認知症高齢者のターミナルケア

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認知症高齢者のターミナルケア
京都保健会盛林診療所
所長 三宅貴夫(老年科)
1.ターミナルケアをめぐる状況
100~
95~99
85~89
90~94
75~79
80~84
70~74
60~64
65~69
50~54
55~59
45~49
35~39
40~44
30~34
20~24
25~29
10~14
15~19
5~9
0~4歳
1)年齢階層別の死亡数(2005年)
出典:統計計情報部平成17年人口動態統計
20
18
16
14
12
10
8
6
4
万 2
人
2)死亡場所の推移
出典:統計計情報部平成17年人口動態統計
100%
その他
80%
自 宅
60%
老 人
ホーム
助産所
40%
介護老人
保健施設
診療所
20%
病 院
0%
1960
1970
1980
1990
2000
2005
2.高齢者の理解
1)高齢者とは

高齢者

老人
2)高齢者の特徴
多機能が混在している。
 ホメオスターシス(恒常機能)が低下している。
 身体・精神・生活の相互影響性が強い。
 死を迎えつつある。

3)高齢者の疾患の特徴




複数の疾患をもっている。
症状が非定型的なことが多い。
精神症状が現れやすい。
治療に抵抗し、障害を残し、死に至りやすい。
3.ターミナルケア
1)ターミナルケアの用語





終末期ケア Terminal care
終末期医療 Terminal medical care
緩和ケア Palliative care
ホスピスケア Hospice care
エンド・オブ・ライフ・ケア End-of-Life care
2)ターミナル(終末)期とは

身体疾患の場合
「積極的な医療行為がないと生命の維持が不可能であり,
またその医療行為を必要としなくなる状態には回復する
見込みがない状態」(三宅貴夫)
「病状が不可逆的かつ進行性で,その時代に可能な最善の
治療により病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり,
近い将来の死が不可避となった状態」(日本老年医学
会)

認知症の場合
3)ターミナルケアの目標
その人中心に
身体・精神・生活をみる
多職種による
死に向かうよりQOLの高い生の支援
4)QOLとは

人生の質
より健康で幸福な人生の質

生活の質
より苦痛が少なくより自由な生活の質

生活環境の質
より自由な生活を保障する生活環境の質
5)高齢者のターミナルケアの特徴

より死を受け入れやすい。

より苦痛が少ない。

複数の疾患がある。

精神症状が現れやすい。
6)高齢者のターミナルケアと
高齢者観・死生観

高齢者本人

家族

医療職
7)高齢者と家族の関係








理性的関係
情緒的関係
倫理的関係
法的関係
経済的関係
文化的関係
宗教的関係
その他の関係
8)ターミナル期のチーム医療








高齢者本人
家族
医師
看護師
栄養士
介護職
ボランティア
その他
9)ターミナルケアの場

病院

ホスピス

在宅

介護施設
10)ターミナルケアにおける
精神的支援ー本人と家族へ-

本人への支援

家族への支援
11)高齢者のターミナルケア
-その他の課題-

終末期の告知

尊厳死または安楽死

倫理的課題

法的課題

宗教の役割
4.高齢者のターミナルケア
-身体疾患の場合-
1)ターミナルケアの判断

終末期の判断

状態・症状の観察と判断
2)ターミナルケアと症状ー身体症状ー








疼痛
呼吸困難
嚥下困難
縟創
排尿障害
関節拘縮
かゆみ
その他の身体症状
3)ターミナルケアと症状ー精神症状ー





せん妄
幻覚妄想状態
不穏
うつ状態
その他の精神症状
4)ターミナルケアとその他の対応

経管栄養法(経胃瘻経管栄養法)

中心静脈栄養法

気管切開・挿管・人工呼吸

その他
5.認知症高齢者のターミナルケア
1)認知症の診断基準
以下のすべてがそろっていること
①
②
③
④
⑤
記憶障害がある。
失語・失認・失行・実行機能障害のひとつがある。
①と②のために生活に支障がある。
①と②の原因として脳などの身体疾患がある。
意識は清明である。
「精神障害の診断と統計の手引き第4版(DSM-Ⅳ)」アメリカ精神医学会1994年より
2)認知症の原因

1次要因
アルツハイマー病
脳血管障害
その他(慢性硬膜下血腫、低酸素脳症、ヤコブ病など)

2次要因
身体状態(脱水、熱発、貧血など)
精神状態(緊張、不安、うつ状態、混乱など)
生活・環境状態(介護者、住環境など)
3)認知症高齢者の心理


記憶の障害
判断の障害
総合的判断
抽象的判断
時系列的判断


過去に生きる
感情・思い・期待・プライドが残る
4)認知症高齢者のケアの基本










認知症高齢者を知る
残存能力に働きかける
「生きている世界」を受け入れる
感情や思いに配慮する
身体状態を把握する
身の安全を守る
周囲の理解を得る
地域のサービスを利用する
人権に配慮する
介護者自身のケアなど
5)認知症のターミナル期の定義
-狭義-




認知症である。
意志疎通が困難か不可能な状態である。
認知症の原因疾患に伴い
嚥下が困難か不可能な状態である。
上記の状態が非可逆的である。
(三宅貴夫による)
6)認知症のターミナル期の定義
-広義-

狭義の終末期の状態である。
または

治癒しない認知症で、認知症とは直接関係ない
身体疾患が終末期の状態である。
(三宅貴夫による)
7)意思の確認

認知症高齢者

家族

医療職
8)意思の妥当性

意思決定をする人

意思決定の過程

意思決定の妥当性の判断
9)認知症高齢者のターミナルケア
認知症の原因疾患の場合

アルツハイマー病

脳血管障害

その他の認知症性疾患
10)認知症高齢者のターミナルケア
身体疾患の場合

悪性腫瘍

心疾患

呼吸器疾患

その他
11)認知症高齢者のターミナルケア
-その他の課題-



高齢者の死後の家族のケア
医療職自身のケア
その他
虐待の防止
身体拘束の禁止
成年後見制度
その他
6.事例検討
事例(1)
アルツハイマー病で最期を病院で迎えた事例
アルツハイマー病。男性。60才頃、もの忘れが目立ち、仕事に失敗
が多くなる。家族が他の病院に受診させアルツハイマー病と診断さ
れる。家族は、治療を期待して複数の病院に受診させるが、認知症
状態は漸次進行する。家族は病院での医療はあきらめ、近くの診療
所で医療を受ける。意思疎通が一層困難となり日常生活動作の低
下と失禁等の状態のため通院も難しくなり、保健婦を通して相談が
ある。往診して重度のアルツハイマー病との印象である。病院の外
来で基本的な検査を行い、アルツハイマー病と診断する。病状と予
後について家族に説明し、在宅療養の継続の意思決定を行う。その
後、訪問診療、訪問看護、保健婦の訪問を行う。嚥下障害が顕著と
なり、経口摂取が少なくなる。家族は最期まで家で看たいと希望され
る。しかし経口摂取量が著しく少なくなり、点滴希望などのため入院
となる。1日1000ml末梢からの補液を行う。約1月後死亡される。
衰弱死。発病後の全経過約9年。
事例(2)
脳血管性認知症で在宅で最期を迎えた男性の場合
79歳男性で脳血管性認知症で在宅で妻と生活する。食量が減り、家
族が心配し往診の依頼がある。食事の減少は嚥下障害によるより拒
食によるとの印象と受ける。衰弱がすすむので家族の希望で入院、
検査、治療を進める。本人が胃内視鏡検査を拒否し、負担を与えな
い検査で胃などに通過障害を認めず。中枢性によるとも判断せず。
家族が本人が好むものを経口で摂らせようとするが量は少なく、家
族の希望により末梢からの点滴を行うが、本人がチューブを抜くなど
の行為があり、上肢を縛る。家族が再度に在宅で看たいと希望する。
帰宅後も経口量少ないまま経過し、2週間後、急変との連絡あり、往
診する。急性心筋梗塞による死亡と判断した。
おわり
研修会「認知症高齢者のターミナルケア」
2008年12月20日
広島県看護協会会館
主催:広島県看護協会
付録:認知症に関するサイト
認知症なんでもサイト(三宅貴夫編)
www2f.biglobe.ne.jp/~boke/boke2.htm

認知症を知るホームページ
www.e-65.net
