韓日学校間交流学習に関する一考察

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Transcript 韓日学校間交流学習に関する一考察

1.はじめに
 第七次改訂教育課程について
李徳奉(2007:14)
「徹底してコミュニケーション機能と文化間理解
教育を中心に一貫して構成されていることからも、
コミュニティどうしの交流を大事にしていること
が分かる」
↓
コミュニティの連結を生かした学習方法
↓
学校間交流学習
学校間交流学習に関する先行研究
土井他(2002)
 コミュニケーション能力、
 他地域や異文化を理解する力、
 学習を追究する意欲、
 情報活用能力、協同作業する力を育成するねらい
稲垣(2004)
 子どもたちが交流学習に意欲的になるのは相手と
やりとりする「体験」や、一緒に学習できた「手
応え」、違いを発見して得られる「実感」がある
から。
学校間交流学習に関する先行研究
 海外の学校と交流学習する際には言葉の壁や時間
的な余裕が問題となるとの指摘(稲垣2004)
 主にインターネット上の様々なコミュニケーショ
ン・ツールを活用した小学校での交流学習の実践
例を踏まえて述べられたもの。
 海外の高校生と日本の高校生とを繋いだ交流学習
に関する体系的な研究は管見の限り少ない。
例)澤邉(2007)日韓高校生間の交流学習の事例
2.研究目的と方法
 目的
韓日学校間交流学習は現時点でどのような形で
実施され、現場の教師はそれに対しどのような認
識を持っているのかを明らかにすることを通し、
今後の韓日学校間交流学習の課題と展望について
考察する。
 方法
①韓日学校間交流の活動タイプの分析
②交流学習の実施状況とニーズ分析
①韓日学校間交流の活動タイプの分析
2000年以降、高校生を対象に交流活動を行っ
ている学校の取り組みについて調査。
・・日本の韓国朝鮮語教師ネットワークでの
掲示板情報とホームページ上で公開されてい
る学校間交流に関する情報(交換留学や公的
あるいは民間の団体が行っている交流活動事
例を除く)を収集し、活動タイプ別に分類。
②交流学習の実施状況とニーズ分析
2009年8月、韓国の中等日本語教師119名
(高校93名、中学26名)に対し質問紙調査を実
施。
・・勤務校における交流学習の実施の有無や
ニーズ等について明らかにする。
3.結果
3.1 韓日学校間交流の活動タイプ
分析結果
・52の交流事例を収集。
・稲垣他(2001)で示されている学校間交流学習
の4つの活動タイプをもとに、
「交流体験型」
「教科学習型」
「協働活動型」に再分類。
1)交流体験型
:交流が成立することそのものを目的とする活動。
・姉妹校または姉妹校以外の学校を訪問し、互いに公
演(楽器演奏、ダンス、歌等の披露)を行ったり、文
化体験をしたり、授業に参加したりして交流を行う。
・期間は1日限りのものから1週間程度にわたるもの
まで。修学旅行の期間を利用して交流活動を行うこと
が多く、一般家庭にホームステイをすることもある。
・今回調査した事例において46例が該当し、韓日高校生
間交流の大部分がこのタイプに属すると考えられる。
2)教科学習型
:お互いの教科学習の深化を主な目的とする活動。
・共通のテーマに基づくテレビ会議や、成果の共有など
工学系、語学系、芸術系、情報系の教科学習に結びつ
いた交流学習。
例)技術交流を行っている事例
(山梨県立甲府工業高等学校と清州機械工業高等学校)
日本語学習者と韓国語学習者間で行った日韓交流授業
の事例(澤邉2007)
・今回の調査では5例該当。
3)協働活動型
:1つのモノ・企画・イベント等をいっしょに作
り上げる活動。
・韓日高校生間における合同キャンプの事例(中
央大学付属杉並高等学校と中山外国語高等学校)
交流体験型のホームステイや学校訪問の活動に加
えて、希望者が参加する形で実施。
しかし担当教員に対する聞き取りによると、
準備段階では教師主導の形となっており、「交流
体験型」の発展した形態ともいえる。
3.2 韓国の中等日本語教師に対する
質問紙調査の結果
項目
1)姉妹校の有無
2)学校またはクラスにおける韓日交流活動の実施
状況
3)第二外国語として日本語を学ぶ韓国の高校生が
日本の高校生と交流をする必要性
4)正規日本語授業時間に日本の生徒と交流活動を実施
することについて
5)日本の高校の韓国語教育との関連について
6)日本の韓国語教師との情報交換ができる場
(ホームページ等)の活用
自由記述欄
1)姉妹校の有無
高等学校(N=93)
ある
11.8%
ない
88.2%
中学校(N=26) ある
7.7%
ない
92.3%
2)学校またはクラスにおける韓日
交流活動の実施状況
高等学校
行ってい
る
33.3%
行ってい
ない
66.7%
中学校
行って
いない
76.9%
行って
いる
23.1%
3)第二外国語として日本語を学ぶ韓国の高
校生が日本の高校生と交流をする必要性
どちらと
も言えな
い
10.8%
必要だと
は思わな
い
1.1%
高等学校
必要だと
思う
88.2%
中学校
どちら
とも言
えない
必要だ
15.4%
とは思
わない
0%
無回答
3.8%
必要だ
と思う
80.8%
理由
「必要だと思う」理由
 日本語学習の動機付けを高めるため
 生きた日本語を使う機会になるから
 生徒たちは日本人の友達をほしがっているから
 相互理解促進のため
「必要だとは思わない」理由
 必要性はあるが、今の韓国での第二外国語の立場
としては生徒たちに活動させる余裕がない
4)正規日本語授業時間に日本の生徒
と交流活動を実施することについて
中学校
⑤あまり実施したいと思わない
高等学校
3.30%
6.30%
26.70%
33.70%
④相手校があれば実施したい
20%
③時間があれば実施したい
26.30%
46.70%
②方法がわかれば実施したい
①現在行っており、今後も継続する計画
だ
31.60%
3.30%
2.10%
理由
「あまり実施したいと思わない」理由
 入試中心のため、入試に関係しない活動はやりに
くい
 準備をするのが大変
 周囲の環境上、交流の維持が難しい
5)日本の高校の韓国語教育との
関連について
中学校
高等学校
7.70%
③どちらとも言えない
②内容や方法の点で学ぶ点は特にない
と思う
①内容や方法の点で学ぶことがあると
思う
15.10%
7.70%
0%
84.60%
84.90%
理由
 日本や日本語についての情報を得たいから(95名)
 日本の韓国語教育とは共通点があると思うから(53名)
 交流活動の相手校を探したいから(25名)
 その他「互いに有益な情報交換の場を設けることがで
きるから」「比較しながら言語的な小さな違いを研究
することができそうだから」「お互い役に立つ関係に
なりたい」「教授法交換、情報交換がしたい」等
6)日本の韓国語教師との情報交換が
できる場の活用
利用した
いと思わ
ない
2.2%
高等学校
利用して
みたい
97.8%
中学校
利用して
みたい
100%
利用した
いと思わ
ない
0%
4.まとめと今後の課題
①韓日学校間交流学習は「交流体験型」「教科学習型」
「協働学習型」に分けられる。現在は姉妹校間で行わ
れる「交流体験型」が中心であり、「教科学習型」や
「協働活動型」の事例は少ない。
②韓日交流活動の必要性を感じ、実施してみたいと思う
が、方法が分からない、相手校がない、時間がない等
の理由で現在は行っていないという教師が多い。
③日本の高校における韓国語教師との情報交換の場が
あれば利用したいと考えている教師は多い。日本語教
育と韓国語教育との連携により生徒間における交流学
習が促され、発展することで「教科学習型」や「協働
活動型」の実践も増える可能性がある。
④韓日学校間交流を促進する支援が求められている。
国や道、市レベルの支援が望ましいが、日本の高校の
韓国語教師との情報交換の場(ホームページ)もその
一歩になり得るのではないか。
今後の課題
 活動タイプの検証→教師が参照できる韓日学校間交
流学習のためのホームページを制作し授業方法や教
材に関する情報共有の場を設ける
 教科学習型・協働活動型の交流学習の発展性につい
てより多くの事例をもとに検討する
参考文献
 李徳奉(2007)「韓国の日本語教育における文化・連結・コミュニティ」『日本語教
育』133:11-14
 稲垣忠・堀田龍也・高橋純・黒上晴夫(2001)「学校間交流実践とコミュニケーショ
ン・ツールの関係性」『教育システム情報学会誌』18(3-4):297-307.
 稲垣忠編(2004)『学校間交流学習をはじめよう』日本文教出版
 澤邉裕子(2007) 「日本語教育と韓国語教育の協働による日韓交流授業-高校
生を対象とした実践の事例から-」『日本文学ノート』42:75-91
 澤邉裕子(2008) 「高校生を対象とした日韓交流授業のシラバス開発に向けて-韓
国における日本語教育と日本における韓国朝鮮語教育の接点から-」『宮城学院
女子大学研究論文集』106:29-43
 土井大輔・松本有・稲垣忠・黒上晴夫(2002)「教師のねらいと活動タイプからみた
共同学習の分析」『教育工学会第18回全国大会講演論文集』577-578.
 文部科学省(2007)『平成18年度高等学校等における国際交流等の状況につい
て』
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/11/07103102.htm
 参考URL 山梨県立甲府工業高等学校 http://www.kofu-th.ed.jp/life/vod/in
dex.html#korea