教育改革京都私学0802発表苅谷

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教育改革は
どこに向かうのか
苅谷剛彦
東京大学大学院教育学研究科
先進国で進む教育改革
• 「21世紀型スキル」を求めた教育競争
• 教育のマネジメントをめぐる改革:いかにコ
ストをかけずに、効率的な教育システムを、
「参加」や「選択」を通じて作り上げるか。
共通するいくつかのキーワード
•
•
•
•
•
•
「アカウンタビリティ」=コスト問題
「選択」=顧客満足:消費者民主主義
「参加」=権限委譲(参加民主主義)
「ハイスタンダード」=評価とテスト
「ハイステークス」=競争原理・アメとムチ
「新しい学力・スキル」=変化への適応
背景としてのポスト福祉社会化
• 財政難による福祉国家の転換
• 1990年代の「人的資本論」再発見(トムリ
ンソン)イギリス・ブレア首相「教育。教育。
教育」:「第三の道」
• 1960年代との違い:社会的包摂と経済的
自立・成長との両立
• 新自由主義的改革との親和性:自己責任
を基盤にした自助と「機会の平等」
グローバル化の脅威
• 経済のグローバル化への対抗としての教
育競争
• しかし、21世型スキルと経済の競争力と
の関係については疑問符が付けられてい
る。:例外としての日本、韓国、違う意味で
のアメリカ。
• 「格差問題」への収斂
教育改革の進行と教員政策
• 「教育三法」の制定
– 教員免許更新制の導入
– 主幹制の導入
• 今後の動向
– 教員評価と待遇との関連づけ
• よりいっそうの分権化
– 人事権の中核都市への移譲
– 教育財政?
学習指導要領の改訂
• 授業時数の増加と教育内容の増加
• 小学校6年間で350単位時間増
3、4年生「総合」1時間減らし他の教科に
5、6年生総合を1時間減らし「外国語活動」
さらに「週27コマから1コマ増加し、週28コマを年
間35週以上にわたって行う」
• 中学校:3年間で総授業時数を105単位
時間(週3コマ相当)程度増加
「審議のまとめ」と腰砕け
• 「子どもと向き合う時間の確保」:教職員定
数増の要求(主幹制向けほか)
• 3年間で2万1千人増(主幹職等)
• ただし、地方公務員の削減( 5年間で1万
人減)を決めた法律との矛盾
• 「千人の純増と7千人の非常勤」で決着
年齢別教員数(18.3.31)
0
61歳以上
6557
60歳(平成17年度退職)
59歳(平成18年度退職)
9136
58歳(平成19年度退職)
57歳(平成20年度退職)
56歳(平成21年度退職)
55歳(平成22年度退職)
54歳(平成23年度退職)
53歳(平成24年度退職)
52歳(平成25年度退職)
51歳(平成26年度退職)
50歳(平成27年度退職)
49歳(平成28年度退職)
48歳(平成29年度退職)
47歳(平成30年度退職)
46歳(平成31年度退職)
45歳(平成32年度退職)
44歳(平成33年度退職)
43歳(平成34年度退職)
42歳(平成35年度退職)
41歳(平成36年度退職)
40歳(平成37年度退職)
39歳(平成38年度退職)
38歳(平成39年度退職)
37歳(平成40年度退職)
36歳(平成41年度退職)
35歳(平成42年度退職)
34歳(平成43年度退職)
33歳(平成44年度退職)
32歳(平成45年度退職)
31歳(平成46年度退職)
30歳(平成47年度退職)
29歳(平成48年度退職)
28歳(平成49年度退職)
27歳(平成50年度退職)
26歳(平成51年度退職)
25歳(平成52年度退職)
24歳(平成53年度退職)
23歳(平成54年度退職)
33
10
0
22歳(平成55年度退職)
21歳(平成56年度退職)
20歳(平成57年度退職)
0
2943
12961
14337
15595
15959
17035
18768
21132
22782
23536
24186
24832
24861
23153
21800
20716
19803
18736
18118
16396
14943
16363
14917
13324
12797
12717
12484
11560
10678
9426
8349
8087
7858
6979
6085
小学校
4570
中学校
5000
10000
15000
20000
25000
30000
(人)
条件整備の追加的措置なき
教育改革の続行か?
• 大量退職・大量採用時代の課題
• 教育への要求は、質量ともに高まっている
• にもかかわらず、教育への財政支援につ
いて国民的支持が大きく広がらないのは
なぜか?
• 学校現場・教員はそれにどう応えられるの
か
増え続ける要求:
「ポジティブリスト」の発想
• ポジティブリストとネガティブリスト
• ポジティブリスト:いいと思うものは何でも
リストに加えていく発想
– 基礎基本
– 発展的な学習
– 「自ら学び、自ら考える力」
– 「徳育」「豊かな心」「国や郷土を愛する態度」
– 小学校からの英語の必修化
公立小中学校校長調査より
「改革が早すぎて現場がついて行けない」
教育改革が早すぎて現場がついて行けない
中学校
29.1
55.6
15.0
0.4
小学校
29.8
55.1
14.6
0.5
全体
29.5
55.4
14.7
0.4
0%
10%
20%
30%
40%
強くそう思う
50%
そう思う
そう思わない
60%
全くそう思わない
70%
80%
90%
100%
20年前と比べ
社会の学校への理解・支持は?
20年前と比べ「社会の学校への理解・支持」
中学校
6.1
小学校
8.5
合計
7.6
0%
21.3
72.6
22.6
68.9
22.2
10%
20%
70.2
30%
40%
上がった・良くなった
50%
変わらない
60%
下がった・悪くなった
70%
80%
90%
100%
20年前と比べ家庭の教育力は?
20年前と比べ「家庭の教育力」
中学校 1.7
9.3
89.0
小学校 1.7
7.5
90.8
合計 1.7
8.3
90.0
0%
10%
20%
30%
40%
上がった・良くなった
50%
変わらない
60%
下がった・悪くなった
70%
80%
90%
100%
家庭での基本的なしつけが欠如
中学校
41.3
48.8
9.0
0.9
小学校
37.9
52.6
9.0
0.4
合計
39.2
51.2
9.0
0.6
0%
10%
20%
きわめて深刻
30%
40%
やや深刻
50%
60%
70%
あまり深刻でない
80%
90%
深刻でない
100%
特に教育力のない家庭がある
中学校
55.2
35.0
8.7
1.2
小学校
44.9
45.0
9.4
0.7
合計
48.6
41.3
9.2
0.9
0%
10%
20%
きわめて深刻
30%
40%
やや深刻
50%
60%
70%
あまり深刻でない
80%
90%
深刻でない
100%
保護者の利己的な要求
中学校
29.8
48.9
18.9
2.4
小学校
25.7
52.1
20.0
2.2
合計
27.2
51.0
19.6
2.2
0%
10%
20%
きわめて深刻
30%
40%
やや深刻
50%
60%
70%
あまり深刻でない
80%
90%
深刻でない
100%
「欲張りすぎる教育改革」
• ポジティブリストの発想で増え続ける期待→教師
の負担増・過剰期待
• 支援増がないなかでの「失敗」の可能性の増大
(ギャップの認識の欠如)
• 「期待はずれ」はつくられる
• 「失敗」がさらなる教育改革呼び込む
• つぎは? 英語必修化、規範意識
• 適切な期待水準の設定が不可欠
• ツケとしての教育格差
就学援助を受給生徒30%以上
の学校比率との相関係数
07年 文科省全国学力調査都道府県別の再分析
都道府県別にみた全国学力テストの得点を
規定する要因(小学校6年生国語)
1962年国語
2007年国語A 2007年国語B
標準化係数
標準化係数 標準化係数
千人あたり生活
-0.248 *
-0.444 ** -0.520 ***
財政力指数
0.414 **
0.020
0.300 *
小学生児童一人
0.332 **
0.351 *
0.378 *
あたり教育費(消
都道府県別にみた全国学力テストの得点を
規定する要因(小学校6年生算数)
1962年算数
標準化係数
千人あたり生活
-0.353 *
財政力指数
0.289 *
小学生児童一人
0.188
あたり教育費(消
2007年算数A 2007年算数B
標準化係数 標準化係数
-0.364 *
-0.453 **
0.024
0.284
0.296
0.328 *
セーフティネットとしての教育
• 「義務教育」というセーフティネット
• 「義務教育」における資源配分の原理
• 「標準化」による累進的な資源配分から「
市場原理」による配分(バウチャー)へ??
• セーフティネットの漏れ
• 「全国学力テスト」から見えてくるもの
– 就学援助を受けている生徒の比率が高いほ
ど、「学力」の平均正答率が低く、散らばりが
大きい
1954年の財政力(都道府県)と
児童一人あたり教育費の関係
図4 財政力指数と公立小学生児童一人あたり教育費(総額)の関係 1954年度
ただし、一人あたり教育費総額は1953年度の数値
18000
16000
相関係数.216
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
20
40
60
80
100
120
140
160
2003年 財政力指数と児童一人あたり教育費
図6 財政力指数と公立小学生児童一人あたり教育費(総額)の関係 2003年度
1400000
1200000
1000000
相関係数=-.457
800000
600000
400000
200000
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
教育の質を支える教師
• 大量退職・大量採用の時代の到来
• 全体としての風当たりの強さ:「人材確保
法」の見直し;地方公務員の削減;評価と
処遇との連動;免許更新と研修;授業時数
10%増への対応と多忙化
• 次世代教員をいかにリクルートし、「一人
前」にするか
• 地域間格差の拡大と連動
国公立大学の
教員養成課程の志願者の変化
• 1988年度入試:10万7797人=同世代の
5.7% 志願倍率5.7倍
• 1998年度入試:志願者数6万4202人
• 06年度=5万2507人: 4.9倍
• 07年度=4万6814:人: 4.4倍
同世代の3.6%
公立小学校の採用倍率の変化
•
•
•
•
•
•
•
2000年 12.5倍
01年
9.3倍
02年
6.3倍
03年
5.3倍
04年
4.8倍
05年
4.5倍
06年
4.2倍 →07年 4.6倍に
教職課程入学者の「学力」変化
教育改革の波紋
• ポジティブリストの増加による「はみ出し」と
「しわ寄せ」
• 教育の質の格差が拡大しないか
• 教師の質の格差が拡大しないか
• 次世代教師の「質」問題
• 時間とコスト
• 大学・社会へのツケ回し