公共経済学

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21. 法人所得課税
21.1 法人税(法人所得課税)の意義
21.2 法人所得と経常利益
21.3 法人所得課税と実効税率
21.4 法人(所得課)税と設備投資
21.1 法人税(法人所得課税)の意義
社団=一定の目的で構成員(社員)が結合した団体
法人格(法律上の人格)=権利・義務の主体となることのできる法律上の資格
社団法人(広義)=法人格が認められた社団
(例)会社、労働組合、消費生活共同組合
営利性=利潤を追求するために事業を営むこと
社団法人(狭義)=営利を目的としない社団法人(公益社団法人)
会社=営利を目的とする出資者を構成員とする社団法人(商法)
(例)株式会社、持分会社、特定目的会社(SPC)
Special Purpose Company
株主=株式会社における出資者
以下では、「法人=株式会社」とする。
法人擬制説=法人は株主の集合体
⇒
法人税は株主に対する所得税の前取り(源泉徴収)
⇒
法人税と配当課税の存在は二重課税(統合の必要性)
⇒
配当控除制度 インピュテーション(法人税加算調整)
法人実在説=法人は個人から独立した存在
法人税額の全部(一部)を株主の所得に加算
⇒ 所得税額を算出
⇒ 加算した法人税相当額を税額控除
⇒ 法人税は法人自体が有する担税力を前提にした租税
21.2 法人所得と経常利益
<経常利益(企業会計)>
目的=株主や債権者などの利害調整 & 経営情報の開示
営業利益=売上-(売上原価+販売費+一般管理費)
営業外収益=受取利息+受取配当+資産評価益+etc
営業外費用=支払利息+資産評価損+etc
営業費用
経常収益=売上+営業外収益
減価償却費⊂営業費用
経常費用=売上原価+販売費+一般管理費+営業外費用
経常利益=経常収益-経常費用
<法人所得>
目的=適正(公平&中立)な課税を実現するための課税標準
法人所得(課税所得)=益金-損金
益金=経常収益-資産の評価益-受取配当+etc
損金=経常費用-資産の評価損+特別償却+etc
受取配当を課税対象とすると
利益が配当されるまでに重複
して源泉徴収されることになる。
<減価償却制度>
減価償却資産=時間の経過とともに価値が減少する資産
(例) 建物、機械など
減価償却制度=減価償却資産の取得価額を使用する年数にわたって費用配分する制度
特別償却=設備導入後の早期に通常の減価償却費を超えて認められる減価償却費
(問題 21.1)資産の評価益(評価損)が法人所得に参入されない理由について検討しなさい。
資産評価益を益金に算入すること
はキャッシュフローが無いので困難
資産評価益は
益金に不算入
資産評価損も
損金に不算入
21.3 法人所得課税と実効税率
<日本の法人所得課税>
Y t =t年度の法人所得
A t =t年度の法人事業税額
(21.1)
B t  Y t  A t 1 :t年度の法人税の課税標準
国税
地方税
法人税
課税標準
B t [  Y t  A t 1 ]
税率
t 1 (=0.3)
税額
t1 B t
法人住民税
t1 B t
t 2 (=0.173)
t 2 (t1 B t )
法人事業税
Bt
t 3 (=0.096)
At [  t 3 B t ]
Y t =t年度の法人所得
At  t 3 B t :t年度の法人事業税額
<法人所得課税の実効税率>
B t  Y t  A t 1 :t年度の法人税の課税標準
T t = t 1 B t + t 2 ( t 1 B t ) + t 3 B t (=法人税額+法人住民税額+法人事業税額)
T t / Y t =(t 年度の)法人所得課税の実効税率
B t  B t 1 であれば、
B t  Y t  A t 1  Y t  t 3 B t  1  Y t  t 3 B t
(21.2)
であるから、
(21.3)
Y t  (1  t 3 ) B t
となる。したがって、
Tt

Yt
となる。
t1 B t  t 2 (t1 B t )  t 3 B t
(1  t 3 ) B t

t 1 (1  t 2 )  t 3
1  t3
(21.4)
現在は t 1 =0.3、 t 2 =0.173、 t 3 =0.096 であるから、
Tt

Yt
t 1 (1  t 2 )  t 3
1  t3

0 . 3 (1  0 . 173 )  0 . 096
1  0 . 096
 0 . 4087
(21.5)
である。
(問題 21.2) B t  B t 1 のとき、法人税の実効税率 t 1 B t / Y t が約 27.37%、法人住民税の実
効税率 t 2 ( t 1 B t ) / Y t が約 4.74%、法人事業税の実効税率 t 3 B t / Y t が約 8.76%で
あることを確認しなさい。
t1 B t
Yt

t1 B t
(1  t 3 ) B t

t1
1  t3

0 .3
1  0 . 096
 0 . 27372 
<法人所得課税の国際比較>
国
法人所得課税
の実効税率(%)
日本
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
40.87
40.75
30.00
48.55
36.67
(注)アメリカの実効税率は地方税(州法人税)がカリフォルニア州の場合について計算
している。
21.4 法人(所得課)税と設備投資
法人(所得課)税、特別償却などが設備投資にどのような影響を与えるかを検討しよう。
p =(新しい)機械 1 台の購入価格
 =(1年間での)真の経済的減価償却率
 p =真の経済的減価償却(定額減価償却)
r =利子率(年利)
<機械の中古市場とレンタル料>
中古機械の市場が存在しているとする。
 p =1 年経過すると機械の価値低下額
(1   ) p =1 年経過すると機械の価値
リース会社が借り入れで資金調達して、新しい機械を p で購入してレンタルし、1 年後
にレンタル料 x を受け取るとともに、1 年後にその機械を中古市場で売却する。
x  (1   ) p =受け取る金額
(1  r ) p =返済する元利合計
利益= x  (1   ) p - (1  r ) p
(21.6)
リース業界が競争的であれば利益がゼロとなるようにレンタル料 x が決まる。
レンタル料 x  ( r   ) p
(21.7)
(問題 21-3)リース会社のレンタル料収入、機械を中古市場で売却するときに生じるキャピタ
ル・ロス、資金調達コストという概念を用いて(21.6)を導出しなさい。
x =レンタル料収入
 p =キャピタル・ロス
rp =資金調達コスト
利益= x   p  rp = x  (  r ) p
レンタル料 x  ( r   ) p
<機械をレンタルした場合>
機械 1 台による経常収益(=益金)を R とする。
法人税が存在しない場合は、企業の利益  は
 = R - (r   ) p
(21.8)
である。
したがって、
R > (r   ) p
⇒ 機械をレンタルする。
(21.9a)
R < (r   ) p
⇒ 機械をレンタルしない。
(21.9b)
ということになる。
(問題 21-4)(21.9)より利子率 r が上昇すると設備投資がどのような変化するかを
検討しなさい。
税率 t の法人税が存在する場合においても、レンタル料が全て費用(=損金)とし
て考慮されるならば、企業の税引き後利益  は
  (1  t )  R  ( r   ) p 
(21.10)
である。したがって、法人税の存在は機械のレンタル行動に影響を与えないことに
なる。
(問題 21.5)法人税の存在は機械のレンタル行動に影響を与えない理由を説明しな
さい。
  (1  t )  R  ( r   ) p   0
R  (r   ) p   0
R  (r   ) p
<機械を購入(設備投資)した場合>
法人税が存在するもとで、
① 設備投資と資金調達行動の関係、
② 設備投資と減価償却制度の関係
について検討しよう。
① 設備投資と資金調達行動
資金調達の手段=負債による調達+自己資本資金調達
損金として考慮できるのは負債で調達した場合の利子支払だけ。
自己資本で調達した場合の機会費用を考慮することができない。
このような資金調達コストに関する取り扱いの差が、設備投資行動に対して資金調達方法を
非中立的にしていることを以下で示そう。
 =負債による資金調達比率
 p =負債による資金調達額
r p =損金に考慮される利子支払額
R  r p   p =機械を購入した場合の法人所得(課税所得)
(21.11)
法人税額= t ( R  r p   p )
税引き後利益   R  ( r   ) p - t ( R  r p   p )
 (1  t )  R  ( r   ) p  - tp (1  ) r
(21.12)
資金を全て負債で調達している(   1 )場合
⇒
法人税の存在は資金調達行動に対して中立的
負債での資金調達を(  を)減少
⇒ 設備投資行動が抑制される。
法人税の存在+利子支払だけが損金参入
⇒ 資金調達手段を負債へと誘導
① 設備投資と加速度減価償却の関係
損金に参入できる減価償却費は、政策的に真の経済的減価償却とは異なるパターンで参入
することが認められることがある。
真の経済的減価償却のパターン=毎年  p ずつ 1 /  年間にわたって償却
加速度的償却=毎年 a  p ずつ 1 /( a  ) 年にわたって償却( a  1 )
どちらの減価償却のもとでも償却される費用の合計額は同じである。
加速度減価償却のほうが設備投資実施後に減価償却される時点がより早くなる。
なお、以下では簡単化のため資金は全て負債で調達されているとする(   1 )。
(問題 21.6)   0 . 2 のとき、加速度減価償却が実施されないときと、実施されるとき
( a  1 . 25 )で減価償却の年数はどのように変化するか。
機械を購入した場合に損金に参入される減価償却費
(1) 1 年目から 1 /( a  ) 年目までは a  p
(2)
1 /( a  )  1 年目から 1 /  年目まではゼロ
法人所得(課税所得)
(1) 1 年目から 1 /( a  ) 年目までは R  r p  a  p
(2)
1 /( a  )  1 年目から 1 /  年目までは R  r p
以下では簡単化のため   1 / 2 の場合に着目して、a  1 のケースと a  2 のケースを比較検討する。
真の経済的減価償却( a  1 )のケース:
1 年目の税引き後利益  1 と 2 年目の税引き後利益  2 は一致して
 2  R  ( r  1 / 2) p - t ( R  r p  p / 2)
(21.13)
となる。
2 年間にわたる税引き後利益の割引現在価値  は
  1 
2
1 r

= 1 


 (1  t )  R  ( r  1 / 2 ) p 
1 r 
1
である。
法人税と減価償却制度の存在は設備投資行動に対して中立的である。
(21.14)
加速度減価償却( a  2 )のケース:
1 年目の税引き後利益  1a は
a
 1  R  ( r  1 / 2 ) p - t ( R  r p  p ) = (1  t )  R  ( r  1 / 2 ) p   tp / 2
(21.15)
であり、1 年目の税引き後利益  2a は
a
 2  R  ( r  1 / 2 ) p - t ( R  r p ) = (1  t )  R  ( r  1 / 2 ) p   tp / 2
となる。
加速度減価償却は
(1) 1 年目の税引き後利益を tp / 2 だけ増加させる
(2) 2 年目の税引き後利益を tp / 2 だけ減少させる
効果をもつことになる。
(21.16)
1 年目の増加分と 2 年目の増加分が同じということは加速度減価償却が設備投資行動に
与える影響がないということであろうか。
その点を確認するために、2 年間にわたる税引き後利益の割引現在価値  a を求めてみる
と
2
a

a

a
1

1 r

= 1 

r tp

 (1  t )  R  ( r  1 / 2 ) p  +
1 r 2
1 r 
1
(21.17)
である。
加速度減価償却のもとでの税引き後利益の割引現在価値のほうが、真の経済的減価償却
のもとでの税引き後利益の割引現在価値よりも大きいことになる(  a >  )
。
加速度減価償却制度は設備投資を促進する効果をもつことになる。
加速度減価償却は 1 年目に納めるべき法人税を無利子で延納することを許す制度として理
解することも可能である。
1 年目に猶予された納税額 tp / 2 を 2 年目に利子を付けて納税するとすれば (1  r ) tp / 2 だけ
納税する必要がる。
それを tp / 2 だけの納税で済ませてもらえたということは、 rtp / 2 だけの利子支払を免除さ
れたと理解することができる。
これを現在価値で評価すると
r
1 r

tp
2
ということになる((21.17)を参照)
。
21.1 法人税(法人所得課税)の意義
21.2 法人所得と経常利益
21.3 法人所得課税と実効税率
21.4 法人(所得課)税と設備投資