インドネシアの民主化と その行方

Download Report

Transcript インドネシアの民主化と その行方

インドネシアの民主化と
その行方
‘99年度秋学期 香川研究会個別研究
総合政策学部3年 鈴木健二郎
研究の概要・意義
• インドネシアの民主化運動の歩みと背景を
探ることによって、スハルト前体制の崩壊
要因をより明らかにする
• インドネシアの、開発独裁体制から民主化
の過程に移行する一過程を分析すること
によって、あるべき民主化のかたちを考察
し、かつ他のアジア地域へのインプリケー
ションにもなる
民主化の歩みと背景ー80年代
• 1980年代後半から学生運動再燃の兆し
• 政権の長期化、大統領後継者をめぐる国
軍との摩擦
• 経済の構造調整の奏功と、ファミリービジ
ネスとKKN、経済界の不満
• 民主化第三の波と冷戦の終結
→西側諸国の人権改善、民主化の圧力
民主化の歩みと背景ー90年代前半
• 開放政策と上からの一部政治的自由化
• 大衆運動の勝利ー宝くじ廃止運動
社会問題を訴える
• 野党勢力の強まりと地方の中央の意向へ
の反発
• 強権発動の矛盾ー週刊誌発禁処分とジャ
カルタ反政府暴動
報道の自由を侵害、司法の独立性が保証
民主化の歩みと背景ー体制崩壊へ
97年7月~ アジア通貨危機の波及
• ルピア売り圧力と物価上昇(高インフレ)
• 手ぬるい経済改革への取り組みに失望感
• スハルトの健康不安説、後継者問題
副大統領の「腹心」のハビビ氏
←スハルト退陣へと学生運動が拡大、暴動へ
と発展(一部矛先が華人系住民へ)
• 国軍内部のポストスハルトに向けた権力闘
争、政権内部からのスハルト辞任要請
スハルト権威主義体制と民主化、国際環境
•民主化第三の波
旧西側諸国(援助国)
新興中間層
経済界
国軍
利権供与
KKN体質
その他既得権層
華人系財閥
政府
スハルトファミリー
スハルト大統領
不満
与党ゴルカル
鎮圧
•アジア通貨危機
人権改善・民主化圧力
政権交代・民主化要求
国会・国民協議会
不満
対立
野党勢力
開発統一党(PPP)
民主党(PDI)
メガワティ
支持
貧困層 労働者など 学生
知識人 マスコミ・ジャーナリスト イスラム団体
民主化運動勢力
インドネシア国内
体制批判・不満、民主化要求の社会的背景
消費者物価指数
•失業率上昇
250
200
•アジア通貨危機の波及
→ルピア大幅安
→物価上昇
→国民生活を圧迫
150
100
50
0
1996
1997
1998
食料品
CPI
失業率(%)
8.0
6.0
4.0
2.0
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
1983
1982
1981
0.0
体制批判・不満、民主化要求の社会的背景
•高い経済成長率の維持にも関わらず、
依然改善・縮小されない貧富・所得格差
実質GDP経済成長率
%
10
5
0
1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996
階層別所得分配の格差
100%
50%
0%
41.65
41.94
42.76
44.7
37.48
20.87
36.75
21.31
36.9
20.34
35.05
20.25
1987
1990
1993
1996
20% of Population with highest expenditure
40% of Population with moderate expenditure
40% of Population with lowest expenditure
スハルト体制崩壊と民主化運動の力学
<学生:民主化要求の有力な勢力>
•学園内の民主化と自由復活
•社会問題に対する意識・関心の高まり
→政府への問題提起、改善要求
•政府:民主化に逆行する強権的対応
依然として改善されない体制、社会問題
→政府への不満、批判、民主化圧力の高まり
•アジア通貨危機による経済情勢悪化
•体制の改革姿勢に失望感、不満
→スハルト自身への直接批判、退陣要求へ
内閣改造、政治改革、経済回復・安定の要求
スハルト体制崩壊と民主化運動の力学
学生と一般市民の意識の格差
<学生>-市民との連携避ける、自制
•比較的冷静
-暴力ではなく、言論の力に期待
-法的手続きに沿ったスハルト退陣実現めざす
•比較的豊かな階層出身、メディアに触れる機会
-学識、政治意識の高さ
<一般市民>
•政治改革よりも日々の生活に関心
•経済状況の悪化→生活への不満
→民主化運動における暴動、略奪に発展
→矛先が中産、高所得階級の華人に向かう
(人種・宗教問題に発展、民主化弾圧の口実)
スハルト体制崩壊と民主化運動の力学
体制批判・民主化勢力の性質
•(表向き)連携的
•全国同時多発的
•一定の戦略下で組織化されたものではない
-「反スハルト」で一致、スハルト後の政治的思惑
は異なる
<政治・宗教組織>
2大イスラム教組織:ハビビ氏に肯定的、パイプ役
•(ムハマディア)アミン・ライス議長-急進的役割
•(NU)グズ・ドゥル総裁-非政治団体路線の継続
野党勢力
•(民主党)メガワティ前党首-過激な民主化を懸
念、冷静な立場
スハルト体制崩壊と内部の「反乱」
スハルト退陣劇=「宮廷クーデター」
•国民の反スハルト感情、民主化の高まり
→スハルトを見捨てて辞任を提示、民主化に向け
た改革はハビビ副大統領に託すという図式へ
•スハルトの即時辞任拒否、改革後の退陣発表
•国軍による穏健的政権交代シナリオ提示
-“名誉ある撤退”勧める
•与党ゴルカル・議会・閣僚らによる辞任要求
=「造反」
-比較的ハビビに近い、ポスト・スハルトをにらむ
-政治体制の抜本的変更無しの穏便な政権交代
スハルト体制崩壊と内部の「反乱」
スハルト退陣に果たした国軍の役割
•体制維持・強硬派(プラボウォ氏中心)
-大学での学生への発砲、射殺
(穏健派の牽制、民主化弾圧の口実としての謀略)
→市民の放火、略奪といった暴動の激化、社会の
混乱を誘発
(治安維持機能の観点から責任問題へ)
↓優位
•改革容認・穏健派(ウィラント氏中心)
-民主化勢力との接点、スハルト後の影響力模索
-軍内確執に一定の決着
→穏健引退シナリオ提示、国軍の不支持表明
ハビビ前大統領による上からの民主化
ハビビ氏、副大統領に任命(98年3月)
→スハルト退陣(98年5月21日)
•現行憲法枠組みに基づく大統領への昇進
-国民の信認、正統性の問題
•スハルトの「腹心」としてのイメージ
-スハルト時代の汚職、縁故主義に無縁ではない
→スハルト政治の徹底的排除を訴える民主化運動、
即時辞任を求める声も。。
•国内、国際的にも不人気、政治的基盤の脆弱性
↓
スハルト政治からの訣別、民主体制の確立、
経済再建と安定させるしかない
ハビビ前大統領による上からの民主化
•「開発改革」内閣
-「改革」を正統性の源に(旧体制イメージの払拭)
-半数以上が前政権からの留任
-支持基盤強化(国軍、イスラム知識人協会)
-野党からも入閣
-スハルト・ファミリーは閣外へ
-経済関係官僚として実務派官庁エコノミスト任命
(IMFとの交渉、経済改革にらんだ人事)
→スハルト時代の有力者中心の内閣
抜本的な国政改革を求める国民の間からは、中途
半端な脱「スハルト色」への批判が高まった
ハビビ前大統領による上からの民主化
政治的自由化に向けて
•言論の自由
•スハルト前体制下の政治犯釈放
•表現・報道の自由
•出版物の許認可権、報道規制の廃止
•結社の自由
•政党の結成、政治結社の自由認める
•労働組合結成の自由
•信条・思想の自由
ー前体制の正統性原理「パンチャシラ」の指
針を破棄、脱スハルト政治を印象づける
ハビビ前大統領による上からの民主化
政治的競争と参加の制度化
•政治関連三法の改正
選挙制度
国会定数
国民協議会定数
改正前(旧来)
改正後
中選挙区比例代表制
小選挙区比例代表併用制
500(うち国軍議席は75)
550(うち国軍議席は38)
1000(500:国会議員/500: 700(500:国会議員/135:地域
大統領任命)
代表/65:社会大衆組織代表)
政党
2政党1団体(ゴルカル、開発統 原則創設、結成は自由化
一党、インドネシア民主党)
総選挙参加要件 上記公認3党のみに参加を認め 全国27州、300余県で過半数に
る
支部/有権者の1%の署名
大統領任期
再選を妨げず
2期10年
ハビビ前大統領による上からの民主化
権力関係の制度化
国軍の「二重機能」の見直し
•国軍の政治関与、権力の縮小
-国会における国軍議席数を半分に
1945年憲法が初めて改正
•大統領権限の制限
-非常大権の付与を認める決定を破棄
-国民協議会の大統領任命議席の廃止
-大統領任期を2期10年までとした
ハビビ前大統領による上からの民主化
スハルト前体制の体質改善・真相追及
→「汚職・癒着・身内びいき」(KKN)の一掃
-大統領や政府関係者といった公権力者と、彼らとの血縁
や地縁を利用して不正に富を蓄積した企業関係者との関係
-経済成長のパイの分配の不平等と市場主義経済におけ
る自由競争の阻害を生み出し、特権階級に対する貧困層や
経済界の不満を著しく高めた
-KKN糾弾や政治・経済の「スハルト化」批判を内包した
「スハルト退陣」は、反政府・民主化運動のスローガンとして、
運動を加速化させる大きな要因となった
•KKN追及に対するハビビ政権の消極的姿勢
←国民からの批判、真相解明の要求、デモ
ハビビ前大統領による上からの民主化
スハルト前体制の体質改善・真相追及
→人権問題への取り組み
•ジャカルタ暴動や民主化運動家の誘拐、監禁
•過去の人権侵害(独立運動弾圧、大量虐殺)への
関与
に対して
•国家の安定を大義名分とする人権侵害行為はも
はや聖域ではない
•痛みを伴う経済改革の実施
-金融システムの安定化、銀行再建策、対外債務
問題への対処、ソーシャル・セーフティネットなど
ハビビ前政権内外勢力の力学構造
<与党ゴルカル内>
•「ジャワ島人グループ」V.S.「外島人グループ」
(反ハビビ派)
(親ハビビ派)
•ハビビ氏のイスラム中心路線に対する微妙な姿勢
•世代間の対立
<民主化運動勢力>
•5月政変の主力だった「改革派」
-大統領の即時辞任と早期総選挙、新大統領選出、
政権交代をうったえる。スローガンのみ
•議会・政権グループ
国民協議会の審議を通じ、総選挙実施、政権交代
という民主化の段階を踏むべきとする
ハビビ前大統領、政権の不安定要素
・社会の不安定化
ー宗教・人種対立、分離独立運動
・スハルト色からの脱却が困難
ーKKN追及の甘さ
・東ティモール問題における失政