Transcript Document

10章 顕示選好法1
市場類似法、トラベルコスト法など
12/06/14
1
•
プライマリー・マーケットが存在しない場合に、観察
される行動から影の価格を推定することで政策の
効果を評価する方法について検討する。
•
とくに、消費者余剰(あるいは補償変分、等価変分)
の変化の測定に絞って分析する。
12/06/14
2
10.1 市場類似法(market analogy method)
10.2 トラベルコスト法(travel cost method)
10.3 環境質改善の便益評価
10.4 防御支出法(defensive expenditures method)
12/06/14
3
10.1 市場類似法
市場類似法を用いて、道路整備事業で生み出される便益について評価する方法について検
討しよう。道路整備事業の便益評価に際しては考慮される便益としては、
「走行時間短縮便益」、
「走行経費減少便益」、
「交通事故減少便益」
などがある。ここでは、走行時間短縮便益と交通事故減少便益の測定方法について検討す
る。
<走行時間短縮便益の評価>(労働市場=時間の取引をしている市場)
ランダム効用理論を用いた分析は13章で行う。
道路の整備により経済主体が得る経済的価値の推計方法は、その整備により経済主体が短
縮(節約)することができる走行時間の機会費用で測ることができる。すなわち、
「走行時間短縮便益」=短縮時間×賃金率(時給)
で求める。なお、
「費用便益分析マニュアル(国土交通省、平成 15 年)」では、乗用車 1
台の走行時間を 1 分短縮する便益(時間価値原単位)を約 63 円(平成 15 年価格)として
おり、バスに関していは約 520 円としている。
12/06/14
4
時間短縮の便益を
「短縮時間×賃金率(時給)」
と計算できる理論的な根拠について検討しよう。
モデルで想定している単位期間は 1 日であるとする。
c =私的財の消費量
l =レジャー時間(の消費量)
12/06/14
5
T =総利用可能時間
t 0 =状態 0 のもとでの(道路整備前の)通勤時間
t1 =状態 1 のもとでの(道路整備後の)通勤時間( t1  t 0 )
w =賃金率(時給)
c  w  (T  t j  l ) :状態 j のもとでの予算制約式
(10-1)
m j  w  (T  t j ) :状態 j のもとでの(実現可能)最大所得
c  w  l  m j :状態 j のもとでの予算制約式
12/06/14
(10-2)
6
状態 0 のもとでの①予算制約式(10-2)、②個人の最適な消費パターン (l
③ (l
0
0
, c0 ) 、
, c0 ) を通る無差別曲線 I 0 を、 l c 平面に図示すれば次の図のようになる。
c
m0  w  (T  t 0 )
c  w  l  m0
c0
I0
w
12/06/14
l0
T  t0
l
7
(問題 10-2)状態 2 のもとでの①予算制約式、②個人の最適な消費パターン (l
1
, c1 ) 、③を
(l1 , c1 ) を通る無差別曲線 I 1 を、上の図に図示するとともに、状態 0 から状態 1
への変化(道路を整備)で生じる補償変分 CV 、等価変分 EV を、図示しなさ
0
1
い。また、 CV と EV を w 、 t 、 t を用いて表しなさい。
c
CV  EV  m1  m0  w  (t 0  t1 )
m  w  (T  t )
1
EV  CV
1
m0  w  (T  t 0 )
c1
c0
I1
I0
w
l 0 l1
12/06/14
T  t0 T  t2 l
8
問題10-3 賃金率で便益を評価する留意点につ
いて検討しなさい。
– 賃金に便益が含まれていない。
– 電車の中でも仕事ができる。
– 税金を考慮する必要がある。
– ドライブでは景観を楽しめる。
– 賃金率は仕事の特性を反映している。
– 労働時間を調整できない可能性がある。
12/06/14
9
10.2 トラベルコスト法(travel cost method)
トラベルコスト法を用いて、自然公園などのレクリエーション施設を整備すること
の社会的便益を評価する方法について検討しよう。
簡単化のため各個人は自宅からその自然公園までの距離が異なるだけで、その他の
点では同一であるとする。なお、モデルで想定する単位期間は 1 年間であるとする。
12/06/14
10
x =自然公園利用(訪問)回数
y =その他の財(私的財)の消費量(財 y の価格は 1 に標準化)
T =総利用可能時間(自然公園での滞在時間は控除済み)
t i =個人iの自然公園までのトラベル(旅行、訪問)時間( t1  t 2    t N )
w =賃金率(時給)
AF =自然公園の入場料
このとき、予算制約式は
AF  x  y  w  (T  ti  x)
(10-8)
である。
12/06/14
11
TCi  w  ti :個人iの自然公園までの旅行コスト
( TC1  TC2    TCN )
pi  TCi  AF :個人 i の自然公園利用の総コスト(一般化価格)
とおけば、(10-8)の予算制約式は
pi  x  y  w  T
(10-9)
=(実現可能)最大所得
と書き換えることができる。
( AF  w  ti ) x  y  w  T
AF  x  y  w  (T  ti  x)
12/06/14
12
①予算制約式(10-9)、②個人 i の最適な消費パターン ( xi , yi ) 、③ ( xi , yi ) を通る
個人iの無差別曲線 I i を x y 平面に図示すれば次の図のようになる。
y
wT
yi
Ii
pi
xi
12/06/14
wT / pi
x
13
*
「訪問回数がゼロになる一般化価格(総費用)の最小値 p 」が存在すると仮定する。
*
そのとき、 p は次の上段の図のように表すことができる。
xN の値が小さく、 TC1 , TC2 ,, TCN の散らばりが大きければ、一般化価格 p と利用回
数 x の間の関係(すなわち、需要関数)についての「大域的」な関係を観察することが
できることになる。
(マーシャルの)需要曲線 x  D( p) を描けば下段の図のようになる。
12/06/14
14
y
wT
yi
Ii
I
p*
*
pi
xi
wT / pi
x
p
p*
x  D( p)
pi
12/06/14
xi
x
15
p * =訪問回数がゼロになる一般化価格(総費用)の最小値
が存在すると仮定する。そのとき、
p * は次の上段の図のように表すことができる。
y
wT
yi
I*
p*
pi
xi
12/06/14
Ii
wT / pi
x
16
自然公園を整備したときの個人 i の得る便益を捉えるためには、
入場料が AFi* (
p*  TCi ) から AF に低下するときの便益を考
えればよい。
入場料が AFi* のときは、個人 i は自然公園を訪れない。
(問題 10-10)自然公園を整備することにより個人 i に生じる補
償 変 分 CVi 、 等 価 変 分 EVi 、 消 費 者 余 剰 の 増 分
CSi [  CSi ]を、上の図を用いて示しなさい。
12/06/14
17
y
AFi
EVi
CVi
wT
*
AFi* ( p*  TCi )
AF
AFi*  AFのケース
AFi*  TCi  p*
yi
I*
p
*
入場料が AFi* のときは、
Ii
誰も自然公園を訪れない。
pi
xi
p
wT / pi
x
pi  AF  TCi  AFi*  TCi  p*
CVi  CSi  EVi
p*
x  D( p)
CSi
自然公園は上級財
pi
12/06/14
xi
x
18
(問題 10-11)問題 3-10 の港を掘り下げる公共事業の便益評価の方法と、このトラベ
ルコスト法を用いた便益評価の方法を比較することで、トラベルコスト法
の着想の優れた点について説明しなさい。
自 然 公 園 を整 備 す ると き の 便益 を 評 価す る た め には 、 需 要曲 線
x  D( p) についての「大域的」な関係を観察する必要がある。
そのためには、 TCN が大きく(その結果として x N の値が小さく)、
TC1 , TC2 ,, TCN の散らばりが大きいことが重要である。
そして、自然公園などのケースにおいては、通常トラベルコストが上述
の性質を満たすことが期待できる。
12/06/14
19
<トラベルコスト法の限界>
• トラベルコストの異なる地域から自然公園まで訪
問している人がいなければならない。
• 旅行時間の機会費用の測定は困難である。
– 旅行自体が楽しみかもしれない。
– 複数の目的地がある場合
• 居住地の選択に際して自然公園までの距離を考
慮しているかもしれない。
12/06/14
20
12.4 補論*:環境質改善の便益評価と弱補完性
環境質改善の便益を、環境質と補完的な関係にある財の需要曲線のシフトから推計する方
法について検討しよう。そのために、2 つの財(財 x と財 y )があり、財 x の価格が
p 、財
y の価格が 1 に標準化されているとする。そして、環境の質を q と表すことにする( q  0 )。
個人の効用関数を
u  U ( x, y, q)
(12-7)
とおく。なお、効用 u は y の増加関数(すなわち y   y  のとき U ( x, y, q)  U ( x, y, q) )
であるとする。そして、所得を m とおけば、予算制約式は
p x  y  m
(12-8)
と表されることになる。
12/06/14
21
そして、状態 j の環境質を q j と表すことにする( j  0,1 )
。そして、環境質が q j のもとで
の個人の最適化行動は、(12-8)の制約式を(12-7)に代入すれば、
(12-9)
u  U (x, m  p  x, q j )
を最大化するように x を選択することであり、その解を x j と表すことにする( j  0,1 )
。
そのとき、最適消費点を ( x j , y j ) と置けば、 y j  m  p  x j である。そして、その最大化
された効用水準を u j とおく。すなわち、
(12-10)
u j  U (x j , m  p  x j , q j )
である。そのとき、最適消費点 ( x j , y j ) を通る無差別曲線は
(12-11)
u j  U (x, y, q j )
と表されることになる。
(問題 12-9*)予算制約式(12-8)、最適消費点 ( x j , y j ) 、無差別曲線(12-11)を x
y 平面に図示
しなさい。
12/06/14
22
効用水準 u と環境質 q が与えられたもとでの補償所得を E( p, q, u) とおけば、環境質が q 0
から q1 に変化することで生じる補償変分 CV は、変化後の環境質 q1 を用いて、
CV  E( p, q1 , u1 )  E( p, q1 , u 0 )
と定義される。そして、 E( p, q0 , u 0 )  m  E( p, q1 , u1 ) であるから、
CV  E( p, q0 , u 0 )  E( p, q1 , u 0 )
(12-12)
(12-13)
と表すことができる。
(問題 12-10*)補償変分 CV を x
12/06/14
y 平面に図示しなさい。
23
財 x と環境質 q の関係が弱補完性を満たすと仮定する(weak complementarity)
。すなわち、
任意の q と q に関して
U (0, y, q)  U (0, y, q)
(12-14)
である。たとえば、財 x と環境質 q が完全補完的な関係にあるとき、すなわち、
U ( x, y, q)  v(min(x, q), y)
(12-15)
のときは、弱補完性を満たしていることになる。
(問題 12-11*)(12-15)は(12-14)を満たすことを示しなさい。
12/06/14
24
(12-14)が成立しているときは、財 x の需要量がゼロの場合は環境質 q が変化しても補償所
得が変化しないことになる。すなわち、効用水準 u と環境質 q が与えられたもとで財 x の需
要量がゼロになる価格の最小値(choke price)を
p* (q, u) とおけば、任意の q と q に関し
て
E( p* (q, u), q, u)  E( p* (q, u), q, u)
(12-16)
が成り立つ。
(問題 12-12*)(12-14)のとき(12-16)が成り立つことを、図を用いて説明しなさい。
(ヒント)U (0, y, q)  u( u は定数)を y について解いた関数を y(q, u) と表し、
(12-14)のもとでは、 y(q, u)  y(q, u) が成立することを示しなさい。
12/06/14
25
この弱補完性のもとでは、価格
p のもとでの補償変分 CV は、(12-13)と(12-16)より、
CV  E( p* (q1 , u 0 ), q1 , u 0 )  E( p, q1 , u 0 )
(12-17)
 E( p* (q 0 , u 0 ), q 0 , u 0 )  E( p, q 0 , u 0 )
と求めることができる。したがって、効用水準 u と環境質 q が与えられたもとでの補償需要
関数を x  xdC ( p, q, u) と置けば、(12-17)より、価格
p のもとでの補償変分 CV は
CV =「補償需要曲線 x  xdC ( p, q1 , u 0 ) 、 x  xdC ( p, q0 , u 0 ) 、
価格線 p  p 、縦軸 x  0 で囲まれる図形の面積」
(12-18)
が成立することになる。
y  q  1  x / q2  q であるとき、 p* (q, u) を求める
とともに、(12-14)が成立することを確認しなさい。そして、環境質が q 0 から q1
に変化するとしよう( 0  q0  q1 )
。そのとき、補償所得 E( p, q, u) を求めるこ
と で 、 (12-17) を用 い て補 償 変 分 CV を 求 め なさ い。 ま た 、補 償 需 要関 数
x  xdC ( p, q, u) を求めることで、(12-18)を用いて補償変分 CV を求めなさい。
(問題 12-13*)効用関数が U ( x, y, q) 
12/06/14
26
この弱補完性のもとでは、価格
p のもとでの補償変分 CV は、(12-13)と(12-16)より、
CV  E( p* (q1 , u 0 ), q1 , u 0 )  E( p, q1 , u 0 )
(12-17)
 E( p* (q 0 , u 0 ), q 0 , u 0 )  E( p, q 0 , u 0 )
と求めることができる。したがって、効用水準 u と環境質 q が与えられたもとでの補償需要
関数を x  xdC ( p, q, u) と置けば、(12-17)より、価格
p のもとでの補償変分 CV は
CV =「補償需要曲線 x  xdC ( p, q1 , u 0 ) 、 x  xdC ( p, q0 , u 0 ) 、
価格線 p  p 、縦軸 x  0 で囲まれる図形の面積」
(12-18)
が成立することになる。
y  1  min(x, q)2 であるとき、 p* (q, u) を求めると
ともに、(12-14)が成立することを確認しなさい。そして、環境質が q 0 から q1 に
変化するとしよう( q0  q1  1  p / 2 )
。そのとき、補償所得 E( p, q, u) を求め
ることで、(12-17)を用いて補償変分 CV を求めなさい。また、補償需要関数
x  xdC ( p, q, u) を求めることで、(12-18)を用いて補償変分 CV を求めなさい。
(問題 12-14*)効用関数が U ( x, y, q) 
12/06/14
27
10.4 防御支出法
• スモッグのレベルを低下させる条例のもたらす
便益について、窓の清掃(ビジネス)の市場に
与える効果から測定することについて検討す
る。
Q=窓清掃回数
P=窓清掃価格
12/06/14
28
P
S0
D
S1
P0
P1
Q0 Q1
12/06/14
Q
29
防御的支出の減少分=
Ⅰ-Ⅳ
消費者余剰の増分=
Ⅰ+Ⅱ
P
S0
D
P0
P1
Ⅰ
Ⅲ
Ⅱ
Ⅳ
Q0 Q1
12/06/14
S1
需要の価格弾力性が小
Ⅱ+Ⅳ≒0
防御的支出の減少分
 消費者余剰の増分
Q
30
<防御的支出法の問題点>
• 新しい均衡への調整スピード
• 窓拭きでスモッグ問題の全ては解消できない。
• 防御的支出で非常に窓が綺麗になるかもしれない。
• 防御的支出を機会費用で考える必要がある。
12/06/14
31
10.1 市場類似法(market analogy method)
10.2 トラベルコスト法(travel cost method)
10.3 環境質改善の便益評価
10.4 防御支出法(defensive expenditures method)
12/06/14
32