すざく衛星を用いたペルセウス座銀河団高温ガスのバルクモーションの探索

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すざく衛星を用いたペルセウス座
銀河団高温ガスのバルクモーション
の探索
大阪大学大学院 理学研究科
宇宙地球科学専攻 常深研究室
博士前期2年
蓮池 和人
Outline
•
•
•
•
銀河団
ペルセウス座銀河団・すざくによる観測
ペルセウス座銀河団高温ガスの速度差
銀河団高温ガスの圧力、全質量推定に対す
るバルクモーションの影響
• 銀河団における赤方偏移
• まとめ
銀河団
可視光のイメージ
100万光年
X線のイメージ
数十~数百の銀河の集団
温度数千万度の高温ガス
密度10-3個/cc
うみへび座A銀河団 (距離~8億光年)
(http://chandra.harvard.edu/xray_sources/galaxy_clusters.html)
銀河団の衝突とサブクラスター構造
銀河団衝突のシミュ
レーション
(http://chandra.harvard.edu/resources/anima
tions/galaxy_clusters.html)
時間スケールは数
Gyr。
銀河団は衝突を繰り
返すことで成長する。
• 衝突前:X線放射の輝度分布、銀河の速度分
布で観測されるサブクラスター構造。
衝突の観測的証拠
• 衝突後:高温ガスの温度分布で観測される高
温ガスの加熱、圧縮現象。
X線スペクトルのドップラーシフト測定
銀河団衝突の観測的証拠を探す
Counts/sec/keV

X線CCDのエネルギー分解能
X線スペクトルモデル
 高温ガス(希薄プラズマ)が放
X線CCDで観測すると
(1s)は60eV程度。3000km/sの
温度数千万度
射するX線スペクトルのドップ
速度に相当。
Fe He line
ラーシフトを測定する。
40
40
 銀河団高温ガスが放射する
より高いエネルギー分解能が必
 6.7keVのHe-like鉄輝線のエ
Fe H line
6.7keVの鉄輝線のドップラー
要か? →No66eV
ネルギーが最も重要。
~3000km/s
シフトから速度を測定する。
鉄輝線光子を数10個集めること
10
10
 熱運動による鉄輝線のひろが
z=0
Fe He line

最大で鉄輝線の速度分散で
ができれば、鉄輝線の中心エネ
りは130km/s。(銀河の速度
z=0.01
Fe H line
z=0
ある130km/sまでの速度差を
ルギーを1000km/s以下の精度
分散1000km/sより小さい)
z=0.01
見分けられる (銀河で測定し
で求められるはず。
2
2
 しかし、過去の観測例は非常
た場合は1000km/s)
X線スペクトルのドップラーシフト
に限られている。
1
1
 ほとんど試みられていない新
測定による高温ガスのバルク
6
6.5
6.7
7
6
6.5
6.7
7
FeXXV(He-like)
1s -1s2p しい手法
S- P w 6.702keV
Resonance line
モーションの探索
Energy (keV)
Energy (keV)
S- P x 6.683keV Intercombinationline
→本研究の目的
S- P y 6.669keV Intercombinationline
Counts/sec/keV



2
1
1
1
3
1
3
2
1
1s22p-1s2p2 1S-3S
z 6.638keV
Forbidden line
X線望遠鏡
すざく衛星
X線CCDカメラ
全長:6.5m
幅:5.4m
直径:2.1m
硬X線検出器
重量:1700kg
6.5m
5.4m
X線CCDカメラ(XIS)
XIS
すざく衛星搭載のX線天体観測
用のCCDカメラ。天体の撮像とス
ペクトルの取得を目的とする。
30cm
15cm
12cm
特徴
・0.2-12keVに有効な感度をもつ。
・優れたエネルギー分解([email protected])
・低バックグラウンド
HXD
XIS2
55Fe
XIS1
XRS
XIS0
XIS4台でそれぞれ電荷の転送
方向が異なる
ACTY
XIS3
55Fe
ACTX
衛星上での各検出器の配置図
ペルセウス座銀河団
近傍の明るい銀河団の代表。光子をたくさん集めること
ができる。
10keV以上の高温ガ 6keV以下の低温
ガス
41°40′ ス
P2
P1
P3
P4
41°30′
P8
P5
P6
P7
41°20′
3h21m
3h20m
3h19m
Right Ascention(J2000)
ペルセウス座銀河団の温度分布
E.Churazov,
Forman,
et.al 2001,
(2003)
T.Furusho,W.
N.Y.
Yamasaki,
P3
P4’
P3’
P2
P2’
P1
P1’
温度分布から、非常に複雑
P4
な構造をしていることが分
P8
かっており、衝突が起こって
P5’
P8’
いることが示唆されている。
P5
Declination(J2000)
Declination(J2000)
60kpc
P7
P6’
P7’
P6
Right Ascention(J2000)
すざく搭載XISで観測した、ペルセウス座銀河団
のイメージ
それぞれの円の半径~2′
(空
間分解能~2′)
輻射モデルの検討
3つのモデルで、各ポジション、センサー毎にスペクトルフィット
P2
P3
Declination(J200
0)
2′
●連続成分+gaussian輝線モデル
P1
●mekal(希薄高温プラズマからの輻射モデル)
P4
P5
normalized counts/sec/keV
P8
●mkcflow ( cooling flow : ガスの温度
勾配によるガスの流れに対するモデル
P7
P6
Right Ascention(J2000)
4回の観測データを使用
20060201
20060829
20060829(SCI54)
20060829(SCI108)
H-like Fe-Kα
He-like Fe-Kα
He-like Fe-Kβ
+
NI-Kβ
平均観測時間 33ks
赤方偏移
z =(E0-Eobs)/Eobs
測定値
6.677keV
XIS3
15
2 Energy(keV)
Energy(keV)
5
10
エネルギースケールの較正
redshift
0.016
5.92
通常の解析方法では、
●CCDの電荷読み出し方向に
対して、エネルギーのズレ。
XIS0
0.012
0.02
5.88
P2
P3
P4
P5
P6
0.012
5.84
redshift
0.016
redshift
0.016
P1
0.012
XIS1
期待値5.895keV(Mn-Kα)
同じポジションにおける、セン
20060201
XIS0
サー間でのばらつきが大きく、
20060829
XIS1
全体的な傾向が分からない。
XIS2
300
400 ACTY
600
700
300
400
XIS3
XIS2
line center(keV)
0.02
0.012
0.012
redshift
redshift
0.016
XIS0
0.02
0.02
0.018
・ガスが視線方向に1000km/sで運動していると→ 鉄輝線が22eV
シフトして観測される
22 eV
鉄輝線6.7 keVの0.3%
XISのエネルギースケールが正しく見積もられ
センサー間での違いが小さくなり、全体的
な傾向が分かるようになった。
ているかが非常に重要
XIS0
300
400
補正前
P7
P8
20060201
600
700
P1
P2
P3
補正後
P4
P5
が見られた。
P6
P7
P8
20060829
20060829(SCI54)
20060829(SCI108)
XIS1
ACTY
ACTY
XIS1
XIS2
●エネルギー絶対値のズレ
求まった真の赤方偏移
XIS3
XIS3
センサー間の補正から
600
700
XIS2
300
400
XIS3
ACTY
600
700
新たに補正方法
を開発
0.018
ペルセウス座銀河団高温ガスの速度差
5400
km/s
可視光の赤方偏移(0.0183)
redshift
0.014
P7
4200
km/s
417km/s
P1’
20060829
P6’
4回の観測データに対
して補正を行った赤方
偏移の分布。
609km/s
0.018
P1
P2
P3
P5
P4
20060201
P5
P6
P7
3000
km/s
P1’
P8
P2’
P3’
P4’
P5’
P6’
P7’
P8’
5400
km/s
redshift
0.014
誤差90%エラー P5’
4200
km/s
P3’
P1’
60k
pc
P3’
P3
267km/s
0.01
1053 km/s
P1’
P1’
P2’
P3’
P4’
P5’
P6’
P7’
P8’
km/s
P4’
20060831(SCI108)
20060829(SCI54) 3000
P1’
P2’
P3’
P4’
P5’
最大の速度差は、東西における速度勾配の
存在を示唆している。
P6’
P7’
P2
P2’
P1
P1’
P4
P8
P8
P5’
P5
P8’
P7
P6’
P7’
P6
Right Ascention(J2000)
Declination(J2000)
0.01
中心領域P0
の赤方偏移
すざく vs XMM-Newton
すざく
0.014
4800
km/s
XMM-Newton(MOS1+MOS2)
4200
km/s
609 km/s
0.012
redshift
0.016
XMM-Newtonと比較を行うため、すざくと
同じ領域で、同様の解析を行った。
中心領域P0
の赤方偏移
P1
P2
P3
933 km/s
3600
km/s
P4
P5
P6
P7
P8
P1
P2
P3
P4
P5
P6
赤方偏移の平均値はすざく、XMM-Newtonでほぼ等しいが、20060201の
データでは傾向が逆になっている。
系統誤差の範囲内で有意な速度差は得られない。
P7
P8
解析結果のまとめ
すざく
●
後退速度(大)
km/s
後退速度(小)
km/s
速度分散
km/s
最大速度差
km/s
20060201
4278±168(P7)
3669±216(P5)
222
609±274
20060829
3888±204(P6’)
3471±228(P1’)
190
417±306
20060829(SCI54)
4689±228(P5’)
3816±294(P1’)
332
1053±372
20060831(SCI108)
4869±174(P3’)
4602±213(P1’)
88
267±275
データ
XMM-Newton
●
データ
後退速度(大)
km/s
後退速度(小)
km/s
速度分散
km/s
最大速度差
km/s
MOS
4506±216(P5)
3573±192(P1)
315
933±285
PN
5028±408(P4)
3825±258(P2)
360
1203±483
→すざくの結果より、速度差の上限値として 1000 km/s
議論1 銀河団高温ガスの圧力、全質量
推定に対するバルクモーションの影響
静水圧平衡の仮定が銀河団全質量の見積もりに対してどの
程度妥当か?
ガスが速度σr=Δv/2=500 km/sで回転しているとすると、ICM中の
音速1190 km/sにおけるランダムな熱運動の圧力に加え、遠心力に伴う
圧力が加わる。静水圧平衡にこの寄与を加えると次式のように書ける。
M(r)
1 
G 2 
Pgas(1   r )
 gas r
r
静水圧平衡の式
r 
m ps r2
kT
 sr

 0.3
-1 
 500km s 
2
 kT 


 5.5keV 
1
静水圧平衡を仮定したペルセウス座銀河団の質量見積もりは、
約1.8倍間違っている可能性がある。
議論2 銀河団における赤方偏移
number
20
15
可視光の赤方偏移
(0.0183)
10
平均5470km/s
速度分散
~1000km/s
5
0.014
redshift
0.018
25
メンバー銀河の速度分布(S.M.kent, et.al 1983)
-1
0.01
-2
P4
P6
P8
X線により求めた赤方偏移の平均~0.014、
一方、可視光は~0.018。
→後退速度が約1200km/s違う。
① Luminosity(4 d2×flux) が約2倍違ってくる。

2000
P2
velocity(km/s)
4000
6000
P0
2
可視光の後退速度
5470 km/s
8000
X線により求めた赤方偏移の
平均( 0.014 )
0
1
(V – 5470)/σ
② 銀河も高温ガスも暗黒物質に束縛されているに
もかかわらず、両者の運動が異なることを意味する。
X線の後退速度
4200 km/s
0
今回の観測領域
0
50
100
radius(min)
150
まとめ
• すざく衛星を用いてペルセウス座銀河団のバルク
モーションを探索した。
• エネルギースケールの新たな較正方法を開発した。
• ペルセウス座銀河団の中心150kpcの領域内におい
て、速度差の上限値として1000 km/sが得られた。
• XMM-Newtonの観測で得られた結果は、すざくの4
回の観測とは逆の傾向が得られ、系統誤差の範囲
内で有意な速度差は得られなかった。
• ランダムな熱運動以外にガスのバルクモーションが
あれば静水圧平衡からのずれにより暗黒物質質量
推定に1.8倍の影響がある分かった。
• X線により求めた銀河団の後退速度は可視光よりも
1200 km/s小さいことが分かった。