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2014年度・社会保障論講義
第1章「社会保障制度の危機は
なぜ起きるのか」1~6節
学習院大学経済学部教授
鈴木 亘
1.簡単なたとえ話
• 我が国の社会保障の中心は、公的年金、医
療保険、介護保険という3つの(社会保険)。
• 近年、この3つが財政危機となっている理由
は何か。
• 景気低迷の影響→(△)
• 厚労省や社会保険庁の無駄使い→ (△)。
• 代表例は公的年金における(サンピア)、(グ
リーンピア)といった保養施設。また、社会保
障の特別会計に規制する天下りの特殊法人。
• 少子高齢化→(◎)
• 社会保障のモデルとしてもっとも一般的なの
は年金。老齢年金とは簡単に言えば、元気に
働いている(勤労期)に賃金から保険料を支
払い、その代わりに、働けなくなった(
)
に年金として生活費が受け取れるという制度。
• 厚生労働省は、わが国の年金の財政方式を
(
)と呼ぶため、誤解を生んでいる
が、実際には(
)の財政運営制度と
なっている。
• このため、若者が支払った年金は、その瞬間
に煙のごとく消えている。
• 年金の本質がわかる架空の例
• 今、高齢者1人当たりに、毎月10万円の年金
を支給する制度を政府が創設。
• 高齢者の現役世代に対する比率が1対10の
割合だとすると、10人の現役世代で高齢者1
人を支えればよい。現役世代が支払うべき保
険料は1人1ヶ月あたり1万円(10万円÷10人)。
• 1対5のときには、1人1ヶ月あたり(2万円)と
倍増。1対4では(2.5万円)、1対3では約(3.3
万円)、1対2では(5万円)、1対1では(10万
円)。給付カットや廃止論が出ることだろう。
図表1-1 架空の年金制度における負担の推移
保険料負担
は、月一人当
たり:1万円
2万円
2万5千円
3万3千円 5万円! 10万円!!
2.実際の少子高齢化の状況
• たとえ話は、本当にたとえ話か。いくらなんでも、
ここまで極端な話にはならないだろう?。
• わが国における15歳から64歳までの現役世代
の年齢の人々(
)に対する65歳以上
の人々(
)の比率、「高齢者/現役比率」
の推移。
• 2013年までは実績値、それ以降は厚生労働省
の研究機関である(
)略して
(
)が公表している最新の人口予測
(「日本の将来推計人口(平成24年1月推計))から
描く。
• 実績値をみると、この間にわが国が少子高齢化
の一途を辿っている。1950年の高齢者/現役比
率は8.3%ですから、当時は約12人の現役世代で
1人の高齢者を支えていた。この比率は1960年
には8.9%(現役約11人対1人の高齢者)、(1970
年)には10.2%(約10人対1人)と徐々に上昇。
• その後は、加速度的な上昇。
• 1980年には13.5%(約7.5人対1人)、(
年)
には20.2%(約5人対1人)、2000年には25.5%(約
4人対1人)、(
年)には33.6%(約3人対1
人)。図表1-1における右から3番目の状態は既
に越しており、2013年度は40.4%(
)。
図1-2 高齢者/現役比率(高齢人口/生産年齢人口)の推移
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
実績値
予測値
0.0%
注)2013年度までは実績値(総務省統計局「国勢調査」および10月1日時点の「人口推計」)、それ以降は予測値(国立社会保障・人口
問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」)を筆者加工。
• 現在は、まだまだわが国が直面しなければなら
ない少子高齢化の折り返し地点。高齢者/現役
比率を山に例えるならば、現在は山の5合目付
近。
• 特に今後の10年間はかつてないほどの急勾配
を上らなければならない。これは、(
)が
大量に退職をして高齢者になってゆくから。
(
)には、すでに高齢者/現役比率は
50.2%と、2人の現役で1人の高齢者を支える時
代。
• 団塊の世代の退職が社会保障制度の危機の
「正念場」であるという主張は間違いであり、ずっ
と正念場が続く。
• その後、2040年には高齢者・現役比率は
66.8%と現役1.5人で高齢者1人を支えるライン
を越し、高齢者/現役比率のピーク(頂上)で
ある(
)には同比率は83.3%まで達す
る。これは、現役1.2人で高齢者1人を支える
という割合。現役には失業者や専業主婦がい
ることを考えれば、実際には、勤労者1人で高
齢者1人を支える時代に到達する。
• しかも、ピークを越えても下山ルートに入らず、
高齢者/現役比率は再び2110年に83.3%の
ピークとなる。
• つまり、100年以上、超高齢化社会が続く。
おみこし社会から肩車社会へ
3.人口予測はどこまで信頼できるか
• 高齢者/現役比率が今よりも急激に上昇して
ゆき、しかも長い間上昇が止まらないという人
口予測はどの程度信頼できるのか
• 社人研の人口予測は、「よく外れる」と評判
• 実際には、こと高齢者/現役比率に関する限
り、まず30年から40年程度は、ほとんど外れ
ることはない
• 人口予測の方法論は、(
)という手
法。
• これは簡単に説明すると、「今年の年齢階級別
の人口」に、「年齢別の死亡率」を乗じて「来年の
年齢階級別の人口」とするという方法。例えば、
今年の64歳となる人々が100万人いて、64歳の
人々の死亡率が5%(生存率は95%)であれば、
来年の「65」歳の人口は、100万×95%=95万人
となる。
• さらに、再来年の66歳の人口を求めたければ、
95万人に65歳の人々の死亡率を掛ければ求め
ることができる。
• 将来の年齢別死亡率は安定的なので、信頼性
高く予測が可能である。
• 問題は、新生児の数を予測する部分。
• 社人研が過去5年ごとに常に予測を外し、評
判を悪くしているというのは、この出生数(出
生率)の部分に限ってのこと。
• 現実には出生率が毎年低下してゆく中、不思
議なことですが、社人研は、毎回毎回、出生
率がすぐに(
)するというシナリオを描き
続け、少子・高齢化の進行を常に(
)見
積もるという間違いを犯し続けてきた。
• しかし、「高齢者/現役比率」には、はじめの
うちは影響しない。
• 新生児たちが生産年齢人口にまで成長し、
「高齢者/現役比率」に現れ始めるのは15年
後の話であり、この期間はほとんど予測が外
れない。その後もはじめのうちは現役世代の
わずかな部分を占めるに過ぎないため、全体
として大きな外れにはならない。
• 楽観的な(出生高位(死亡中位)推計)におい
ても、基本予測の中位推計と比べ、まずはじ
めの20年程度はほとんど重なっていて差が見
えない。その後、差はやや広がるが、2051年
までは両者の比率の差は5%ポイント以下に
過ぎない
図1-2b 高齢者/現役比率の推移(中位推計と高位推計)
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
実績値
予測値
0.0%
注)2013年度までは実績値(総務省統計局「国勢調査」および10月1日時点の「人口推計」)、それ以降は予測値(国立社会保障・人口
問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」)を筆者加工。
• この高位推計の楽観的な予測でさえ、以下の
深刻な結論である。
• ① 高齢者/現役比率の上昇はピーク時の
2053年まで今後(
)続く
• ② ピーク時には同比率は71.0%(現役約1.4
人で1人の高齢者を支える)水準に達する
• ③ しかもその後の比率低下も緩やかで高い
位置にとどまる
4. 少子化対策の効果は望めない
• 図表1-2bはもうひとつ重要な結果。政府が懸
命に行っている少子化対策は、もしそれが成
功して仮に出生率が上昇したとしても、社会
保障財政への貢献という意味では、( )年
程度の間は、あまり効果を持たない。
• 実際、少子化対策で増えた新生児たちが保
険料を支払ってくれるまでには、就職する年
齢まで待たなければならない。少子化対策で
増えた分の若者の財政貢献は、毎年1歳ずつ
と徐々にしか増加しない。
• 政治家などが「少子化対策を強化すれば、社
会保障財政の問題が解決できる」といった類
の主張をしているのを至る所で見聞きするが、
それは間違いである。
• 少子対策を強化しても、社会保障問題の解決
は難しい 、間に合わない、という認識に立つ
べきである。
• 少子化対策で社会保障問題が解決するとい
う主張は幻想に過ぎない。我々には、少子高
齢化社会と正面から向き合い、少子高齢化と
共に生きるしか選択肢はない
5. 医療・介護も年金同様に財政危
機となる理由
• 冒頭(図表1-1)の年金のたとえ話が医療保
険や介護保険にどう関係しているのか。
• 結論から言うと、年金とほとんど同じ仕組み
で、医療保険・介護保険とも、現役世代の保
険料負担が大幅に高まることになる。
• 負担と給付の年齢区分が明確な年金に対し
て、医療、介護はそれほど明確ではないが、
高齢期に受益、現役期に負担という構造は
同じ。また、現役が高齢者を支えることも同じ。
図表 1-3 年金の受益と負担の年齢別分布
(厚生年金加入者男性、有配偶者がいるケース)
3,000
単位:千円(年額)
2,6782,639
2,539
2,244
2,068
2,035
2,500
2,000
1,500
1,000
500
510 615
1,045
917 966 1,001 929
851
744
273
20
~
2
25 4歳
~
2
30 9歳
~
3
35 4歳
~
3
40 9歳
~
4
45 4歳
~
4
50 9歳
~
5
55 4歳
~
5
60 9歳
~
6
65 4歳
~
69
70 歳
~
7
75 4歳
~
7
80 9歳
~
8
85 4歳
~
8
90 9歳
歳
以
上
0
受益
負担
図表 1-4 医療保険の受益と負担の年齢別分布
(組合健保加入者男性、被扶養者分を考慮)
500
450
400
350
300
単位:千円(年額)
434 449
318
345
370
394 383
404
310
293
278
248
222
90歳以上
85~89歳
80~84歳
75~79歳
70~74歳
65~69歳
60~64歳
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
35~39歳
30~34歳
25~29歳
20~24歳
15~19歳
10~14歳
5~9歳
0~4歳
250
194
179
200
149
147
145
134
150
118
103
94
90
79
77
73
100
69
55 47 53 67
51
30 15
50
5
0 0 0
0
受給
負担
図表 1-5 介護保険の受益と負担の年齢別分布
(組合健保加入者男性、被扶養者分を考慮)
単位:千円(年額)
300
275
250
220
200
156
150
130
100
68
63
59
70
66
50
4
4
4
4
4
25
3334
27
24
19
12
4
上
以
90
歳
89
歳
85
~
84
歳
80
~
79
歳
75
~
74
歳
70
~
69
歳
65
~
64
歳
60
~
59
歳
55
~
54
歳
50
~
49
歳
45
~
40
~
44
歳
0
受益
負担
6.社会保障負担の現状と将来像
• 図表1-6は、厚労省が行っている2025年度までの社
会保障給付費(自己負担分を除く、年金や各保険か
らの給付費)の将来予測とその内訳。驚くべきことに、
厚生労働省は、この大事な社会保障給付費の将来
予測を、(
年度)までしか国民に示していない。
• このうち伸び率が最も早いのは(
)。(
)が
それに次ぐ。
• このため、2012年度には、(
)が最もシェアが
大きかったが、2025年度には、医療と介護を合わせ
た方が年金よりもシェアが大きくなる。
厚生労働省「社会保障に係る費用の将来推計について」《改定
後(平成24年3月)》(給付費の見通し)
単位:兆円
2012
2015
2020
2025
伸び率
109.5
119.8
134.4
148.9
36.0%
年金
53.8
56.5
58.5
60.4
12.3%
医療
35.1
39.5
46.9
54.0
53.8%
介護
8.4
10.5
14.9
19.8
135.7%
子ども・子育て
4.8
5.5
5.8
5.6
16.7%
その他
7.4
7.8
8.4
9.0
21.6%
社会保障給付費
大膨張する社会保障費
• マスコミの言う年間1兆円の社会保障費増はウソ
。実際には(
)兆円(決算ベースの過去5年
では年3.44兆円)。2014年度は4.2兆円伸び。
• 社会保障給付費の規模は、約(
)兆円。自己
負担等を入れると、GDPのおよそ(
)の規模
。
• 失われた20年の間に成長しないのに(
)。
• 社会保険(年金、医療、介護、失業)の保険料は
料率引き上げても収入増につながらず、第二の「
ワニの口」化。現在、約(
)兆円の赤字でます
ます拡大。これが、国の財政赤字の主因。
26
2013年度(当初予算ベース)社会保障給付費
の内訳
注)厚生労働省資料(社会保障の給付と負担の現状(2013年度予算ベース))を筆者加工。
27
社会保障収支差の推移
兆円
160
140
120
社会保障赤字額
100
公債発行額
80
社会保障給付費
保険料収入
60
40
20
0
1990
1995
2000
2005
2010
2015
2025
出典)国立社会保障人口問題研究所「社会保障費用統計」(各年版)、財務省「財政統計」(各年版)、2015年、2025年
の社会保障給付費は厚生労働省による予測値。
28
社会保障給付費の推移:この20年で倍額に
(名目GDPは足踏み)
厚生労働省HPより
国民負担率(社会保障負担+租税の国民所得
比)の推移
財務省HPより
将来の社会保障給付費、消費税率、国民負担
率の予測
単位:兆円
2013
2025
2035
2050
2075
(1)社会保障給付費
110.6
148.9
189.6
257.1
340.9
(2)国民所得
358.9
373.1
401.2
412.2
473.6
(3)対国民所得比率
30.8%
39.9%
47.3%
62.4%
72.0%
(4)国民負担率
40.0%
49.1%
56.4%
71.6%
81.2%
(5)消費税率
5.0%
19.3%
23.4%
30.7%
41.5%
注)2013年度の社会保障給付費は、厚生労働省による当初予算ベース推計値。2013年度の国民所得、国民負担率は財務省による見通し(国
民負担率及び租税負担率の推移(対国民所得比))。2025年度の社会保障給付費は、厚生労働省による予測値(社会保障に係る費用の将来推計
の改定について(平成24年3月))。それ以降の予測値は、厚生労働省の予測手法を踏襲して筆者独自に予測を行った。2025年度以降の国
民所得、国民負担率、消費税率も筆者独自の予測。
31
・給付費に関する政府見通し(2012年4月3日改
訂、一体改革を含むベース) では、社会保障
給付費は2025年度の148.9兆円へ 増加す
ると予測されている(2014年度は
兆円)
• しかし、2025年では高齢化は終わらない。こ
のペース(厚労省予測に人口変化を反映して
先延ばし)で進めば、2050年には257兆円、
2075年には349兆円に。
• これは国民所得比で、現在の30.8%(2013年
)から72.0%(
)になることを意味する
。
• さらに、国民の負担は社会保障費だけではな
い。
• 社会保障給付費負担だけではなく、所得税、法
人税等の租税負担(消費税除く、社会保障費の
赤字分を除くベース)がある。これを現在程度の
国民所得比で将来一定と想定する。
• また、プライマリーバランスの黒字化達成・維持
を消費税率引き上げで賄うとすれば、少子高齢
化の進展とともに、自動的に消費税率を引き上
げなければならない。
• 国民負担率は、2025年で約( )割、2050年で
約( )割、2075年には約( )割。
• これは、(
)の北欧諸国とは異なる
。
• これが、現在の社会保障制度をそのまま維持
し、一体改革のバラマキを加えた将来像。
• 社会保障制度改革国民会議等、政府、与野
党の不誠実な点は、こうした将来像を一切見
せていないこと。
• そして、とりあえず5%の消費税引き上げとし
か、国民に負担を提示しない。
• これは、金額の書かれていない請求書にサイ
ンを迫られているようなもの。極めて不誠実。
• 本来は、社会保障の将来像と消費税率、国民
負担率について複数の選択肢を示し、そのど
れを選ぶかを国民に問うべき。