こんなときどうすれば? ~円滑な特定保健指導の実施のために~

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Transcript こんなときどうすれば? ~円滑な特定保健指導の実施のために~

H22.3.6
M株式会社
こんなときどうすれば?
~円滑な特定保健指導の実施のために~
独立行政法人 労働者健康福祉機構
大阪労災病院 勤労者予防医療センター
保健師 米山 貴子
本日の内容
①生活習慣病対策の重要性と
平成18年度医療制度改革について
②特定健康診査・特定保健指導
③指導の実際-やるからには効果的に!④あなたならどうしますか?
①生活習慣病対策の重要性と
平成18年度医療制度改革について
生活習慣病対策について
疾病構造は感染症から
生活習慣病へと変化
生活習慣病・・・60%!!
厚生労働省
総合的な生活習慣病対策の実施が急務
→短期的な効果は必ずしも大きくないが、中長期的には、健康寿命の延伸・医療費適正化等への重要なカギとなる。
医療制度改革において、生活習慣病予防の観点から、医療保険者によるメタボリックシンドロームの
概念を踏まえた特定健康診査・特定保健指導を導入(平成20年度より実施)
国民医療費と対国民所得比の年次推移
生活習慣病に係る医療費は、
国民医療費(約33兆円)の約3分の1
(約10.7兆円)
厚生労働省
生活習慣病有病者の状況
○糖尿病
・強く疑われる人:890万人
・可能性が否定できない人:
1320万人
○高血圧症
・有病者:3970万人
・正常高値血圧者:1520万人
(H18)
←糖尿病が強く疑われる人が
10年間で200万人増
可能性が否定できない人を
合わせると、840万人増
厚生労働省:平成19年・18年国民健康・栄養調査
メタボリックシンドローム該当者・予備群の状況
メタボ該当:
約1,070万人
予備群該当:
約940万人
合わせて約2,010万人
と推定された。
←40~74歳でみると、
男性の2人に1人、女性
の5人に1人が、メタボが
強く疑われる又は予備群
と考えられる。
(厚生労働省:
平成19年国民健康・栄養調査)
②特定健康診査・特定保健指導
労働安全衛生法 第66条の7
(保健指導等)
第66条の7 事業者は、第66条第1項の規定による健康診断若し
くは当該健康診断に係る同条第5項ただし書の規定による健康診
断又は第66条の2の規定による健康診断の結果、特に健康の保
持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師に
よる保健指導を行うように努めなければならない。
《改正》平11法045
《改正》平13法153
2 労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び
前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努める
ものとする。
これまでの健診・事後指導と特定保健指導
これまでの健診・保健指導
これからの健診・保健指導
健診・保健
指導の関係
健診に付加した保健指導
内臓脂肪型肥満に着目した生活習慣病予
防の保健指導が必要な者を抽出する健診
特徴
プロセス重視の保健指導
目的
個別疾患の早期発見・早期治療
内容
健診結果の伝達・理想的な生活習慣
にかかる一般的な情報提供
保健指導の
対象者
健診結果で「要指導」と指摘され、健
康教育等の保健事業に参加した者
最新の科
学的知識と
課題抽出
のための
分析
結果を出す保健指導
内臓脂肪型肥満に着目した早期介入・行動
変容
・リスクの重複がある対象者に対し、医師、保健師、
管理栄養士等が早期に介入し、行動変容につなが
る保健指導を行う
自己選択と行動変容
・対象者が身体のメカニズムと生活習慣との関係を
理解し、生活習慣の改善を自らが選択し、行動変容
につなげる
健診受診者全員に対し、必要度に応じ、階
層化された保健指導を提供
・保健指導の必要性に応じて優先順位をつける
健診結果の経年変化及び将来予測を踏ま
えた保健指導
・データ分析等を通じて集団としての健康課
題を設定し、目標に沿った保健指導を計画
的に実施
方法
一次点の健診結果のみに基づく保健
指導・画一的な保健指導
評価
アウトプット(事業実施量)評価
→実施回数や実施人数
アウトカム(結果)評価
実施主体
事業所・市町村
医療保険者
行動変容を
促す手法
有病者・予備軍の減少等
特定健診・保健指導の基本的な流れ
年次計画
設定
(
・5年計画
の毎年度
の点検・補
正
・健診結果
(内臓脂肪
症候群に係
るリスクの
数)
・質問票(治
療歴、喫煙
その他生活
習慣など)
)
リ
ス
ク
が
重
な
り
し
始
め
た
段
階
リ
ス
ク
が
出
現
現
の
段
階
リ
ス
ク
が
未
出
・生活習
慣病の特
性や生活
習慣の改
善に関す
る基本的
な理解を
支援
・健診結
果の提供
に合わせ
て、個別
のニーズ、
生活習慣
に即した
情報提供
治療(対象外)
積極的支援
・対象者
毎に作成
・健診結
果と詳細
な質問票
で、行動
変容の準
備状態を
把握
準備段階に合わせて
個別の目標を設定し、
具体的で実現可能な
行動の継続を支援
動機づけ支援
生活習慣の改善に
対する個別の目標を
設定し、自助努力に
よる行動変容が可能
となるような動機づけ
を支援
対
象
者
毎
の
評
価
6
ヶ
月
後
の
終
了
時
評
価
)
・生活習慣
上の課題の
有無とその
内容 等
だ
し
た
段
階
支援計画
(
40
74
歳
の
全
加
入
者
被
扶
養
者
含
む
-
・年間実施
予定(実施
量・内容・
委託先等)
の設定
情報提供
階層化
(対象者選定)
評価
特定保健指導
特定健康診査
・アウプット(事
業実施量)評
価
→実施回数や
参加人数等
・アウトカム
(結果)評価
→糖尿病等の
有病者・予備
群の減少率、
保健指導効果
・プロセス
(過程)評価
・健康度の改
善効果と医療
費適正化効果
等
特定保健指導対象者の選定と階層化
STEP1:内臓脂肪型肥満と、非内臓脂肪型肥満を分類
1) 内臓脂肪型肥満
腹囲:男性≧85cm 女性≧90cm
2) 非内臓脂肪型肥満
腹囲:男性<85cm 女性<90cm
かつBMI≧25
STEP2:動脈硬化を早める危険因子を数える
1) 血糖(いずれかに該当)
①空腹時血糖:100mg/dl以上
②ヘモグロビンA1c:5.2%以上
2) 脂質(いずれかに該当) 3) 血圧(いずれかに該当)
①中性脂肪:150mg/dl以上 ①収縮期血圧:130mmHg以上
②HDL-cho:40mg/dl未満
②拡張期血圧:85mmHg以上
上記が1つでもあてはまる場合 4) 喫煙歴
STEP3:STEP1,2から、保健指導の必要レベルをグループ分け
危険因子
1)腹囲:男性≧85cm 女性≧90cm
2)腹囲:男性<85cm 女性<90cm
かつBMI≧25
3個以上
積極的支援
積極的支援
2個
積極的支援
動機づけ支援
1個
動機づけ支援
動機づけ支援
保健指導対象者の選定と階層化
STEP4:
1.服薬中の者は、医療保険者による特定保健指導の対象としない。
→継続的に医療機関を受診しており、栄養、運動等を含めた必要な保健指導について
は、医療機関において継続的な医学管理の一環として行われることが適当であるため。
(参考)
○特定保健指導とは別に、医療保険者が、生活習慣病の有病者・予備群を減少させる
ために、必要と判断した場合には、主治医の依頼又は、了解の下に、保健指導を行う
ことができる。
○市町村の一般衛生部門においては、主治医の依頼又は、了解の下に、医療保険者と
連携し、健診データ・レセプトデータ等に基づき、必要に応じて、服薬中の住民に対する
保健指導を行う。
2.前期高齢者(65歳以上75歳未満)については、積極的支援の対象と
なった場合でも動機づけ支援とする。
→①予防効果が多く期待できる65歳までに、特定保健指導が既に行われてきていると考
えられること、
②日常生活動作能力、運動機能等を踏まえ、QOLの低下に配慮した生活習慣の改善
が重要であること
特定保健指導対象者の選定と階層化
○服薬中の者については、医療保険者による特定保健指
導の対象としない。
<理由>
継続的に医療機関を受診しており、栄養、運動等を含めた必要な保健指導については、
医療機関において継続的な医学的管理の一環として行われることが適当であるため。
<参考>
特定保健指導とは別に、医療保険者が、生活習慣病の有病者・予備群を減らすために
必要と判断した場合には、主治医の依頼又は了解の下に、保健指導を行うことができる。
○前期高齢者(65歳以上75歳未満)については、積極的
支援の対象となった場合でも動機づけ支援とする。
<理由>
①予防効果が多く期待できる65歳までに、特定保健指導がすでに行われてきていると考
えられること
②日常生活動作能力、運動機能等を踏まえ、QOLの低下に配慮した生活習慣の改善が
重要であること
等
標準的な保健指導
1.糖尿病等の生活習慣病の予備群に対する保健指導
・対象者の生活が基盤
・対象者自らの気づき及び、自ら健康的な行動変容の方向性を導き出せるよう支援する
・対象者に必要な情報を提示し、自己決定できるよう支援する。またそのことにより、健康的な生活を
維持できるよう支援する
2.対象者ごとの保健指導プログラムについて
・保健指導の必要性ごとに「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」に区分されるが、各保健指導
プログラムの目標を明確化した上で、サービスを提供する必要がある。
情報提供
自らの身体状況を認識するとともに、健康な生活習慣の重要性に対する理解と
関心を深め、生活習慣を見直すきっかけとなるよう、健診結果の提供にあわせて、
基本的な情報を提供すること。
動機づけ
支援
対象者が自らの健康状態を自覚し、生活習慣の改善のための自主的な取り組
みを継続的に行うことができるようになることを目的とし、医師、保健師又は管理
栄養士の面接・指導のもとに行動計画を策定し、生活習慣の改善のための取り
組みに係る動機づけ支援を行うとともに、計画の策定を指導した者が、計画の実
績評価を行う。
積極的
支援
対象者が自らの健康状態を自覚し、生活習慣の改善のための自主的な取り組
みを継続的に行うことができるようになることを目的とし、医師、保健師又は管理
栄養士の面接・指導のもとに行動計画を策定し、生活習慣の改善のための、対象
者による主体的な取組に資する適切な働きかけを相当な期間継続して行うととも
に、計画の策定を指導した者が、計画の進捗状況評価と計画の実績評価(計画
策定の日から6ヶ月以上経過後に行う評価をいう。)を行う。
情報提供の内容
支援形態
●健診結果送付に合わせて情報提供用紙を送付する。
●IT等活用されていれば、個人用情報提供画面を利用する。
支援内容
〈個別支援〉
●健診結果や健診時の質問票から対象者個人に合わせた情
報の提供が必要。
●特に問題とされることがない者に対しては、健診結果の見方
や健康の保持増進に役立つ内容の情報を提供する。
●健診の意義や健診結果の見方を説明する。また、健診結果
の経年変化をグラフでわかりやすく示す。
●対象者個人の健康状態や生活習慣から、重要度の高い情
報を的確に提供することが望ましい。
●身近で活用できる社会資源情報も掲載する。
動機づけ支援の内容
支援形態
〈面接による支援〉次のいずれか
●1人20分以上の個別支援●1グループ80分以上のグループ支援
〈6か月後の評価〉次のいずれか
●個別支援 ●グループ支援 ●電話 ●e-mail 等
支援内容
〈個別支援〉
●生活習慣と健診結果の関係の理解や生活習慣の振り返り、メタボリックシン
ドロームや生活習慣病に関する知識と対象者本人の生活が及ぼす影響、生
活習慣の振り返り等から生活習慣改善の必要性を説明する。
●生活習慣を改善するメリットと現在の生活を続けるデメリットについて説明する。
●栄養・運動等の生活習慣の改善に必要な実践的な指導をする。
●対象者の行動目標や評価時期の設定を支援する。必要な社会資源を紹介
し、有効に活用できるように支援する。
●体重・腹囲の計測方法について説明する。
●生活習慣の振り返り、行動目標や評価時期について対象者と話し合う。
●対象者とともに行動目標・行動計画を作成する。
〈6か月後の評価〉
●身体状況や生活習慣に変化が見られたかについて確認する。
積極的支援の内容
○初回時の面接による支援:動機づけ支援と同様
○3ヶ月以上の継続的な支援
支援形態
●個別支援 ●グループ支援 ●電話 ●e-mail
※継続的な支援に要する時間は、ポイント数の合計が180ポイント以上とする。
支援内容
支援A(積極的関与タイプ)
● 生活習慣の振り返りを行い、行動計画の実施状況の確認や必要に応じた支援をする。
● 栄養・運動等の生活習慣の改善に必要な実践的な指導をする。
〈中間評価〉
● 取り組んでいる実践と結果についての評価と再アセスメント、必要時、行動目標・計画の
設定を行う。
支援B(励ましタイプ)
● 行動計画の実施状況の確認と確立された行動を維持するために賞賛や励ましを行う。
支援
ポイント
合計180ポイント以上とする
内訳:支援A(積極的関与タイプ):個別支援A、グループ支援、電話A、e-mail Aで
160ポイント以上
支援B(励ましタイプ):電話B、e-mail Bで20ポイント以上
○6ヵ月後の評価
支援形態
●個別支援
●グループ支援
●電話
●e-mail 等
支援内容
●身体状況や生活習慣に変化が見られたかについて確認する。
積極的支援における支援形態のポイント数
基本的な
ポイント数
支援形態
最低限の
介入量
ポイントの上限
個別支援A
5分
20ポイント
10分
30分/120Pまで
個別支援B
5分
10ポイント
5分
10分/20Pまで
グループ支援
10分
10ポイント
40分
5分
15ポイント
5分
20分/60Pまで
5分
10ポイント
5分
10分/20Pまで
1往復
40ポイント
1往復
1往復
5ポイント
1往復
120分/120Pまで
電話A
●e-mail、FAX、手紙等により、初回面
接支援の際に作成した行動計画の実
施状況について記載したものの提出を
受け、それらの記載に基づいた支援
電話B
●行動計画の実施状況の確認と励まし
や出来ていることには賞賛をする支援
e-mail A
●電話Aと同様
e-mail B
●行動計画の実施状況の確認と励まし
や賞賛をする支援
特定保健指導の評価①
1)「個人」に対する保健指導の評価
対象者個人の評価は、適切な手段を用いて保健指導が提供されて
いるか(プロセス(過程)評価)、その結果、生活習慣に関して行動変
容がみられたか、また健診結果に改善がみられたか(アウトカム(結
果)評価)といった観点から行う。
2)「集団」に対する保健指導の評価
個人への保健指導の成果を、集団として集積して評価することによ
り、指導を受けた対象者全体に対する成果が確認できる。
集団の単位としては、地域や事業所単位、また、年齢や性別などが
考えられ、それぞれに区分して、生活習慣に関する行動変容の状況、
健診結果の改善度、また、生活習慣病関連の医療費の評価も行う。
集団としての評価結果は、保健指導プログラムの改善や保健指導
実施者の資質向上のための研修などにも活用する。
特定保健指導の評価②
3)「事業」に対する保健指導の評価
医療保険者が行う保健指導は、個人への保健指導を通して、集団全
体の健康状態の改善を意図している。そのため医療保険者は、事業全
体について評価を行う。事業の評価は、対象者把握、実施、評価の一
連の過程について以下の4点から評価する。
・適切な資源を活用していたか(ストラクチャー(構造)評価)
・対象者を適切に選定し、適切な方法を用いていたか(プロセス(過程)評価)
・望ましい結果を出していたか(アウトカム(結果)評価)
・事業評価が適正に実施されているか
これらの評価は、保健指導プログラムごとに行い、問題点を明確にした上で
改善図っていく。
特に、保健指導を委託して実施している場合には、この事業としての評価は、
医療保険者にとって重要である。
③指導の実際
-やるからには効果的に!-
生活習慣を変える難しさ
• 日々の生活の中でいつの間にか獲得している
生活習慣
• 特に、自分が好きで取り入れてきたものを見直
すことは大変
• 変えなければいけないとはわかっていてもでき
ない
• 皆さんはご自身の生活習慣に
自信はありますか??
生活習慣を変えるときはどんな時?
・できることならずっと止めたくない生活習慣があると
します(喫煙・アルコール・間食・運動をしない習慣等)。
・そのような中、健診を受けたら、このままでは生活
習慣病を発症してしまうのではと思われる結果が…
☆皆さんは、生活習慣を変えますか?
• 主治医に思いっきり脅されないと生活習慣は変
えられない??
• 家族に冷ややかな目で見られても無理??
健康行動理論
☆人が生活習慣を変えるためには、ポイントとなる
いくつかの要素があります。
1.健康信念モデル(the health belief model)
☆①危機感を感じること
②行動をとること>行動をとらないこと
2.自己効力感(self-efficacy)
☆その行動をうまくやることができるという自信がある
ときに、その行動をとる可能性が高くなる
3.変化のステージモデル
☆人の行動変容と維持は、5つのステージを通る
健康行動理論
4.計画的行動理論
☆「近い将来に、その行動をしよう」と思うことが、
行動を起こすには必要
5.ストレスとコーピング
☆健康状態に悪影響を及ぼすストレッサーに対して、
うまくコーピングができるか
6.ソーシャルサポート(社会的支援)
☆社会的関係の中でやり取りされる支援や援助のこと
7.コントロール所在
☆物事の結果を決める所在がどこにあるか
健康行動理論の考え方
居心地最高!
引越しなんて、
したくない・・・
たばこが
吸える
間食
お菓子
・・・。
禁煙
メタボ
の家
お酒
飲み放題
×
健康の家
禁酒or
節酒
三食を
バランス
よく
健康行動理論の考え方
生活習慣を
変える
自信がある
生活習慣の
改善は
よいことだ
よし、引越そう!
<やる気>
このままでは
危険だ
障壁となる
ものが
少ない
生活習慣を
変えるための
支援がある
メタボ
の家
ストレスに
うまく対処
できる
○
運ではなく、
自分の努力で
病気の予防が
できる
健康の家
健康行動理論のまとめ
①
②
③
④
生活習慣改善のための行動はよいと思う
「このままでは危険だ」と危機感を感じる
行動を変える・維持する自信がある
生活習慣改善にあたって障壁がない、または乗り越
えられる程度である
⑤ 生活習慣改善に向けた支援を周囲の人からもらえる
⑥ 生活習慣の乱れや改善後逆戻りの元になるストレス
にうまく対処している
⑦ 病気になるのは運ではなく、自分の努力次第で予防
できると思う
参考:松本千明.医療・保健スタッフのための健康行動理論の基礎 生活習慣病を中心に.医歯薬出版.2002
事例1:40代男性Aさんの場合
H21
H20
H19
身長
170
170
170
体重
79.0
77.5
76.0
BMI
27.3
26.8
26.3
腹囲
89.5
87.0
85.5
赤血球
598
580
565
血色素
16.6
16.3
16.1
中性脂肪
294
150
150
HDL-cho
39
43
45
LDL-cho
175
110
100
GOT
61
55
47
GPT
67
60
59
γ-GTP
122
100
99
空腹時血糖
117
98
95
HbA1c
6.6
6.4
6.2
家族歴
祖父:脳卒中
父:大腸がん
<保健指導対象者>
A氏 男性
妻と子ども(11歳・9歳)の4人暮らし
会社員(事務職) 20歳の体重:65kg
血圧は正常域内で変化なし
・係長に昇進し、上司と部下の板ばさみ
状態
・元々体を動かすことが好きで、職場の
野球部に所属しており、ジムにて筋力
トレーニングをしている
・食べることも大好きで、お腹一杯まで
食べないと気がすまない
→健康保険組合にて保健指導となった
大阪労災病院勤労者予防医療センター
事例1:Aさんとの面談①
スタッフ:今日お越しいただいた理由はご存知でしょうか?
Aさん :はい・・・メタボですよね。
スタッフ:そうですね。健診結果はご覧になりましたか?
Aさん :はい。肥満と、脂質に血糖値に肝機能・・・昨年よりも悪くなって
いましたので心配です。
スタッフ:そうですね。その項目について、どのようにお考えですか?
Aさん :食事の見直しをすれば改善すると思うので、何度か食事量を減
らしてみたことがあるのですが、いつも三日坊主です。体を動か
すのは嫌いではないので、食事では難しいから運動で痩せようと
思ってもみたのですが減りませんね。
スタッフ:食事を見直すことが難しいと感じておられるのですね。特にどの
あたりが難しいですか?
Aさん :食べるのが大好きですし、腹八分目では食べた気がせず、空腹
感からお菓子に手が伸びます。揚げ物やお酒も好きです。
大阪労災病院勤労者予防医療センター
事例1:Aさんとの面談②
スタッフ:食事の量を減らしてしまうと、逆に間食が増えてしまうのですね。
お酒はいかがですか?
Aさん :最近、上司との関係がうまくいっていなくて、ストレスが溜まって
いるんです。その関係でお酒の量も増えてしまって。こればっかり
はどうしようもないんですけどね。
スタッフ:そうなんですね。難しいですよね。
Aさん :食べ過ぎ飲みすぎが太る原因なので、減らすよう頑張りたいと
思っています。病気になったら仕方ないですけど。
スタッフ:難しいと思うものに挑まれるのはすごいです!やる気をうまく活
かせるようにバックアップさせてください。ところで、今回の健診結
果について、ご家族の方は何かおっしゃっていましたか?
Aさん :妻は「私も心配だし、協力するから一緒に頑張ろう」と言ってくれて
います。子ども達にも「太ったお父さんより前のお父さんのほうが
かっこいい、痩せないとダメ」と言われます。
大阪労災病院勤労者予防医療センター
事例1:情報の整理
<Aさんの気持ち>
・「食事の見直しをすれば改善すると思う」
→食事の見直しは、減量及び検査数値の改善という好ましい結果が
得られるよい行動だと思っている。
・「何度か食事量を減らしてみたことがあるのですが、いつも三日坊主です。
食事では難しいから運動で痩せようと思ってもみたのですが減りませんね。」
→食事の見直しは、過去の失敗からあまり自信がない。
・「病気になったら仕方ないですけど。」
→発病を楽観視し、危機感が感じられない。
・「食べるのが大好きですし、腹8分目では食べた気がせず、空腹
感からお菓子に手が伸びます。揚げ物やお酒も好きです。」
→満腹まで食べないと気が済まないこと・空腹感・脂っこいものや
アルコールが好きなことが、食事を見直す障壁である。
大阪労災病院勤労者予防医療センター
事例1:情報の整理(続き)
・「最近、上司との関係がうまくいっていなくて、ストレスが溜まっているんです。
その関係でお酒の量も増えてしまって。こればっかりはどうしようもないん
ですけどね。」
→ストレッサーである上司との関係はどうしようもないものと考えて
おり、飲酒量を増やす形で対応してしまっている。
・妻は「私も心配だし、協力するから一緒に頑張ろう」と言ってくれています。
子ども達にも「太ったお父さんより前のお父さんのほうがかっこいい、痩せな
いとダメ」と言われます。
→妻の支援が期待でき、子供たちもAさんの健康に関心がみられる。
・「食べ過ぎ飲みすぎが太る原因なので、減らすよう頑張りたいと思って
います。」
→健康は運だけで決まるのではなく、努力が必要だと理解している。
☆Aさんの変化のステージは?関心期or準備期
話の流れを見ると、準備期にいるのではと考えられる。
大阪労災病院勤労者予防医療センター
健康行動理論のまとめ
①
②
③
④
生活習慣改善のための行動はよいと思う
「このままでは危険だ」と危機感を感じる
行動を変える・維持する自信がある
生活習慣改善にあたって障壁がない、または乗り越
えられる程度である
⑤ 生活習慣改善に向けた支援を周囲の人からもらえる
⑥ 生活習慣の乱れや改善後逆戻りの元になるストレス
にうまく対処している
⑦ 病気になるのは運ではなく、自分の努力次第で予防
できると思う
事例1:Aさんが行動変容するためには①
②危機感:検査値が示すSOSと
①よい:○
今行動を起こすことの大切さ
②危機感:×
③自信 :これならできると思う
③自信:×
行動の成功を積み重ねる
④障壁:×
④障壁 :1つ1つの障壁を取り
⑤支援:○
除いていく、または乗り越える
⑥ストレス×
ためのアドバイスをする
⑦努力:○
⑥ストレス:受け止め方とコーピングに
ついて
ステージ:準備期
事例1:Aさんが行動変容するためには②
②自信:自己効力感を高めるには
・「何度か食事量を減らしてみたことがあるのですが、いつも三日坊主です。」
今までは、ご飯を全く食べないとか、夕飯を抜く、サラダしか食べないなど
極端な対応をしていた。
→下記の障壁もあり、極端な食事制限から挫折するパターンに
陥っている。
④障壁
・「腹8分目では食べた気がせず、空腹感からお菓子に手が伸びます。揚げ
物やお酒も好きです。」
満腹にならないと食べた気がしないこと、空腹感に耐えられないこと、
脂っこいものやお酒が好物であることが障壁
→この障壁により、②自信が失われやすくなっている。
大阪労災病院勤労者予防医療センター
事例1:Aさんが行動変容するためには②
○自信を上げるために、障壁を取り除くところから
・満腹にならないと気が済まない
→腹八分目が難しければ、カロリーの低い食品に置き換える
・空腹感に耐えられない
→初めは強く感じられるが、徐々に軽くなっていくので、この
生理的反応を、悪いイメージで捉えないように働きかける
どうしても食べたいときはカロリーの少ないものを量を決めて
・脂っこいもの、お酒が好き
→好きなものをすっかりやめるのは難しい。回数・量について
本人と相談する。
大阪労災病院勤労者予防医療センター
事例1:Aさんが行動変容するためには②
②自信:自己効力感を高める
○障壁が取り除かれたところで、食事の改善に対する苦手
意識を解消し、自信をつけていける方法を検討する
→ 本人が、これならできる!と思うことを挙げてもらう
Aさんがあげたものは
・ダラダラ食べていたお菓子は、量と時間を決めて午前中に食べる
・砂糖とミルク入りの缶コーヒーをやめて、家からお茶を持参する
・揚げ物は妻に頼んで家では作らない
・夜のご飯は茶碗一杯にする
・月曜日は飲み会も少なく、週初めなので休肝日にする
・コンビニに立ち寄る癖をやめる
たくさん出ました!!
大阪労災病院勤労者予防医療センター
事例1:Aさんが行動変容するためには②
②自信:自己効力感を高めるには
「これならできそう」とあげたものの中で、確実にできそうな順位を
決めてもらう
1番:揚げ物は妻に頼んで家では作らない
2番:夜のご飯は茶碗一杯にする
3番:砂糖とミルク入りの缶コーヒーをやめて、家からお茶を持参する
4番:コンビニに立ち寄る癖をやめる
5番:ダラダラ食べていたお菓子は、量と時間を決めて午前中に食べる
6番:月曜日は飲み会も少なく、週初めなので休肝日にする
「家族の支援が得られるところでは自信があり、1~3番は大丈夫だと思う」
「4~6番は大丈夫だとは思うけど・・・という感じ」
→1~3番をまず実践
4~6番が達成されると自己効力感はさらに高まる
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事例1:Aさんが行動変容するためには②
④ストレスとコーピング
・「最近、上司との関係がうまくいっていなくて、ストレスが溜まっているん
です。その関係でお酒の量も増えてしまって。こればっかりはどうしようも
ないんですけどね。」
☆ストレッサーの評価
・ストレッサーの評価をプラス思考に
・「どうしようもないこと」ではなく、「どうすれば解決の糸口がつか
めるか」を考える
・Aさんのできるストレス発散方法は他にはないか話し合う
運動が好きなので、ストレスコーピングに活かすことができれば
肥満解消にも役立つ
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ストレス
• 保健指導の場でストレス対策まで介入することは
難しいと感じておられませんか?
しかし!!
• ストレッサーによってストレスホルモン(カテコール
アミンやコルチゾール)が分泌されることの影響(血
糖・血圧の上昇等)は特定保健指導対象者には大
きい。
• ストレッサーに対して、暴飲暴食・喫煙などの健康
にとって望ましくない行動で対処すると、ますます
悪影響を及ぼすと考えられる。
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ストレスへの働きかけポイント
• 保健指導対象者との間にラポール(信頼関係)が
築けていない段階では、困難であることが多い。
• この人になら話をしてもいいと思われるような第一
印象が肝心
☆ラポールが築けたら
①対象者にとってのストレッサーは何か
②対象者はそのストレッサーをどう思っているのか
③対象者はそのストレッサーにどう対処しているのか
中間評価時にでも介入できることを目指す!
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参考:ラポールとは
☆ラポール (rapport) とは臨床心理学の用語で、セラピスト
とクライエントとの間の心的状態を表す。
・もとは、オーストリアの精神科医フランツ・アントン・メスメルが「動
物磁気」に感応したクライエントとの間に生じた関係を表現するた
めに用いた語である。その後セラピストとクライエントの間に、相互
を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える
関係が成立している状態を表す語として用いられるようになった。
・「ラポール」という言葉はフランス語で「橋をかける」という意味で、
自分と相手の間に橋を架けること、つまり心の通い合っている状態
をいう。
・カウンセリングや心理療法をどのような立場から行う場合であっ
てもラポールは共通した基本的な前提条件として重視されている。
参考:坂野雄二(編) 2000 臨床心理学キーワード 有斐閣双書
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事例1:Aさんの積極的支援メュー
実施時期
実施内容
健診結果が本人・健保に届いて
からできるだけ早い時期
初回個別面談
・健診結果説明と、生活習慣改善の必要性について
・特定保健指導の制度の説明
・目標設定と今後のスケジュールの説明
2週間後
電話(B励まし 5分) 10p
1か月後
e-mail(A積極的関与 1往復) 40p
2か月後
e-mail(B励まし 1往復) 5p
3か月後
中間評価・個別面談(A積極的関与 20分) 80p
4か月後
e-mail(A積極的関与 1往復) 40p
5か月後
e-mail(B励まし 1往復) 5p
6か月後
最終評価
・身体計測
・最終個別面談(20分)
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事例1:目標設定から半年後
H21② H21
H20
H19
身長
170
170
170
170
体重
77.0
79.0
77.5
76.0
BMI
26.6
27.3
26.8
26.3
腹囲
87.0
89.5
87.0
85.5
赤血球
574
598
580
565
血色素
16.3
16.6
16.3
16.1
中性脂肪
210
294
150
150
HDL-cho
55
39
43
45
LDL-cho
145
175
110
100
GOT
51
61
55
47
GPT
57
67
60
59
γ-GTP
90
122
100
99
空腹時血糖
95
117
98
95
HbA1c
6.2
6.6
6.4
6.2
・全体的な検査数値が
改善の方向へ
・目標の再設定も検討して
みる
Aさん
「食事の見直しをずっと続け
られるとは思わなかった。
別に苦ではないので、
これからも続けたいと思う」
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特定保健指導の課題
• 全国総合健康保険組合協議会
「平成20年度特定健診・特定保健指導事業実施状況調査」
→会員組合から40健保組合を選定し、特保の実施状況に
ついて調査(初年度の実施状況)
☆特定保健指導実施に当たっての問題
・ 対象者が業務の都合で時間が取れない
・ 事業所の理解と協力が得られにくい
・ 仕組みが煩雑
→指導拒否にはどう対処しますか??
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事例2:50代男性Bさんの場合
H21
H20
H19
身長
174
174
174
体重
77.2
76.0
74.0
BMI
25.6
25.2
24.5
腹囲
92.0
90.5
87.5
血圧:収
150
134
128
血圧:拡
92
80
76
赤血球
570
545
510
血色素
16.1
16.0
15.3
中性脂肪
376
202
154
HDL-cho
30
45
63
LDL-cho
190
136
108
GOT
69
65
62
GPT
73
66
54
γ-GTP
260
232
190
家族歴
祖父:胃がん 兄:狭心症
・C氏
男性
子どもは独立し、妻と二人暮
らし
地方公務員:事務職(課長)
20歳の体重:60kg
・若いときは痩せており、
自分が太るなんて考えられ
なかった
・高カロリーで濃い味付けが
大好き
・面倒なことは人任せの性格
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事例2:Bさんと部下との会話
部下:課長!健診結果届きましたね。僕、摂生して数値が良くなったん
ですよ。課長はどうですか?
Bさん:まだ見てなかったよ、どれどれ・・・うーん、これって悪いのか?
ちょっと見てくれよ。
部下:課長、順調に太ってるじゃないですか。血圧高いですね!それに
コレステロール、肝機能・・・
Bさん:ふん、別に痛いところもないし、放っておいても大したことはないよ。
病気になんてなるときにはなるんだって。
部下:そんなことないですよ!この前テレビで、生活習慣病は予防が
大切って言ってましたよ。あ、生活習慣を見直すための相談に来て
下さいって書いてありますよ!ちょうどよかったじゃないですか。
Bさん:話を聞いても変わらないよ。そう簡単に生活習慣は変えられる
もんじゃない。仕事が忙しいのに。そうだ、君、聞いてきてよ!
部下:僕が!?課長に倒れられては困ります、絶対行ってくださいよ!!
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事例2:情報の整理
<Bさんの気持ち>
・「話を聞いても変わらないよ。そう簡単に生活習慣は変えられるもんじゃ
ない。 」
→保健スタッフと面談をしても、生活習慣の変化にはつながらない為
相談に行くのはあまりよいことではないと思っている。
→生活習慣改善への自信はあまりない様子。
・「別に痛いところもないし、放っておいても大したことはないよ。」
→このままではまずいという気持ちをあまり持っていない。
・「仕事が忙しいのに」
→仕事が忙しく、時間が取れないことが障壁になっている。
・「課長に倒れられては困ります、絶対行ってくださいよ!!」
→部下は自身が摂生して健康診断の結果が良くなったこともあり、何ら
かのサポートをしてくれると考えられる。
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事例2:情報の整理(続き)
・「病気になんてなるときにはなるんだって。」
→健康は自分の努力で左右されるとは思っていない様子。
※ストレスについては、この会話では不明です。
ですが、ストレスが面談を受けないことに直接関係しているとは
考えにくいため、ここでは省略します。
☆Bさんの変化のステージは?
「君、聞いてきてよ!」
この言葉から、Bさんは無関心期にいると考えられます。
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事例2:Bさんが行動変容するためには①
①よい:×
①よい:面談を受けると、生活習慣が
変わってどんないいことがある
②危機感:×
かを示し、ある程度の期待を
③自信:×
持ってもらう。
④障壁:×
⑤支援:△
⑦努力:生活習慣病といわれる疾病を
⑥ストレス?
予防できるかは、本人の行動が
⑦努力:×
大きく影響することを伝える。
ステージ:無関心期
事例2:Bさんが行動変容するためには②
①よい
・「話を聞いても変わらないよ。」
まず、生活習慣改善をすることが、循環器病等の大きな疾病を予防すること
及び健康増進に大変有効であることを理解してもらう。自分ではどのように
改善していけばいいかわからないところも一緒に解決できるよう、面談に
来てほしいことを伝える。
→面談を受けたら得だというイメージを持ってもらう
②危機感
「別に痛いところもないし、放っておいても大したことはないよ。」
生活習慣病で自覚症状のあるものは少なく、痛みを伴わないとよいと
いうわけではないことを説明する。
→突然倒れてしまったら・・・本人にまずい!と思ってもらう
事例2:Bさんが行動変容するためには②
③自信
・「そう簡単に生活習慣は変えられるもんじゃない。」
発言より、今までに変えようとしたことがあるのかないのか不明であるが、
どのような部分が難しいと考えているのか把握する必要がある。
→理由が分かれば、それに応じて成功経験を積むこと、同じ
状況の方の成功体験を伝えること等で自分にもできるという
思いを起こしてもらう。
④障壁
・「仕事が忙しいのに」
タイムスケジュールの見直しや一年で面談に時間を費やすのはごく一部
だと説明する。
→病気になると、今以上に時間をとられることの理解を促す。
事例2:Bさんが行動変容するためには②
⑦努力
・「病気になんてなるときにはなるんだって。」
疾病はどんなに健康管理に気を付けていても、発症してしまうことがあるが、
生活習慣病やその先にある重大な、命に係わる疾患は、予防できる可能性が
高いことをデータを示すなどしてわかりやすく伝える。
→もともとこのような考えの方は多いので、保健指導への案内の
中に、こういった記述を加えても効果的である。
Bさんは無関心期なので、すべての項目において働きかけが
必要です。
一見大変そうですが、ここが腕の見せ所!と意気込んで実施
していただけたらと思います。
事例2:Bさんの積極的支援メニュー
実施時期
実施内容
健診結果が本人・健保に届いて
からできるだけ早い時期
初回グループ支援
・健診結果説明と、生活習慣改善の必要性について
・特定保健指導の制度の説明
・目標設定と今後のスケジュールの説明
2週間後
電話(B励まし 5分) 10p
1か月後
e-mail(A積極的関与 1往復) 40p
2か月後
e-mail(B励まし 1往復) 5p
3か月後
中間評価・個別面談(A積極的関与 20分) 80p
4か月後
e-mail(A積極的関与 1往復) 40p
5か月後
e-mail(B励まし 1往復) 5p
6か月後
最終評価
・身体計測
・最終個別面談(20分)
事例2:目標設定から半年後
H21②
H21
H20
H19
身長
174
174
174
174
体重
75.5
77.2
76.0
74.0
BMI
25.2
25.6
25.2
24.5
腹囲
90.0
92.0
90.5
87.5
血圧:収
142
150
134
128
血圧:拡
88
92
80
76
赤血球
515
570
545
510
血色素
15.1
16.1
16.0
15.3
中性脂肪
196
376
202
154
HDL-cho
70
30
45
63
LDL-cho
90
190
136
108
GOT
58
69
65
62
GPT
59
73
66
54
γ-GTP
60
260
232
190
家族歴
祖父:胃がん
兄:狭心症
・忙しい毎日のため、日常生活の中
で実践できることを検討した。
・昼の外食をお弁当に変えると、昼
休憩の時間が増え、体操とウォー
キング・軽い筋トレをしてから食事
をとるようになった。
・肩こりもなくなり、体操をしないと
すっきりしないと思うまでになった。
・食事も気を付けないと運動がもった
いないと感じ、ソースやしょうゆを
使わないようにした。
Bさん「体調が悪い自覚は
ないと思ったけど、やってみ
るとすっきりして体調がよく
なったようだ。」
拒否的な態度をとる人への対応①
Q:特定保健指導対象者に保健指導の通知を
出したところ、「行くつもりはない」と拒否され
ました。どのように対応すればいいか悩んで
います。
Q:面接には来てくれたものの、「指導は受けたく
ない、帰る」と拒否的な態度の人がいます。
そのような人がいると、次からの指導のモチ
ベーションが下がってしまいます。
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拒否的な態度をとる人への対応②
A:受けたくないという人に受けることを強制できません。
対応のポイントとしては、
・感情には感情で返さない
・こちらの事情や気持ちを相手に悟られない
☆ 対象者の気持ちを受け止める
「そうですか、お受けになりたくないのですね。
よろしければ理由をお聞かせくださいませんか。」
あくまで冷静に!今後の参考になるかもしれません。
また、案内の仕方に問題が見つかることもあります。
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拒否的な態度をとる人への対応③-1
1.拒否する理由を話してくれる場合
よく聞かれることとしては、
・
・
・
・
時間を割いて面接をする重要性を感じない
自分が対象者に該当することが納得できない
もうすでに自分でやっている
メタボリックシンドロームについて諸説発表されており、制度の
有効性自体に疑問がある
・ 検査結果数値は、今回たまたま高かっただけである
・ 保健指導担当者を信用していない
→対象者が腑に落ちないところに、的確に回答することは
信頼を得る大きな一歩
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拒否的な態度をとる人への対応③-1
理解していただくこと
・なぜこの制度が始まったのか
・保健指導の対象者に該当されたのはなぜか
→「同僚の○○さんのほうが太っているのに自分だけ
呼ばれるのはおかしい」との発言は本当に多い。
→「病気だからというわけではなく、予防できる可能性が
高いから今面接に来ていただく必要があった」旨を
伝えると、納得される場合も多い。
制度や病態についての指導者側の理解を
深めておくことが大切
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拒否的な態度をとる人への対応③-2
1.拒否する理由を話してくれない場合
→「そうですか、今回は○○さんのお役にたつことが
できず、とても残念です」
<保健指導機関担当者の立場>
・本人の加入する健康保険組合からの依頼で、対象者の
生活習慣改善及び減量をお手伝いすることになっていたと
いうこと
・今回は大変残念だが、この件については健康保険組合に
報告をして、中止する方向で調整するということ
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拒否的な態度をとる人への対応③-2
<医療保険者の立場>
・この事業は、生活習慣病の進行防止の機会として設けてい
るということ
・加入者の中にも、健診結果の異常値を放置し、命にかかわ
る重大な病気を引き起こしている人が多い状況だということ
・このことはご本人やご家族にとって大変辛いことだが、健保
全体の支出がかさみ、徴収している保険料へ影響が出る
可能性があるということ
・今回は無理に保健指導を受けて頂く必要はないが、是非自
身で生活習慣を見直し、検査データを改善するよう心がけて
欲しいということ
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拒否する相手から学ぶこと
• 拒否的な相手の心のバリアをどう取り除こうかと検討
することはとても大きな学び
→拒否する人は、自分の信念を持っている人が多い
→「面倒だけど、適当に聞いて帰ろう」と思われる方よりも
意思表示をして下さることはありがたい
→誤解を解いたり、疑問が解決したり、腑に落ちないことが
納得できたりすれば、行動に移せる人も少なくない
☆保健指導側の都合が見え隠れしないように
☆指導担当者一人で悩まず、カンファレンス等で事例検討
するなどして、関係者で対応を考える
参考:へるすあっぷ21「特定健診特定保健指導Q&A」2009.11
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④あなたならどうしますか?
働きかけを検討しましょう!①
☆Cさん:40代 会社員(営業)
肥満があり、高血圧を指摘され、健診時に医師より、
「減量と高血圧に効果があるから運動しなさい」と
言われた。
このまま太り続けて血圧も上がったら、
心筋梗塞や脳卒中になりそうで大変だ。
そうなる可能性も高いかもしれないな。でも、
運動ってそんなに効果があるのかな。
運動する時間も取れないしどうしようかな。
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Cさんの発言で気になったところは?
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あなたなら、どのように働きかけますか?
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働きかけを検討しましょう!②
☆Dさん:50代 会社員(事務職)
肥満と高血糖で保健指導を受けにきた。
さえない表情をしている。
間食を減らして減量をすれば糖尿の
値もよくなると聞いたけど・・・。
姑との関係がストレスのもとで、ついつい
イライラして甘いものを食べるんですよね。
最近は姑の顔を見るだけでうんざりするの。
食べる以外にこれといってストレス発散
方法も知らないし。困ってるの。
大阪労災病院勤労者予防医療センター
Dさんの発言で気になったところは?
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あなたなら、どのように働きかけますか?
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働きかけを検討しましょう!③
☆Eさん:50代 公務員(管理職)
肥満があり、空腹時高血糖とHbA1c高値を指摘されて
います。腕組みをして悩んでいる様子。
血糖が良くなるも悪くなるも自分の行い次第
と思って、食事や運動をきっちりと頑張って
いたのに・・・
血液検査を受けたら前よりも悪くなっていた。
努力が足りず恥ずかしい。しかし、これ以上
に何をしたらいいのだろう。
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Eさんの発言で気になったところは?
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あなたなら、どのように働きかけますか?
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働きかけを検討しましょう!①
☆Cさん:40代 会社員(営業)
肥満があり、高血圧を指摘され、健診時に医師より、
「減量と高血圧に効果があるから運動しなさい」と
言われた。
このまま太り続けて血圧も上がったら、
心筋梗塞や脳卒中になりそうで大変だ。
そうなる可能性も高いかもしれないな。でも、
運動ってそんなに効果があるのかな。
運動する時間も取れないしどうしようかな。
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働きかけを検討しましょう!①
• このままではまずいという「危機感」は持っている
しかし!
• 運動のメリットに疑問を抱いており、また運動する
時間がないという障壁がみられる。
→運動の有益性についてデータを示す。
→生活活動量を増やす支援と、スケジュールの
確認をして可能性を探る。
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働きかけを検討しましょう!②
☆Dさん:50代 会社員(事務職)
肥満と高血糖で保健指導を受けにきた。
さえない表情をしている。
間食を減らして減量をすれば糖尿の
値もよくなると聞いたけど・・・。
姑との関係がストレスのもとで、ついつい
イライラして甘いものを食べるんですよね。
最近は姑の顔を見るだけでうんざりするの。
食べる以外にこれといってストレス発散
方法も知らないし。困ってるの。
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働きかけを検討しましょう!②
・ストレッサー:姑
・顔を見るだけで嫌:
姑がストレスの元だとの強い自覚があるために起こる
・食べる以外にストレス解消方法を知らない:
間食してストレスに対応している。
→姑との関係を見つめなおす。ポジティブに!
→姑との関係を建設的には対応できないか?
ストレス対処法もこの際一緒に考えてみる。
→ソーシャルサポートの利用する。夫の支援は?
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働きかけを検討しましょう!③
☆Eさん:50代 公務員(管理職)
肥満があり、空腹時高血糖とHbA1c高値を指摘されて
います。腕組みをして悩んでいる様子です。
血糖が良くなるも悪くなるも自分の行い次第
と思って、食事や運動をきっちりと頑張って
いたのに・・・
血液検査を受けたら前よりも悪くなっていた。
努力が足りず恥ずかしい。しかし、これ以上
に何をしたらいいのだろう。
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働きかけを検討しましょう!③
・責任の所在を自分にしている(内的コントロール所在)。
・食事や運動のアドヒアランスが高い。
・自分を責めてしまい、行き詰っている可能性が考えられ
る。
→食事と運動について間違った行動をとっていな
いか確認
→血糖値はストレスなどの影響によっても変化
する可能性があることを説明し、気持ちに余裕
をもってもらうよう伝える。
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逆戻り
• 健康に良いとされる生活習慣を身につけた方は、
何度か逆戻りを経験しながら、健康によいとされる
生活習慣を獲得する。
• 保健指導対象者に行動変容を勧める場合には、
元の生活習慣への逆戻りを念頭に置いて対応して
いく必要がある。
• 逆戻りをしてしまった本人は、自己効力感が下がった
り、自分を責めたりしてしまいがちになるが、そのよう
な逆戻りは珍しくないことを説明し、再度行動変容
できるようサポートする。
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逆戻り②
• 逆戻りが起きやすいときとは?
①ネガティブな情動の時(ストレスフルな状況など)
②健康的な生活習慣を行っていこうという動機が低くなった
とき
③特定の目標を失ったとき
④周りからのサポートが得られないとき
⑤人間関係で葛藤状態にあるとき
⑥以前その行動をとっていた場所や状況に再び身を置い
たとき
☆対象者と話し合い、理由を明らかにして、いかに克服
していくか相談する。予防策も検討する。
自信を失わないよう注意が必要。
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変えられるのは自分だけ
• どのような状況になっても、こちらからあきらめ
ないことです。
• あきらめは相手に伝わり、来年度以降も、生活
習慣の改善をされないかもしれません。
• 相手の態度は自分の対応を反映しています。
仲間と一緒に頑張っていきましょう!!
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参考文献
•
•
•
•
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•
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•
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•
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堤明純,萱場一則,石川鎮清,苅尾七臣,松尾仁司,詫摩衆三:Jichi Medical Schoolソーシャ
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カレン・グランツ,バーバラ・K・ライマー,フランセス・M・ルイス:健康行動と健康教育-理論,研
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坂野雄二,前田基成編:セルフ・エフィカシーの臨床心理学.北大路書房.2002
五十嵐透子:リラクセーション法の理論と実際 ヘルスケア・ワーカーのための行動療法入
門.医歯薬出版.2001
リチャード・S・ラザルス,スーザン・フォルクマン著 本明寛,春木豊,織田正美監訳:ストレス
の心理学-認知的評価と対処の研究
松本千明:医療保健スタッフのための健康行動理論の基礎 生活習慣病を中心に.医歯薬
出版.2002
浦光博:支えあう人と人-ソーシャル・サポートの社会心理学-:サイエンス社.1992
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