黒子のバスケ脅迫事件 - Seesaa ブログ

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道徳教育(他学部)

8月7日(金)4,5限 第十四回「最後に、道徳をもう一度問う」

最後にもう一度道徳について考える

• • • • 今までの授業の中で、「道徳をいかに子どもに教える か」という問いは、「教師として自分がいかに道徳と は何であり、道徳を教えるとはどういうことかを考え る」ことにつながっていると感じてもらえたのではな いかと思っています。 最後にもう一度、道徳について考えてみましょう。 ただ、実は「道徳とは何か?」については『メノン』 で正面から問うて以来、毎回の授業の中で形を変えて 何度も考えてきました。 最後は少し角度を変えて、「人はなぜ道徳的でなけれ ばならないのか?(なぜ悪いことをしてはいけないの か?)」という問いを発してみたいと思います。

グループワーク

① • • なぜ、悪いことをしてはいけないのでしょうか? 3~4人のグループで話し合ってみて下さい。

なぜ悪いことをしてはいけないのか?

• • • • なぜ、悪いことをしてはいけないのでしょうか? 実はこの問いは倫理学にとっても盲点です。 例えば、道徳は「 ○○ のために」あるという理由を答 えたとしても、「 ○○ より△△の方が大事なので悪い ことをします」と言われてしまうと返す言葉に困って しまいます。 悪いことを悪いと知っていて「あえて」やる人に対し て、私たちは道徳の立場から何が言えるでしょう?

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例1 授業中におしゃべり グループワーク②

自分が教師であると考えてください。 授業中に生徒がおしゃべりをしています。 この生徒たちはついついテンションが上がっておしゃべ りをしてしまったのでも、そもそも授業中におしゃべり をすることが授業の規則に反していたり、他人の迷惑に なることを分かっていないのでもありません。 彼(女)らはおしゃべりをすることが授業の規則に反し ており、他人の迷惑になることを知った上で「あえて」 それをしています。 教師であるあなたや学校に反抗しているのです。 教師としてあなたはこの状況の問題点をどのように捉え、 どのように応答しますか?

例2 黒子のバスケ脅迫事件

• • 黒子のバスケ脅迫事件(くろこのバスケきょう はくじけん)とは、 2012 年(平成 24 年) 所を対象とした威力業務妨害事件」。 10 月か ら発生した、漫画『黒子のバスケ』(集英社) の作者・藤巻忠俊や作品の関係先各所を標的と する一連の脅迫事件。黒子のバスケ事件とも。 警視庁の名称は「広域にわたる少年漫画関連箇 2012 年 10 月に作者・藤巻の母校である上智大学 で不審物が見つかったのを皮切りに、数多くの 企業やイベント会場が脅迫され、イベントの中 止等が相次いで発生したが、 2013 年 12 月 15 日に 犯人が逮捕された。

黒子のバスケ脅迫事件 被告の言葉(1)

• • • 自分は「反省も謝罪もない」と申し上げて来ました。 これは今でも変わりません。反省も謝罪も自分がや らかしたことについて心から悪かったと思えなけれ ばできないものです。 残念ながら自分にはそれはできません。自分はやろ うと思えばもっともらしい詫び状をしたためること も、公判で嘘泣きしつつ謝罪をすることもできます。 しかしそれはするべきではありませんし、そんなこ とをしても無意味です。 それに中味がなくても詫び状を書いたり謝罪された 事実が法技術的に自分に有利な情状にカウントされ ることに自分は耐えられません。

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黒子のバスケ脅迫事件 被告の言葉(2)

「犯人にどれだけ悪いことをしたか分からせて欲し いと思いますし、犯人自身にもしっかり反省して欲 しいと思います」 これらは供述調書から引用した被害企業の方々の供 述です。自分は悪いことと分かってやっていますし、 迷惑をかけようと思ってやっています。自分は確信 犯です。ですから「関係者がいかに迷惑したかを認 識しろ」などと責められても、その迷惑は自分に とっては成果です。その迷惑が大きければ大きいほ ど「自分がやったことは無駄にならなかった」と思 えて悪い気はしません。むしろ「別に大したことな かったわ」とでも言われる方がよっぽど自分はつら いです。

黒子のバスケ脅迫事件 被告の境遇①

• • • • • • 被告は小学校の頃に激しいイジメを受けた。担任教師は そのことを知りながら何もしてくれなかった。 両親は被告にほとんど興味がなく、勉強してよい成績を 取ることだけを被告に求め、好きなことのほとんどを暴 力的に禁止されていた。 そのため、被告にとって両親との心のつながりはほとん ど皆無だった。 その中で被告は対人恐怖と対社会恐怖を抱えるようにな り、自尊心を決定的に奪われた。 被告は「自分には可能性がない努力しても決して報われ ない」という世界観を持つことになった。 学校や社会で求められる努力は不幸にはなりたくない一 心で仕方なくやるものの、ほとんど見返りのない苦痛と しか感じることができなくなった。

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黒子のバスケ脅迫事件 被告の境遇②

被告は一連の境遇から自己認知が完全に歪み、自分無価 値な人間であると思い込んでしまっていたと振り返る。 小学四年生で友だちからミニバスに誘われた時、悩んだ 末に断ったら「ヒロフミ(被告の名前)も入ればよかっ たのに、楽しいよ」と言われたが、被告は「ヒロフミが 入らなかったおかげで楽しいよ。入らないでくれてあり がとう」という意味だと本気に思い込んでいたという。 また、逮捕されるまで勤めていた派遣会社の役員から 「酒は飲めるか?(今度酒でもどうだ?)」と聞かれて も括弧内の意図がわからず(自分が人から食事に誘われ るという発想がまるでなかった)、ただ「飲めません」 とだけ答えていた。 こうした歪んだ自己認知のために他者からの多くの好意 や親切に気づかず、機会損失の山を積み上げていたので はないかと思い至るようになった。

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努力教信者になれなかった被告

被告は自分を「努力教信者」になることのできな かった「埒外の民」であると分析する。 「努力教信者」とは、「この世のあらゆる出来事 と結果は全て当人の努力の総量のみに帰する」と いう世界観です。 被告によれば他人との関係の中で肯定的な自己物 語を育むことができなかった人間はそもそも自分 の人生に興味が持てなかったり、自分には可能性 が皆無であると思い込んでしまう。 そのため、努力の先に報いがあると思えず、努力 をするという発想自体が出てこない。 これが被告の言う「埒外の民」である。

黒子のバスケ脅迫事件 犯行動機

• • • 被告は自分が「埒外の民」として、まともに夢を 見ることや、そのための努力をすることさえでき なかったことに強いコンプレックスを抱いていた。 せめて努力をして失敗した負け組という枠を自分 に与えないと社会における存在資格がないと考え た被告は「マンガ家を目指して挫折した負け組」 という設定を作っていた。 そんな中、マンガ家としての成功を収めていた 『黒子のバスケ』の作者が「努力をして成功を収 めることのできた人」に見えて、嫉妬した。

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黒子のバスケ脅迫事件 被告の言葉(3)

自分は小 1 の時にいじめられてから約 30 年間にわたって 心の檻に監禁されていたようなものでした。大暴れし て何とか脱出に成功して最近やっと自由の身になれま した。ところが外に出た自分に誰も同情してくれず、 自分をいたわってもねぎらってもくれません。それど ころか脱出時に暴れたことだけを問題として取り上げ られ、誰もが自分を非難し、自分に謝罪を要求して来 ます。これが現在の自分の率直な心象風景です。 「確かに自分は暴れたよ。だけどその前に自分の 分が全面的に悪いよ。せめて自分を 返したいのです。 30 30 年 の苦しみはどうなるんだよ。自分が普通の人と同じよ うに自由の身でいたのに暴れたってのなら、それは自 年も監禁した奴 らを批判してから自分のことを責めてくれよ」 と言い

黒子のバスケ脅迫事件 被告の言葉(4)

• • 自分は「黒子のバスケ」の作者氏の成功が羨まし かったのではないのです。この世の大多数である 「夢を持って努力ができた普通の人たち」が羨ま しかったのです。成功した人たちは即ち努力した 人たちです。自分は「夢を持って努力ができた普 通の人たち」の代表として「黒子のバスケ」の作 者氏を標的にしたのです。 自分は「黒子のバスケ」の作者氏の成功を見て 「マンガ家を目指して挫折した負け組」という設 定が嘘であり、自分は負け組ですらないという事 実を突きつけられたような気がしたのです。

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グループワーク③

悪いことであると知っていて罪を犯した被告に対し、 「なぜ悪いことをしてはいけなかったか?」を納得で きるような言葉で述べることができるでしょうか?ま た、あなたなら他にどんな言葉を彼にかけたいと思い ますか? ちなみに冒頭にあるように、被告は減刑を狙っている わけではなく、罰せされることを全く恐れていません。 (刑務所での生活はそれまでの被告の生活よりはるか にいいそうです。また、出所後に自殺をしたいという 希望を明言しています) どのような人のどのようなかかわりがあれば、被告は こうした犯罪を犯さずに済んだと思いますか? その他、考えたこと、疑問に思ったことを自由に話し 合ってみて下さい。

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感想シート

今日の授業の中で考えたこと、疑問や質問、グループワーク の中で話し合ったこと、授業に対する要望、なんでもかまい ません。 感想の紹介は匿名で行いますが、プライベートなことにかか わるなど、どうしても次回の授業で紹介してほしくない部分 などがあればその旨を記してください。 必ず、名前、学籍番号を書いて出してください。 授業中に伝えきれなかった質問、意見はメール、もしくはブ ログを利用してください。 メール [email protected]

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参考文献

• 渡邊博史 『生ける屍の結末 ―― 「黒子のバスケ」脅迫 事件の全真相』 (創出版)

4ヶ月間ありがとうございました

• • • • • • 短い間ですが、つたない僕の授業に毎週取り組んでいただき、 本当にありがとうございました。 真摯に授業に参加し、深い思考力を発揮して反応をくれる皆さ んから学ぶものは本当に大きかったです。 教師は学びながら教えるものだというのが僕の自論ですが、そ れを実践できる場があることは幸せなことです。 道徳教育における「答えのなさ」は「何でもあり」ということ を意味するのではなく、答えがない中で子どものために何がで きるのかを問い続ける「自由」と「厳しさ」を意味することが 伝わっていれば嬉しいです。 皆さんが現場の複雑さや難しさの中で見せかけの「答え」に流 されることなく、子どもの心と出会い、自分の頭で考え、同時 に他人の考えからも学ぶことができるような教師になってくれ ることを願います。 守備範囲は限られていますが、今後も大学での学びや進路のこ となど、相談があれば連絡を下さい。