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11.費用便益分析 2
本章では、等価変分(あるいは補償変分)を用いた便益評価方法の例を検討し、第 12 章で
は、消費者余剰と生産者余剰を用いた便益評価方法の例について検討する。
本章では、道路整備事業で生み出される便益評価の方法に着目して議論を進める。なお、
道路整備事業の便益評価に際しては考慮される便益としては、
① 走行時間短縮便益、
② 走行経費減少便益、
③ 交通事故減少便益
などがある。
その中で、以下では、走行時間短縮便益と交通事故による死亡確率を低下させる便益の評
価方法について検討する。
11.1 時間短縮の便益
11.2 死亡確率を低下させる便益(統計的人命の価値)
11.1 時間短縮の便益
道路の整備により経済主体が得る経済的価値の推計方法としては、労働市場に着目する方
法が考えられる。
もちろん、労働市場では労働者の知識や技能などを取引している市場としての側面もある
が、労働者の利用可能な時間を取引している市場としての側面が重要なものである。
そのような側面に着目すれば、時間短縮の便益を労働市場で成立している賃金率を用いて
機会費用として捉えることができる。具体的には、その整備により経済主体の
走行時間が短縮(節約)できることの便益
=その走行(時間)の機会費用の減少額
=「短縮時間×賃金率(時給)」
で捉えることができる。
「費用便益分析マニュアル(国土交通省、平成 15 年)」では、乗用車 1 台の走行時
間を 1 分短縮する便益(時間価値原単位)を約 63 円(平成 15 年価格)としており、
バスに関しては約 520 円としている。
(問題 11-1)現状は道路 A だけが存在し個人1と個人 2 はともに往復 2 時間かけて通勤し
ているとする。
ここに、道路 A のバイパスである道路 B を整備するプロジェクトが計画されて
いるとする。そして、道路 B が建設されてから個人1は道路 B を利用して往復
1 時間で通勤できるようになり、個人2は道路 A を用いて往復 1 時間 30 分で通
勤できるようになるとする。
さらに、個人 1 の時給は 2000 円、個人2の時給は 3000 円であるとする。この
とき、個人1と個人2はこのプロジェクトから 1 日あたり時間短縮の便益を幾
ら得ていると評価できるであろうか。
問題11-1
個人2の時給=3000円
1時間30分
2時間
道路A
個人2
個人1の時給=2000円
1時間
2時間
個人1
道路B
問題11-1(続き)
<個人1について>
• 短縮時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間短縮の便益=?円
問題11-1(続き)
<個人1について>
• 短縮時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間短縮の便益=2000円×1=2000円
問題11-1(続き)
<個人1について>
• 短縮時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間短縮の便益=2000円×1=2000円
<個人2について>
• 短縮時間=0.5時間
• 時給=3000円
⇒ 時間短縮の便益=?円
問題11-1(続き)
<個人1について>
• 短縮時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間短縮の便益=2000円×1=2000円
<個人2について>
• 短縮時間=0.5時間
• 時給=3000円
⇒ 時間短縮の便益=3000円×0.5=1500円
問題11-1(続き)
<個人1について>
• 短縮時間=1時間
• 時給=2000円
⇒ 時間短縮の便益=2000円×1=2000円
<個人2について>
• 短縮時間=0.5時間
• 時給=3000円
⇒ 時間短縮の便益=3000円×0.5=1500円
時間短縮の便益を
「短縮時間×賃金率(時給)」
と計算できる理論的な根拠について検討しよう。
モデルで想定している単位期間は 1 日であるとする。
c =私的財の消費量
l =レジャー時間(の消費量)
T =総利用可能時間
t 0 =状態 0 のもとでの(道路整備前の)通勤時間
t 1 =状態 1 のもとでの(道路整備後の)通勤時間( t 1  t 0 )
T  t j  l =状態jのもとでの労働時間
w =賃金率(時給)
c  w  (T  t j  l ) :状態 j のもとでの予算制約式
(11-1)
T  t j =状態 j のもとでの最大労働時間
m j : w  (T  t j ) :状態 j のもとでの(実現可能)最大所得
c  w  l  m :状態 j のもとでの予算制約式
j
c  w  l  w  (T  t j )
(11-2)
状態 0 のもとでの①予算制約式(11-2)、②個人の最適な消費パターン ( l 0 , c 0 ) 、
③ ( l 0 , c 0 ) を通る無差別曲線 I 0 を、 l c 平面に図示すれば次の図のようになる。
c
m 0 : w  (T  t 0 )
c  w l  m
0
c0
I0
w
l0
T  t0
T
l
以下では、端点解の可能性は考えないことにする。
(問題 11-2)状態 1 のもとでの①予算制約式、②個人の最適な消費パターン ( l 1 , c 1 ) 、③
( l 1 , c 1 ) を通る無差別曲線 I 1 を、上の図に図示するとともに、状態 0 から状態
1 への変化(道路を整備)で生じる補償変分 CV 、等価変分 EV を、図示し
なさい。また、 CV を w 、 t 0 、 t 1 を用いて表しなさい。
c
E (w, I 1 )
=
CV  EV  m 1  m 0  w  ( t 0  t 1 )
m  w  (T  t )
1
1
EV  CV
m 0  w  (T  t 0 )
=
E (w, I 0 )
c1
c0
I1
I0
労働所得の増分
w
余暇時間増加の便益
l0
c j  w  (T  t j  l j )
c  w  (T  t j  l )
l1
T  t0
T t
1
l
(問題 11-3)走行時間短縮便益を、賃金率を用いて捉える方法の問題点について検討しよ
う。たとえば、①新幹線の走行スピードが速くなって短縮される時間の便益と、
②海岸沿いのカーブの多い道路しか無かった観光地に、トンネルの多い直線的
なバイパス道路を整備することで短縮される時間の便益を、賃金率を用いて評
価する場合の問題点(あるいは注意点)について検討しなさい。
• 賃金に便益が含まれていない。
• 電車の中でも仕事ができる。
• 税金を考慮する必要がある。
• ドライブでは景観を楽しめる。
• 賃金率は仕事の特性を反映している。
• 労働時間を調整できない可能性がある。
11.2 死亡確率を低下させる便益(統計的人命の価値)
交通事故減少便益としては、
「人的損害額」
、
「物的損害額」
、
「交通渋滞損害額」
を減少させる便益などがある。
これらの損害額減少便益のなかで、その便益を金銭的に評価することが困難である
と考えられるのは、人的(人命)損害額減少便益であろう。
そこで、人命の価値を推計する方法について検討する。
① 逸失所得法(forgone earning method)
⇒ 将来所得の割引現在価値
② 消費者購買調査(consumer purchase studies)
⇒ エアバッグ価格と死亡確率の低下
③ 労働市場調査(labor market studies)
⇒ 死亡リスクが大きい仕事に要求される代償
(問題 11-4)
「逸失所得法」により人命の価値を捉える場合の問題点について検討しなさい。
<消費者購買行動からの死亡確率低下便益の推計>
人命の価値は無限大であると考える立場からは、人命の貨幣価値を評価しよう
とする試みは不道徳(あるいは無駄)なことであると批判されるかもしれない。
評価方法のアプローチを少し変えて、死亡確率を低下させることの貨幣価値を
計算するということならばこの批判を回避できるであろう(②と③の手法)。
以下では、道路の中央分離帯を整備する事業(プロジェクト)による人命損害額
減少便益を、消費者のエアバッグ購買行動から死亡確率を低下させることの便益
を捉える方法について検討する。
x =エアバッグ(財 x )の消費量
y =その他の財(財 y )の消費量
p =財 x の価格
財 y の価格=1
m =所得
個人の予算制約式は
px y  m
と表される。
(11-3)
Pr ( x ) =道路の中央分離帯整備事業を実施する前の状態(状態 0)において、 x 個のエアバ
ッグを装備(消費)しているときの(年間に)死亡事故に遭遇する確率
そして、次の関係の成立を仮定する。
① Pr ( 0 )  Pr (1)  Pr ( 2 )  
② 任意の整数 k と、 0  z  1 を満たす z に関して、
Pr ( k  z )  Pr ( k )
(11-4)
<仮定>
Pr ( x  1) =中央分離帯の整備事業を実施した後の状態(状態 1)においては、 x 個のエアバ
ッグを装備しているときの死亡事故に遭遇する確率
そのとき、
「状態 1′」=「中央分離帯整備事業を実施する前に無償でエアバッグが 1 つ配布されてい
る状態」
と呼ぶことにすれば、整備事業による便益を評価するという観点からは、状態 1 を「状態
1′」で代替することができる。
したがって、その整備事業で個人に生じる便益(等価変分)を、「無償でエアバッグを 1 つ
配布する事業の便益」に置き換えて捉えることにする。
なお、
「(財 x の)消費量=購入量+無償配布量」
なので、たとえば「状態 1′」においては
「(財 x の)消費量=購入量+1」
となる。
y
m
I
0
c0
px y  m
p
1
2
x
状態 0 と「状態 1′」におけるエアバッグの価格は同じ p であるとする。
また簡単化のため、状態 0 のもとでの個人の財 x に対する需要量が 1 であるとする。
そして、状態 0 のもとでの個人の予算制約式と最適な消費点 c 0  ( x 0 , y 0 ) を通る無差別曲
線(点の集まり) I 0 を図示したのが上の図である。なお、このような無差別曲線の場合は、
たとえばエアバッグを 1.5 個消費することと、1 個消費することでは効用水準に変化がない
ことになる
(問題 11-5)無償でエアバッグ(財 x )が1つ配布されたとき(状態 1′)の個人の予算制
約線を上の図に描き加えなさい。
y
m
I
0
p  ( x  1)  y  m
c0
px y  m
p
1
2
x
(問題 11-6)無償でエアバッグが1つ配布されたとき(状態 1´)の個人の消費点を c 1 、c 1
を通る無差別曲線を I 1 とする。c 1 と I 1 を、上の図のなかに図示しなさい。なお、
「状態 1′」における個人のエアバッグの最適消費量が 2 であるとする。
y
I1
m
c1
c0
p  ( x  1)  y  m
p
1
2
x
(問題 11-7)問題 11-6 で描いたケースにおいて、状態 0 から「状態 1′」への変化で個人
に生じる等価変分 EV (=補償変分 CV )を図示し、 EV  p が成立することを
確認しなさい。
y
E ( p, I 1)
I1
EV
E ( p, I 0 ) 
m
c1
c0
p  ( x  1)  y  m
p
1
2
x
(問題 11-8)「状態 1′」における個人のエアバッグの最適消費量が 1 となるケースにおい
て、状態 0 から「状態 1′」への変化で個人に生じる等価変分 EV を図示し、
EV  p が成立することを確認しなさい。
y
E ( p, I 1)
I1
EV
E ( p, I ) 
0
c1
m
p  ( x  1)  y  m
c0
オフセット行動
p
1
2
x
問題 11-7 と問題 11-8 より「状態 1′」におけるエアバッグの消費量が 1 でも 2 でも等価変
分 EV  p となる。そして、財 y は下級財ではないとの仮定から、「状態 1′」におけるエ
アバッグの消費量が 3 以上になる可能性はない。したがって、状態 0 から「状態 1′」への
変化により生じる等価変分は EV  p である。
この中央分離帯整備事業で便益を受ける人数が n 人であるとする。そのとき、この事業を実
施した場合の集計的等価変分は(この事業で個人のエアバッグ購入量が変化するかどうか
に関わりなく) nEV  n  p である。そして、この集計的等価変分でこの事業を実施した場
合に得られる社会的便益が捉えられる( B  n EV )ので、次の関係が成立することになる。
B  n p
(11-5)
<統計的人命の価値>
以上の議論では、消費行動から人命損害を減少させる便益を評価(推計)する方法につい
て説明した。以下では、この便益を「統計的人命の価値(value of statistical life)」を用い
て評価する方法について検討する。
中央分離帯整備事業から便益を受ける個人のエアバッグ購入量(すなわち消費量)が、こ
の事業を実施しても1で変化しないと(実際とは違うかもしれないが)想定する。
そのとき、
その事業を実施する前の状態 0 における死亡事故に遭遇する確率は Pr (1) であり、
事業実施後の状態 1 におけるその確率は Pr ( 2 ) である。
したがって、状態 j における死亡者数の期待値は nP r ( j  1) である( j  0 , 1 )。以上より、
状態 0 から状態 1 への変化による死亡者減少数
(救われる人命数)
の期待値を  n と置けば、
 n  n  ( Pr (1)  Pr ( 2 ))
(11-6)
と求められることになる。
「(死亡確率が Pr (1) から Pr ( 2 ) に低下することに対応する)統計的人命の価値」は、その低
下で個人が受ける便益 p を死亡確率の減少幅 Pr (1)  Pr ( 2 ) で割ったものとして定義され、
それを VSL と表すことにする。すなわち、
VSL :
p
(11-7)
Pr (1)  Pr ( 2 )
である。
B  n  VSL  ( Pr (1)  Pr ( 2 ))
B  n  p (11  5 )
このとき、(11-5)、(11-6)、(11-7)より、中央分離帯整備事業の便益は、
B   n VSL
 n  n  ( Pr (1)  Pr ( 2 ))
(11  6 )
(11-8)
と求めることもできる。
すなわち、中央分離帯整備事業で個人のエアバッグ購入量が変化するかしないかに関わら
ずに(11-5)で求められたその便益 B は、個人のエアバッグの購入量がその事業により変化し
ないと想定した場合の死亡者減少数の期待値  n に、統計的人命の価値 VSL を掛けること
で求めることができるのである。
(問題 11-9)中央分離帯整備事業を実施する前の状態(状態 0)におけるエアバッグを x 個
装備しているときの(年間に)死亡事故に遭遇する確率 Pr ( x ) が、Pr ( 0 ) =1/100、
Pr (1) =1/1,000、 Pr ( 2 ) =1/10,000 であるとする。
また、その事業を実施した後の状態(状態 1)においては、 x 個のエアバッグを装
備しているときの死亡事故に遭遇する確率は Pr ( x  1) であると仮定する。
そして、エアバッグの価格 p =9 万円である。
なお、状態 0 におけるエアバッグの購入量は 1 であるとする。
また、便益を受ける個人の人数は 1 万人であるとする( n =10,000)。
そのとき、この整備事業のもたらす社会的便益 B を n と p を用いて求めなさい。
さらに、個人のエアバッグの購入量がその事業により変化しないと想定した場合
の死亡者減少数の期待値  n と統計的人命の価値 VSL を求めなさい。
そして、この整備事業のもたらす社会的便益 B を  n と VSL を用いて求めなさい。
このプロジェクトの便益 B = n  EV = n  p  10 , 000 人  9 万円 / 人  9 億円
死亡者減少数の期待値  n = n  ( Pr (1)  Pr ( 2 ))
 10 , 000 人  (1 / 1, 000  1 / 10 , 000 )
 10 人  1人  9 人
「統計的人命の価値」は
VSL :
p
Pr (1)  Pr ( 2 )

9 万円 / 人
 1億円 / 人
0 . 0009
と求められる。
B =  nVSL = 9 人×1 億円/人=9 億円
(問題 11-10)資産水準(あるいは借入可能額)の高い個人と低い個人で、「統計的人命の
価値」にどのような差が生じる可能性があるかを検討しなさい。
<その他の論点について>
① オフセット行動に対する対処に必要性は無いだろうか。
その必要性があるとすれば、どのような対処方法が考えられるだろうか。
② 死亡確率が1/10とか1/2といった医療現場において、死亡確率を低
下させる便益(あるいは統計的人命の価値)を上述のように捉えるこ
とには問題は無いだろうか。
問題があるとすれば、どのような対処方法が考えられるだろうか。
11.費用便益分析 2
11.1 時間短縮の便益
11.2 死亡確率を低下させる便益(統計的人命の価値)