大規模殻模型計算による 不安定核の構造
Download
Report
Transcript 大規模殻模型計算による 不安定核の構造
大規模殻模型計算による
不安定核の構造
原子力機構 宇都野穣
共同研究者
東大理・CNS/理研 大塚孝治
専修大 水崎高浩
会津大数理セ 本間道雄
安定核と不安定核
• (ベータ)不安定核とは?
– 陽子と中性子のフェルミ面の位置が
異なる、ベータ崩壊に対し不安定な原
子核
• 不安定核の特質
– 中性子のフェルミ面が連続状態に近
いことによる、弱束縛系としての側面
(中性子ハローなど)
– 陽子/中性子数の比が大きいことによ
る、核力のアイソスピン依存性とそれ
を反映した多体問題としての側面
– 多体系の緩い束縛による、新たなサ
ブシステム(クラスター)の存在可能性
しての側面
谷畑勇夫、宇宙核物理学入門(講談社、2002)
今後理研などの
プロジェクトでカバー
される予定
小浦寛之、橘孝博、日本物理学会誌第60巻, p.717 (2005).
魔法数とその消滅
• 原子核の魔法数
– 特に安定な原子核の核子数
– 2, 8, 20, 28, 50, 82, 126
– 球形
– 安定核近傍では、陽子・中性
子数に依存せず安定
– 調和振動子ポテンシャル+
スピン軌道相互作用におけ
るエネルギーギャップとして
理解されている。
中性子数20の魔法数は中性子
過剰核領域では消滅していること
A.
がわかってきた。
Bohr and B.R. Mottelson, Nuclear Structure
vol. 1 (1969).
微視的な理解ー殻模型の観点からー
• normal vs. intruderのエネルギー的競合
• intruder状態の相関エネルギーが十分大きければ、比較的
大きな殻ギャップでもnormal状態よりも低くなりうる。
– これまでの伝統的理解”island of inversion”
• sd殻+pf殻の大きなバレンス殻を取って計算する必要性
– 巨大ハミルトニアン行列、モンテカルロ殻模型(MCSM)が有用
intruder (2p-2h)
normal (0p-0h)
pf
pf
20
20
sd
sd
一粒子エネルギーの安定性 vs. 相関エネルギーの利得
これまでの標準的描像
“island of inversion”の範囲
20
E.K. Warburton et al., Phys. Rev. C 41, 1147 (1990).
相関エネルギーの陽子数
依存性が重要であるとの結論
大規模計算の重要性
• 原子核の殻構造を議論するには、 0p-0hと2p-2h状態との競
合を調べるのが有益。
• 4p-4hなどの多粒子・多空孔配位の模型空間は巨大なため、
これまでの計算では取り入れられなかった。
• これまで採用されてきたunperturbedな計算の妥当性を検討
する必要がある。
pure 2p-2h
mixing with
4p-4h etc.
pure 0p-0h
Unperturbed
0p-0h + 2p-2h
Full calculation
多粒子・多空孔配位の寄与
ph
36S
38Ar
0 +1 0 +2 0+1 0+2
0
74
7
66
5
2
24
81
30
79
4
2
11
4
15
どの原子核で魔法数が消滅するか?
• 基底状態の性質を直接反映す
る物理量:電磁モーメント
• USD(魔法数の存在を仮定した
計算)、MCSM(魔法数消滅の
自由度を含んだ計算)との対比
• 中性子数19で魔法数が消滅す
ることを初めて定量的に示した。
Y. Utsuno et al., Phys. Rev. C 70, 044307 (2004).
魔法数が消滅する核を同定する重要性
中性子数減少
20
normal
競合
intruder
この時、殻ギャップの大きさが
基底状態を支配する配位を
決定するのに極めて重要
低いintruder状態ー実験との共同研究ー
•
29Neからのベータ崩壊に
よる29Naの準位の測定
• 小さなlogft値の崩壊は、
1/2+,3/2+,5/2+に対応
• 1249keV,1588keVの2つ
の状態は魔法数消滅の
自由度を取り入れないと
出現しない。
• MCSM計算での良い一
致は採用された殻ギャッ
プが妥当であることを示し
ている。
9/2+
V. Tripathi et al., Phys. Rev. Lett. 94, 162501 (2005).
不安定核領域における「殻進化」
• 大規模計算を通じて導
き出された。
• 殻構造がほとんど変化
しないという従来の見
方と大きく異なる。
40Ca
陽子数
16O
中性子数
16Oから40Caにかけての
中性子の一粒子エネルギー
殻構造が変化するメカニズムは?
有効相互作用のスピン・アイソスピン依存性
T. Otsuka et al., Phys. Rev. Lett. 87, 082502 (2001).
T. Otsuka et al., Phys. Rev. Lett. 95, 232502 (2005).
まとめ
• 原子核構造の微視的模型の一つである殻模型の大規模計算
が可能になり、大きなバレンス殻を要する不安定核への適用
とその物理の理解が進んできた。
• 不安定核構造における新たなトピックスである、魔法数の消滅
の起源は、多体相関の核子数依存性のみだけではなく、殻構
造自体が安定核から大きく異なることも重要である。
• 殻構造の変化「殻進化」は他の領域でも同様に起こると考えら
れ、平均場模型などにより中重核に適用する研究も国内外で
行われてきている。