認定看護師H22年の1

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認定看護師研修センター
ホスピスケア 分野
がんのプロセスとその治療
1. がんの基礎と疫学
2010年
生命基礎科学講座
小林正伸
今後の予定
・癌の基礎的知識
(1講目)
・疫学
(1講目)
1.日本における癌発生の状況の把握
2.治療感受性癌と治療抵抗性癌
・がんの分子生物学
1.がんの発生メカニズムの本態は?
(2講目)
2.転移のメカニズム
転移は治療標的となるのか?
(3講目)
・がんの診断
(4講目)
1.腫瘍マーカーの役割は?
2.早期診断戦略は有効か?
3.PETなどの放射線診断法の今後は?
・がんの治療
(5講目)
1.がん治療における癌化学療法の占める役割は?
2.高齢者の進行がん治療をどうすべきか?
3.放射線治療の新しい役割は?
4.外科的拡大切除術に対する評価は?
5.分子標的療法の今後は?
腫瘍の定義
1.腫瘍とは細胞が自律的に過剰に増殖してできた組織の塊である。
2.原則として単一の細胞に由来する。(単クローン性)
細胞の増殖機構
正常細胞の増殖は以下のように調
節される。
1.細胞外からの増殖因子の受容体
への結合
2.受容体の活性化(自己リン酸化)
3.アダプター分子を介してシグナル
伝達分子の活性化
4.次のシグナル伝達分子のリン酸
化による活性化
5.増殖シグナル伝達分子の核内移
行
6.増殖関連蛋白の転写因子活性化
自律性増殖とは何か?
正常細胞は,細胞周囲環境下の増殖制御機構(増殖シ
グナルと増殖停止シグナルを伝えるサイトカインなど)の
制御下にあるが,腫瘍細胞は制御機構から逸脱し,自
律して増殖できるようになる。
正常細胞では、死んでいく細胞を補うた
めに、増殖因子が産生される。増殖因子
がレセプターに結合すると、細胞の増殖
を刺激する。
bcr/abl融合遺伝子による自律増殖刺激
(シグナル伝達分子の活性化による自律増殖)
bcr
abl
PI3K
Syp
Grb2
Shc
PLCg
Sos Grb2 CrkL rasGAP
Sos
Nck
C-abl
FAK
c-fes
?
Ras
?
Raf
MEK
MAP
c-myc
c-fos
?
Bcr/abl融合遺伝子産物の下流には非常に多くのシグナル伝達物質が活性化
され、複雑な機構で慢性骨髄性白血病細胞の自律増殖が刺激されている。
単クローン性の増殖とは何か?
単クローン性増殖であることの意味は?
癌組織中のすべての癌細胞が1個の細胞に由来することを意味する。
このことは、癌細胞が1個からスタートして臨床的な腫瘍に到達する
まで10-20年もかかると言う事実を説明するためにも重要である。
腫瘍の単クローン性増殖の証明
母親(XX)
父親(XY)
女子(XX)
XXのモザイク
X
不活化X
X
不活化X
女性の細胞では父由来のX染色体と母由
来のX染色体のどちらかのみが働き、もう
一方は不活化されている。そのために体の
細胞はモザイク状になっている
モザイク状の体の中にモザイクでな
い細胞集団があれば、その集団は
単一の細胞由来と考えられる。
実際の癌における証明
1.解糖系酵素のG-6-PDはX染色体上にあり、女性の全ての細胞は
このG-6-PDアイソザイムAもしくはBを持っている。707例の癌でこの
アイソザイムを調べると、681例はどちらか一方のアイソザイムを持っ
ていた。つまり、単クローン性であると考えられた。(前のスライド)
2.骨髄腫患者では産生される免疫グロブリンが単一である。
3.ATL患者の細胞にはATLVが感染し、DNAに挿入されている。
その挿入部位は、同一の患者においては同一の部位である。
がんはどこから生まれるのか?
正常細胞
がん細胞
がん細胞は発生した臓器の正常細胞が変化して生じる。そのた
めに、がん細胞はがんになる前の細胞が持っていた性質を多か
れ少なかれ持っている。
胃に発生した癌は白血病のような性質を持つことはない。
胃にできる癌は胃の粘膜細胞や腸上皮化生した細胞に似た細胞からなる。
Hepatomaは肝細胞に似た構造をとる?
CT像
低輝度になった結節状の多発性の陰影
組織像
肝細胞索に類似した索状構造を示すが、
1列ではなくしかも大小不同の細胞が多
層構造をとっている。
大腸癌は大腸粘膜組織に似た構造?
腺癌(Adenocarcinoma)
大腸癌で、上部は正常
粘膜を示し、下部が癌
部を示す。
癌組織では正常粘膜構
造に似かよった構造を
とっているものの、細胞
が1層ではなく、かつ大
小不同などの異常を示
す。
癌細胞が誕生した組織と似ている理由
癌細胞は組織幹細胞由来であるため、組織の性格を持た
ざるを得ない。
皮膚の線維芽細胞にmycなどの遺伝子を導入すると、iPS
細胞という全能性細胞に脱分化する。癌細胞でもこうした脱
分化した細胞になれば、胃に肝癌ができてもいいのでは?
1.組織幹細胞レベルでがん化した細胞が増殖する過程で、
周囲の細胞集団から分泌される何らかの分化制御因子
の調節を受ける。
2.癌化した組織幹細胞のDNAレベルの分化調節機構が働
いてしまう。
良性腫瘍と悪性腫瘍の違いは?
組織学的異型性
核分裂像
発育速度
発育様式
脈管浸潤
転移
再発
細胞質
核
整然と配列
核/細胞比は正常
核クロマチンの増量なし
核の大きさは均一
核小体小さい
核分裂像少ない
良性腫瘍
悪性腫瘍
弱い
少ない
遅い
膨張性
ない
ない
少ない
強い
多い
速い
浸潤性
ある
ある
多い
多核細胞
核分裂像
核小体
不規則な配列
核/細胞比の増大
核クロマチンの増量
核は大小不同、不整形
核小体大きく不整形
核分裂像多く、時に多核細胞
悪性腫瘍=がんには癌腫と肉腫が含まれる
がん=悪性腫瘍
癌=癌腫
肉腫
がんには(漢字の)癌(=癌腫)、肉腫、白血病および悪性リンパ腫等が含まれる。
一方、漢字の癌は癌腫と同じ意味であり、肉腫や白血病等は含まれない。
がんは組織発生学的に上皮細胞由来の癌腫と
結合組織由来の肉腫に分けられる
癌腫と肉腫の特徴
特徴
癌腫
肉腫
由来
性質
発症頻度
転移経路
年齢
発生部位に
とどまる
上皮組織
悪性
多い
リンパ行性
50歳以上
結合組織
悪性
まれ
血行性
50歳以下
あり
なし
腫瘍の実際の命名法
組織
上皮性
扁平上皮
移行上皮
基底細胞
腺管系
間葉系
平滑筋
横紋筋
脂肪組織
血管
骨
軟骨
中皮
滑膜
良性
悪性
扁平上皮乳頭腫
移行上皮乳頭腫
基底細胞乳頭腫
腺腫
扁平上皮癌
移行上皮癌
基底細胞癌
腺癌
平滑筋腫
横紋筋腫
脂肪腫
血管腫
骨腫
軟骨腫
良性中皮腫
滑膜腫
平滑筋肉腫
横紋筋肉腫
脂肪肉腫
血管肉腫
骨肉腫
軟骨肉腫
悪性中皮腫
滑膜肉腫
腫瘍の形態
無茎性隆起
菌茸状隆起
有茎性ポリープ
潰瘍型
乳頭状隆起
びまん性肥厚・浸潤型
腫瘍の形態(乳頭腫)
腫瘍の形態(潰瘍形成)
ボルマンIII型胃がん
腫瘍の形態(結節形成)
肝臓のCT像:多発性の結節状の低吸収域があり、中心部に壊死組織と考えら
れるより低吸収域を認める。
日本におけるがんの現状
1.がん診断方法と治療法の進歩によって50%以上のがん患者
が治癒する時代となっているが、逆に言えば40%以上の患
者ががんで死亡している。こうした患者を治せるようにするた
めには何をすべきなのか?
2.現在がんで亡くなる患者が増加している。がん死亡の増加は
がん罹患率の増加によるのか?(がん発症の危険性が高く
なっているのか?環境要因の悪化?がん発症率の高い高齢
者の増加?)
こうした疑問に答えるためには、日本におけるがん疾患の発生状
況や治療状況の正確な把握が必要だろう。
日本における死因の推移(1985年と2005年)
1.1985年の全死亡数が75
万人で、2005年には108
万人にまで増加している。
2.がんの死亡数が19万人か
ら32万人まで増加している。
3.3大死因のうち他の心疾患
や脳血管疾患はさほど増加
していない。
4.肺炎と慢性閉塞性肺疾患が
増加している。
がんによる死亡数は確実に増加
している。がんの予後は改善し
ているのに??
本当に癌の5年生存率は改善?
(現在の主ながんの5年生存率)
男性
全部位では男性で5年生存率が45%
肺癌や肝癌など予後の悪いものもある
女性
全部位では女性で5年生存率が55%
肺癌や肝癌など予後の悪いものもある
現在日本における癌の5年生存率は男性で45%、女性で55%である。
過去との比較では本当に改善しているのか?
主ながんの5年生存率の推移(国立がんセンター)
国立がんセンターにおける全悪性新生物
の治療後5年生存率は、手術、放射線、
化学療法などを組み合わせた集学的治
療によって50%をこえて60%に近づきつ
つある。他の施設でも同様の報告がある。
治療成績の向上は確実にある。
がんとどう向き合うか? 額田勳著 岩波新書より引用
治療成績向上に関する問題点
治療成績を病院間で比較したり、過去と現在を比較したりする際に5
年生存率などで判断していいのだろうか?
特にマスコミの病院ランキングなどは信用できない。
1.末期がん患者を引き受けない(入院させない).
明らかに末期とわかる患者でなくとも、最近の診断方法の進歩によって、肝転移などの
転移を早期の段階から診断できるようになり、手術適応とならない患者を入院させない
などと言うことが可能となっている。早期がんの比率が上がれば成績は良くなる。
2.転移の診断で、転移の確定診断が難しいケースを転移ありとし
てしまう。
転移の診断には病理組織をとって判断しなければ最終診断がつかない場合が多い。術
前の画像診断で難しい症例を病期IVと診断してしまえば、病期I-IIIの症例の予後が良
くなる。
3.糖尿病などの合併症のある患者を引き受けない(入院させない).
糖尿病などの合併症があれば、手術や術後管理も難しくなる。こういった症例について、
糖尿病の専門医のいる病院での治療を勧めることが可能。
癌の治療成績は確実に向上している。
ではどうして、治療成績の向上が癌死亡数の減
少に結びつかないのか?
癌の罹患率が増加しており、結果として癌の死亡率も
増加し、がんの治療成績が向上しても癌死亡数が減
らないのではないか?
日本のがん罹患率
日本のがん死亡率
がんの粗罹患率、年齢調整罹患率の推移
粗罹患率
ここでは男性を示してある
1975年以降全がんの粗罹患率は男
女ともに増加し続けている。
年齢調整罹患率
ここでは男性を示してある
1990年代まで全がん罹患率は
増加していたが、その後横ばい
となった。
部位別のがん粗死亡率と調整死亡率の推移
部位別がん
粗死亡率
(男性)
胃癌を除くすべての癌の粗死亡率が増加し
ている。胃癌のみは横ばいとなっている。
部位別がん
調整死亡率
(男性)
胃癌は男性でも女性でも顕著に減少している。
女性では子宮癌も明らかに減少している。
他の癌はほぼ頭打ちの状態となっている。
日本におけるがんによる粗死亡率と年齢調整死亡率の推移
ここでは男性を示してある
1960年以降全がんの粗死亡率は増
加し続けている。粗死亡率が男女とも
に増加しているのは、肺、肝臓、大腸と
膵である。
ここでは男性を示してある
男女とも全がんの年齢調整死亡
率は1990年まで増加し、その後
横ばいか減少している。
(人口動態調査より引用)
罹患率は粗罹患率が増加しているにもかか
わらず、年齢調整すると1990年以降は決し
て増加していない。
粗死亡率の増加は粗罹患率の増加を反映
している。つまり年齢調整しなければ、がん
罹患率とがん死亡率は増加している。
日本ではがん患者総数が増加している。
日本のがん粗罹患率が増加しつつも、年齢調
整罹患率は横ばいであることがわかった。同
様に年齢調整死亡率も横ばいであった。
粗罹患率と粗死亡率の増加に反映されるがん患者
の増加は、日本におけるがん発症とがんによる死
亡の危険性が増加していることを示唆する。
がん発症危険性の増加は、
環境要因の変化による? or 高齢化に伴う現象?
高齢化ががん死亡率増加の原因か?
がん死亡率の増加は、がん罹
患率の増加を反映しており、治
療成績が向上したとしても、が
ん患者の総数が増加すればが
ん死亡者も増加することになる。
年齢調整罹患率や年齢調整死
亡率が横ばいであることは、高
齢者が増加してその結果、がん
罹患率やがん死亡率が増加し
ている可能性がある。
高齢化すれ
ば死亡率が
上がり、高
齢者人口の
推移とがん
死亡者数の
推移はきれ
いに合致す
る。
癌の死亡数は年齢によって変わるのか?
39歳以下
ほぼすべての癌
が減少している。
40歳以上
胃がんを除いて
ほぼ全ての癌
が増加している。
全年齢の部位別癌死亡数の年次推移
(胃がんを除いてほぼ全てが増加)
(国立がんセンター資料)
1.高齢者人口の増加と癌死亡数の増加は相関
する。
2.若年者の癌死亡数は明らかに減少し、中年
以降では明らかに増加している。
癌死亡数の増加は高齢者の増加によると考えられる。
本当に死亡数の増加は高齢者の死亡数増加を反映する?
左の図は日本の年齢別死亡数の
推移をみたものである。
1950年代から1960年にかけて
は乳幼児死亡数の低下が顕著で
ある。
1960年−1980年にかけては、
人口は増加しているが、死亡率
の低下によって死亡数は横ばい
となっている。
1990年代から75歳以上の死亡
数の増加にともなって死亡数は激
増しつつある。
中年以降の3大死因による粗死亡率
40歳から90歳(85歳)の間では、がんによる死亡率が他の心疾患や
脳血管疾患よりはるかに多い。
肝がん死亡者の日米比較−高齢化の影響?
肝臓がんの主な原因である
C型肝炎ウイルスの感染率
には日米で差がないにも関
わらず、日本の肝がん死亡
者はアメリカの2倍以上ある。
人口がアメリカの方が2倍以
上あることから、死亡率は日
本が5倍も高いことになる。
この差は何によるのか?
日本ではがん年齢に達した高齢者
が多く、アメリカではがん年齢に達す
る前に別の原因で亡くなっている?
1.高齢者ではがんによる死亡率が最も高い。
2.高齢者の増加によってがん死亡率が増加している。
今後の課題
高齢者の癌死亡を減らすにはどうすればいいのか?
早期発見・早期診断といった戦略は効果あるのか?
癌予防は効果あるのか?
難治性がんとその対策
各種癌の予後
癌種
全悪性新生物
胃がん
肺がん
乳がん
子宮頚がん
直腸がん
結腸がん
肝臓がん
膵がん
患者数
100,261
18,234
12,150
14,354
8,270
4,168
5,569
4,204
11,671
生存率
1年
5年
76.96
77.55
57.27
95.12
92.38
84.82
83.80
55.48
25.3
55.04
58.74
25.25
81.69
79.36
58.88
61.55
19.57
6.7
癌全体の5年生存率(ほぼ治癒率と言い換えても良い)は50%を超えるま
でになっている.中でも早期に発見されるようになった胃癌,大腸癌などの
予後は非常に良くなってきている.しかしながら,肺癌、肝臓癌、膵癌のよう
に5年生存率が20%程度のがんも依然として存在する.特に膵癌の予後は
圧倒的に悪い.
膵癌の5年生存率は少しも改善していない!
膵癌に対しては、拡大切除術、
放射線照射、化学療法などあ
らゆる試みにもかかわらず、5
年生存率は5%程度と、20人
に1人が助かる程度の悲惨な
状況にある。
欧米ではすでに膵がんと診断
されると積極的治療に対して保
険からの治療費が支払われな
いところまで来ている。
今後こうした難治性がんをどう
すべきか?
大阪成人病センターの驚異的好成績
大阪府立成人病センター
膵癌全国登録調
査報告
ステージI
90%(再発なし)
61.0%
ステージII
90% (再発なし)
35.6%
ステージIII
50%(2-channel化学療法施行例)
18.1%
ステージIV
18% (2-channel化学療法施行例)
12.5%
大阪府立成人病センターの成績は全国集計と比較すると、驚異的な好成績であるが、
同様の治療を多施設で行っても再現はできていない。
日本の「がん」の現状
平成17年の日本(確定)
総死亡者数
1,083,796人
がん死亡者数
325,941人(総死亡の30.1% 約3分の1)
がん罹患者数 約65万人
がん患者数
約150万人
増えている「がん」
男性 肺がん、大腸がん、前立腺がん、膵臓がん
女性 肺がん、大腸がん、膵臓がん、乳がん
減っている「がん」
男性 胃がん
女性 胃がん、子宮がん
難治性がんに対して今後どのようにすべきか?
1.治療のメリット・デメリットを総合判断して標準的治療方針の策定
2.早期発見を目指してPETを含めた診断方法の改善
3.?
北海道におけるがん死亡
北海道においては、がん全体の年齢調整死亡率が近畿地方、北九
州地方とともに高い。長野県はほぼ全ての癌腫で死亡率が低い。
日本のがん対策基本計画(平成19年度より平成23年度)
2007年6月に閣議決
定された。
がんによる死亡数の
20%の減少、すべての
がん患者さん・ご家族
の苦痛の軽減・療養の
質の向上を目指す。
具体的な方策は、左の
図に示したようながん
の予防や早期発見な
どで目標を達成すると
している。
がん対策推進基本計画にて重点的に取り組むべき課題