税法特論~共同研究~ 総論「多様化する組織形態への課税問題」

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Transcript 税法特論~共同研究~ 総論「多様化する組織形態への課税問題」

税法特論~共同研究~
総論「多様化する組織形態への課税問題」
2007/12/12
1.発表形式
全体的には、(1)総論(2)組合(3)信託(4)法人(5)租税回避 と5つのテーマとなっている
が、グループ内外においても意識的な連結は行なわず、むしろ授業等を通じて得た成果を
もって各自なりのアプローチで、『問題の把握』あるいは『発表』を行う方向性を選択した。
【各グループの発表テーマ】
No.
発表項目
③発表
1
総論
2
組合
3
信託
4
法人
5
租税回避
①問題の
洗い出し
②問題の把握
1
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2.研究テーマ
経済環境の変容により、経済主体として活動していく自然人以外の『組織形態』が、従来か
ら使用してきた『法人』という括りでは、収束できなくなってきた。この状況は次の問題点を提
起し、本特論のテーマとなり、かつ特論参加院生の全体発表の課題となった。
また、特論の研究対象は『変容する納税義務者』に焦点を絞り、全員が研究参加形式で研
究を行ってきたが、全体発表に際し異なった側面からの発表も行われる場合もある。
研究テーマ
(論点1)
わが国の標記制度の座標軸を知るべく諸外国の制度比較考査を行う
(論点2)
諸外国の制度の中からアメリカを抽出し「法人課税」の範囲の変遷にフォーカスを
絞る
(論点3)
所得税の代替策という大胆な切り口を思考する
(論点4)
「法人成り」を考察しつつ、法人課税と所得課税の対比考察を行う
2
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3.問題点の所在-Part1ー
多様化する組織形態への課税の問題点として以下の7点が挙げられる。
No.
項目
内容
1
租税法律主義
・租税法律主義の原則から、租税(法人税)の徴収は法源によって行われな
ければならない。
・しかし実態法では現実の自然人以外の『者』を分類定義することが困難化
している。
※自然人の定義は明確である。
2
成文性
・研究では各先駆的研究者が、この『者』のドメイン(領域)について各論考で
種々の見解を述べているが、租税法が国民への侵害規範であるから、成文
性は必要である。
・[i]チェック・ザ・ボックスは法的安定性を思慮したが、該当する法人の列挙
主義は限界化しているのかもしれない。
3
租税の公平性
・租税の公平性からは、実態を反映しきれていない『法人税』にこの公平性
が具備されているかが問題点である。
4
二重課税への
反駁
・わが国法人税は、所得税との間に二重課税を生む場合があるという宿命
をもっている。
・上記に対しシャウプ勧告後一時是正が行われたが、再回帰しこの後明確
な是正はない。
[i] 金子 宏著(2007)【租税法 法律学講座双書】P27
3
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4.問題点の所在-Part2ー
多様化する組織形態への課税の問題点として以下の7点が挙げられる。
No.
5
項目
税率格差
内容
・『法人成り』を行った場合、『対信用能力』『借入金』等への影響はある
ものの、巷間言われているような『お得感』は存在しない。
6
法人税の存立意義 ・問題点を露呈している『法人税』ではあるが、これに代わるものがない
とするならば、拡充発展が期待される。
※基本的には、次の(a)~(c)とされている
(a)所得税と法人税から成る所得課税が富に対する課税であること
(b)法人税は、本来は、営利事業の所得に対する課税であること。
(c)法人税は、所得税とは別個の固有の税であるという考え方に軸足
置いて生成発展してきており、今後とも、そのような考え方を採ること
が妥当であると考えられること[i]
7
国際間の租税回避 ・難問を内包している『法人税』であるが、一方チェック・ザ・ボックス以
降も、国際的租税回避スキームは増加している[ii]。
[i] 朝長 英樹(2006)【法人所得の意義と法人税の納税義務者に関する基本的な考え方】要約部
[ii] 関口 智(2007)【立教経済学研究】P156
4
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5.新たな課税方式の検討
現在新たな課税方式について、以下に掲げる方式を案として様々な議論が成されているが、
5.新たな課税方式の検討
『多様化する組織形態』によって発生した実体経済に対し、租税も課税のフォーメーションを変
え追随するが、出口が見えない状況にあると言える。
No.
項目
内容
1
実体型と導管型
企業本体に課税を行う(entity taxation)実体型、あるいは企業
をチューブのような物体に見立てて課税をさせずに通過させる
導管型のパススルー、また一度課税した後に、構成員への配
当分を損金算入するペイスルー(SPC方式)がある。
2
ピュアエンティティー
(pure entity)
所得源泉地国と居住地国の分類が一致している実体のこと。
源泉地国と居住地国の両国がある実体を法人と取り扱う場合
と,両国がパートナーシップと取り扱う場合とがある。
3
ハイブリッドエンティ
ティー
いずれか一方の国では課税上透明だが他国では法人と取り
扱われる実体はハイブリッド・エンティティ(hybrid entity)と分
類される。*hybrid=異質の要素の合成物.
4
レギュラーハイブリッド
エンティティー
・源泉地国では課税上透明と扱われるが,居住地国では不透
明(法人)と取り扱われる実体のこと
5
リバース(reverse)・ハ
イブリッド・エンティティ
源泉地国では法人と取り扱われるが,居住地国では課税上透
明と取り扱われる実体のこと。
5
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6.諸外国の制度-アメリカ-
アメリカにおいては、IRS(内国歳入庁)が1996年に公表したNotice95-14の中で、法人とみな
され、法人課税が適用される組織のことを「当然法人」、一方、法人とみなされない組織のこと
を、「適格エンティティー」と区別しており、また適格エンティティーの場合には納税者が自ら構
成員課税か法人課税か選択できる。
当然法人
適格エンティティー
選択
法人課税
構成員課税
6
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7.諸外国の制度-イギリス-
イギリスにおいては、カンパニーに対しては法人課税が、パートナーシップに対しては構成員
課税が行われてり、わが国同様、基本的に法人格の有無に依拠して区分しているが、LLPで
は法人格を有しているにもかかわらず構成員課税の対象になる等の例外も見うけられる。
カンパニー
法人課税
パートナーシップ
構成員課税
我が国同様、基本的に法人格の有無に依拠して区分しているが、
Limited Liability Partnership Act2000に基づくLLPは法人格を
有しているにも係わらず構成員課税の対象になる等の例外もある
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8.諸外国の制度-ドイツ-
ドイツでは、物的会社が法人税、人的会社が構成員課税となっており、私法上の法人格の有
無と租税法上の出資者と企業との人格的分離とが連動しているという点においては日本型と
同じであるが、人的会社の課税上の取扱いが日本型と逆であると言える。
物的会社
人的会社
・株式会社
・有限会社
・株式合資会社
・合名会社
・合資会社
私法上、法人格あり
法人課税
私法上、法人格なし
構成員課税
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9.諸外国の制度-フランス-
フランスの制度は、大まかに物的会社には法人税、人的会社には所得税が課され、また、人
的会社も法人格を有し、会社に対する法人税の課税も選択でき、日本とは異なり法人格の有
無が構成員課税と法人課税とを区別するメルクマールとなっていない。
物的会社
人的会社
・株式会社
・有限会社
・株式合資会社
・合名会社
・合資会社
法人税
所得税
ただし、家族経営の有限会社
は、法人税の課税を受けるが、
社員に対する所得税の課税
を選択することもできる。
ただし、会社が法人税を選
択すれば、法人税の課税
を受ける。
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10.諸外国の事例-アメリカ連邦所得税における範囲の変換-
アメリカ連邦所得税においては、①「法人」の他に②「団体」が法人課税の納税義務を負うこ
ととなっているが、明文された規定が存在せずその範囲は不明確な状態にあると言える。
アメリカ連邦所得税における範囲
① 「法人」:各州において法人格が与えられている組織体
②「団体」:信託やパートナーシップが団体にあたるか否か
明文に規定が存在せず、範囲が不明確である
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11.諸外国の事例-1935年 モリセイ判決-
1935年のモリセイ判決によって、以下、6つの法人類似性基準が示されることとなった。この判
断基準によって、法人課税の対象(団体)となる組織の範囲を広げるということ、法人と同様の
経済的機能を果たす信託やパートナーシップを法人課税の対象に取り込むことに成功した。
6つの法人類似性基準
①団体性
②営利目的の事業を行い利益を分配する目的を有すること
③組織の継続性
④経営の集中化
⑤有限責任
⑥持分の自由譲渡性
様々な要素を総合的に勘案して「法人との類似性」を判断し、
法人課税の対象(団体)となる組織の範囲を広げた
内国歳入庁(IRS)は、実質的に法人と同様の経済的機能を果たす
信託やパートナーシップを法人課税の対象に取り込むことに成功
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12.諸外国の事例-1960年 キントナー規則-
1960年のキントナー規則では6つの法人類似性基準のうち、③~⑥のうち3つの要素を有し
ていることによって「団体」として取り扱われることとされた。この規則の着眼は、形式基準に
よって「団体」とされる範囲、 の着眼は法人課税の範囲を制限することにあった。
6つの法人類似性基準
①団体性
②営利目的の事業を行い利益を分配する目的を有すること
利益を目的に事業を
営む全ての企業に
おいて当然要件とし
て考慮する必要なし
③組織の継続性
④経営の集中化
⑤有限責任
3つ以上の要素を有して
いない組織は「団体」と
して取り扱われず
⑥持分の自由譲渡性
キントナー規則では、モリセイ事件の法人類似性基準をより具体化し、
法人課税の対象(団体)となる組織の範囲を狭めた。
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13.諸外国の事例-キントナー規則で法人課税の対象(団体)となる組織の
範囲を狭めた理由 -
キントナー規則で法人課税の対象(団体)となる組織の範囲を狭めた理由とその後の影響は以下の通りとなる。
【法人課税の対象(団体)となる組織の範囲を狭めた理由】
年(西暦)
法人所得税の最高税率
個人所得税の最高税率
1964(キントナー規則1960)
50%
77%
1965~1978
48%
70%
1979~1980
46%
70%
1981~1986
46%
50%
1987
40%
38.5%
1988~1990
34%
28%
1991~1992
34%
31%
1993
35%
39%
⇒①個人の最高税率が高く、法人税率が比較的低い場合には、高額所得の個人は事業等を
法人化し、所得を法人内部に留保することで高い限界最高税率を回避できるという状況にあった
⇒②税制上優遇された企業年金を導入できるのが初期には法人に限られていた
一部の富裕な納税者にとっては法人として取り扱われた方が課税上
有利な状況が出現。
課税当局からみた場合、法人課税を行うよりも個人に直接所得課税を
行う方が税収確保につながる。
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14.諸外国の事例-キントナー規則以降-
キントナー規則以降に出てきた制度、規則等とその後の影響については、下記の通りとなる。
①医師等の高所得者が組織する事業体は、法
人扱いを受けることが困難になったが、1961年
以降、多くの州が専門職業人の要請に応じ「専
門職業サービス法人」制度を立法して、州法上
の「法人格」を取得できるような措置を講じた。
「法人格」がある以上連邦所得税法上、「法
人」と扱われることになる
②1965年、IRSは財務規則の改正によって「専
門職業サービス組織」の団体性を判断する際、
特則を定めて対応しようとした。
このような規則改正は裁判例(kurzner事件
判決、1969年)の認めるところとならず、結局、
形式基準が規則の内容として確立する。
③「法人課税」の範囲を狭めようとする規則は、
1970年代以降に作られるようになったLPSを用
いたタックスシェルターの格好の的となる。
IRSは判断対象となる組織の実質的要素を
指摘して法人課税の範囲の拡大することを試
みるが、裁判例(Zuckman事件判決、1976年)
が否定。
④結局、裁判所の支持を得ることに失敗したIRS
は、結局のところ実質な判断基準を放棄し
1996年、納税者自身が、法人扱いを受ける
か否かを一定の範囲で選択しうる、チェック・
ザ・ボックス規則へと移行していく。
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15.所得税と消費税の位置づけ
所得税と消費税の位置づけについて、それぞれ「生涯所得」と「生涯支出」という枠組みの中
で以下の通りイメージ図に表すことができる
【生涯所得】
【生涯支出】
相続
消費
相続税(贈与税)
消費税
所得
負の人頭税
所得税(法人税)
○公平負担
×執行が困難
・租税回避
・勤労意欲
・制度の複雑化
遺産
消費税を課税
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16.遺産への消費税課税
遺産にも消費税を課した場合、消費税額がもとに戻るため、消費税の負担率は所得の増加
に伴って一定となる、つまり「逆進性」が排除される、ということが以下の図により読み取れる。
消費額×15%
消費税額 y
↑遺産へ課税
15%
0
負担率
生涯所得X
y
x
15%
↑遺産へ課税
0
生涯所得X
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17.負の人頭税
消費税額は、負の人頭税を掛けると負の人頭税分だけ下方にシフトし、消費税の負担率は
所得の増加に伴い、逓増することとなる。すなわち、消費税が累進性を持った税となることが
以下の図より読み取れる。
消費額×15%
消費税額 y
↓負の人頭税
0
生涯所得X
15%
負担率
y
x
↓負の人頭税
0
生涯所得X
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18.ケーススタディー1-条件設定-
個人事業者の場合、会社組織の場合とそれぞれ一定の条件を設定し、検証を行うこととする。
【所得規模4,000万円の事業(商売)のケース】
①個人事業者とその家族3人の組織(合計4人)
②会社組織(全員給与所得者)
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19.ケーススタディー1-検証1-
個人事業者の場合と、会社組織の場合とでは、大きな差異が生じていることがわかった。
②会社組織
①個人事業
・事業主:1,120万円
・その他:231万円
事
業
主
そ
の
他
そ
の
他
・各人とも276万円
そ
の
他
⇒4人合計 1351万円
1年間で247万円
10年間で2470万円の差
⇒4人合計 1104万円
会社組織形態採用
の増加
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20.ケーススタディー1-検証2-
個人事業者や会社組織、どのような組織形態を採用しても税負担の総額は変わらない、とい
うことが言える。
【一律税率の場合(税率20%と仮定)】
①個人事業
⇒4人合計 800万円
②会社組織
⇒4人合計 800万円
どの様な組織形態を採用しようが、税負担の総額は変わらず
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