生態学会公開講演 生物保全の指針

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Transcript 生態学会公開講演 生物保全の指針

生物保全の指針を示す
Gary
Larson
• 松田裕之(東京大学海洋研究所)
1
今日の内容
自然保護の論拠=持続可能性
無知の知=生態系管理
諸行無常=遷移と撹乱
BBC web site
2
なぜ生物多様性を守るのか?
• 私たちが子供の頃にあった自然が、
今の子供のまわりにない(急激な
自然の喪失=メダカ、キキョウ)
• 人間は自然の恵みなくして生きて
いけない
• 自然の恵みを次の世代に残す
• 人間の自然への持続可能な寄生
3
3つの自然の恵み
•
•
•
•
生物資源 農林水産物約140兆円/年
生態系service 物質循環約1700兆円/年
資源価値<<生態系サービス
漁場の自然価値>漁業補償
4
多様性≠安定性の逆理
• 1950年代:多様な群集ほど安定
• 無作為に作った群集模型では、
種数が多いほど共存しにくい
• 種間関係が複雑なほど不安定
• 希少種を守ると何がよいか?
• 友だちを大切に
5
1990年代の答え
• 定常群集は幻想である!
• 群集内の個体群は変動
• 全体として生物体量は安定
• 変動しながら多種が存続
6
予防原則
precautionary principle
• 環境に対して深刻あるいは不可
逆的な打撃を与えるとき,科学
的に不確実だからという理由で
環境悪化を防ぐ措置を先延ばし
にしてはいけない
1992年リオデジャネイロ宣言第15原理
http://www.unep.org/
7
科学者のとるべき態度
• 1992年地球サミット前 後
– 科学的証拠なしに社会にものを言
わない;
を言うことが歓迎される
– 世論に係らず、自らの見解を変え
科学論争を多数決で決める。世論
ない
を味方につける
科学者の社会的提言につ
いての学界基準が未確立.
8
Galileo’s Inquisition
エゾシカ問題
1,000,000
樹
皮
を
剥
が
さ
れ
た
樹
木
100,000
Catch
北
海
道
の
捕
獲
統
計
10,000
1,000
100
10
1875
1895
1915
1935
1955
1975
1994
9
不確実性uncertainty
• 生態系の仕組みが不明
• 今の状態が不明
–環境監視(monitoring)
• 将来が予測できない
–説明責任(accountability)
–為すことによって学ぶ
Learning by doing
10
http://www.for.gov.bc.ca/hfp/amhome/AMDEFS.HTM
順応的管理とは?
問題設定
調停
管理計画作成
評価
計画実行
北海道「道東地域エゾシカ保護管理計画」のホーム頁より
継続監視
http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm
11
生態系管理の指針
ecosystem management
•
•
•
•
•
•
目的を明記(科学的任意性)
反証可能な目標
無知の知と諸行無常
説明責任と順応性
管理自身を実験とみなす
情報開示と合意形成 リスク周知
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http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm
エゾシカのフィードバック管理
大発生水準以上
(>50%)
目標水準以上
(>25%)
目標水準以下
(>5%)
許容下限水準(5%)以下
または豪雪の翌年
緊急減少措置(2年を限度)
漸減措置(雌中心の捕獲)
漸増措置(雄中心の捕獲)
禁猟措置
13
エゾシカ管理における
リスクの周知と説明責任
• 1998年、道東エゾシカ12万頭説
• 論文で16-20万頭と仮定:環境庁告示
(1人1日1頭)を改変
• 30万頭以上なら失敗(不良債権)
• 2000年、道は20万頭説に修正
• >30万頭なら鳥獣保護法改正が必要
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オオワシの鉛害問題
鉛環
弾境
使省
用に
を働
禁き
止か
け
• 知床博物館http://www.ohotuku26.or.jp/shari/museum/home.html
15
個体数指数の変遷
個
体
数
指
数
200
175
150
125
100
75
50
25
0
1989
道路目視調査
ヘリコプター調査
1日当り捕獲頭数
1日当り目撃頭数
農林業被害額
1991
1993
雌鹿狩猟
262
95% CI
1995
1997
保護管理計画
1999
2001
16
愛知万博環境
影響評価
会場地近辺
の変遷写真
(1907年)
http://www.pref.aichi.jp
/expo/towa1220.html
準備書824
頁の「景観」
(1945)
人と自然の共生
環境万博
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中池見:放棄水田で遷移進む
コナギ-オモダカ群落
1~3年
3~5年
~5年~
5~10年
10年~
ミゾソバ群落
アゼナ群落
ケイヌビエ群落
撹乱?
ヒメクグ-サンカクイ群落
チゴザサ群落
アシカキ群落
ミゾトラノオ
群落
チゴザサ-
アゼスゲ群落
ヒメガマ群落
マコモ群落
ヨシ群落
ヤナギ林
ハンノキ林
↑大阪ガスの環境影響評価書より
→3大学学術調査報告書より
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急峻な花崗岩層
花崗岩層
山砂利層
波田善夫http://www.big.ous.ac.jp/~hada/kaisyonomori/より作図
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5m林分調査:崩落地の衰退
• 土砂崩れ・山火事、大型獣の食害
• 薪炭林利用
松林
コナラ林
花崗
岩層
1948年
山砂
利層
1948年
植林
裸地
崩壊地
伐採跡
1998年
1998年
波田善夫http://www.big.ous.ac.jp/~hada/kaisyonomori/より作図20
かいしょ
たにがしら
海上の森と谷頭
• 手を入れないと
「守れない」里
山?
• 斜面を固めること
が「保全」?
波田善夫氏のページ
http://www.big.ous.ac.jp/~hada/kaisyonomori/landform/landform.html
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非定常性と不均一性
• 放置しても自然は変わる
• 遷移と自然撹乱の釣り合いがも
たらすモザイク =双六
• 状態変化に応じて方針を変える
順応性(adaptability)
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入れ歯と箱庭
• 昔 虫歯をすぐ抜く
• 今 歯根を残して治療する
• 病んだ自然でも箱庭に優る
• 医療
生理学と病理学
• 自然保護 生態学と保全学
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生態保全の指針(理想)
• 周囲を調べよ(生態系の連続性)
• 長期調査(非定常性)
=阪神タイガース問題
• 遷移と撹乱のつりあい
で維持される多様性
• 無常の生物を守る
=サザエさん症候群
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自然保護は人間の問題
• 建設的な生態学の必見の教科書!
– 鷲谷いづみ・矢原徹一『保全生態学入門』
(文一総合出版)
• 社会の繋がり=生態系の繋がり
– 鬼頭秀一『自然保護を問い直す』(筑摩書
房)
• 環境問題に絶対安全はない
– 中西準子『環境リスク論』(岩波書店)
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