キャノン株式会社のケース
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キャノンの多角化戦略
キャノンの概要
• キャノンは1937年創立の70年余りの歴史を持つ企業である。日本を代
表する多角経営の企業として高収益、高成長を続けている。
• 創業当時のキャノンは、カメラメーカーとして成功は収めていたが、多角
化では、エックス線間接カメラやテンキー式卓上計算機等の製造を始め
ているが、それらの製品もあまりマーケットでは受け入れられず、成功し
ていなかった。
• とくに、さらに1974年には、電卓の表示部品の不良という大問題が起こり、
1975年上期に株式上場後初の無配転落という苦境に陥りました。
• 多角化に成功し始めたのは、77年にキヤノンが掲げたのは優良企業構
想のもと、事業部制の本格導入や、開発・生産・販売システムの確立な
ど近代的経営を取り入れ、「世界の優良企業」をめざしてからです。
• キャノンはコピー機、プリンタなどで相次いで成功をおさめて急成長を果
たし、2007年の連結で4兆4千億円の売り上げのピークを達成した。
• 1995年からは創業者の甥の御手洗富士夫社長がこの路線を引き継い
だ。
キャノンの連結決算推移
決算期
2009年12月期
2008年12月期
2007年12月期
2010年1月27日
2009年1月28日
2008年1月30日
12か月
12か月
12か月
3,209,201百万円
4,094,161百万円
4,481,346百万円
営業利益
217,055百万円
496,074百万円
756,673百万円
経常利益
219,355百万円
481,147百万円
768,388百万円
当期利益
131,647百万円
309,148百万円
488,332百万円
総資産
3,847,557百万円
3,969,934百万円
4,512,625百万円
自己資本
2,688,109百万円
2,659,792百万円
2,922,336百万円
174,762百万円
174,762百万円
174,698百万円
9,781百万円
13,963百万円
26,997百万円
自己資本比率
69.9%
67.0%
64.8%
ROA(総資産利益率)
3.37%
7.29%
10.81%
ROE(自己資本利益率)
4.92%
11.08%
16.53%
総資産経常利益率
5.61%
11.34%
17.01%
決算発表日
決算月数
売上高
資本金
有利子負債
事業の種類別セグメントごとの製品
事業の種類別セグメントの名称
主要製品
オフィスネットワーク複合機、カラーネットワー
オフィスイメージング機器 ク複合機、パーソナル複合機、オフィス複写機、
カラー複写機、パーソナル複写機等
事務機
コンピュータ周辺
機器
レーザビームプリンタ、インクジェット複合機、
単機能インクジェットプリンタ、イメージスキャ
ナ等
ビジネス情報機器
コンピュータ、ハンディターミナル、ドキュメント
スキャナ、電卓等
カメラ
デジタル一眼レフカメラ、デジタルコンパクトカ
メラ、交換レンズ、デジタルビデオカメラ等
光学機器及びその他
半導体用露光装置、液晶用露光装置、放送
局用テレビレンズ、医療画像記録機器、大判
プリンタ、磁気ヘッド、マイクロモータ等
事業別販売実績
事業の種類別セグメントの名称
金額(百万円)
前連結会計年度比(%)
事務機
2,935,542
109.1
カメラ
1,152,663
110.6
393,141
92.8
4,481,346
107.8
光学機器及びその他
合計
パーソナル電卓市場
• キヤノンはカメラで成功した後、多角化を図って電卓、コピー機、電子会
計機などへと進出した。しかしながらオイルショックという環境下、一気に
拡大を図るには資源の面で問題があったようである。特に電卓事業は72
年の「カシオショック」で大きな痛手を被った。
• カシオは6桁の電卓を1万2800円という、当時としては破格の価格で投入
し、電卓を事務機から一般消費者向けの製品に変えてしまった。キヤノ
ンは高級カメラのブランド・イメージを重視し、また文具ルートの販売チャ
ネルがないこともあり、いったんは電卓の大衆化に追随しない方針を決
めたが、カシオの大成功を見て慌ててパーソナル電卓を開発・投入する。
その製品が致命的な品質不良を起こし、しかも早期に対処しなかったた
め、販売網の信頼を失って市場からの一時撤退を余儀なくされた。
• しかしキヤノンはこれを機に、エレクトロニクスの技術と法人市場への足
がかりを得ることができた。その後、コピー機、プリンタ、半導体製造装置
のステッパーなどで相次いで成功を収める。いずれも当初のカメラには
求められなかったエレクトロニクスのノウハウと法人市場へのチャネルを
必要とする分野であった。キヤノンは1つの成功を足がかりにして次の開
発投資を行ってきた。次第により大きな市場に挑戦し、独自技術で市場
を切り拓いてきたのである。
コピー機市場
• 元来カメラメーカーの技術は光学技術と精密機械の技術であり、その範
囲にとどまる限り、それほど大きな市場は得られないと考えられる。医用
機器(顕微鏡、内視鏡、眼鏡など)や産業用の測定器、計測器なども、そ
れぞれ市場の大きさに限界がある。キヤノンは、技術的に一番近い領域
よりも、コピー機を中心に大きな成長市場に狙いを定めた。同時にキヤノ
ンは戦略的な差別性を構築できる技術を選択することにこだわった。
• キヤノンがコピー機に着手した当初は、ジアゾ式、感熱式、酸化亜鉛紙を
用いる直接静電式など、さまざまな技術が存在した。そのなかでは、コ
ピーの品質のよさ、専用のコピー用紙を要しないという利便性の点で間
接静電式のPPC(Plain Paper Copier 普通紙コピー)が主流になると見込
まれていた。しかし、この技術はゼロックスが開発したものであり、数々
の特許によって他社の参入を阻んでいた。これに加えて、ゼロックスは直
接販売網を完備したうえ、顧客に対しても資金面でのハードルを下げる
ために、コピー1枚当たりの単価などで見たリース方式を提供し、高額な
コピー機の購入に二の足を踏む顧客に便宜を図っていた。そのような状
況下、キヤノンは長期間かけて独自技術の間接静電式PPCを開発してコ
ピー機市場に参入、スピードの遅い安価な機械からスタートして次々と性
能を上げ、ゼロックスの市場を奪っていったのである。
撤退した事業
•
•
•
•
強誘電性液晶ディスプレイ(FLCD)
ワープロ(キヤノワード)
業務用DTP専用機(EZPS)
パーソナルコンピュータ
– Macintosh 512Kを日本語対応化した「DynaMac」、MSX規
格機、AX規格機、DOS/V機(INNOVAシリーズ)、キヤノン・
キャットのようなオフィス専用機、またNeXTからハードウェ
ア部門を買収して、PowerPC用のチップセット事業も行っ
ていた。 パーソナル向けファクシミリ(ファクスホン)
• デジタル印刷機(DPシリーズ)
• フォント
次世代技術への投資に関連するリスク
•
•
•
キャノンは、次世代技術の研究開発に率先して投資を行っている。競合者は、そ
のような技術における研究開発において、キャノンより早期に画期的な進歩をと
げる可能性があり、または競合している技術において、他社に先行されることで、
結果として開発中の製品が競争力を失う可能性がある。
技術の進歩に伴い、キャノンの開発及び生産設備への投資も増加している。経
営戦略と市場のニーズにズレが生じた場合、その投資を回収出来ず、ビジネス・
チャンスを失い、結果として、経営成績に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、
キャノンは自動化・内製化を推進するための生産技術開発および装置製造に取
り組んでおり、これらを効果的に実施できなかった場合は、製品のコスト優位性
や差別化が実現できず、ビジネス・チャンスを失い、キャノンの経営成績に悪影
響を及ぼす可能性がある。また技術・製品開発において差別化は重要な戦略で
あるが、一方、開発する新技術・製品に関し正確にその需要を評価し、かつ市場
において受け入れられるかをつかむ必要がある。独自性を追求しすぎると、その
戦略は市場のトレンドと相反する可能性がある。このような事態が発生すると、経
営成績は悪影響を受ける可能性があります。
また、次世代技術をもって新たな事業分野に参入することも経営戦略として想
定されるが、その場合においても、ビジネスモデルが構築できない、あるいは新
たな競合者との競争に巻き込まれるリスクは存在し、結果として、経営成績は悪
影響を受ける可能性がある。
新製品への移行に関連するリスク
• キャノンが参入している業界の特徴として、ハードウェア及びソフトウェア
の性能面における急速な技術の進歩、頻繁な新製品の投入、製品ライフ
サイクルの短縮化、また製品価格を維持しながらの従来製品以上の性
能改善等が挙げられる。現行製品・サービスから新製品・サービスへの
移行を適切に行えない場合、収益は減少する可能性がある。新製品や
新サービスの導入に伴うリスクには、開発または生産の遅延、品質不良
による製品の不良資産化、製造原価の不安定さ、次期新製品への期待
による当面の新製品に対する購買の遅れ、顧客需要予測の困難さ、需
要予測に伴う適正な在庫水準を保つことの困難さ等が挙げられる。
• キャノンの収益は、競合者の製品またはサービスの導入時期によっても
影響を受ける。製品のライフサイクルが短い場合、または競合者が当社
製品と類似した新製品をキャノンより先に投入する場合は特に影響を受
ける可能性がある。さらに、新製品やサービスの売上は、時には現行製
品の売上に取って代り、あるいはその値引きをもたらし、結果として新製
品やサービスの投入の利益が相殺されることもある。また現行製品が新
製品と重複する可能性があるため、その管理は適切に行う必要がある。
キャノンが参入している業界は競争が激しいため、かかるリスクが発生し
た場合、今後の製品やサービスの需要に影響し、結果として経営成績に
悪影響を及ぼす可能性がある。
エレクトロニクス業界の動向
• 1990年代初頭から、日本のエレクトロニクス
業界の競争力の低下が進んでいる。
• 1990年初頭には、日本の電子機器製造が
世界に占める割合が20%以上であったが、
2000年代に入り10%以下に低下している。
• この低落の理由として、日本のエレクトロニク
ス業界が持っていた、勝ちパターンが近年に
なり通用しなくなっていることがみられる。
勝ちパターンの変化
従来の勝ちパターン
付加価値が組み立
てからデバイスとソ
フトに移行
勝ちパターンの消滅
新製品開発による
新市場開拓
海外製造シフトに
よる低コスト化
商品開発力の低
下
海外メーカの
追い上げが速
くなる
先行逃げ切りモデ
ルが通用しなくな
る
消費者にとり商品
の差が見えなくな
る
ブランド戦略
パワー量販店の
販売量の増加
モデルチェンジ
の頻度の増加
破壊的イノベーションのモデル
クレイトン・クリステンセン
イノベーションのジレンマ
原則:
1. 過剰満足が破壊的イノベーションの前提条件を作り出す
2. 破壊的イノベーションはルールを破ることから生まれる
3. ビジネスモデルのイノベーションが破壊的イノベーションを推進するこ
とが多い
イノベーションに貢献する組織
• イノベーションの能力を構築しようとする企業は、成長
の追求を反復可能にするための組織体制とシステム
を作る必要がある
• 適切なイノベーションの組織体制を構築するには、自
社の状況により、イノベーションの活性化、イノベー
ションのアイデア考案の指導、新規成長事業の先導、
イノベーション活動の強化を選択する必要がある
• 適切なツールを採用し、イノベーションの共通言語を
確立し、社外的な視点を取り入れ、人事ポリシーとイノ
ベーションの整合性を取る努力が必要である
イノベーション・プロセス
における問題点
•
•
•
•
機会の識別
機会の優先順位づけと資源配分
新規事業の具体化と構築
事業の立ち上げと他者の強みの活用
事業ポートフォリオのフレームワーク
• 全社戦略の中では、事業ポートフォリオを考えるためのフレーム
ワーク、分析ツールが最も発展している。経営資源には制約があ
り、1つ1つの事業を足し合わせただけでは全社的観点でつじつま
が合わなくなるという問題に、早くから大企業は悩まされてきたか
らである。多角化においては事業を順次育てていくことが必要であ
り、これまで育てた事業から生まれるノウハウや人や資金をどの
ように再投資していくべきかを考える必要性があったのである。
• 全社戦略としての事業ポートフォリオへの注目が高まったのは60
年代のことであるが、その契機となったのがボストン・コンサルティ
ング・グループ(BCG)によるプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
(PPM)の開発である。BCGは当時アメリカで全盛をきわめた多角
化複合企業(コングロマリット)の事業ポートフォリオを分析し、各
事業部をどう位置付けていくべきかを示すフレームワークを発表し
たのである。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(概念図)
キヤノンの事業ポートフォリオ(1)(1971)
キヤノンの事業ポートフォリオ(2)(1975)
75年:多角化には成功したものの、ほと
んどの製品が問題児の領域に移行して
いる。オイルショックなどの影響でカメラ
市場が低迷する中、電卓、コピー機、電
子会計機などへの投資が必要となり、そ
の結果カメラでのシェアまで落としたよう
である。事実、カシオショックにより電卓
事業は窮地に陥っていた。ポートフォリ
オの悪化は財務成績にも現れ、75年上
期にキヤノンは無配転落となった。
キヤノンの事業ポートフォリオ(3)(1981)
81年:各事業の競争力が回復していることが
ポートフォリオから読み取れる。カメラ事業は市
場の回復とシェアの向上により、花形製品の領
域に戻っている。これは76年の「AE-1(一眼レ
フの電子化)」と79年の「オートボーイ(コンパク
トカメラ)」などの成功によるものであろう。同時
にコピー機のシェアが伸長し、将来に期待を持
たせている。再び参入した電卓事業は、成長の
止まった市場での負け犬状態にとどまっている。
また新たな多角化の対象としてファックス機へ
の参入を試みている。
キヤノンの事業ポートフォリオ(4)(1985)
85年:コピー機事業がさらに売上高とシェアを
伸ばし、同時に市場の成長率が下がったことで、
全社の資金源としての役割をカメラから引き継
いだように見受けられる。コンパクトカメラの
市場が好調であるのに対し、1眼レフはやや縮
小気味である。ページ・プリンタやパーソナ
ル・ワープロなど新たな花形製品では技術開発
で好スタートを切っているが、同時に手掛けた
ビジネス・ワープロ、ファックス機などでは苦
戦をしている。パソコン事業への参入も図って
いる。資金のバランスのよさがうかがえる。
キヤノンの事業ポートフォリオ(5)(1990)
90年:コピー機、カメラ、ファックス、ワープロなどの市
場成長率が鈍化し、これらがキヤノンの資金源となってい
ると推定される。強力な花形製品としてページ・プリンタ
(レーザー・プリンタ)が出現、急成長を果たし、新たに
インクジェット・プリンタも花形製品として誕生しつつあ
る。電卓、シリアル・プリンタ、スライド映写機などへの
資源配分は限定されており、事業としては終結に向かって
いるようである。
キヤノンの事業ポートフォリオ(6)(1995)
95年:90年のポートフォリオを引き継いでうまく成
長させている。小型ページ・プリンタが成長こそ鈍
化したものの売上げをさらに拡大させ、インク
ジェット・プリンタも巨額の売上げを誇っている。