Transcript 仲間モニタリング
仲間モニタリングと集団随伴性を組み 合わせた介入による社会的スキルと仲 間同士の相互干渉の促進 粟田愛絵・山本愛 仲間モニタリングと集団随伴性 仲間モニタリング 仲間の行動をモニタリングし評価と記録を行う。 集団随伴性 仲間集団を1つの単位として強化を随伴させ る。 ―社会的スキルや仲間関係改善のために、 仲間を媒介とした指導技法。 目的 対人緊張が強く集団参加を渋りがちな子ど もを対象とした仲間モニタリングと集団随伴 性を用いた介入において、標的行動に及ぼ す効果について検討する。 指導の標的でない自発的な援助行動に及 ぼす効果について検討する。 対象者 公立中学校通常学級に在籍する中学1年生の男 児(A児とする) A児は対人緊張が強く、集団の中で注目される場 面では身体や表情をこわばらせ、言葉を発すること を拒否し、活動の輪から外れることが多かった。 FIQ80、VIQ67、PIQ95(WISC-R)で、学習障害 の疑いを指摘された。 慣れた大人には冗談を言う、いたずらをするなどの かかわりがみられたが、他児への接近や関わりは ほとんど見られなかった。 集団構成員 公立小学校通常学級5年生の自閉症男児(N児と する) ―大人との集団活動ではトランプやボウリングなどを 行うが、他児も参加する集団場面では逸脱行動が 多く、他児への働きかけは少ない。 公立小学校情緒障害特殊学級4年生の自閉症男 児(U児とする) ―指示理解はよいが、スケジュールに対しこだわりを 持つ。 ―大人に対しても子どもに対してもかかわりの頻度は 低い。 場面 大学のプレイルームにて小集団のゲームを 実施。 介入 他児の行動を評価する仲間モニタリングと 集団全体に対する報酬システムである集団 随伴性を組み合わせた。 手続き(1) ゲームの進行役としてメインセラピスト、参 加児のプロンプターとしてサブセラピストを 用意した。 サブセラピスト-参加児の2人1組のチーム に分かれて、3チーム対抗でボウリングを 行った。 プレイヤー、ピン係、点数係を各チーム交代 で行った。 手続き(2) 各プレイヤーが投球する前に、ピカチュウ当 てクイズを行った。(キャラクターのキーホル ダーが3つの紙コップのうちどこに隠れてい るかを当てる)正解するとボーナスとしてピ ンを1本増やす事ができた。 参加児に合わせて標的行動を5つずつ選定 した。 手続き(ベースラインⅠ期) ボウリング行動連鎖中の行動が自発遂行さ れない場合は、2回まではサブセラピストが 段階的にプロンプトを与えた。 ―ベースラインⅡ期、プローブでも同じ手続き を行った。 手続き(大人モニタリング期) メインセラピストがモニター役となり、各参加児の5 つの標的行動について、自発またはプロンプト1~ 2回で遂行した場合(正反応)は○、プロンプト3回 で遂行した場合(部分反応)は△、無・誤反応の場 合は×と評価した。 各児の評価はプレイルーム内にあるホワイトボード Bに掲示された標的行動の評価表に記入された。 3人の○の合計が、メインセラピストの設定した目 標に達したら、全員にシールを与えるという集団随 伴性により強化を行った。 手続き(A児の仲間モニタリング訓練) 参加児の標的行動遂行場面を含むビデオ 記録を観察し、評価基準およびチェック表へ のU・N児の評価の記入方法について2セッ ション個別指導をした。 シュミレーション訓練として、集団場面で評 価表の記入の練習を1セッション行った。 手続き(仲間モニタリングA期) A児が仲間モニター役となり、N児とU児の 標的行動の評価を行った。 手続き(集団随伴性システムについての アセスメント) サブセラピストと1対1でアセスメントを行った。 ホワイトボードBの掲示内容を転記したものと各児 のシールを貼る欄を設けたプリントを用意し、 ①強化子を得るために達成すべき目標はいくつか ②標的行動の評価表を読み取ることができるか ③あといくつ○(正反応)をもらえば目標に達するか ④○(正反応)の数の合計が目標数に達すれば、全 員が強化子を得ることができるという集団随伴性の 相互依存性を理解しているかどうかについて質問 した。 実際の集団指導場面においても同様の質問をした。 手続き(仲間モニタリングB期) アセスメントの結果を分析し、仲間モニタリン グの手続きに改良を加えて指導した。 1チームが投げ終わるごとに評価の結果を 発表し、N児、U児の行動に対してフィード バックを与えた。 ホワイトボードの前に椅子を設置した。 1つのシール表に3人分のシール表をまと めた。 観察項目・分析 VTR録画をもとに以下の3項の観察を行った。 ①標的行動は、大人モニタリング期の評価基準に 従って正反応の割合を算出した。 ②A児の仲間評価の適性度は、大人モニタリング期 の評価基準と実際A児が行った仲間評価を対照し た。 ③A児の仲間に対する相互干渉と自発的な援助行動 は出現回数を数えた(表1の分類と定義に基づく)。 結果 ベースラインⅠ期 標的行動正反応率 44.4% 大人モニタリング期 標的行動正反応率 55.6% ベースラインⅡ期 標的行動正反応率 66.7%で一定 仲間モニタリングA期 標的行動正反応率 S10では77.8%、S11では66. 7% 不正確な仲間の評価が3つ見られた。 仲間モニタリングB期 標的行動正反応率 66.7%、S15で77.8%に上昇。 結果 仲間モニタリングB期 ・仲間への直接的相互干渉の総出現頻度は 最高値を示す。 ―ただし、その後のプローブで7回に大きく 減少。 ・12回以上の自発的援助行動の出現。 ・N児に対してプロンプトを行う。 ・不正確な評価は7つ 考察 大人モニタリングと集団随伴性を組み合わせた介 入は一定の効果があった。 ただ仲間の行動のモニタリングを行うのではなく、 評価の発生場面を逐次設定することや、大人が集 団随伴性の強化にかかわる情報をフィードバックす ることが、効果的な指導の鍵となることが示唆され た。 集団随伴性だけでなく、仲間モニタリングの手続き を組み合わせたほうが、ゲーム行動および仲間同 士の相互干渉といった全体的な対人行動の改善に 効果的であった。