高エネルギー重イオン反応による 原子核状態方程式の探求 学位

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Transcript 高エネルギー重イオン反応による 原子核状態方程式の探求 学位

中間~高エネルギー重イオン衝突における楕円型フロー
から探るEOSとQGP
KEK研究会「QCDとハドロン物理の新展開」 (平成18年2月28日)
北大理
一瀬 昌嗣
(M. Isse)
導入
重イオン衝突の時空発展
楕円型フロー
模型
ハドロン・カスケード(+平均場)
結果
AGS~SPS
SPS~RHIC
まとめ
1
研究の目的
核物質の状態方程式(EOS)
を知りたい。
Lattice QCDなどの理論
隔たり
重イオン衝突実験
⇒両者から得られている知
識をつなぐ必要。模型によ
る現象論的解析。
温度T
QGP相
~170
MeV
ハドロン相
カラー
超伝導
超新星爆発
通常核
密度ρ0
中性子星
2-10ρ0
問題となること

ハドロン相での状態方程式・非圧縮率(K)と観測値との関係
⇒ 中性子星や超新星爆発の理解

QGP相への相転移の記述、実験的確証

非平衡過程 ⇒ 静的な物理量と観測量との関係

熱平衡化の時間スケール
~10ρ0
密度ρ
2
重イオン衝突の時空発展
t
t
Freeze out
Freeze out
~10fm/c
局所平衡
ハドロン化
ハドロン化
局所平衡
~5fm/c
~10fm/c
~5fm/c
QGP
~1fm/c
z
AGS,SPSでの衝突過程の模式図
z
RHICでの衝突過程の模式図
中間エネルギー(AGS,SPS)では、QGPはほとんど実現していないと考えられる。ハドロン化の後、
局所平衡になる場合もあるが、その他は ほとんど非平衡過程。
高エネルギー(RHIC)では、非常に早い段階での局所平衡(~QGP)への相転移があると考えられる。
3
重イオン反応でのCollective Flow



EOSを反映すると考えられる観測量。
Elliptic flowは、その代表的なもの。
衝突関与部の圧力分布が反映されて形成されると考えられる。
強いElliptic flow
dN
 1  2v1 cos   2 v 2 cos 2  
⇒QGPの存在
d
v1  cos  
Px
PT
,
v 2  cos 2 
Px 2  Py 2
PT 2
4
平均場を取り入れたハドロン輸送模型(BEM)の例
[Danielewicz, Lacey, Lynch, Science 298,1592(2002)]

SIS ~ AGS (0.1~11 A GeV)の重イオン衝突を記述するに
は、ハドロンカスケード模型に平均場が必要。
Fでは低いKが、v2高いKが良い ⇒ EOSは不定。
v =
=d<px>/d(y/yproj
)

5
v2のビームエネルギー依存性
[Alt et al.(NA49), Phys. Rev. C 68, 034903 (2003)]

AGS~RHIC (Einc=11~21300 A GeV)の重イオン衝突で得
られたv2/e(幾何学的なscalingをしたelliptic flow)は、流体力
6
学模型で記述できる値に近づく。
本研究の概要

通常核密度付近での核物質の状態方程式(EOS)を、平均場とし
て取り入れたハドロン輸送模型を用いてAGS, SPS実験で得られ
たCollective Flowの説明を試みた。AGSまでは既に研究されて
いるが、SPSでは未だない。
近年重要視されている、運動量依存平均場の効果も調べた。
[Isse, Ohnishi, Otuka, Sahu, Nara, Phys. Rev. C 72, 064908 (2005)]

高温・高密度で生じると考えられるQGPへの相転移が、
Collective Flowにどれだけ影響を与えているかを調べた。
QGPへの相転移が記述できない ハドロンカスケード模型
[Sahu, Ohnishi, Isse, Otuka, Phatak, submitted to Pramana (India)]
QGPへの相転移を取り入れた 流体模型
[Hirano, Isse, Nara, Ohnishi, Yoshino, Phys. Rev. C 72, 041901(R) (2005)]
で、Collective Flowの違いの説明を試みた。
7
ハドロンカスケード模型 JAM
String
Hadrons
N
ハドロン共鳴
Δ
N



N
q
π
原子核-原子核散乱を、時間を追いかけて記述する
シミュレーションコード。
さまざまなハドロン自由度(ハドロン共鳴、String生
成、Jet生成)が、取り入れられている。
これらの衝突を繰り返して、初期の原子核-原子核
の状態から、反応過程を経て、終期の粒子分布まで
を記述できる。
Nara et al., Phys. Rev. C 61,024901(2000)
q
String生成
B3
M1 M2
B1
Jet 生成
M3 M4B
4
B2
8
RQMD/S
[Maruyama et al., Prog. Theor. Phys. 96, 263(1996)]
ローレンツ共変に相互作用を取り扱い
N体の運動を扱うのは難しい
⇒束縛条件付きのハミルトニアン動力学
RQMD/S を、ローレンツ共変に平均場
を扱う枠組みとして採用。RQMD
(Relativistic Quantum Molecular
Dynamics) [Sorge et al.(1989)]
の枠組みを部分的に近似し、運動方程
式をポテンシャルを含んだ形で解析的
に表せるようにしたもの。
 これをハドロン・カスケード模型JAMに
導入。
 相互作用Viを決める
N
⇒

V   Vi
i1
9
運動量依存平均場の導入
} 運動量依存
} 運動量非依存
運動量依存(MH,MS)
運動量非依存(H,S)
パラメーターa,b,g ,Cex(k) , mk を四種選ぶ。
 MH,MS: 運動量依存性は、proton+原子核(12C, 40Ca, 208Pb) Kは決まっていない
ので2種づつ選んだ
散乱から得られた光学ポテンシャルUSEPを合わせるように決める。
MH:K=448MeV
[Hama et al, Phys. Rev. C 41, 2737 (1990)] (左図)
密度依存性は、ゼロ温度で原子核が飽和性質する性質(右図)を再 MS:K=314MeV
H: K=380MeV
現するように決める。
S: K=200MeV
USEP=dV/dƒで、1粒子あたりのポテンシャル
但し、∫ƒ(r,p)dp=r(r)
10
v2 の入射エネルギー依存性
Proton v2 のy~0付近のものを実験値と比較してみると、運動量依存平均場
(MH,MS)が入ったハドロンカスケード(JAM)がよく再現できている。
 非核子バリオンに効く平均場の効果は、低エネルギーほど小さい。
[Isse, Ohnishi, Otuka, Sahu, Nara, Phys. Rev. C 72, 064908 (2005)]

運動量非依存のHは、
他のハドロンカスケー
ド(UrQMD)のものと
同様の傾向を示して
いる。
[Soff et al.,
SPS
nucl-th/9903061]
Nucleon MF
Non-N MF
AGS
11
v2(h), v2(pT) @RHIC 130GeV, Au+Au
@SPS 17 GeV, Pb+Pb
[Sahu, Ohnishi, Isse, Otuka, Phatak, submitted to Pramana (India)]


JAMでのmid-centralでのSPSとRHICの比較では、 v2(h)の中心付近、
v2(pT)はほとんど同じ値を示す。
JAMでは、衝突初期の配置によりv2のほとんどは決定されると考えられる。
12
相対論的流体模型
mTm = 0 エネルギー運動量保存
mnium = 0 カレントの保存 (baryon, strangeness,…)
e : エネルギー密度
P :圧力
um: :4元速度 g(1,v)
ni: :密度
T
m
m 
 (e  P)u u  Pg
m
t0,Tch :Au+AuのdN/dhをfit, Tth:可変
5本の独立な方程式
6個の独立変数 e,P,ni,v
transverse
longitudinal
↓
状態方程式P(e,ni)を仮定
↓
初期条件を与え、Bjorken座標
(t,hs,x,y)で解く。
t  t 2  z2
1
tz
hs  log
2
tz
Hirano, Nara, Nucl. Phys. A743, 305 (2004)
Hirano, Tsuda, Phys. Rev. C 66, 054905(2002)
13
PHOBOSの講演より
[Hirano, Isse, Nara, Ohnishi, Yoshino, Phys. Rev. C 72, 041901(R) (2005)]


v2は、両模型の違いが顕著。
流体模型でもTth (⇔Freeze outの早さ)で
14
違いがある。
まとめ

AGS~SPS (Einc=2~158A GeV,s=3~17 AGeV)の重イオン衝突実験の
Collective Flowを、ハドロンカスケード模型で分析した結果、運動量依存平均
場が重要であることがわかった。SPSのエネルギーで、 QGPを導入しなくてもハ
ドロンカスケード+平均場の描像で、Collective Flowが説明できることがわかっ
た。
[Isse, Ohnishi, Otuka, Sahu, Nara, Phys. Rev. C 72, 064908 (2005)]

SPS (Pb+Pb,s=17AGeV) とRHIC (Au+Au ,s= 130~200A GeV) の
ハドロンカスケード模型でのv2は、ほぼ同じ値を示した。これは、RHICでの実験
値より小さい。⇒ハドロンカスケードでv2の記述は困難 ⇒次の吉野君のtalk
[Sahu, Ohnishi, Isse, Otuka, Phatak, submitted to Pramana (India)]

RHIC(Cu+Cu,s=200AGeV)で、ハドロンカスケード模型と流体模型を比較し
た結果、 v2の実験値は、Tth=100MeVの流体模型と、カスケード模型の中間あ
たりに位置した。このことから、Au+Au衝突では広い範囲にわたっていたQGPが、
Cu+Cuでは小さい範囲に狭まり、またより短い時間に実現したというシナリオを
示唆。
[Hirano, Isse, Nara, Ohnishi, Yoshino, Phys. Rev. C 72, 041901(R)
(2005)]
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