伊藤絵美 - 日本禁煙推進医師歯科医師連盟

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Transcript 伊藤絵美 - 日本禁煙推進医師歯科医師連盟

禁煙指導に活かす認知行動療法
第17回 日本禁煙推進医師歯科医師連盟総会・学術総会
イブニングセミナー「ニコチン置換療法の活かし方」
2008年2月10日(日)
横浜市開港記念館
伊藤 絵美
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス
本発表の流れ
1. 認知行動療法とは
2. 禁煙指導におけるエビデンス
3. 禁煙指導に活かす認知行動療法
4. おわりに
※お手元の資料をご参照ください。
伊藤絵美 (2007) 禁煙指導:生活習慣病
の認知行動療法的介入,medicina, 4411,2056-2060.
本発表の流れ
1. 認知行動療法とは
2. 禁煙指導におけるエビデンス
3. 禁煙指導に活かす認知行動療法
4. おわりに
※お手元の資料をご参照ください。
伊藤絵美 (2007) 禁煙指導:生活習慣病
の認知行動療法的介入,medicina, 4411,2056-2060.
認知行動療法とは?
(Cognitive Behavior Therapy:CBT)
• ストレスの問題を,認知と行動の側面から自己改
善するための考え方と方法の総称。うつや不安な
ど様々なストレス反応(急性,慢性)(嗜癖行動を
含む)に効果のあることが実証的に確かめられて
いる。
• 自分で実施するCBTと,専門家がトレーナーとなっ
て実施する教育的なCBTの二種類がある。いずれ
にせよ最終目標は「自助の援助」である。
• 様々な技法(対処法=コーピング)から成っている。
CBTを習得することによりコーピングレパートリー
が広がり,その結果,ストレスマネジメント力が増
強されることが期待される。
認知行動療法の基本モデル
環境
個人
気分・感情
状況
相互作用
相互作用
相互作用
認知
(思考・イメージ)
他者
相互作用
行動
相互作用
相互作用
身体
個人間相互作用
社会的相互作用
+
個人内相互作用
たとえば・・・
気分・感情
環境(状況・他
者)
原稿仕事が
なかなか
進まない
認知
あせり,イライラ,
憂うつ,気が重い
「間に合わないかも」
「引き受けなければ
良かった」
空白頁のイメージ
・ぐずぐずする
・うろうろする
・書類の整理をする
頭痛,胃痛
身体
行動
たとえば・・・
気分・感情
環境(状況・他
者)
夫婦喧嘩を
して妻が部屋
を飛び出した
認知
怒り,イライラ,
落ち着かない
「ふざけるな」
「何て思いやりのない
妻なんだろう」
ふてくされた妻の顔の
イメージ
・椅子を蹴る
・「勝手にしろ!」と
叫ぶ
・犬に八つ当たりする
・酒を飲む
頭に血が上る
顔が熱くなる
身体
行動
たとえば・・・
気分・感情
環境(状況・他
者)
夫婦喧嘩を
して妻が部屋
を飛び出した
認知
後悔,自責,
不安,悲しみ
「ひどいことを言って
しまった」「妻に捨てら
れてしまう」「自分が
悪かった」
一人ぼっちのイメージ
・泣く
・じっと座り込む
・酒を飲む
涙が出る
全身の力が抜ける
身体
行動
たとえば・・・
気分・感情
ショック,恐怖
環境(状況・他者)
認知
体重計に乗っ
たら昨日より
200g増えていた
行動
「大変だ」「どうしよう」
「このままどんどん
デブになる」
太っていたときの自分
の姿が想起される
・悲鳴を上げる
・泣き叫ぶ
・母親をなじる
血の気が引く
ガタガタ震える
身体
たとえば・・・
気分・感情
環境(状況・他
者)
電車に乗って
いる。
車内は混んで
いて暑い。
認知
③不安
⑦パニック
②「やばい。このまま
じゃ発作になる」
⑥「駄目だ。倒れる」
⑩「死ぬかもしれない」
行動
④深呼吸する
⑧激しく深呼吸する
⑪途中下車する
①動悸がする
⑤動悸がひどくなる
⑨パニック発作
身体
認知行動療法(CBT)の理論と方法
世界
循環的相互作用
環境
状況
対人関係
認知
個人
気分
感情
循環的相互作用
身体反応
行動
循環的相互作用
1. 上の基本モデルに沿って体験を理解する=アセスメント
※たいていは悪循環が同定される
2. 悪循環から抜けるための認知的コーピング,および行動的
コーピングの案を出し,実践し,効果を検証する ※いろいろ
試しているうちに悪循環から脱出する
3. 1と2を繰り返すうちに,アセスメントとコーピングの達人になる
協同的問題解決=認知行動療法の理念
アセスメント
援助者
チーム
当事者の
抱える問題
当事者
コーピング
※最近,アセスメント(問題を受け入れ,理解する)の重要性
が再認識されている。 →「問題解決志向」<「問題志向」
※演者も認知心理学の問題解決研究から,そして臨床実践
から「問題志向」が大切であると考えている。
認知行動療法(CBT)を効果的に実践するため
に必要不可欠なスキルとは
• 構造化(時間の流れに段取りをつける)
• ホームワークの有効活用(セッションと日常生
活をつなぐ)
• ソクラテス式質問法を用いた双方向的コミュニ
ケーション/フィードバックを引き出す
• ツール等を用いた外在化
• 心理教育とノーマライゼーション
※これらはすべてCBTを効果的に実践するため
「しかけ」である
本発表の流れ
1. 認知行動療法とは
2. 禁煙指導におけるエビデンス
3. 禁煙指導に活かす認知行動療法
4. おわりに
※お手元の資料をご参照ください。
伊藤絵美 (2007) 禁煙指導:生活習慣病
の認知行動療法的介入,medicina, 4411,2056-2060.
禁煙指導におけるエビデンスから読み取れること
• 医師(禁煙外来でも日常診療でも)が個別に喫煙につ
いて患者に尋ねたり,カルテに記載したりすることの有
効性が高い。
• たとえ短時間であれ,医師が個別に禁煙についてアド
バイスすることに効果がある。
• 医師をはじめ医療職者が関与することに効果がある。
• 薬物療法(内服,パッチ,ガム,スプレー)の効果が高い。
• 問題解決的で行動療法的な心理療法の効果も高い。
▼
医師が患者の喫煙に継続的に関心を示し,必要に応じて
薬物療法や心理療法(喫煙,禁煙をめぐる対話)を個別
に実施することが,現実的には最も効果的か。⇒医師
の外来禁煙指導に認知行動療法を取り入れていただく。
APA(米国精神医学会) 2006年 ガイドラインより
Ⅲ.ニコチン依存の治療
F. 心理-社会的治療
4. 認知行動療法
いくつかの比較研究が,認知行動療法(CBT)
が禁煙に有効で,おそらく抑うつ症状,大うつ病,
アルコールや他の物質関連障害を合併する喫
煙者に有効であるというエビデンスを示唆してい
る。CBTはまた,禁煙に伴う体重の問題にも指
針を与えるかもしれない。しかしながらCBTの長
期的な有効性については確立されていない。
APA(米国精神医学会) 2006年 ガイドラインより
Ⅸ.利用可能なエビデンスのレビューと統合
A. ニコチン依存
2. 心理-社会的治療
e) 特異的な治療
(4)認知行動療法(CBT)
初期治療に失敗した喫煙者にとって,
CBTのような,より専門的で強力な行動的治療
法を,ニコチン置換療法やブプロピオンと組み合
せて用いることが推奨される。
APA(米国精神医学会) 2006年 ガイドラインより
(続き)
CBTでは,患者は喫煙しそうな状況(例:パーティ,議
論中)を予想し,喫煙せずにそれらの状況に対
処する戦略を練る。行動的対処は,その状況か
ら退避したり,他の行動(例:散歩,運動)で代償
したり,刺激をコントロールする方法(例:アサー
ティブネス,断るスキル,時間管理)を含む。認
知的対処は,不適応的な思考を同定し,それら
を検討し,より効果的な思考様式に置き換えたり
(例:禁煙の必要性を再認識する,衝動は過ぎ去
ることを思い起こす),スリップを再開につなげな
いよう思考を工夫する(例:スリップを破滅と見な
さない)。(以下,略)
本発表の流れ
1. 認知行動療法とは
2. 禁煙指導におけるエビデンス
3. 禁煙指導に活かす認知行動療法
4. おわりに
※お手元の資料をご参照ください。
伊藤絵美 (2007) 禁煙指導:生活習慣病
の認知行動療法的介入,medicina, 4411,2056-2060.
禁煙指導におけるCBTの流れ(私案)
1. 喫煙と禁煙についての教育的情報提供(精神
疾患に対するCBTの「心理教育」に該当)
2. タバコに関わる患者の反応パターンのアセスメ
ント(タバコに関わるストレス場面が望ましい)
3. 認知面,行動面のどこにどうアプローチするか,
患者と共に計画を立てる。(実験計画)
4. 3が一発でうまくいけばOK,いかなければ別の
コーピングを計画的に導入する。(検証)
5. 上記2~4の手続きを患者が主体的に行い,日
常生活でも主体的に禁煙を継続するよう励まし
続ける。
事例紹介(Aさん)
環境(状況・他
者)
●月●日(水)
午前11時。
会議が長引き
当分終わりそう
にない
認知
気分・感情
イライラ,落ち着か
ない,不安,
集中力低下
「11時かあ。もう2時間
もタバコを吸ってない」
「このまま昼に突入し
たらどうしよう。そんな
の耐えられない」
行動
・時計ばかり見る
・早く会議を終わらせ
るため発言しない
※会議終了後,喫煙
所に駆け込んだ
貧乏ゆすり
ため息連発
身体
タバコにまつわるこのようなエピソードを何度もアセスメントした
事例紹介(Aさん)
環境(状況・他
者)
●月●日(水)
午後8時。
取引き先から
接待を受ける。
総勢8名。自分
以外,非喫煙者
のようだ
認知
気分・感情
イライラ,落ち着か
ない,不安,
集中力低下
「困ったな,誰も吸わな
いんだ」「吸いづらいな」
「もう少し酒が入ってか
らにしようかな」「いつだっ
たら吸ってもいいかな」
「誰か俺に気を使ってくれよ」
行動
・タバコのことが気にな
って会話に乗れない
・時計と皆の様子をうかが
ってばかりいる
・結局トイレに立ったつい
でに,いそいそと外で吸う。
貧乏ゆすり
ため息連発
身体
タバコにまつわるこのようなエピソードを何度もアセスメントした
アセスメントに対するAさんの感想
•
タバコは「ストレス解消」と思っていたが,喫煙者
であることのストレスの方がよほど大きいことに
気づいた。
• やめるかやめないかでずっと迷っていたが,や
めたほうがいいと思う。
• ただ自分がタバコをやめられるかとても不安だ。
自信がない。
▼
セラピストが「コーピング」の概念を伝え,一緒に作戦
を練り種々のコーピングを試すことで合意。
コーピングシート(1回目)
認知的コーピング
• 「気合だ!」
• 「ニコチンの罠に負け
るな!」
• 「皆止めているんだか
ら,自分だって止めら
れるはずだ!」
• 「お金も節約できる
ぞ」
• 「健康にもいいぞ」
行動的コーピング
• ガムを噛む
• 水を飲む
• 腹式呼吸をする
• 手を使って何かをす
る(耳かき,爪切り,
白髪抜きなど)
• とにかく何かをする
※叱咤激励&気そらし型コーピング・・・失敗
Th.から曝露の考え方を伝授(心理教育)
欲求
曝露(エクスポージャー)
ただそのまま欲求を
感じながら,時間が
経つのを待つ。欲求
から気をそらさず,た
だ欲求の強度と変化
を観察する。
気そらし型
時
間
結果的に欲求そのものが生じ
にくくなる
コーピングシート(2回目)
認知的コーピング
• 曝露曲線をイメージする
• 「しょうがない,曝露するか」
• 「どんな感じになるか,自分を
観察してみよう」
• 「“吸いたい感覚”をそのまま
味わおう」
• 「ほお」「いや,参ったな」「ふー
ん,そう来たか」「なかなかきつ
いぞ」(その時々の自動思考を
実況中継する)
行動的コーピング
• このシートを見る。
• 認知的コーピングをしながら,
そのときやっていることを,そ
のまま続ける。
• 一人のときは,その時々の自
動思考をそのまま声に出して
つぶやいてみる。
• “吸いたい感覚”の波に合わせ
て(“吸いたい感覚”を感じなが
ら)腹式呼吸をしたり,水を飲
んだりする。
※曝露の構えを作ったうえでのコーピング・・・成功
本発表の流れ
1. 認知行動療法とは
2. 禁煙指導におけるエビデンス
3. 禁煙指導に活かす認知行動療法
4. おわりに
※お手元の資料をご参照ください。
伊藤絵美 (2007) 禁煙指導:生活習慣病
の認知行動療法的介入,medicina,
44(11),2056-2060.
環境
個人
気分・感情
状況
認知
(思考・イメージ)
行動
他者
身体
認知と行動は表裏一体。嗜癖行動は確かに「行動」だが,評価
や介入の際,「行動」と併せて「認知」にも焦点を当てることが,
介入の効果を高めるのではないか。
そして個々の患者さんに合った認知的コーピングと行動的コーピ
ングのパッケージを患者さんと共に作ると良いのではないか。
ご清聴ありがとうございました
伊藤絵美
(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス)
[email protected]