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ALS――人々の承認に先行する生存の肯定
伊藤 佳世子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)・川口 有美子(立命館大学大学院先端総合学術研究科・NPO法人ALS/MND
サポートセンターさくら会)/川島 孝一郎(仙台往診クリニック)・野崎 泰伸(立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)
【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症から在宅人工呼吸療法開始までの間に、3名の女性患者が置かれた状況から、
生存に必要不可欠な治療を支える支援の在り方について考察し提案する 。
【方法】1,仙台・千葉・東京在住の女性患者3名の事例を紹介する。
2,3名の在宅療養環境整備に深く参与し、長期にわたって患者、家族、支援者に複数回のインタビューを実施した。
3,疾患が進行していく中で、家族・医療従事者・自治体福祉職員・患者会による支援を時系列に図表化し、在宅生活支援パスを作成。
4,3の表より、現行制度に加え新たなサービスも提案して、ALSの生存に不可欠な医療福祉サービスの在り方を展望した。
【子供がいる核家族の支援】
【女性患者の自立支援 】
病気の予兆
H
1年目
Hの夫
Hの子
Hの親戚
受診
2年目
確定診断
四肢障害
球麻痺
告知(病名を知る)
全身性の麻痺
呼吸・嚥下障害
2年目
3年目
就労をしながら夜間休日の介護
5歳
6歳
子の世話、通院介助、日常の介護
望まれる支援
3年目
意思決定
困難
在宅人工呼吸療法(医療的ケア)
胃ろう増設・気管切開
介護制度利用開始
7年目(全身性障害者介護人派遣事業
16年目(介護保険)
19年目(支援費制度、自立支援法)
「介護疲労で家族の関係がギスギスしてくる」
13歳
18歳で別居、28歳で結婚
<在宅で必要な医療と介護に関する正しい知識>
・ 訪問医療チームによる在宅呼吸ケアの導入。
・ 訪問看護師のアセスメントにより、家族( ヘルパー)への介護指導。医療的ケアに関する実習の開始。
・ PT、OT、栄養管理士、歯科衛生士などパラメディカルスタッフの訪問
・ ピアサポートによる患者セルフマネジメントプロ グラム(患者の心構え)の導入
・ 地域の患者会による家族に対する相談支援
・ ケアマネージャーによる介護保険の導入
・ 障害者自立支援法による身体介護および重度訪問介護の導入
・ 訪問入浴サービスの導入
・ 公的保障の利用による自己負担の軽減
・ 定期的レスパイト先の確保
・ 地域の保健所やソーシャルワーカーのよる相談支援。住宅改造や福祉機器の適切な導入
<自立支援>
・ 家族の就労継続支援
・ 介護職による長時間介護の導入
・ 子どもの自立 ・ピアカウンセラーになる。
<多職種連携による支援の継続>
・ 日常的な外出支援
・ 必要な時期に適切な医療・介護機器の導入とメン
テナンス
<長期療養に伴う経済的不安の解消>
・ 療養者本人の所得(自前介護事業の開始)
・ 冠婚葬祭に参列 ・買い物の自由
・ 旅行の自由、
病気の予兆
受診
告知(病名を知る)
全身性の麻痺
M
1年目
1年目
2年目
3年目
Mの夫
Mの子
就労しながら、夜間休日の介護
3歳
4歳
5歳
Mの父母
子の世話、本人と家族の支援
Mの義母
子の世話、本人と家族の支援
球麻痺
呼吸・嚥下障害・胃ろう
増設
3年目
呼吸障害発現
在宅人工呼吸療法(医療的ケア)
意思決定
気管切開
困難
現在:気管切開の寸前である
望まれる支援
<ALSの知識>
・その先を生きていけるような告知。
・気管切開してから先の人生が考えにくい。
・患者当事者に会い、施設でない暮らしをできることを知り、自分の生
き方をきめることができる。
<保健所、保健師のソーシャルワーク>
・訪問看護、PTが早い段階でかかわり始める。
・進行する前に先のことを考えて多くの社会資源と関わる。
<生活環境の変化へのケア>
・専業主婦の発症により、家族の機能やバランスが崩れる。
・夫の就労継続支援。(家族の人生の支援)
(これについては理解されない場合もある)
<家族介護から他人介護への転換>
・本人は、家族に介護を受けることが、苦痛になっている。家族の人生が変わることは、申し訳なく
て、生きていくことが困難。
・全身性の麻痺と嚥下障害から、介助量が増える。ヘルパーを入れるも、ヘルパーで対応しない時
間はすべて家族が介助に入る。
・家族に負担が重くのしかかり、ヘルパーを頼むも、ヘルパーがいる時間は家族もなんとなく休まら
ない。
・家族ができない部分だけヘルパーが入るというスタンスになっているので、家族の頑張りが見られ
ているように思う。
・家族の支援(夫の就労継続支援、夫の介護負担の軽減、子供の養育)をしてもらえないと、呼吸器
をつけて生きていることが、申し訳なくなってしまう。離婚したほうが良いだろうと思ってしまう。
<独居支援と同様の支援>
・自治体の理解
最低でも月744時間の介護給付
・事業所の理解
医療的ケア
・家族の理解
四六時中、他人が家に出入り
・医師の理解
多職種で構成されるチームリーダーとして
の役割
・ケアマネージャー 柔軟な発想でケアプランの作成
・患者会
患者会へのお誘い。家族の相談
<子供の養育>
・Mの母、義母、保健センター、こども家庭課(ファミリサポートセンター、
子供のためのヘルパー派遣など)による、子供の支援を行う。
病院・専門医
有償介護者の紹介 ・ 全身性介護事業のために学生ヘルパーの紹介
MSW
四肢障害
<>
整形外科受診、神経内科医受診 病院・専門医
確定診断
8、9年目
7歳
<ALSに関する知識>
・心身両面へのサポート
・患者の人権を尊重した告知
・社会資源利用の早期開始
・生活環境の変化に対するケア
Hさんの場合、主婦の発症により、家族内役割の激変
が起こった。特筆すべき支援として、「子どもの養育に
関する支援」(日常の子どもの世話、家事代行、子ども
が病気の時の付き添い、子どもの社会参加、PTAへ
の参加)、「夫の就労継続支援」がある。
呼吸障害発現
保健師
かかりつけ医
PT、マッサージ
平日1日4回訪問
訪問看護職
患者会
難病保健師の訪問
市町村保健師
承認に先行する
生存の肯定が重要
訪問看護職
介護職
脳性まひ等介護人派遣事業/全身性障害者介護人派遣事業
介護職
24時間公費による在宅介護の実現
ファミリーサポート
日本ALS協会入会
支援団体
くら会
任意団体さ NPO法人
実父母、義父母
友人
1-A ALSの理解 明るい告知。正しい病気観をもつために必要な説明を専門職や保健所がおこなう。
1-B 意思伝達方法の工夫 パソコンサポート .自立支援のためにもっとも必要なコミュニケーションの支援
1-C 児童のケア
育児にもヘルパーを利用できる。市区町村の柔軟なサービス。
1-D 社会資源の利用を正当とする支援
市町村から多額の費用を投入することに対して地域で理解が得られる支援。
1-E 支援者のエンパワメント
Hさんの在宅療養のプロジェクトの一員としての自覚を高める支援者のための支援。
1-F 経済的不安の解消
自らの介護の事業化により、会社社長となって自分の経営する会社の経費で夜勤ヘルパーの食費や移動
費用捻出。
1-G 患者会や障害者団体のアドボカシー
3-A
家族の承認を必要としない治療開始。家族の存在や協力を前提にしない医療の確立。
3-B ヘルパーによる吸引、経管栄養の注入。家族以外の者による医療的ケアの普及。取り組む事業所や訪問看護STへの評価。
3-C 絶望感のない告知 身体機能の低下の告知とともに、どう生きるかの方策を教えて欲しい。
3-D 子供のケア 子供の育児にヘルパーサービスを利用できる。市区町村の柔軟なサービス。
3-F 夫の就労継続支援 家族が犠牲になることで支援がおこなわれることになると、家族に申し訳なくて、生きていけなくなる。
《ALS在宅療養における地域間格差》
身体の状況に基づく分類
資料1
【幼い子どものいる女性患者の支援 】
I
Iの夫
Iの子1
Iの子2
Iの親戚
確定診断
四肢障害
球麻痺
全身性の麻痺
呼吸・嚥下障害
2年目
病気の予兆
受診
告知(病名を知る)
1年目
1年目
1年目
就労をしながら夜間休日の介護
4歳
2歳
Iの実家が子の世話
〈 保健所によるソーシャルワーク〉
患者以外の家族内弱者のニーズをサポートする。この
ケースでは父子家庭と同等の援助を行う必要がある。
望まれる支援
3年目(トイレ介助は夫
しかさせない)
呼吸障害発現
在宅人工呼吸療法(医療的ケア)
意思決定
胃ろう増設・気管切開
介護制度利用開始
困難
2年目
2年半目(支援費制度320時間)
4年目(564時間+移動60時間)
介護のため失業
5歳
3歳
2年目からIの実家に同居
<人間関係の調整>
医療職や行政職による支援が入りにくい場合は、ピアサポートが有効である。地域の患者会との連携を考え
る。
<家族以外の者の介護を積極的に導入>
療養者も家族も制度の利用に消極的な場合でもそのまま放置せず、制度の利用を進め、訪問看護やヘル
パーの導入を支援する。
3年目から基準該当事業所を開業
母親のレスパイト入院中に父親と旅行
介護をめぐって喧嘩し、Iの実家と絶縁状態
<家族介護者の自立支援>
療養者自身が社会参加に消極的な場合は無理
をさせず、家族の自立を先に支援する 。家族の
就労や就学機会を保障することにより、療養者
の社会性も増す。家族全体のQOLの向上を目
指す。
(川島孝一郎)
日常生活支援(最高時間数) 患者数(人) 在宅療養者数(人)呼吸器装着者(人)呼吸器装着在宅率(%)
中
止
秋田県
225
71
7
28
25
茨城県
250
122
18
27
67
栃木県
47
84
13
17
76
東京都
722
544
90
106
85
山梨県
90
47
5
5
100
神奈川県
320
298
28
56
50
愛知県
744
247
25
41
61
大阪府
231
439
38
61
62
兵庫県
500
350
35
61
57
治った場合
奈良県
100
64
5
7
71
和歌山県
121
95
11
28
39
大分県
120
99
20
50
40
点滴から
血圧低下し危険
管の栄養に
透析の中止
変更
リハビリのゴール
宮崎県
170
81
7
19
37
今
ま
で
行っている治療を止める
行
為
呼吸器を中止する(足したものを引く)
中止行為
崩壊行為
こ
統一された生命全体を一挙に崩す
れ
継続すると治療
か 代替治療あり 止めても現在の 以上の悪化
状態を継続可能
意図的
瞬時性 全体波及性 再現不能性
ら
がある
透析すると
実
際
積極的安楽死の要件で評価する
(呼吸器をはずす行為)
平成1 6年度 厚生労働科学研究「ALS患者にかかる在宅療養の整備状況に関する調査研究」研究主任 川村佐和子氏より抜粋
かかりつけ医
病院・専門医
訪問看護師
市町村保健師
保健師が、家族のケアや家事や子育てに不慣れな夫にも心を配ってくれた
訪問介護職
当事者団体
自薦ヘルパー方式と事業所の設立をアドバイス
2-A 乳幼児のケア
乳児には患者と異なるケアニーズがある。保健師が親身になってくれた。
2-B 人間関係のトラブルの相談・仲介
人間関係のトラブルも保健師が仲介してくれた。専門職が説明すると収まるケースがあ
る。
2-C 親戚以外の者の支援
親戚との関係悪化。療養は長期化するので、最初から親戚に頼らないように支援する。
2-D 家族に対する所得と就労の保障
従来の障害者運動とは逆の方法だが、家族の自立を支援すると必然的に当事者も自立して
くることがある。
2-E ヘルパーの紹介(重度訪問介護サービスと事業所システムの紹介)
介護者不足なら、自分たちで介護者を養成する方法が
ある。地元のNPOの情報提供で事業所設立し、家族の就労とヘルパー不足が一挙に解決した。
【結論】
現在の制度では、ALS患者は自らの意思だけでは呼吸器装着を決定できない。介護保障が欠如している中で生きる/介助していく決意を固めるのは極めて困難である。ALS患者の生存のための方策を二つ提案する。
ひとつは、人工呼吸療法の単身者を支える制度と在宅医療福祉サービスの基盤整備を地域間格差なく広く達成することであり、ふたつめには、そのようなサービスの充実も地域や家族の承認も待たずに、先に治療をしてまず生きる/生きさせること
である。いったん治療を開始しさえすれば、ALSの治療停止が認められない現法制度の下でなら、必要な支援を生み出すことができる。
これについては、次のような反論があるかもしれない。すなわち、ALSの治療停止が認められない現法制度を変えて、本人の意思による治療停止が認められるような法制度にしてしまえばよい、そのような反論である。本人の「死にたい」という
意思を尊重できるような法制度こそが、本人にとって望ましいというのだ。これは、患者本人の意思に共感した人々の承認によって、本人の生存が否定されるということでもある。
けれども、なにゆえに人々の承認によって本人の生存が肯定されたり否定されたりしてよいと言えるのか。患者本人は、いま生きていることがつらいと思うから、死にたいと思うのではないのか。そうであるならば、患者として生きるつらさをなく
せばよい。そして、医療や福祉の充実は、生きるつらさを軽減してくれるものでもある。それでも、つらさは完全にはなくならないかもしれない。しかし、だからといってそのことは医療や福祉を整備しなくてよい理由にはならない。
また、ALSは病状が進行していくと、意思表示が困難になったりもする。そのとき、どうして周りの人々が「この人は死にたいと思っている」と言えようか。意思表示が困難ならば、端的に言って死にたいかどうかわからないはずだ。さらに、だ
から事前指示をということも言われるが、自分がいまだそのようになっていないにもかかわらず、事前に死にたいとわかるのは、いかなる理由からなのか。それは結局、患者の周りの人々の理屈と変わらない。「こういう状態であれば死にたいと思
う」というとき、「こういう状態」の本人とは別の人が実際に存在し、その人を参照しながら言っている。そうだとすれば、そのような言説は、「こういう状態」の人の存在を否定していることになる。
患者本人のつらい気持ちに共感しようとするとき、必ずしも「つらいから死にたい」という気持ちまで肯定することにはつながらない。実際私たちは、そのように言われたら「つらい気持ちはわかったが、死ぬな」と言うではないか。なにゆえに患
者であるだけで、「死への衝動」まで肯定しなければならないのか。それは患者本人の生存に対する冒涜ではないのか。他方で、つらい気持ちをもちつつ、あるいはつらくなる必要すらないと思った患者で、適切な医療や福祉を利用しながら、たとえ
ば手記を書き、たとえば地域福祉を充実させるのに奔走し、たとえば大学院を修了する者もいる。このような道もすでに患者の先達によって切り拓かれている。すべての患者が活動的である必要はない。しかし、適切な医療や福祉が制度として整って
参考文献
いれば、つつがなく生活できる可能性がある。そのために、「患者が生きてよいか、患者本人に死にたい気持ちはないか」によって人々の承認を導き出すより先に、患者の生存を肯定するような医療福祉システムを作ってしまうことのほうが急務であ
ると、私たちは考えている。 「尊厳は人が人として在る人格の(内なる人間性の)尊重に対する価値感情である。喪失したり価値であることは尊厳には集合のように加減が生じる。しかし、私達がそのつど状況を含みつつ乗り越える全体としてあ
るからには、尊厳はただ変容するだけである。その変容を許せずに世界と決別すること自体が尊厳から遠い行為であろう」(川島・伊藤 [2007:205])
文献
「生きる力」編集委員会 編 2006 『生きる力――神経難病ALS患者たちからのメッセージ』,岩波書店
Gsupple編集委員会 編 2007 『事例でまなぶケアの倫理』,メディカ出版
天田 城介 2007 「難病を生きるということ」(Gsupple編集委員会 編 [2007:89-94])
伊藤 佳世子 2008 「筋ジストロフィー患者の医療的世界」,『現代思想』36-03:156-170
川口 有美子・小長谷 百絵 編 2009 『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル――暮らしと支援の実際』,医歯薬出版
川村 佐和子 研究代表 2009 『在宅ALS療養者における非侵襲的人工呼吸療法の導入と限界に関する課題――患者・家族・ヘルパーの立場から』,平成20年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)研究分担報告書
川島 孝一郎・伊藤 道哉 2007 「身体の存在形式または、意思と状況との関係性の違いに基づく生命維持治療における差し控えと中止の解釈」,『生命倫理』17-1:198-206
日本尊厳死協会東海支部 編 2007 『私が決める尊厳死――「不治かつ末期」の具体的提案』,中日新聞社
野崎 泰伸 2009 「「生きるに値しない生」とはどんな生か――メンバーシップの画定問題を考える」(出生をめぐる倫理研究会 編 [2009:40-47]→櫻井・堀田 編 [2009](予定))
櫻井 浩子・堀田 義太郎 編 2009 『生存学研究センター報告 出生をめぐる倫理』,立命館大学生存学研究センター(予定)
出生をめぐる倫理研究会 編 2009 『出生をめぐる倫理研究会 2008年度年次報告書』
立岩 真也 2004 『ALS――不動の身体と息する機械』,医学書院