる。
( AF  w  t i ) x  y  w  T
AF  x  y  w  (T  t i  x )
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①予算制約式(8-4)、②個人 i の最適な消費パターン ( x i , y i ) 、③ ( x i , y i ) を通る個
人iの無差別曲線 I i を x y 平面に図示すれば次の図のようになる。
y
wT
yi
Ii
pi
xi
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wT / p i
x
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「訪問回数がゼロになる一般化価格(総費用)の最小値 p * 」が存在すると仮定する。
*
そのとき、 p は次の上段の図のように表すことができる。
x N の値が小さく、 TC 1 , TC 2 ,  , TC N の散らばりが大きければ、一般化価格 p と利用回
数 x の間の関係(すなわち、需要関数)についての「大域的」な関係を観察することが
できることになる。
(マーシャルの)需要曲線 x  D ( p ) を描けば下段の図のようになる。
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y
wT
yi
Ii
I
p
*
*
pi
xi
x
wT / p i
p
p
*
x  D( p)
pi
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xi
x
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*
p =訪問回数がゼロになる一般化価格(総費用)の最小値
が存在すると仮定する。そのとき、 p * は次の上段の図のように表すことができる。
y
wT
yi
I
p
*
Ii
pi
xi
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*
wT / p i
x
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自然公園を整備したときの個人 i の得る便益を捉えるためには、
入場料が AF i (  p  TC i ) から AF に低下するときの便益を考
*
*
えればよい。
*
入場料が AF i のときは、個人 i は自然公園を訪れない。
(問題 8-3)自然公園を整備することにより個人 i に生じる補償
変 分 CV i 、 等 価 変 分 EV i 、 消 費 者 余 剰 の 増 分
 CS i [  CS i ]を、上の図を用いて示しなさい。
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y
AF i (  p  TC i )
*
AF i
EV i
wT
*
AF
AF i  AF のケース
*
CV i
*
AF i  TC i  p
*
*
yi
*
I
p
*
*
入場料が AF i のときは、
Ii
誰も自然公園を訪れない。
pi
xi
x
wT / p i
p
p i  AF  TC i  AF i *  TC i  p *
p
CV i   CS i  EV i
*
x  D( p)
 CS i
自然公園は上級財
pi
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xi
x
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(問題 8-4)問題 8-2 の港を掘り下げる公共事業の便益評価の方法と、このトラベル
コスト法を用いた便益評価の方法を比較することで、トラベルコスト法の
着想の優れた点について説明しなさい。
自 然 公 園 を整 備 す ると き の 便益 を 評 価す る た め には 、 需 要曲 線
x  D ( p ) についての「大域的」な関係を観察する必要がある。
x N の値が小さく、TC 1 , TC 2 ,  , TC N の散らばりが大きければ、需要曲
線 x  D ( p ) についての「大域的」な関係を観察できる。
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<トラベルコスト法の限界>
• トラベルコストの異なる地域から自然公園まで訪
問している人がいなければならない。
• 旅行時間の機会費用の測定は困難である。
– 旅行自体が楽しみかもしれない。
– 複数の目的地がある場合
• 居住地の選択に際して自然公園までの距離を考
慮しているかもしれない。
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8.4 防御支出法
• スモッグのレベルを低下させる条例のもたらす
便益について、窓の清掃(ビジネス)の市場に
与える効果から測定することについて検討す
る。
Q=窓清掃回数
P=窓清掃価格
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P
S0
D
S1
P0
P1
Q0
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Q1
Q
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防御的支出の減少分=
S0
D
P0
P1
Ⅰ+Ⅱ
消費者余剰の増分=
P
Ⅰ
需要の価格弾力性が小
Ⅱ+Ⅳ ≒ 0
Ⅱ
防御的支出の減少分
Ⅳ
Ⅲ
S1
Ⅰ-Ⅳ
 消費者余剰の増分
Q0
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Q1
Q
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<防御的支出法の問題点>
• 新しい均衡への調整スピード
• 窓拭きでスモッグ問題の全ては解消できない。
• 防御的支出で非常に窓が綺麗になるかもしれない。
• 防御的支出を機会費用で考える必要がある。
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8.5
補論**:環境質改善の便益評価と弱補完性
環境質改善の便益を、環境質と補完的な関係にある財の需要曲線のシフトから推計する方法
について検討しよう。そのために、2 つの財(財 x と財 y )があり、財 x の価格が p 、財 y
の価格が 1 に標準化されているとする。そして、環境の質を q と表すことにする( q  0 )。
個人の効用関数を
(8-5)
u  u ( x, y, q )
とおく。そして、所得を m とおけば、予算制約式は
(8-6)
px  y  m
と表されることになる。そして、状態 j の環境質を q j と表すことにする( j  1, 2 )。そし
て、環境質が q j のもとでの個人の最適化行動は、(8-6)の制約式を(12-3)に代入すれば、
(8-7)
u  u ( x , m  px , q )
j
を最大化するように x を選択することであり、その解を x j と表すことにする( j  1, 2 )。
j
j
そのとき、最適消費点を ( x , y ) と置けば、 y
j
j
 m  px である。そして、その最大化さ
れた効用水準を u j とおく。すなわち、
u
j
(8-8)
 u ( x , m  px , q )
j
j
j
j
j
である。そのとき、最適消費点 ( x , y ) を通る無差別曲線は
u
j
j
 u ( x, y, q )
(8-9)
と表されることになる。
j
j
(問題 8-5)予算制約式(8-6)、最適消費点 ( x , y ) 、無差別曲線(8-9)を x y 平面に図示しな
さい。
効用水準 u と環境質 q が与えられたもとでの補償所得を E ( p , q , u ) とおけば、環境質が q 1 か
ら q 2 に変化することで生じる補償変分 CV は、変化後の環境質 q 2 を用いて、
CV  E ( p , q , u )  E ( p , q , u )
2
2
2
1
(8-10)
と定義される。そして、 E ( p , q 1 , u 1 )  m  E ( p , q 2 , u 2 ) であるから、
CV  E ( p , q , u )  E ( p , q , u )
1
1
2
1
(8-11)
と表すことができる。
(問題 8-6)補償変分 CV を x y 平面に図示しなさい。
財 x と環境質 q の関係が弱補完性を満たすと仮定する(weak complementarity)
。すなわち、
任意の q  と q  に関して
u ( 0 , y , q )  u ( 0 , y , q )
(8-12)
である。たとえば、財 x と環境質 q が完全補完的な関係にあるとき、すなわち、
u ( x , y , q )  v (min( x , q ), y )
のときは、弱補完性を満たしていることになる。
(問題 12-7)(8-13)は(8-12)を満たすことを示しなさい。
(8-13)
(8-12)が成立しているときは、財 x の需要量がゼロの場合は環境質 q が変化しても補償所得
が変化しないことになる。すなわち、効用水準 u と環境質 q が与えられたもとで財 x の需要
量がゼロになる価格の最小値(choke price)を p * ( q , u ) とおけば、任意の q  と q  に関して
*
*
E ( p ( q , u ), q , u )  E ( p ( q , u ), q , u )
(8-14)
が成り立つ。
(問題 8-8)(8-12)のとき(8-14)が成り立つことを、図を用いて説明しなさい。
(ヒント) u ( 0 , y , q )  u ( u は定数)を y について解いた関数を y ( q , u ) と表し、
(8-12)のもとでは、 y ( q , u )  y ( q , u ) が成立することを示しなさい。
この弱補完性のもとでは、価格 p のもとでの補償変分 CV は、(8-11)と(8-14)より、

*
2
1
2
1
1
1
2
1
CV  E ( p ( q , u ), q , u )  E ( p , q , u )

*
1
1

1
1
 E ( p ( q , u ), q , u )  E ( p , q , u )

(8-15)
と求めることができる。したがって、効用水準 u と環境質 q が与えられたもとでの補償需要
関数を x  x dC ( p , q , u ) と置けば、(8-15)より、価格 p のもとでの補償変分 CV は
CV =「補償需要曲線 x  x dC ( p , q 2 , u 1 ) 、 x  x dC ( p , q 1 , u 1 ) 、
価格線 p  p 、縦軸 x  0 で囲まれる図形の面積」
が成立することになる。
(8-16)
(問題 8-9)効用関数が u ( x , y , q )  y  q  1  x / q   q であるとき、 p * ( q , u ) を求めると
2
ともに、(8-12)が成立することを確認しなさい。そして、環境質が q 1 から q 2 に
変化するとしよう( 0  q 1  q 2 )。そのとき、補償所得 E ( p , q , u ) を求めること
で 、 (8-15) を 用 い て 補 償 変 分 CV を 求 め な さ い 。 ま た 、 補 償 需 要 関 数
x  x d ( p , q , u ) を求めることで、(8-16)を用いて補償変分 CV を求めなさい。
C
(問題 8-10)効用関数が u ( x , y , q )  y  1  min( x , q )  であるとき、 p * ( q , u ) を求めると
2
ともに、(8-12)が成立することを確認しなさい。そして、環境質が q 1 から q 2 に
1
変化するとしよう( q  q
2
1 p /2)
。そのとき、補償所得 E ( p , q , u ) を求め
ることで、(8-15)を用いて補償変分 CV を求めなさい。また、補償需要関数
x  x d ( p , q , u ) を求めることで、(8-16)を用いて補償変分 CV を求めなさい。
C
8.1 市場類似法
(market analogy method)
8.2 中間財手法
(intermediate good method)
8.3 トラベルコスト法
(travel cost method)
8.4 防御支出法
(defensive expenditures method)
8.5 補論**:環境質改善の便益評価と弱補完性
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