第9回講義資料

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Transcript 第9回講義資料

法学部 1年生配当科目 民法入門
第9講
物権法
大阪大学大学院国際公共政策研究科
教 授
大久保 邦彦
1
民法典の構造
2
民法典はパンデクテン体系を採っている
民法典の構造
第1編
第2編
第3編
第4編
第5編
総
物
債
親
相
則
権
権
族
続
財産法
家族法
3
物権と債権
A
物
権
債権
請求
B
民法は
興味なし
支
配
甲
乙
4
財産法の基本構造
給付利得
事務管理
支出
利得
D
管理
無効
取消し
A
交換
支
配
物権法
甲
契約法
B
物権的請求権
侵害利得
支
配
乙
不法
行為
侵害
C
5
「総則」の意義
「総則」=共通ルール



「第1編 総則」は、形式的には、
「第2編 物権」~「第5編 相続」の共通ルール
実際には、「第2編 物権」「第3編 債権」
のみの共通ルールが多い。
結局、「第1編 総則」は、
財産法の共通ルールと言える。
6
パンデクテン体系 民法総則
物権編
債権編
法律行為
親族編
相続編
事務管理
不当利得
不法行為
消費貸借
賃貸借
債権総則
契 約
契約総則
売 買
雇 用
7
物権法
8
第2章~第10章は、物権の種類を規定している
「第2編 物権」の構造
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
総則
第6章 地役権
占有権 第7章 留置権
所有権 第8章 先取特権
地上権 第9章 質 権
永小作権第10章 抵当権
9
所有権(民206)
所有者は、
法令の制限内において、
自由にその所有物の使用、収益
及び処分をする権利を有する。
所有権=物の全面的支配権
10
所有権
A
物を全面的に 支配する権利
交
換
価
値
使
用
価
値
物
11
用益物権
A
B
使用価値 を支配
交
換
価
値
使
用
価
値
12
担保物権
C
A
交換 価値を支配
交
換
価
値
使
用
価
値
13
物 権
本 権
所有権
占有権
制限物権
用益物権
担保物権
法定担保物権
地
上
権
永
小
作
権
地
役
権
入
会
権
留
置
権
先
取
特
権
約定担保物権
質
権
抵
当
権
14
地上権
15
地上権(民265)
地上権者は、
他人の土地において
工作物又は竹木を所有するため、
その土地を使用する権利を有する。
16
地上権の設定(民176)
Y
地上権設定契約
X
地上権者
地上権
所有権
地上権設定者
17
地上権の設定
X
設定的承継
Y
地上権
所有権
遺言による設定も可能
(民964)
18
契約の種類
地上権設定契約=物権契約
契 約
債権契約
債権・債務
物権契約
物権変動
身分契約
身分の変動
19
法定地上権(民388)
土地及びその上に存する建物が同一の
所有者に属する場合において、その土
地又は建物につき抵当権が設定され、
その実行により所有者を異にするに至っ
たときは、その建物について、地上権が
設定されたものとみなす。この場合にお
いて、地代は、当事者の請求により、裁
判所が定める。
20
地方税法343条1項
固定資産税は、固定資産の所有者
(質権又は100年より永い存続期
間の定のある地上権の目的である
土地については、その質権者又は
地上権者とする。以下固定資産税
について同様とする。)に課する。
21
地 代
1. 地代は地上権の要素ではない(民265)
2. 地代を支払う場合
① 一時払:設定時に一括して支払う(民378)
② 定期払:定期的に支払う(民266)
③ 両者の併用
22
区分地上権(民269の2)
民207
(空中権・地下権)
23
抵当権(民369)
① 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を
移転しないで債務の担保に供した不動産に
ついて、他の債権者に先立って自己の債権
の弁済を受ける権利を有する。
② 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とす
ることができる。この場合においては、この
章の規定を準用する。
24
永小作権
25
永小作権(民270)
永小作人は、
小作料を支払って
他人の土地において
耕作又は牧畜をする
権利を有する。
26
地役権
27
地役権(民280本)
地役権者は、
設定行為で定めた目的に従い、
他人の土地を自己の土地の
便益に供する権利を有する。
承役地
要役地
28
地役権の設定
地役権者
地役権設定契約
Y
所有権
X
所有権
要役地
地役権
承役地
29
(通行)地役権
公
道
X:甲地=要役地
Y:乙地=承役地
公 道
通
行
可
能
30
相隣関係(民209-238)
法定地役権と考えればよい。
31
囲繞地通行権(民210)
袋 地
囲繞地
公 道
通
行
可
能
32
入会権
33
入会権(いりあいけん)
民263(共有の性質を有する入会権)
共有の性質を有する入会権については、
各地方の慣習に従うほか、
この節の規定を適用する。
民294(共有の性質を有しない入会権)
共有の性質を有しない入会権については、
各地方の慣習に従うほか、
用益物権
この章の規定を準用する。
34
入会権(加藤雅信)
慣習上の権利であって、
入会集団の統制に従いながら、
入会集団の構成員が一定の山林原野等で、
飼料用の草木、薪炭用雑木等を共同で採取し、
収益をあげる等がその典型。
入会地の管理権能は入会集団に属するが、
採取・収益という具体的な用益権の行使権能は、
団体構成員に分属している。
出典: 加藤雅信『新民法大系Ⅱ物権法〔第2版〕』297頁、314頁
35
物権侵害に対する救済
36
財産法の基本構造
A
D
管理
交換
B
支
配
支
配
甲
乙
侵害
C
37
CがBの栗を持ち帰った
B 所有 CC 所有
栗
?
乙
38
B=C間の法律関係?
1. まだ、栗があるときは、
物権的請求権に基づき、
BはCに栗の返還を請求できる。
2. Cが栗を食べてしまったときは、
侵害利得(不当利得)返還請求権に基づき、
BはCに栗の価額の返還を請求できる。
3. Cに故意・過失があったときは、
不法行為に基づき、
BはCに損害賠償の請求ができる。
39
物権的請求権
40
所有権(民206)
所有者は、
法令の制限内において、
自由にその所有物の使用、収益
及び処分をする権利を有する。
所有権=物の全面的支配権
41
所有権
A
物を全面的に 支配する権利
交
換
価
値
使
用
価
値
物
42
一般的不可侵義務
尊重
支
配
43
物権法理
あ
る物
べ権
き
状の
態
現
物権的
請求権
実
44
物権的請求権
所
有
者
X
物
物権的請求権
所有権に基づく返還請求権
占
有
者
Y
45
請求権の態様
①物権的返還請求権
rei vindicatio
②物権的妨害排除請求権
actio negatoria
③物権的妨害予防請求権
46
〔ケース〕
大雨
甲地
(A所有)
乙地(B所有)
47
請求権の内容
a.忍容請求権
b.行為請求権
48
侵害利得
49
不当利得の要件・効果
民法703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務
によって利益を受け、そのために他人に
損失を及ぼした者(以下この章において
「受益者」という。)は、
その利益の存する限度において、これを
返還する義務を負う。
50
悪意の受益者(民704)
悪意の受益者は、その受け
た利益に利息を付して返還し
なければならない。
この場合において、なお損害
があるときは、その賠償の責
任を負う。
51
不当利得の要件・効果
法律上の
原因なく
(不当)
要
件
受
益
因
果
関
係
関
連
性
効
果
損
失
不
当
利
得
返
還
請
求
権
52
因果関係と関連性
原因
因果 関係
受益者
受益
同一の 関連性
実体
損失
結果
損失者
53
不当利得の本質・機能
衡平説
類型論
54
衡平説(公平説)
形式的・一般的には正当視され
る財産的価値の移動が、実質的・
相対的には正当視されない場合
に、公平の理念に従ってその矛
盾の調整を試みようとすることが,
不当利得の本質である(我妻)。
出典: 我妻栄『民法講義Ⅴ4』938頁
55
衡平説に対する批判
衡平説の統一的理念(=衡平)は、
①漠然・不明確であり、
②不当利得の一面を示すに過ぎず
③具体的な解決規範を
生み出すことはできない。
出典: 沢井裕『テキストブック事務管理・不当利得・不法行為〔第3版〕』27頁
56
類型論
不当利得をいくつかの類型に分け、
それぞれについて、独自の要件・
効果を考えていこうとする立場。
 類型の分け方と類型の名称は、論者
によって異なり、混乱状況にある。
 今日の通説である。

出典: 沢井裕『テキストブック事務管理・不当利得・不法行為〔第3版〕』27頁
57
不当利得の類型論
給付利得
特則①:非債弁済(民705-707)
特則②:不法原因給付(民708)
侵害利得
支出利得
費用利得
求償利得
58
CがBの栗を持ち帰った
B 所有 CC 所有
栗
?
乙
59
B=C間の法律関係?
1. まだ、栗があるときは、
物権的請求権に基づき、
BはCに栗の返還を請求できる。
2. Cが栗を食べてしまったときは、
侵害利得(不当利得)返還請求権に基づき、
BはCに栗の価額の返還を請求できる。
3. Cに故意・過失があったときは、
不法行為に基づき、
BはCに損害賠償の請求ができる。
出典: 2.につき、藤原正則『不当利得法』(信山社・2002)221-222頁
60
侵害利得の要件
法律上の
原因なく
(不当)
要
件
受
益
因
果
関
係
関
連
性
損
失
所有権が
ないのに
CがB所有の栗を
食べたことが、
Cの受益であり、
Bの損失である。
61
権利継続効的請求権
Rechtsfortwirkungsanspruch
所
有
者
B
Cが物を
有益に消費・譲渡
物
物権的請求権
金
侵害利得返還請求権
占
有
者
C
62
侵害利得の現実場面
権利者に帰属すべき利益が
無権限者のもとで実現した。
 権利が他人のために利用された.
 利用=使用・収益・消費・処分

63
所有権(民206)
所有者は、
法令の制限内において、
自由にその所有物の使用、収益
及び処分をする権利を有する。
所有権=物の全面的支配権
64
滅失・損傷と消費・譲渡
物の
滅失・損傷と
消費・譲渡は、
区別すべきだ。
65
侵害利得の要件
権 利
利 益
損 失 因果関係 受 益
66
受益の原因
① 受益者の行為による場合
Xの石油を,YがYのマンションの暖房に利用した。
② 第三者の行為による場合(第三者侵害利得)
Yのマンションの管理人Zが、
Xの石油をYのマンションの暖房に利用した。
③ 事件(自然力など)による場合
Yの牛がXの牧草を食べた。
67
受益の原因
受益の原因が損失者の行為による場合
④受益者に対する「給付」
⇒給付利得
⑤給付以外の「出捐」
Yのマンションの管理人Xが誤って
Xの石油をYのマンションの暖房に利用した。
⇒支出利得
68
3類型の区別
不当利得
あり
給付
なし
出捐
なし
あり
給付利得
支出利得
侵害利得
69
損 失
「受益」が権利の割当内容に違反していること
割当内容をもつ権利≒絶対権







所有権
他物権
知的財産権(著作権法117-118条)
財産的価値を有する人格権(⇔性的自由)
氏名権・肖像権・パブリシティ権・労働力
債権の帰属
社員権
占有権(189Ⅰ)
70
侵害利得の要件
法律上の
原因なく
(不当)
要
件
受
益
因
果
関
係
関
連
性
損
失
所有権が
正当化事由
ないのに
の不存在
CがB所有の栗を
食べたことが、
Cの受益であり、
Bの損失である。
71
因果関係の直接性
利益
X
M
Y
利益
72
騙取金銭による弁済
不当利得返還請求?
X
騙 取
M
弁 済
Y
73
転用物訴権
X
請負人
不当利得返還請求?
無資力
修理契約
賃貸借
M
Y
注文者 賃借人
賃貸人
修理代金
有
不当利得の効果 過
失
返還義務の対象
の
 原
則:受益の原物返還
場
例 外:受益の価格返還
合
返還義務の範囲
?




原 則:受益の全部返還
例外①:善意の受益者の責任軽減(703)
例外②:悪意の受益者の責任加重(704)
75
侵害利得返還請求権
侵害利得返還請求権
常に、金銭債権
76
姿態転換
(Metamorphose)
出典:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%89%E6%85%8B
Photos by Miya with CC License Attribution
77
債権の準占有者への弁済
(民478)
D
侵害利得返還請求権
債権の
準占有者
弁済
善意・無過失の弁済者
G
X
S
78
所有者=占有者関係法
侵害利得の特別法
出典: 加藤雅信『財産法の体系と不当利得法の構造』(有斐閣・1986)361-366頁、藤原正則『不当利得法』(信山社・2002)223頁
79
物権的請求権
所
有
者
X
物
物権的請求権
所有権に基づく返還請求権
占
有
者
Y
80
付随的請求権
(民189-191, 196)
物
所
有
者
X
所有権に基づく返還請求権
果 実(民189-190)
損害賠償(民191)
占
有
者
Y
費用償還(民196)
81
民法196条
① 占有者が占有物を返還する場合には、その物の
保存のために支出した金額その他の必要費を回
復者から償還させることができる。ただし、占有者
が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有
者の負担に帰する。
② 占有者が占有物の改良のために支出した金額そ
の他の有益費については、その価格の増加が現
存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支
出した金額又は増価額を償還させることができる
。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回
復者の請求により、その償還について相当の期限
82
を許与することができる。
使用利益も含む
民法189条
①善意の占有者は、占有物から
生ずる果実を取得する。
②善意の占有者が本権の訴えに
おいて敗訴したときは、
その訴えの提起の時から
悪意の占有者とみなす。
83
天然果実と法定果実
(民88)
①物の用法に従い収取する
産出物を天然果実とする。
②物の使用の対価として
受けるべき金銭その他の
物を法定果実とする。
84
果実=利息=使用利益
85
民法190条
①悪意の占有者は、果実を返還し、
かつ、既に消費し、過失によって損
傷し、又は収取を怠った果実の代
価を償還する義務を負う。
②前項の規定は、暴行若しくは強迫
又は隠匿によって占有をしている
者について準用する。
86
民法191条
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によ
って滅失し、又は損傷したときは、その回復
者に対し、悪意の占有者はその損害の全部
の賠償をする義務を負い、善意の占有者は
その滅失又は損傷によって現に利益を受け
ている限度において賠償をする義務を負う。
ただし、所有の意思のない占有者は、善意で
あるときであっても、全部の賠償をしなけれ
ばならない。
87
不法行為
88
不法行為(民709)
故意又は過失によって
他人の権利又は
法律上保護される利益を
侵害した者は、
これによって生じた損害を
賠償する責任を負う。
89
不法行為の要件・効果
故意・過失
責任設定的 因果関係
要
件
権利侵害
責任範囲の 因果関係
損害発生
効
果
損
害
賠
償
請
求
権
90
財産法の基本構造
A
D
管理
交換
B
支
配
支
配
甲
乙
物権的請求権
侵害利得
不法
行為
侵害
C
91