生態系モデルにより再現された 西部北太平洋における鉄散布に伴う生態

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鉄施肥に伴う西部北太平洋における
生態系および物質循環の応答
○ 吉江 直樹 (北大・院・地球環境)
山中 康裕 (北大・院・地球環境/地球フロンティア)
今回の内容
1.SEEDS(鉄施肥実験)
2.生態系モデル
3.再現された生態系・物質循環
西部北太平洋亜寒帯域での鉄施肥実験(SEEDS)

鉄施肥による変化
珪藻ブルーム発生
栄養塩激減
fCO2(二酸化炭素分圧)激減

鉄施肥から約4日後に珪藻ブルーム開始

植物プランクトンの優占種
羽状目珪藻
羽状目珪藻
中心目珪藻
中心目珪藻

沈降粒子
観測期間(13日間)では、あまり増加せず、
生成された大量の粒子は、表層に留まる。

疑問
なぜブルーム開始まで数日かかるのか?
粒子は、観測後に落ちた? 定量的には?
本研究

鉄への応答性の異なる2種類の珪藻を
明に表現できる生態系モデルを開発した。

鉄施肥直後ではなく、数日後から珪藻ブ
ルームが始まる理由について考察した。

鉄施肥の影響の全体像を見積った。
生態系モデル(NEMURO for SEEDS sp. ver. 2.0)
炭酸系
栄養塩 溶存有機物 植プラ
沈降粒子
動プラ
羽状目:鉄に無反応
PL
中心目:鉄に敏感
普段 :鉄不足により活性低
鉄施肥:活性が非常に高
これまでは、
珪藻を一種(グループ)
として取り扱っていた
鉄施肥による光合成活性の変化
最大光合成速度 (Vmax) と
光 - 光合成曲線の傾き (α) を変化させた
2種モデル 中心目
1種モデル 珪藻全体
2種モデル 羽状目
2種モデル 中心目 鉄パッチの外
光合成
Vmax
α
光
珪藻1種モデル、珪藻2種モデル、観測との比較
植物プランクトン
1種モデルIN
2種モデルIN
2種モデルOUT
珪藻2種モデル
ブルーム規模:一致
タイミング
:一致
硝酸塩
珪藻1種モデル
ブルーム規模:一致
タイミング
:早すぎ
fCO2
以降は、珪藻2種モデルの
結果について観測と比較
する
珪藻(中心目、羽状目)濃度の時系列
観測
観測された中心目珪藻
観測された羽状目珪藻
5日目の優占種遷移
羽状目
モデル
計算された中心目珪藻
中心目
モデルでうまく再現
計算された羽状目珪藻
注:縦軸は対数軸
また、上と下のグラフは
単位が異なる
生物・栄養塩濃度の時系列1
植物プランクトン
全植プラ
中心目
羽状目
珪藻以外の小型
栄養塩
Si(OH)4
モデルでうまく再現
NO3
NH4 X 20
動物プランクトン
小型
大型
表層濃度の時系列
中型
生物・栄養塩濃度の時系列2
鉛直分布もうまく再現
珪藻ブルーム開始に数日かかる理由
珪藻の活性
中心目のVmax
Vmax
(珪藻全体のVmax)
羽状目のVmax
珪藻の生物量
中心目の生物量
羽状目の生物量
観測されたFv/Fm(鈴木)
鉄施肥から4日間
Vmax (生物量の重みをつけて平均した
珪藻全体での活性) は、ほとんど一定
鉄施肥直後から中心目のVmaxは大
きいが、マイナー種で生物量が小さす
ぎるために全体への影響が小さい
4日目~9日目
急激に増加した中心目が優占する
につれ、Vmaxは急激に増加
9日目以降
鉄濃度の減少に伴いVmaxは減少
鉄施肥による植プラ全体の活性の変化
観測された溶存鉄濃度(西岡)
鉄濃度
このようなVmaxの時系列は、観測され
たFv/Fm比 (植プラ全体の光合成活性の指
標、inとoutの差が鉄による活性の変化)の時
系列と一致
マイナーな中心目がメジャーになる
までに時間がかかっていた!
観測終了後はどうなったか?①
観測期間
ブルームのピーク
までは捉えられた
植物プランクトン
Chl.a
約40日で、
植プラ:ほぼ回復
栄養塩
Si(OH)4
約40日で、
栄養塩:元の半分
まで再生
NO3
fCO2
48日で315matm
大気と平衡に達せ
ず(ガス交換係数が
小さい?)
基礎生産
GPP
基礎生産:
20日には、栄養塩
の減少により、
元の半分程度まで
減少
NPP
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
観測終了後はどうなったか?②
100m以深への輸送生産
輸送生産
10日目頃から増
え始め、48日頃
には元に戻る
Opal flux
POC flux
積算値
積算した輸送生産と基礎生産
SGPP
70%
SNPP
(48日間で100%)
観測期間中には
:70%
:90%
90%
GPP
NPP
25%
輸送生産:25%
に達する
SPOC flux
e-ratio (輸送生産/基礎生産)
SPOC flux /SNPP
0. 4
e-ratio (SPOC flux /SGPP)
0.14
e-ratio
観測期間中は
0.14と低いが、
その後増加し、
0.4程度になる
炭素収支
48日間
13日間
単位 [molC/m2]
鉄パッチの面積を250km2とすると、鉄 [硫酸鉄350kg] の散布により
1720 tC を大気から取り込まれ、3870 tC を表層以下へ輸送された
まとめ

鉄に対する感受性の異なる2種の珪藻を考慮したモデル
により、SEEDSを再現した。

珪藻ブルームが数日後に始まるのは、生理的適応では
なく、鉄に敏感なマイナー種がメジャーになるのに時間が
かかるためである。

鉄施肥の影響は約40日間ほど続き、観測期間はその全
てを観測するには短すぎた。

鉄施肥により、1720 tCの炭素が大気から海洋へ取り込
まれ、3870 tCが100m以深へ輸送されたと見積もられた。