すざく衛星によるペルセウス銀河団の 高温ガスバルク運動の測定(1)

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すざく衛星によるペルセウス銀河団の
高温ガスバルク運動の測定(1)
蓮池和人、林田清、田和憲明、勝田哲、宮内智文(阪大)、内山秀樹(京大)、金丸武弘(東京理科大)、
太田直美、玉川徹(理研)、古澤彰浩(名大)、牧島一夫(東京大)、他すざくチーム
ペルセウス座銀河団は全天でもっとも高いX線表面輝度をもち、鉄輝線のドップラーシフトを通して高温ガスのバルク運動をさぐるのに最適な銀河団である。すざく衛星は、XISのエネルギースケールの較正を主目的として、2006年
2月と8月、計4回この銀河団を観測している。この観測データから高温ガスのバルク運動を測定した。特に、電荷転送方向が天空座標で互いに異なる4台のXISのデータを同時に利用してエネルギースケールの誤差(CTI補正の残
差)をさらに小さくする新たな工夫を試みた。結果的に系統誤差を超える有意な速度差は検出されず、速度差の上限として1000lm/s程度と評価した。本発表では、以上の解析方法と検討結果を中心に紹介する(結果と議論に関して
は、金丸他の発表参照のこと)。
すざく衛星によるペルセウス座銀河団の観測
redshift (zg.c.)
0.012
400 ACTY 600
400 ACTY 600
0.02
300
XIS2
300
0.016
700
0.016
redshift (zg.c.)
0.02
400 ACTY 600
700
XIS3
0.016
300
0.012
redshift (zg.c.)
0.016
20060201
20060829
XIS1
0.012
0.02
XIS0
0.012
Declination(J2000)
redshift (z g.c. )
銀河団中の高温ガスのバルク運動及び乱流の測定は、銀河団
高温ガスの構造や進化をさぐる新たなツールになりえる。数
41°40′
1000km/sの速度で二つの銀河団が合体するマージングの過程で、
P1
P3
それぞれの銀河団に付随する高温ガスがいかに混合されリラック
スした系に移行していくか、バルク運動の測定によるダイナミックな
41°30′
描像が得られることが期待される。また、バルク運動や乱流の測
定は、通常、静水圧平衡を仮定する銀河団の質量測定の精度を
P5
P7
検証する上でも重要である(e.g.Dupke & , Ota et al.2007)。
ペルセウス座銀河団は、全天でもっとも表面輝度の高い銀河団
41°20′
で、X線スペクトル中の鉄輝線のドップラーシフトによってバルク運
3h21m
3h20m
3h19m
動を測定するのに最適な対象である。ペルセウス座銀河団では高
Right Ascention(J2000)
温ガスの温度分布(Furusho et al.2000, Churazov et al. 2003)や、
表面輝度分布からマージングの兆候が示唆されており、この点で
図1: XMM-Newton衛星で観測されたペルセウ
も興味深い対象である。
ス座銀河団の高温ガスの温度分布(Churazov
ただし、CCDのエネルギー分解能およそ60eV(1s)で3000km/s et al., 2003)。すざく搭載XISで、観測した
に相当する。検出可能な速度差はエネルギースケールの較正精 のは中心部。図2に示したP0-P8の領域を重ね
度にかかっている。
てかいてある。
0.02
ステップ3: CTI補正の残差のチェック
銀河団中の高温ガスのバルク運動とペルセウス座銀河団
300
700
400 ACTY 600
700
図5: ステップ2においてゲイン補正したredshift (zg.c.)を、XIS-CCDに固定された座標ACTYに対してプロッ
トする。SCI-off, CTI補正済のデータ(20060201,20060829)に関しては、ACTY依存性が観測された。右上
図に示したように、ACTYの方向はXIS0,3とXIS1,2で90度異なる。にもかかわらず、同じような右下がりの傾
向がみられるのは、データに施されたCTI補正が完全ではない( CTI補正量が過剰であった)ことを示唆して
いる。SCI-on,CTI補正なしのデータ(20060829(SCI54),20060829(SCI108))に関しては、ACTY依存性はほ
とんどフラットあるいはわずかに右上がりの傾向がみられる。この場合は、必要なCTI補正量を示している。
60kpc
P2
P3’
P3
P1
P8
P5’
P8’
P5
P7
P6
Right Ascention(J2000)
j : XIS0~XIS3
i : P0~P8
ここで、ajはセンサーjのCTI補正の残差を表すパラメータ、ziは天空上の場所iのintrinsicなredshiftで、いずれ
も36個のデータ点に対する同時フィットのパラメータとして求められる。 ziが我々が求めようとしている値とな
る。ちなみに、ゲインに加えて”CTI補正の残差”を補正した各センサー、各位置でのredshift値は以下の式で
あらわされる。
1
図2: すざく搭載XISで観測した、ペルセウス
座銀河団 のX線イメージ
半径~2′の円の領域のスペクトルを作成した。
20060201のデータについてはP1-P8の領域、それ
以外の3回のデータについてはP1’-P8’の領域を使
用した。中心の円領域P0,P0’はそれぞれの観測で
ほとんど共通。
1 /(1  z g .c . i , j )  ( A C T Y  896 )  a j
1
redshift(zfit.)
P1
各観測について以下の操作を行う。
1. 各センサー、各領域ごとに(通常の手順にもとづいて)スペクトルを作成し、スペクトルフィット
により高温ガスのredshiftを求める。
2. 各センサーごとに較正線源の照射領域のスペクトルを作成し、エネルギーの絶対値(ゲイン)のず
れを調べ補正する。
3. 2.の結果をもとに各センサー、各領域のredshiftに対するゲイン補正を行い、ACTY依存性を調べる。
SCI-off,CTI補正ありのデータに関しては,これがCTI補正の残差を、SCI-on,CTI補正なしのデータに
関しては、これが必要なCTI補正量を示している。
4. 天空上の各領域のredshiftの値(9点)、各センサーについてCTI補正(の残差)を示す係数(4個)
をパラメータにして、4センサーx9領域=36個のゲイン補正後redshiftの値を同時フィットする。
ゲイン補正&
CTI補正残差
を補償
XIS0
XIS1
XIS2
XIS3
0.010
解析方法の概要
XIS0
XIS1
赤は同時フィットで求
XIS2
まったzi
XIS3
0.018
0.018
z a .c . i , j 
P2
0.010
P7’
0.014
P6’
f i , j  1 /(1  z i )  ( A C T Y  896 )  a j
P3
P4
P5
P6
P7
P8
P1
P2
P3
P4
P5
P6
P7
P8
図6: ステップ1で求めた補正前のredshift(zfit)と、ステップ2のゲイン補正を経て、ステップ4で同時フィットに
より求めたajを用いて”CTI補正残差”を補償したredshift(za.c.i,j)。これによって各天球上の位置におけるセン
サー間のばらつきが小さくなっていることがわかる。この図は20060201の観測についての結果。
0.018
結果:ペルセウス座銀河団中心部の高温ガスのredshift分布
0.018
P4
ステップ3で示唆されたCTI補正の残差(あるいは必要なCTI補正量)、天空上の場所(P0-P8あるいはP0’P8’)ごとのintrinsicなredshiftの違いを切り分けるために、ステップ2で各観測データごとに得られた
9positionx4sensor=36個のzcorrectedを以下のモデル関数で同時フィットした。正確には、i番目の天空上の場
所のj番目のセンサーのredshiftの値をz g.c. i,jとして、1/(1+z g.c. i,j)のモデルは下の式となる。ここでは、Mn-Ka
イベントが当たっている領域の重心座標として典型的な値ACTY=896を使っている。
0.014
P1’
redshift(za.c. I,j)
P4’
Declination(J2000)
すざく衛星は、エネルギースケールの較正を主目的として、
2006年2月、8月の2回、ペルセウス座銀河団の観測を行って
いる。2回目の観測では、XISの放射線損傷を補償するSCI法
という新たなCCD駆動方法もテストした。2種類のSCI方法を
SCI54,SCI108と呼んでいるので、観測データとしては
20060201, 20060829, 20060829(SCI54),
S20060829(SCI108) という4種類が存在することになる。
SCI-offの従来の方法の観測については、Rev.0.7のcleaned
event (CTI補正済み)を用いたが、SCIありの観測については
Rev0.7のnocti(CTI補正なし)のデータを用いている。
screening後の露出時間は平均33ksである。
XISのエネルギースケールの精度は0.2%、速度に換算して
600km/sと評価されている。今回のデータ解析では、電荷転送
方向が天空座標で互いに異なる4台のXISのデータを同時に
利用して、エネルギースケールの誤差(CTI補正の誤差)をさら
に小さくする工夫を試みた。
ステップ4: 同時フィットによりredshiftとCTI補正残差を求める
P2’
5400 km/s
20060829
可視光によって決められたredshift(0.0183,0.0179)
4200 km/s
P5
P3
P4
0.018
H-like Fe-Kα
P2
He-like Fe-Kβ
P5
P6
P7
3000 km/s
P8
P1’
P2’
5400 km/s
P5’
後退速度
(小) km/s
速度
分散
km/s
最大速度差
km/s
20060201
4278±168
(P7)
3669±216
(P5)
222
609±274
267km/s
P3’
P4’
P5’
P6’
P7’
P8’
20060829
3888±204
(P6’)
3471±228
(P1’)
190
417±306
20060829(
SCI54)
4689±228
(P5’)
3816±294
(P1’)
332
1053±372
P3’
20060831(
SCI108)
4869±174
(P3’)
4602±213
(P1’)
88
267±275
60k
pc
P3’
P3
P2
データ
4200 km/s
0.014
redshift
redshift
0.014
+NI-Kβ
He-like Fe-Kα
P1’
P8
Energy(keV) 5
10
20060829(SCI54)
P1’
図3: 各観測、各領域、各センサーのスペクトルについて、3種の輻射モデルでredshiftをfree parameterにしてス
ペクトルフィットを行った。得られたredshiftの値に有意な差が認められないので、以下ではmkcflowモデルによる
結果を紹介する。
P2’
P3’
P4’
P5’
P6’
P7’
20060831(SCI108)
3000 km/s
P8’
P1’
P2’
P3’
P4’
ACTY
0.018
f g a in 
20060829
5.84
20060829(SCI54)
20060829(SCI108)
ACTX
XIS0
XIS1
XIS2
XIS3
図4: 各センサーセグメントA、Dについて、較正線源55Feから
放射されるMn-Kαイベントの中心エネルギーをスペクトル
フィットから求めた。 誤差が目立つのは、今回試験的に使用し
たXIS1のSCI-onのデータ。XIS1について、単純にCTI補正なしと
して処理したSCI-onのデータでは不十分なことを示唆している。
E 0 (M n  K  )
5.895 keV
この補正ファクタを用いて、ステッ
プ1のスペクトルフィットで得られ
たredshift(zfit)を以下のように補
正して、zg.c.を求める。
データ
後退速度
(大) km/s
後退速度
(小) km/s
速度分
散
km/s
最大速度差
km/s
MOS
4506±216
(P5)
3573±19
2(P1)
315
933±285
PN
5028±408
(P4)
3825±25
8(P2)
360
1203±483
1203 km/s
P4
0.014
redshift
5.92
20060201
E o b s (M n  K  )
P7
P6’
P7’
P6
Right Ascention(J2000)
P8’
933 km/s
0.010
55Fe
5.88
55Fe
P7’
5400 km/s
P5
期待値5.895keV(Mn-Kα)
P6’
P8’
図7: 4回のすざく衛星の観測により求めたペルセウス座銀河団高温ガスのredshift, 速度分布。中心部P0,P0’
の結果は青の横線で示している。誤差は90%信頼区間。20060201, 20060829(SCI54)では500km/sを超える
速度差がみられるが傾向は逆方向で、この程度の系統誤差が残っていることを示している。従って、4回の観測
を総合すると有意な速度差は検出されず、速度差の上限値を1000km/s程度と評価する。
ステップ2: 較正線源によるゲインのチェックと補正
較正線源からのMn-Kaイベントの中心
エネルギーをEobs(Mn-K)とすると、
ゲインの補正ファクタは、
P5’
P5’
P5
0.010
Energy(keV)
1
10
0.010
Energy(keV)
5
P1’
P4
P1’
10
P1
P4’
1053 km/s
5
P2’
Declination(J2000)
P1
20060201
後退速度
(大) km/s
0.010
●mkcflow ( cooling flow : ガスの
温度勾配を考慮した輻射モデル
中心領域P0の
redshift
0.018
●mekal(希薄高温プラズマからの輻射
モデル)
0.010
●brems(制動輻射)+zgauss(ガウシア
ンライン)
line center(keV)
normalized counts/sec/keV
ステップ1: スペクトルフィット
P6’
417km/s
P1’
0.014
redshift
0.014
redshift
P7
609km/s
4200 km/s
P1
P2
XMM 2001/1/30
EPIC MOS1+2
P1
P2
P3
P4
P5
P6
P7
XMM 2001/1/30
EPIC PN
3000 km/s
P8
P1
P2
P3
P4
P5
P6
P7
P8
図8: XMM-Newton衛星の観測(2001-1-30)データを用いて、すざくデータの解析と同じ領域(P0-P8)をとり、ス
ペクトルフィットによりredshiftを求めた。ステップ2-ステップ4に相当する操作は行っていない。特にMOSのデー
タで東西方向に500km/sを超える速度差が検出されているが、各点でのPNとの矛盾も同程度ある。
z g .c .  f gain  ( z fit  1)  1
参考文献: