Chapter Nine コーポレイトファイナンス

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コーポレイトファイナンス
コーポレイトファイナンス
• コーポレイトファイナンス(経営財務論、財務管理論)では、
企業が中長期の意思決定を財政面からその評価をする理論
である。
• たとえば企業が(1)新しい機械設備の投資をする、(2)新し
い工場を建てる、(3)新しい商品開発に投資する、(4)不動
産を買い取る、(5)他社を買収する等の決定をするときに財
務的に評価を行うのがコーポレイトファイナンスである。
現在価値
• 現在価値(Present Value)とは、財務面での意思決定を行う上
で元も基本となるコンセプトである。その元になる考え方は「今日
の100万円は来年の100万円と同じではない」ということである。
• 例えば、今ある100万円をすぐに使わず、年率8%の1年間の定
期預金に預けたとすれば、1年後には利息8万円(100万円X0.
08)と元金100万円を受け取ることになる。ここでこの108万円を
すぐに使わず、同じように年率8%の1年間の定期預金に預けると、
1年後には8万6400円(108万円X0.08)の利息と元の108万
円を受け取れる。このように受け取った利息をさらに預けた場合
(再投資)に受け取る利息には複利効果があると呼べる。
• このように、複利で元本利子が増加していく関係を考慮して、今日
あるお金を(元本)N年後の複利で貯蓄した場合の利息と元本の
合計を「N年後の将来価値」(Future Value)と呼ぶことができる。
• 元本 X (1+利子率)N = N年後の将来価値
• さらに、上記の式をN年後に受け取れる一定の金額(将来価値)を
現在の価値にする場合には下記の計算式を使用する。
• 現在価値 = (N年後の将来価値)÷(1+利子率)N乗
現在価値
• 例題
– 現在、5000万円の価格が付いている土地を購入すると、翌年に確
実に5500万円で売却できるという。利子率が6%の場合、この土地
への投資を行うべきであろうか。
– 現在価値 = (N年後の将来価値)÷(1+利子率)N乗
– 上記の式から5500万円の現在の価値を計算すると
– 5500万円÷(1+0.06)1乗=5189万円
– そこで、5000万円の購入価格は5189万円よりも189万円も安いこ
とからこの土地の投資には現在の価値で189万円高い収益がある
といえる。
– ここで使用した6%の利子率は割引率とも呼ばれ、この例題では銀
行に預金した場合に得られると考えられる利率と考えてよい。
– 他のケースで割引率のことをインターナル・ハードル・レートと呼び、
企業が投資をした時に最低限得ることを期待する利率を使用するこ
ともある。
現在価値
• 例題
– 今年、ある企業に100億円投資すると、3年後に確実に120億円の
現金が回収できる。3年物の年利率が8%の場合、この投資を行うべ
きであろうか。
現在価値 = (N年後の将来価値)÷(1+利子率)N乗
– 上記の式で120億円の現在の価値は
120億円÷(1+0.08)3乗=95.26憶円
– 現在価値95.26憶円は現在の100億円の投資額よりも4.74憶円
も安いのであることから、この投資はそれだけ損をすることがわかり
ます。つまり投資はしない方が良いといえます。
現在価値
• 多期間にわたる投資の評価
• 基本的に複数のキャッシュフローがあるときは、それぞれのキャッ
シュフローの現在価値の合計になる。
• 例題
• ある事業の初期投資が100億円で、来年度から3年間にわたり30
億円、40億円、50億円のキャッシュフローが確実に生まれるものと
する。利子率が8%である場合、この投資を実行すべきか。
30
40
50
PV 


 101.76
2
3
1.08 1.08 1.08
• この計算から、このキャッシュフローの現在の価値は101.76憶円
で投資額の100億円よりも1.76憶円多いことから、この投資は実
行すべきであると判断できる。
現在価値
• 一定のキャッシュフローが永久に続く場合(定額年金)、現在
の価値は次の式で計算できる。
キャッシュフロー
現在価値=
利子率
• 例題
– 利子率が10%の場合、毎年60万円の利子が永久に支払われる年
金の現在価値はいくらになるか。
60万円
現在価値=
=600万円
0.1
現在価値
• 一定のキャッシュフローが一定期間続く場合(有期定額年金)の現在価
値は、永久定額年金の式を使えば計算できる。
• 例題
– 利子率が8%のとき、今後10年間、毎年100万円受け取ることができる投資の
現在価値はいくらになるか。
– まず永久定額年金で毎年100万円受け取ることができる投資の現在価値は次の
ように計算できる。
100万円
現在価値=
=1250万円
0.08
– 11年目以降のキャッシュフローの10年後時点での現在価値は同じように計算で
きるので1250万円になる。しかし、これは10年後の価値なので、この価値を現
在の価値に直すと以下のようになる。
1250万円
現在価値=
=578.99万円
1.08 10
– したがって、今後10年間、毎年100万円受け取る有期定額年金の現在価値は
永久定額年金の現在価値1250万円から、11年目以降の永久定額年金の現在
価値を引けば求めることができる。
1250万円 ー 578.99万円 = 671.01万円
会社の現在価値
•
•
•
株式とは,株式会社に対しての持分を表す有価証券である.そして,株主は,
法人としての会社をその持分に応じて経済的に支配しているともいえる.会
社は,株主総会においてさまざまな決議を承認されなければならない.1株1
議決権の原則(その原則に従わない種類株式というものも会社法で認められ
ている)に従い,株主は株主総会での持分に応じた議決権を持つ.株式会社
は,会社の営業が続き,かつ利益が出ているかぎり,株主に配当を払い続け
ることができる.ただし,アメリカの成長企業などでは,創業の当初に配当を
払わず,これをより大きな成長のために再投資し続ける場合がある.創始期
のIBMやヒューレットパッカードなどはその有名な例である.
この将来の配当を受け取る権利が,株主に最低限はあるので,その現在価
値分だけ株主は,株式を持つことからの最低の価値がある。
株主には,株主総会での投票権や提案権など株主としての本質的な権利も
あるが,会社の株を買い占めて乗っ取ろうとでもしないかぎり,株主にとって
の株式を持つことからの経済価値としては結局,配当の現在価値である.な
お,配当の中には,株式分割のように,現金の代わりに経済価値のある株式
の追加持分で払ってくれるような場合も含まれる.さらに,自己株式取得と呼
ばれるのだが,発行会社が市価よりも高い値段でその株式を買い戻してくれ
る場合もあり,これも市価を超える分の買戻し価格は,株主にとっての配当
の一種として考えることができる.
会社の現在価値の源泉
•
•
•
•
ここでそのような例を考えてみよう.いま,W社の株を持っているDさんがいるとする.
この会社の利益は,今期未で100億円であり,発行済み株数は1億株である.1株当た
り利益は,100円ということになる.
W社は,利益の4割を常に配当しているという.いま,法人税や個人の受取配当と株式
売却に通用される税金などは無視しておく.W社は,5年後まで4年間20%ずつ利益が
伸び,5年後からはこの産業の成熟により成長はまったく望めないという.この会社の
現在価値,すなわち理論株価を求めてみよう.
株価がいま1200円であるという.すると,株式市場においてこのW社の株価収益率
(株価を1株当たり利益で割ったもの.P/Eレシオともいう)は,12倍=1200(円)÷100
(円))となる.この倍率を5年後にもそのまま通用することにする.また,5年間の利子
率(割引率)は,常に5%だという. すると,このW社の利益は,来年は100億円で,2
年後以降5年後まで20%の成長率で,120億円,144億円,172.8億円,207.4億円であ
る.したがって,将来の配当は40億円,48億円,57.6億円,69.1億円,83.0億円である.
次に,5年目の株価者を計算しよう.5年目の1株当たりの利益は,上の計算より207.4
円である.株価収益率を以降PER(Price Earnings Ratio)と表すことにする.現在12倍で
あり,このPERの倍数が5年後にも成り立っていると仮定するので,以下の計算
PER=12=Price÷207.4円
•
から、5年後の株価格は2490円と予測できる。
会社の現在価値の源泉
年度
1
2
3
4
5
利益(20%で成長)
100億円
120億円
144億円
172.8憶円
207.4憶円
配当(40%の利益)
40億円
48億円
57.6億円
69.1憶円
82.9憶円
発行株数
1億株
1億株
1億株
1億株
1億株
1株当たりの配当
40円
48円
57.6円
69.1円
82.9円
1株当たりの利益
100円
120円
144円
172・8円
207.4円
株価
1200円
PER(株価÷1株当たりの
利益)
12
40
現在価値=
1+0.05
48
+
(1+0.05)
現在価値=38.09
5+43.537+4
2490円(仮定)
12
2
57.6
+
(1+0.05)
12
3
9.757+56.8
69.1
+
(1+0.05)
12
4
82.9
+
(1+0.05)
49+64.954+
12
5
2490
+
(1+0.05)
1950.980=2
この計算から現在の株の価値(理論株価)は2204円と計算できる。
5
204.172
会社の現在価値の源泉
• 前記の理論株価の計算では5年後の株価の仮説をたてて計
算し、それをもとに理論株価を計算しました。しかし、将来の
株価を予測するのは限界があるといえる。
• そこで、この将来の株価もその先の配当により決定するとも
予測できることから、現在の株価は、将来配当が永久に続く
キャッシュフローにより理論値が決まるといえます。
• もしも、配当額が一定であれば以下の計算式で割り出せま
す。
配当額
理論株価=
利率
• もしも、配当額がある一定の率で成長する場合は上記の式
は以下のように変形できる。
配当額
理論株価=
利率ー成長率
会社の現在価値の源泉
• 証券投資を行う投資家にとって,投資の価値とは,このように将来
に受け取ることのできる配当および売却により得られるキャッシュ
フローの正味現在価値である.そして,株式投資における株式の
運用効率とは,投資収益率(Rate of Return)という尺度によって測
られる.じつは,預金などの利子率の場合も受け取る利子(キャッ
シュフロー)の投資効率を測っているのである.投資額にかかわら
ず,この投資効率は同じである.これを,投資のパフォーマンスと
呼ぼう.ただし,預金の場合は,預金した額(元本)と同じ額が,預
けた銀行が健全であるかぎり確実に戻ってくる.それは,いわば1
年後に株式を同じ価格で売ったことと同じである.ところが,株式
の投資の場合は,1年後の株価は上がっていることもあれば下
がっていることもあるだろう.つまり,元本は保証されていない.た
だし,株式会社は有限責任制であり,最小価値はゼロ,つまり原
株式を購入した投資家は購入価格が貴大の損失である.さて,今
日から来年までの(年次)投資収益率は,以下のように表される.
(1年後の株価ー今日 の株価)+今期の受取配当
投資収益率=
今日の株価
会社の現在価値の源泉
•
例題
–
今日1000円で1000株購入した株式には、1株当たり8円の配当が払われ、また来年の株価が1
150円であったとすると、このときの投資収益率は
–
この計算から15.8%である。
(1150円ー100
0円)+8円
投資収益率=
=0.158
1000円
•
•
これが,求める年次投資収益率である.たとえば,同じ期間で預金をしたときの利子
率が5%であったならば,株式投資からの投資収益率は預金よりもパフォーマンスが
高かったことになる.ただし,もし逆に株価が下がっていたり,収益率が5%以下であっ
たならば,預金よりパフォーマンスが悪かったことになる.
預金の利子率が,決まった投資収益率(=利子率)を提供できるという意味で,このよ
うな資産を以降は安全資産(Risk Free Assets)(無リスク資産とも呼ぶ)と呼ぶ.一方,
株式は,株価もさらに将来の配当額すらも不確実である点から,危険資産(Risky
Assets)と呼ぶ.さらに,国債や社債のような債券については,払ってくれる利子率(表
面利率)は決まっているが,満期まで持たないで売却するときには,将来の債券の市
場での売却価格はわからないという意味で,株価ほどは価格は変動しないことが多い
が,やはり危険資産として分類される
リスクをどう測るか
• 投資のリスクについては様々なとらえ方があるが,ここでは,
まず,投資が生むキャッシュフローや収益率の変動性をリス
クとして考えることにする。
• 例えば,図7-1では証券1と証券2の収益率がとる平均的な
値(期待収益率)はともに10%であるが,証券2のほうが収
益率の振れが大きいのでリスクがより大きいと考える。では,
リスクの尺度として,どういう指標を用いればよいか,次の数
値例を用いて考えてみよう。
経済の状態
起こる確率
証券Aの収益率
証券Bの収益率
好 景 気
1/3
20%
10%
並の景気
1/3
15%
0%
不 景 気
1/3
-5%
5%
リスクをどう測るか
• さきほど,収益率の中心的な値からの変動性を証券のリスク
として考えることにしたので,まず,収益率の中心的な値を計
算することが必要になる。これは,各経済状態の下での証券
の収益率にその状態が起こる確率をかけて,それらを合計
することによって求められる。これを収益率の期待値ないし
期待収益率という。
確率
証券Aの収益率
収益率X確率
確率
証券Bの収益率
収益率X確率
1/3
20%
6.67%
1/3
10%
3.33%
1/3
15%
5%
1/3
0%
0%
1/3
-5%
-1.67%
1/3
5%
1.67%
証券Aの期待収益率=10%
証券Bの期待収益率=5%
リスクをどう測るか
• 次に,期待収益率を中心に証券の収益率がどの程度変動するかを見る
ために,各経済状態の下で生まれる収益率と期待収益率の差をとってみ
よう。これは偏差と呼ばれる。ここで,収益率の変動性を数量化するため
の1つの方法として,偏差の期待値を計算することが考えられる。証券A
と証券Bについて偏差の期待値を計算すると次のようにゼロになる。
証券A (20-10)×1/3+(15-10)×1/3+(-5-10)×1/3=0
証券B (10-5)×1/3+(0-5)×1/3+(5-5)×1/3=0
• このように偏差の期待値を計算すると必ずゼロになる。
• 偏差の符号が打ち消し合わないように何らかの形で偏差の平均的な数
字を計算するためには,次のような方法が考えられる。まず,偏差を二乗
して,その期待値をとることである。この偏差の二乗の期待値のことを分
散と呼ぶ。
• ところで,分散を計算した際には,収益率の偏差を二乗し,その期待値を
とったため,分散の単位はパーセントの二乗になっており,また,分散の
値は期待収益率に比べて大きな値になっている。このため,単位や大き
さを期待収益率にそろえるために,分散の平方根をとり,リスクの尺度と
することがある。これが標準偏差である
リスクをどう測るか
確率
証券Aの収益率
収益率の偏差
(収益率―期待収益率)
偏差の二乗
偏差の二乗X確率
1/3
20%
10%
100
33.33
1/3
15%
5%
25
8.33
1/3
-5%
-15%
225
75
証券Aの期待収益率=10%
合計(分散)=116.67
分散の平方根=10.8%
確率
証券Bの収益率
収益率の偏差
(収益率―期待収益率)
偏差の二乗
偏差の二乗X確率
1/3
10%
5%
25
8.33
1/3
0%
-5%
25
8.33
1/3
5%
0%
0
0
証券Bの期待収益率=5%
合計(分散)=16.67
分散の平方根=4.08%
リスクをどう測るか
前記の例では,今後,3つの経済状態が起こるという特殊な例を用いて,証券の分散,標準偏差を計
算したが,実際の証券の収益率の分布は,特殊な証券を除いて,図のような形になると考えられ
る。この図で横軸は証券の収益率,縦軸はその収益率が生まれる確率を示しており,収益率の
分布は期待収益率を中心に左右対称になっている。これは正規分布と呼ばれる分布で,期待値
と標準偏差がどのような値をとった場合でも,期待値を中心に標準偏差何単位分か離れた領域
に収益率がおさまる確率が,次のように決まってくるという特質を持っている。
期待値±1標準偏差 68.26%
期待値±2標準偏差 95.44%
期待値±3標準偏差 99.74%
• このため,証券の収益率の分布として正規分布を仮定すると,証券の収益率がある範囲に入る
確率を推計することができる。
リスクをどう測るか
•
ここで日本の主要な金融資産の過去の収益率と標準偏差がどのような
値であったか見てみよう。図は日本の株式,長期債,現先の過去の月次
収益率の実績を示したものである。ただし,株式,債券の収益率はキャピ
タルゲイン(値上がり益)とインカムゲイン(配当)の合計(トータルリターン
)をとってあり,現先(注1)については,3カ月現先の利回り(月率)をとり,
その時々の短期金利水準の指標としている。この図から収益率の変動
性は株式,債券,現先の順に高いことがわかる。また,3証券の年率の平
均収益率と標準偏差を計算すると表のようになる。表が示すように,平均
収益率と標準偏差はともに株式,債券,現先の順に高い。