生態系モデルにより再現された 西部北太平洋における鉄散布に伴う生態

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Transcript 生態系モデルにより再現された 西部北太平洋における鉄散布に伴う生態

気候帯毎に異なる複雑な生態系を再現する
生態系モデルの開発・応用
COE研究員 吉江 直樹
今回の内容
1. はじめに
2. 生態系モデル
3. 鉄と植物プランクトン
4. 植物プラクトンの棲み分け
はじめに
21世紀COE
「生態地球圏システム劇変の予測と回避」
の元での研究として・・・

特に海洋に注目し、
海洋生態系モデルの開発・改良・応用を通して、
海洋生態系がどのように決まるかというメカニズム
の解明をめざす

メカニズムの解明は、劇変の予測や回避につながる
メカニズムの解明に向けて

「物質循環と海洋生態系の融合」
(山中康裕・橋岡豪人と共に)
日本近海を表現し、観測と直接比較できるような領
域生態系モデルの開発・応用を行っている。
1.
“NEMURO”(国際研究計画PICESの標準モデル)の開発・応用
(Yoshie et al., 2003, Yamanaka et al., 2004, Yoshie and Yamanaka
2005, Yoshie et al., 2004, Eslinger et al., 2004, Kishi et al., 2004)
2.
鉄散布実験(SEEDS)の再現・解析
(Yoshie et al., 2004, Fujii et al., 2004)
3.
拡張版NEMURO ”eNEMURO”の開発・応用
メカニズムの解明に向けて

「現場観測とモデルの融合」
(鈴木光次・斎藤宏明と共に)
モデル解析だけではなく、現場観測や室内実験も行
い、文献値のない生理パラメータを補いながらモデ
リングを行っている。
4.
鉄濃度と植物プランクトン生理パラメータの観測 ・解析
(Yoshie et al., 2005)
“NEMURO” モデル
窒素・ケイ素循環、植プラ2グループ、動プラ3グループ
“NEMURO with 炭素・カルシウム循環”
炭酸系・カルシウム循環の追加、大気海洋間のガス交換計算可
なぜ鉄が海洋生態系に重要なのか?

微量栄養塩としての鉄が不足→植物プランクトンが制限される

鉄は、通常ダストにより海洋へ供給される

CO2を海洋に吸収させる方法の一つとして鉄散布がある
SEEDS
植物プランクトンの大増殖
と劇的な種組成の変化が
観測、Scienceに掲載

これまでの鉄散布実験
我々はSEEDSに
正式なモデリングチーム
として参加し、その特集
号であるProg. Ocea. に
2本掲載
SEEDS の再現とメカニズムの解析
羽状目珪藻
中心目珪藻

鉄施肥による変化
珪藻ブルーム、栄養塩激減、pCO2激減

植物プランクトンの優占グループ
羽状目珪藻
中心目珪藻
鉄への応答性の異なる2グループの珪藻を明
に表現できる生態系モデルを開発

鉄施肥から約5日後に珪藻ブルーム開始
タイムラグのメカニズムを解析

沈降粒子
観測期間中(13日間)はわずかしか増加せず、
生成された大量の粒子は表層に留まっていた。
観測期間後も含めた鉄施肥の影響の全体像
を見積った
“NEMURO for SEEDS”
炭酸系
栄養塩 溶存有機物 植プラ
沈降粒子
動プラ
羽状目:鉄に無反応
PL
中心目:鉄に敏感
普段 :鉄不足により活性低
鉄施肥:活性が非常に高
これまでは、
珪藻を一種(グループ)
として取り扱っていた
珪藻1種モデル、珪藻2種モデル、観測との比較
植物プランクトン
1種モデルIN
2種モデルIN
2種モデルOUT
珪藻2種モデル
ブルーム規模:一致
タイミング
:一致
硝酸塩
珪藻1種モデル
ブルーム規模:一致
タイミング
:早すぎ
fCO2
鉄施肥とブルーム開始までのタイムラグについて
中心目のVmax
増殖速度
Vmax
(珪藻全体のVmax)
羽状目のVmax
生物量
鉄施肥前は、
鉄不足により著しく活性が低く、
非常にマイナーな中心目ケイ藻
が、
中心目の生物量
羽状目の生物量
植プラ全体の活性の指標, Suzuki et al., 2004
鉄の豊富な環境で、本来の
非常に早い増殖速度を示し、
急増し始め、
植物プランクトン全体に影響を及
ぼすほどメジャーになるまでに時
間がかかった。
観測終了後はどうなったか?
観測期間(13日間)
ブルームのピーク
までは捉えられた
植プラ:約40日で元に
戻る
植物プランクトン
Chl.a
Si(OH)4
栄養塩
栄養塩:約40日で元
の半分まで再生
NO3
100m以深への輸送生産
輸送生産:
20日目頃にピーク、
48日頃には元に戻る
Opal flux
POC flux
積算した輸送生産と基礎生産
SGPP
SNPP
SPOC flux
POCは、48日までの
量を100%とすると、観
測期間終了後に、そ
の大部分85%が沈降
鉄と植物プランクトン(SEEDS)のまとめ

珪藻ブルームが数日後に始まるのは、生理的適応ではな
く、鉄に敏感なマイナー種がメジャーになるのに時間がか
かるためである。

鉄施肥の影響は約40日間ほど続き、観測期間はその全
てを観測するには短すぎた。

鉄施肥(硫酸鉄350kg, 面積250km2)により、1720 tCの炭
素が大気から海洋へ取り込まれ、3870 tCが100m以深へ
輸送されたと見積もられた。

この効果を樹木に換算すると、高さ30mの樹木1900本分
に相当する。(武田 per com.)
海洋生態系の亜寒帯・亜熱帯での違い

亜寒帯域の生態系
低温
富栄養
植プラが多い
大型ケイ藻優占

亜熱帯域の生態系
高温
貧栄養
植プラが少ない
小型植プラ群優占
SEEDS
A7
KNOT
Chl.a濃度の分布(SeaWiFS年平均値)
なぜ”eNEMURO”を開発する必要があるのか?

“NEMURO”
亜寒帯を想定(A7,KNOT,SEEDSなどで研究)、
亜熱帯の再現性は低かった。

“eNEMURO”
1. 亜熱帯で優占する小型生物群を追加
2. 温度依存性を亜寒帯グループと亜熱帯グループで変更

気候帯毎に生理パラメータを変更することなく、現実的な生
態系を再現でき、温暖化に伴う生態系の変化(棲み分けなど)
を表現できるようになる。
海洋版DGVM (Dynamic Global Vegetation Model)の第一
歩!!
拡張版NEMURO “eNEMURO”
ケイ藻2グループ化、小型生物群の追加
温度依存性と生理パラメータの設定
モデルに与える境界条件

気候帯の異なる2つ(A7,B1)を設定
eNEMUROで再現された植プラの棲み分け

気候帯の違いにより、植物プランクトンの棲み分け
が再現されている。
境界条件を徐々に北から南のものへ変化させる
水温の変化の与え方を二つ用意
光・混合層・深層栄養
塩濃度は季節変化あ
りで変化させる
大きく異なる温度依存性
直感的にはこうなりそう!
北
低
適
深
弱
水温
栄養塩供給
混合層
光量
高
遅
適
適

優占種の遷移(年平均)
南
Case1 水温季節変化なし
温度依存性によく似た遷移
気候帯による境界は明確
季節変化は重ならない
注:対数プロット、ハッチは季節変化幅

Case2 水温季節変化あり
なだらかな優占種の遷移
気候帯による境界は不明瞭
季節的に共存共栄している
優占種の遷移(季節毎)
水温と栄養塩
北
冬季の混合により
平均水温
冬
春
夏
秋
南
全植プラに占める優占率(%)
北
亜熱帯グループ
亜寒帯グループ
春のブルーム
南でも冬には
そこそこ頑張れる
南
北でも夏には
そこそこ頑張れる
瞬間的にはどちらかが優占する
植プラの時間スケールが季節変化よりも早いため
棲み分け(eNEMURO)のまとめ

季節毎に見ると
植物プランクトンは、夏には亜熱帯グループが北に、
冬には亜寒帯グループが南に張り出すというような、
気候帯を越えた広い分布をする。

年平均で見ると
植プラの棲み分けは、それらの温度依存性が大きく
異なる場合であっても、季節的な共生により亜寒帯
から亜熱帯にかけてなだらかに遷移する(明瞭な境
界はない)。
まとめ1
「劇変の回避法」としての大規模な鉄散布について

鉄と植物プランクトンとの関係
モデリングにより、CO2吸収量を見積もり、鉄散布
時の生態系変動のメカニズムを明らかにした。

明らかになった問題点
実際には生態系が大きく変化してしまう。
今後の課題として、その影響がどの程度なのかを
予測する必要がある。
まとめ2

植物プランクトンの棲み分けについて
海洋生態系では、季節内で素早く応答するため、
植物プランクトンは様々な海域で共生できる。
陸上生態系と対照的な振る舞いをする(熱帯雨林
とタイガ林が季節的に大移動するようなもの)。

海洋生態系の温暖化への応答について
植プラは、様々な海域に適応できるため、温暖化
に対して穏やかに応答するだろう(新たな作業仮
説!?)。